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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。

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バレンタイン番外Ⅰ 哀しい男の辿る道

 ――二月十四日。


 それは、世の女の子たちが好意を寄せる男の子、はたまたお世話になった男の子に本命だったり義理だったりという名目の付いたチョコレートを渡すという、女の子にとってはとてもとても大切な日。


 そんな今日。午前八時という普段なら満員電車に揺られているであろう早い時間帯に柊也は柳ヶ丘高校の校門を潜り抜けた。


 校庭では運動部員が練習をしていたり、校舎からはバラバラな吹奏楽の演奏が聞こえたりしている。どうやら、朝練に励んでいるらしい。


 心の中でお疲れ様ですと激励の言葉を送りつつ、柊也はそわそわしながら足早に玄関へと向かう。


 自分の靴箱の前に着くと上靴を取り……出さず、すーはーと深呼吸をする。


 きょろきょろと周りに人がいないことを確認し、靴箱の扉を勢いよく開けた。


「……あれ、ない?」


 想定していた事態と違う、と首を傾げる柊也。


「いやいや、まさかそんなはずないよな……?」


 ないなんてありえない。あるに決まっている。そう自分に言い聞かせて、靴箱を覗き込み……。


「ない……だと……!?」


 その場に崩れ落ちた。


 玄関で四つん這いになりながらクソぉ、ちくしょう! と叫ぶ柊也の姿は傍から見れば間違いなく変態で変人だった。


「……いや、まだ可能性はゼロじゃない!」


 ばっと音が鳴りそうな勢いで立ち上がり、すぐさま靴を履き替えた柊也は廊下を駆け出す。


 先生やら風紀委員とかがいたら走ったらダメ! とか言われそうなものだが、生憎と今は早朝。思う存分走ることが出来る。まぁ、だからといって走ったらダメなのだが。


 教室には早朝故かクラスメイトの姿はなく、柊也はそわそわ半分どきどき半分で自分の席に着く。


 すーはーともう一度深呼吸。走ったのでもう一度すーはー。


 心の準備は出来た! さぁ、御開帳! と机の中を覗き込み……。


「クソぉぉぉぉぉ!」


 バァン! と拳を机へと叩きつけた。痛い、ひりひりする。


「クソぉ……なんでねぇんだよ! 俺のチョコ(、、、)ぉ……」


 わざわざ朝早くに登校し、靴箱やら机の中身を覗き込むという奇行に走ったのは、どうやら女の子からのチョコレートが入っているのではないかと期待していたかららしい。


 しかし、そんな期待は空しく、結果はご覧のとおりである。


 世界中の男子の夢をぶち壊す発言かもしれないが、しかし、よく考えてみてほしい。


 靴箱にチョコが入っているということは、それすなわち常日頃履いている靴とともにチョコレートが置かれているということで。


 机の中に入っているということは、誰にもバレないように入れておくために昨日の内に準備していただろうし、つまるところ半日近くは放置されていたということで。


 正直なところ、衛生的にどうなのかな~? なんて思ったり思わなかったりするわけである。まぁ、実際のところどうなのかはわからないが、少なくともそういう渡し方はラブコメの世界でしか見たことがない。


 だから、主流はやっぱり手渡しなんだろうし、まだ希望があるのだからこの世の終わりみたいな顔で嘆かなくてもいいと思うのだが……。


 すると、そんな柊也の悲しみなど知らないと言わんばかりに、教室のドアががらがらと音を鳴らして開かれた。


 何度も言うが、登校時間にはまだ早いし、日直であってもまだまだ余裕がある。だから、こんな時間に人が来るとは思えないのだが……。


 柊也がドアの方へと視線を向ければ、そこには。


「はぁ、はぁ……柊也? え、お前何してんの?」

「……夜?」


 走ってでも来たのか息を切らす夜の姿があった。まぁ、今は何故か四つん這いになっている柊也を見てドン引きしているのだが。


「何って、見たらわかんだろ? 黄昏てんだよ」

「いじけてるの間違いだろ……にしても、ずいぶんと早いんだな」

「それはお前もだろ。因みに理由は言わねぇからな」

「それ、答え言ってるようなもんだろ……」


 バレンタインデー。早朝の教室。落ち込み嘆く柊也。これだけの状況証拠があれば理由なんて簡単に想像できる。どうせ、チョコが入ってると思って意気揚々と来たのはいいけど泣くて絶望しているということくらい。


「それで? 何でこんなに早いんだよ」

「自分は言わないくせに理由聞くってズルくない?」

「いいだろそんくらい。それで?」

「まぁ、いいけどさ。あかりから逃げてきたんだよ」

「……なるほどな、よぉくわかった。歯ぁ食いしばれ一発殴ってやるぅ!」

「なんでだよ!?」


 何でと狼狽える夜に、柊也は決まってんだろがぁこの勝ち組がぁ! と殴り掛かる。


 今、夜は言った。あかりから逃げてきたと。


 昨日、夜は言った。夜な夜な(よなよな)あかりがキッチンで何かしていて怖いと。


 ならば、逃げてきた理由は明白。あかりからもらえるチョコレートが怖くて逃げだしたのだろう。


 そんなこと、もらえなかった負け組である柊也が許せるわけがない!


 そうして、教室でどったんばったんと大騒ぎしていると。


「おにいちゃぁん、どこぉ?」


 かつんかつんという足音とともにあかりの声が聞こえた。


「柊也、一時休戦かつ頼みがある」

「……一応、聞いてやるよ」

「俺はすぐに隠れる。だから、ここにはいないってあかりに伝えてくれ!」


 頼んだぞ! とロッカー、正確には掃除用具箱に身を潜める夜。なぜだろう、どことなくガタガタガタガタと小刻みに震えそうなのは。


 そうして、掃除用具箱の扉が閉まったタイミングで、あかりが廊下から顔を出した。


「あ、柊也さん。おにいちゃんを見てませんか?」


 こてんと小首を傾げ、夜の居場所を問うあかり。手にはかわいらしい包みに入ったハート形の何か、否、チョコレート。


 親友からの頼みなのだ。だったら、柊也がするべきことはただ一つ。


「夜ならそこにいるよ」

「裏切ったなぁ!」


 親友を売ることである。友情? そんなもの妬み嫉み憎しみによって崩壊した。


「ねぇ、おにいちゃん。なんで逃げるの?」

「いや、なんとなく命の危機を感じて……」

「大丈夫だよ、おにいちゃんへの愛しか入ってないから」

「それはそれで怖いんだけど……」


 どうして、愛情がたっぷり込められた女の子からのチョコレートを受け取ろうとしないのか、柊也にはわからない。


 だが、これだけは言わせてほしい。


「どうか、どうか夜に不幸が降りかかりますように……」

※2020/02/14に改稿しました。

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