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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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バレンタイン番外Ⅲ 言えない本当の気持ち

 夏希がチョコ作りに励んでいた頃、時同じくして柳家のキッチンでも激しい攻防が繰り広げられていた。


「……あぁ、もう!」


 料理の、正確には手作りチョコレートに関して書かれた本を放り投げて、梨花はその場に座り込んだ。


 キッチンを借りて、梨花が籠ってからかれこれ数時間は経過しているのだが、一向にチョコレートは完成する気配がなかった。


 それもこれも。


「どうして本の通りに作ってるのに失敗するのよ……」


 何度何度挑戦しても、本に書いてある通りに作っても、まったくの別物が出来上がってしまうからだ。


 まぁ、実際は作り方に書かれている大さじだの小さじだのという用語の意味が分からず、正確にはどれが小さじでどれが大さじなのかわからず、変に自己解釈してしまっているからこそ失敗してしまうのだが……普段から料理などしない梨花はそのことに気付かない、気付けないでいた。


 わからないなら、どうしようもないのなら、人の手を借りることも出来るだろう。


 しかし、それではダメなのだ。人の手を借りて作ったらダメなのだ。


 だって。


「それじゃあ、私が作ったとは言えない……」


 自分自身の力で、自分だけの力で作ったチョコレートを渡したいのだ。


 そんなプライドを捨ててしまえば、こだわりさえしなければ、きっとすぐに完成するのかもしれない。


 だけど、手を借りてしまえば自分の想いが込められたチョコレートを作れないのではないかと、そう思えてならないのだ。


 別に、作り方を横で教えてもらったり、アドバイスをもらったりするだけなら問題ないとは思う。だが、梨花はそれすらも認めることが出来ない。


 変なところで頑固、というか面倒くさいのが梨花なのだ。


 それが長所でもあり、短所でもあるのだが……今回に関しては短所として現れてしまったらしい。


 しかし、このままでは一向に完成しない。


 一体、どうすればいいのか……。


「あ、そっか。本がダメなら動画を見れば……!」


 用語の意味がわからない? いろいろある調理器具のどれを使えばいいのかわからない?


 ならば、実際に料理しているところを見れば自分にも出来るのではないか!


 そう考えた梨花はスマホを手に取りインターネットで調べてみる。


 いろいろと出てきた動画の中で、これいいかも……! と画面をタップ。


 流れ始めた動画をわかりやすいように再生速度をゆっくりする。


「えっと、これはこうして……」


 動画をじーっと見ては、自分も同じように手を動かす。


 喜んでほしい、喜ぶ顔が見たい、その一心で。




 午前の授業が終わり、今はお昼時間。


 梨花と夜の姿は校舎の外にある、正確には学校の中心にある中庭にあった。


 柳ヶ丘高校開校と同時に植えられた悠々と聳え立つ木を中心にして、ベンチやら花壇やらが置かれたこの中庭は、生徒たちの間ではカップル御用達のイチャイチャ空間と呼ばれていたりいなかったりするらしいが、実際のところはわからない。


 だって、普通に男同士女同士で、男女混合の複数人で食べていたりするからだ。


 根拠皆無な言い伝えやら迷信やらの一つや二つありそうなものだが、正直誰も気にしていない。


 そんな和気あいあいと活気づいている中庭で、夜と梨花はそれぞれ持ってきたお弁当に舌鼓を打っていた。


 だが、二人の間で会話が交わされることはない。ただ、黙々と箸を手を口を動かすのみ。


 しかし、そんな時間が気まずいかと言われれば、二人とも首を振るだろう。


 まぁ、夜は静かな時間も好きだから、梨花は夜といられればいいからと理由はそれぞれ違うし、梨花に関しては口に出せないのだが。


 だけど、いつまでも何もしないままではいられない。


 梨花が夜と二人きりになろうとしたのは、何も一緒にお昼ご飯を食べるためだけではないのだから。


「……ね、ねぇ、夜。これ、もらってくれる?」


 徐に口を開き、梨花は恐る恐る夜へとチョコレートを渡す。


 緊張でドクドクと早鐘を打つ心臓の音がうるさい。


 もしかしたら、夜にも聞こえてるんじゃ……と急に恥ずかしくなってくる。


「も、もしかしなくてもおいしくないだろうけど……」


 夜は、自分(梨花)が料理下手なことを知っている。だから、もしかしたら受け取ってもらえないんじゃないかと不安になる。


 だけど。


「……気持ちだけもらっておく……なんて言うわけないだろ? ありがとう、梨花」


 夜の笑顔で、たった一言で、心配やら不安やらは最初からなかったかのように吹っ飛んだ。


「……どういたしまして……」


 夜に顔を見られないように、顔を背けて梨花は言う。


 嬉しくて真っ赤に染まった頬を、夜に見られたくなかったから。

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