後悔しない選択肢
期末テスト当日。
みんなで最後の復習をするべく、朝早く部室に集まることになっていたのだが……。
「瑠璃先輩来ないな……」
集合時間から三十分近くが経過しても、瑠璃が部室に足を運ぶことはなかった。
今まで、瑠璃が約束を破ったことはない。少なくとも、夜が知る範囲の話ではあるが。
だから、もし遅れるなんてことになったら電話なりLI〇Eなりで連絡をしてくれるはずだ。
それがないということは、まだ眠っているか、何かあったのか。
前者ならいい。あかりたちと同じように瑠璃だって毎日毎日勉強を教えていたのだ。疲労でまだ眠っているというのも頷ける。
だが、仮に後者だとしたら。瑠璃の身に何かあったのだとしたら。
「梨花、小林先生に俺は早退したって伝えといてくれ」
「早退って、もしかして部長のところに?」
夜達二年C組の担任の先生である小林先生に早退したという旨を伝えてほしいという夜のお願いに、梨花は戸惑いつつ理由を問う。
「あぁ。何もないならそれに越したことはない。けど、何かあってからじゃ遅いんだ。だから、俺は行く」
宿泊研修の時だって、夜が知ったのは事が起きた後だった。
もう、あんな思いはしたくないのだ。絶対に。
「でも、ナイト。瑠璃先輩の家はわかるの?」
「数える程度だけど行ったことあるからわかる……はずだ」
本当に片手で数えられる程度だから、うろ覚えで本当に辿り着けるかはわからない。
だけど、それが理由で行かないという選択肢が生まれるわけではない。
夜が選ぶのはただ一つ、後悔しない選択肢だけだ。
「それじゃあ、俺は……」
「待って、おにいちゃん!」
行ってくると、そう言おうとしてあかりに引き留められる。
「おにいちゃんは、なんで部長のところに行くの……?」
「だ、だから心配で……」
「本当にそれだけ?」
あかりの真剣な瞳に、夜は固唾を飲みこんだ。
だが、夜にはあかりがどうしてそんなことを聞くのかはわからないだろう。
しかし、夏希と梨花にはわかる。わかってしまう。
だって、あかりと同じ気持ちだから。
いくら一年以上同じ部活で活動していたとはいえ、それ以上も以下もない。あくまで、先輩と後輩の関係で部長と副部長の関係、それが夜と瑠璃の関係性のはずである。
それはわかっている。だけど、どうしても気になってしまうのだ。
二人は、本当にそれだけの関係なのだろうか、と。
それ故に、あかりは夜に聞いたのだ。
「……それだけだよ。瑠璃先輩が心配で、何かあったかもしれないから行く、それだけだ」
同じ部活だから、先輩後輩だから、友達だから。だから心配で、様子を見に行く、それだけなのだ。
それ以外の理由なんてない。
「……うん、わかった。行ってらっしゃい、おにいちゃん」
「――行ってくる」
それだけを言い残して、夜は部室を飛び出した。
「はぁ、はぁ……」
柳ヶ丘高校から走ること十数分。夜は肩で息をしつつも無事に瑠璃の借りているマンションの部屋の前にいた。
逸る鼓動を抑え、深呼吸をして息を整える。
そうして、インターホンを押しても……。
「反応がない……?」
もしかして、部室に来ていないのを学校に来ていないと勘違いしただけ……? と思い、踵を返そうとして一つの可能性が脳裏に浮かんだ。
即ち、風邪や病気で寝込んでいたりと何かしらの理由があって返事が出来ないのではないか、と。
夜は思い切ってドアノブに手をかけた。
鍵がかかっていれば、部屋にはいない。鍵がかかっていなければ、部屋にいる。
それを確認するべく、ドアノブをひねると。
「開いてる……」
鍵はかかっておらず、扉が開いた。
それは、瑠璃が部屋にいることを証明していて。
瑠璃が何かしらの理由で返事が出来なかったというわけで。
「……すみません、お邪魔します!」
夜は意を決して部屋の中へと足を踏み入れた。
玄関で靴を脱ぎ、リビングに通じる短い廊下を進みドアを開ける。
そこには。
「まったく、女の子の家に無断で入るなんて……いけないんだよ? 夜クン……」
まるで旅行にでも行くかのように大きなカバンに色々なものを積み込み、困ったように微笑む瑠璃の姿があった。
ども、詩和です。
今回は後書きなしです!w
皆さん、よい年末を!
※2020/10/14にちょっと改稿しました。




