瑠璃の想い
「瑠璃先輩の後輩……いや、彼氏の夜月夜です」
親子水入らず――かどうかは疑わしいところではあるが――の会話に混入した異物である夜。
そんな異物の突然の彼氏宣言に隆宏は……。
『…………………………彼氏?』
驚愕と言わんばかりに震えた声でそう言った。数秒時が止まったんじゃないか? と思うほどの間があったが。
『か、彼氏とはあれか? つまり、君は瑠璃と交際しているというわけなのか……?』
明らかに慌てていた。声だけでそうと感じ取れるのだから、実際にその姿を目にしたらどんな感じなのか気になるところではあるが……。
『……瑠璃、彼の言っていることは本当なのか?』
「……う、うん。だから、お見合いは……」
『――そうか……』
そう零す隆宏の言葉は、何故か嬉し気で、それでいて寂し気で、何とも言えぬ違和感が夜を襲った。
だって、それは娘の成長を喜び、同時に悲しむ父親そのもので、
娘の気持ちを考えず、お見合いを無理矢理させようとしている隆宏とはかけ離れていて。
けど、そんな違和感はすぐに頭の隅へ追いやられてしまう。
『夜月君、と言ったかな。君には申し訳ないが……瑠璃と別れてはもらえないだろうか』
「……別れてほしいと言われて別れる恋人はいると思いますか?」
『確かに、君の言う通りだな……』
てっきり、別れろと無理矢理にでも瑠璃と夜の仲を引き裂くと思っていたのだが、余所余所しいというか遠慮しているというか、そんな隆宏の対応に戸惑いつつも、夜はしっかりと言葉にして否定する。
夜の言う通り、隆宏が納得する通り、世の中に別れろと言われて別れる恋人なんていないだろう。
だって、それはお互いの想いを軽んじる行為で、踏みにじる愚行そのものだから。
それに、別れろの一言で別れる恋人なんて恋人だなんて言えるわけがないだろう。そんなのは、ただの偽物だ。
『だが、君が何をしようと瑠璃が結婚することに変わりはない。しっかりと別れを済ませておくといい』
そう言い残して、ぷつりと通話が切れた。
「電話切られましたね……」
「うん。……ごめんね、夜クン。私、何も出来なかった……」
「気にしないでください。俺だって結局何も出来なかったですし」
何も出来なかったのはなにも瑠璃だけではない。夜だって、何も出来なかった。
瑠璃には彼氏がいる、だからお見合いを断る、そのために電話をしたのに、結局隆宏を説得することは出来なかった。
瑠璃に恋人がいると聞いた隆宏の反応には違和感を覚えたが、だからといってその違和感がお見合いを中止に導くはずもなく、何も出来ていないに等しいのだ。
「でも、ありがとう、夜クン。その……嬉しかった……」
何も言い返せない自分に代わって声を上げてくれた。
何も出来なかった自分の手をぎゅっと握りしめてくれた。
瑠璃は彼女なのだと、自分は瑠璃の彼氏なのだと、そう言ってくれた。
そのことが、途轍もなく嬉しくて、くすぐったくて恥ずかしくて、幸せで幸せで仕方がないのだ。
「――どういたしまして……」
夜は気恥ずかしそうに眼を逸らしそう答えた。
「大好きだよ、夜クン……」
夜には気付かれないように小さな声で、自分の胸中を吐露する。
それは、紛れもない本心で。消えることのない恋心で。
夜に抱く想いそのものだった。
ども、詩和です。
やっとあかりがヤンになってくれてほっとしております。それもそれでどうなんだ、というツッコミはスルーします。
これからどう進むのか。さて、どうしましょう。とりあえず家に向かわせますかね?お見合い相手に殴り込みと行きますかね?いや、ほんとにどうしましょう。俺の脳内はいくつもの”どうしよう”が駆け巡っておりますw
今回はこの辺で。感想・意見等貰えたらモチベUPに繋がります(きっと)。次回お会いしましょう、ではまた。
※2020/10/20にちょっと改稿しました。




