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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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どうすれば

 カレーを食べ終え、梨花たちが帰路に就いた後、疲労困憊――というほど疲れていないはずだが――故に普段よりも早く眠りに夜はついていた。


 そんな中、静寂に包まれたリビングにぼんやりと浮かぶ影が一つ。言わずもがな、あかりである。


 表情は部屋の電気が付けられておらず、光源がカーテンの隙間から差し込む月光だけなのも相まって伺うことは出来ないが、それが一層不気味さを醸し出している。


「……おにいちゃん」


 ぽつりとつぶやかれた言葉。それは、最愛の兄を呼ぶ声。


 あかりは悩んでいた。正確には苦悩していた。


 幼いころから、あかりにとって()は自分のすべてだった。


 それ故に、周りにブラコンだの依存し過ぎているだの言われても、あかりが気にすることはなかった。


 おにいちゃんがいればいい、おにいちゃんがいてくれさえいればいい。ずっと、そう思っていた。


 だから、夜が黙っていなくなったあの日ことを、その時の絶望を今でも鮮明に思い出すことが出来る。


 あの日――夜が中学校を卒業したその翌日。あかりが朝起きて、いつものように夜を起こすため――本当の目的は夜の寝顔を見に行くことだったが――に部屋のドアを開けると、何もなかったかのようにもぬけの殻となっていた。


 リビングに向かうと、そこには母親のあおいしかいなくて、夜どころか父親である浩星の姿はなかった。


 当然、あかりはあおいを問い詰めた。そうして、あかりは夜が遠く離れた高校に入学し、一人暮らしをするために引っ越したことを知った。


 夜は受験した高校がどこかを頑なに言ってくれなかったが、あかりは近くの高校だと思い込んでいた。


 どうして話してくれなかったのか。どうして何も言わずに出ていったのか。それは、あかりが一番わかっていた。


 だって、そんなことを言われたら反対するに決まっている。是が非でも夜を引き留めた。


 だからなのだろう。夜が何も言ってくれなかったのは。


「ねぇ、お母さん。どうしておにいちゃんは……ひぐっ、とおくに……うぅ……」


 「遠くに行っちゃったの?」と続けたいのに、流れる涙によって言葉が出てこない。


「ごめんね、あかり。理由は言えないの」

「な、んで……」

「夜に言わないでほしいって言われてるの。だから、言えないわ」


 理由を問うても、あおいは答えてくれなかった。一人帰ってきた浩星も教えてくれることはなかった。


 二年経った今もその疑問が消えることはなく。だから、夜に聞いてみたのだ。


 どうして、何も言わずに遠くに行ってしまったのか、と。


 だけど、夜がその理由を話してくれることはなかった。


 けど、正直あかりにとってそんなことはどうでもよくて。夜と一緒に過ごせればそれだけでいいと、そう思っていたのに。


 夜はあかりじゃない女の子とばかり一緒にいるのだ。


 部活動の時だって夏希や瑠璃と一緒にいることが多いし、宿泊研修だって仕方がなかったとはいえ夏希に事かまけてばかりで、今回の勉強会だって梨花と二人きり。


 夜と離れ離れが嫌で、嫌いなのにもかかわらず、先生にも無理だと言われても必死に懸命に勉強してやっとの思いで入学出来たのに。


 せっかく、夜と楽しく幸せな日々を過ごせると思っていたのに。そんなことはなくて。


 だから、あかりは気付いた、否、気付いてしまったのだ。


 もしかしたら、おにいちゃんはわたし以外の人が大切なんじゃないか。


 そんな思いを払拭したくて、でも出来なくて。


 浮かぶのはどうすればおにいちゃんに大切にしてもらえるのかという不安のみ。


「……どうすれば、おにいちゃんはわたしを見てくれるの?」


 四六時中とは言わないけど、ちゃんと自分を見てほしい。


「……どうすれば、おにいちゃんはわたしと一緒にいてくれるの?」


 もう、あんな思いはしたくない。離れ離れになんて二度となりたくない。


「……どうすれば、おにいちゃんはわたしを好きになってくれるの?」


 おにいちゃんのそばに居続けたい。好きって言ってもらいたい。想いが通じ合ってほしい。


「……おにいちゃん、わたし……どうすればいいの……?」


 そんなあかりの心の叫びは、誰の耳にも届くことはなかった。


ども、詩和です。前回はやすんでしまい、申し訳ありませんでした。

ですが、今日はクリスマスっつーことで番外編をご用意しました。

はい、そして明日からは冬休みに入るので書きだめが出来そうです。

聖夜の夜にみなさんに祝福があらんことを。

ということで、今回はこの辺で。それではまた。


※2020/10/11にちょっと改稿しました。

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