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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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バレンタイン番外Ⅱ 喜ぶ顔が見たいから

 時は少し遡り、二月十三日――つまるところ前日のいい子は眠る時間を少し過ぎたくらい。


 自室に籠っていたが、キッチンの方から香る甘い匂いに誘われるように、柊也はがちゃがちゃと音のなるキッチンへと向かった。


 誰がいるのかはわかる。だって、この家にいるのは柊也以外に一人しかいないのだから。


 だが、壊滅的に料理が苦手、否、出来ない妹がキッチンで何をしているのかがわからない。


 それ故に、恐る恐るキッチンを覗いてみると、そこには。


「ナイト、喜んでくれるかな……」


 楽しそうにボウルの中身をかき混ぜる夏希の姿があった。


「こんな時間に何やってんだよ……」

「ひゃっ!?」


 料理の出来ない夏希が夜更けにキッチンに立っている理由を知ろうと声をかけたのだが、夏希は可愛らしい悲鳴を上げた。


 まぁ、確かに急に声をかけられたら誰でも驚くだろう。だから、これに関しては夏希は悪くないし、むしろ悪いのは柊也の方だ。


 だが、だがしかし。


 だからといって……。


「俺に向かってボウル投げるのはどうなんだよ……」


 頭にボウルを被り、中身をぽたぽたと髪やら顔から滴らせながら、柊也は頬を引くつかせた。


 どうしてこうなったのか。


 それは、驚いた拍子に夏希が放り投げたボウルが最初から狙っていたかのように柊也の頭へきれいな放物線を描いてまるで帽子のように被ってしまったからだ。


 夏希に悪気がないのはわかっている。いろいろな偶然が重なっただけだということもわかっている。何なら、事の発端は自分が声をかけたことだから結果的に自業自得だってこともわかっている。


 だから、夏希に怒りをぶつけるのはお門違いだろう。


「……ったく、気をつけろよ……」

「ごめんなさい……」


 頭の上のボウルを取り、夏希へと渡す。


 申し訳なさそうに頭を下げる夏希に気にするなと手をひらひら降り。


「チョコ作りもいいけど、そこそこにしとけよ?」


 ボウルの中身――チョコまみれになった柊也はシャワーを浴びるべく歩き出す。


 ちょっと今の俺かっこよかったんじゃね? と思っていると。


「……柊兄(しゅうにぃ)

「ん? どうかしたか?」

「汚した床は自分で片づけてね?」

「元はといえばお前のせいだろ!?」




 シャワー浴びて、チョコでべとべとになった床を奇麗にした柊也がふと時計へと目をやると日付が変わりそうな時間を指示していた。


 マジかよ、もうこんな時間なのか……と時間経過のあまりの速さに目を丸くしていると、キッチンの方から未だに物音がする。


 今度は驚かせないようにと物陰からちらりと覗くと、そこには必死に懸命にチョコ作りに励む夏希の姿があった。


「夏希、まだ頑張ってんのか……」


 かれこれ二時間は優に過ぎている。だというのに、まだ夏希は頑張っているのだ。


 それほど手が込んだチョコレートを作っているのか、はたまた失敗に失敗を重ねて完成すらしていないのか、そのどちらかはわからないが。


 しかし、そのどちらにせよ、夏希は満足するまで手を止めることはないだろう。


 何故なら。


「ナイト、喜んでくれたらいいな……」


 ナイトの喜ぶ顔が見たいから。


 料理ができないなんてことは自覚している。普通にお店とかに売っているチョコレートを渡した方が喜んでもらえるんじゃないかと不安になっている自分もいる。


 だけど、それでも、夏希は自分自身の手で作ることを決めた。


 まずいと言われてもかまわない。


 だって、夏希が夜に本当に渡したいものはおいしいチョコレートではなく、胸に秘めた夜に対する想いだから。


 ちょっとだけでもナイトの喜ぶ顔が見たい、だから、夏希は頑張るのだ。頑張れるのだ。


「ううん、絶対に喜んでもらうんだ……!」


 そう意気込む夏希に、柊也は。


「……頑張れよ」


 兄として、激励の言葉を贈るのだった。


「……まぁ、聞こえてないと思うけど」




 翌日の二月十四日――バレンタインデー当日。


 夏希は屋上にいた。


 柵越しに校庭を見てみれば、ぞろぞろと登校してくる生徒たちの姿。


 みんなチョコレート持ってきたのかな……なんてことを考えていると、がちゃりとドアの開く音。


 夏希が振り向けば、そこには。


「……ごめんね、ナイト。こんなところに呼び出して……」


 夜がいた。


 何故かというと、夏希が事前に呼んでおいたのだ。誰にも邪魔されずに渡すには、ここしかないと思って。


「その……ナイトに渡したいものがあって……これ!」

「……これって、チョコレートか?」


 夜の問いに、夏希はこくりとうなずいて返す。


「ありがとな、夏希」


 ありがとう。その、たった一言が嬉しくて。


「――うんっ!」


 夏希は満面の笑みを浮かべ、そう言うのだった。


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