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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
2章 ヤンデレ妹は兄を宿泊研修に同伴させたいそうです。

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亜希の知られざる過去

 夜と夏希の姿はとうに見えなくなっており、舞と茜音、そして亜希の三人だけがその場に取り残された。


 この場に呼び出したのは夜だから、一足先に立ち去るのもいかがなものかとは思うが、しかし、だからといって、みんなで仲良く一緒に帰れるはずもなく、取り残されるのも最早当然のことだろう。


 例え、謝ったとしても、許してもらえたとしても、一度出来てしまった蟠りというものは絶対に消えない。


 夏希が許してくれた、だから今回の件はなかったことに……なんてことには絶対にならない。なるわけがないのだ。


「ねぇ、舞っち」

「……どうしたの、茜音?」

「どして、朝木さん許してくれたのかな……」

「どうしてだろね……」


 ふと気になった疑問。互いに頭を悩ませて思考を巡らせるが、これといって全く全然これっぽっちも思いつかない。


 だって、どう考えても許されなくて当たり前のことをしてしまったのだから。


 夏希だけでなく盟友である夜のことを批判して心を折り、ちょっとした崖のような場所から突き落として怪我までさせたのだ。警察沙汰になっても何らおかしくはないだろう。


 にもかかわらず、夏希は許してくれたのだ。益々訳がわからない。


 だが、きっと夏希が許そうと思った理由を話したところで、理解出来る人間なんて殆どいないだろう。


 夏希が許した理由。それは、謝ってくれたから、ただそれだけである。


 謝罪をした、ということは自分の罪を認め悔いているということだ。だったら、夏希がそれ以上望むことは何もない。


 人間とは何とも面倒な生き物で、楽しかった嬉しかった思い出なんかよりも、嫌で辛くて苦しい思い出の方が覚えている。それはもう、まるで昨日の出来事のように鮮明に思い出すことが出来る。


 いじめの場合、被害者はいつまでもそのことを覚えており、加害者は何もかも忘れていることが多い。というか、殆どの場合が忘れている。


 いじめとは加害者側からしてみれば、ぶっちゃけどうでもいい記憶なのだ。人間、いちいちどうでもいい記憶を保有していられるほどの容量は持ち合わせてなどいない。だから、記憶にないのだ。


 だが、加害者が自分の罪を認め、悔いている場合は話が違う。


 後悔とは、死ぬまで一生付きまとってくるもの。どれだけ些細なものであろうと、それは変わらない。


 つまり、忘れたくとも忘れることが出来ないのだ。


 自分の犯した罪を忘れることなく、ずっと後悔に苛まれ続けることになる。


 だから……というわけではないが、反省してくれているならこれ以上言うことも望むこともないと、夏希は許すことにしたのだ。


 まぁ、今まで一度も謝ってくれた人がいなかったからというのもあるかもしれないが。


 そんな夏希の考えが思いつくわけもなく、しかし、許してくれたことには感謝しかない舞と茜音。


 一方で、亜希は。


「……どうしてあたしはダメで……あいつはいいのよ……どうして……!」


 か細く消え入りそうな、しかし、それ故に静かな森の中にやけに明瞭に響いた亜希の呟き。


 当然、舞と茜音の耳にも届いている。届いてはいるのだが……亜希の言葉の意味を理解出来ずにいた。


 だが、それも当たり前。何せ、言葉の意味を理解出来るのはこの場にただ一人、亜希だけなのだから。


 そもそも、何故、亜希は夏希に対し敵意むき出しだったのか。


 それは、亜希にとって思い出したくもない過去が関係している。


 亜希には男の子の幼馴染がいた。


 優しくて、勉強は苦手だったけどスポーツが得意で、いつでも亜希のそばにいてくれた幼馴染。


 そんな彼に、亜希が好意を抱くのは最早当然だった。


 けれど、告白をするなんてことはなかった。今まで築いてきた関係が、自分のたった一言で崩壊するのだと思うと怖くて、言い出すことが出来なかったから。


 しなかったのではなく、出来なかった。ただ自分に言い聞かせて逃げていただけだった。


 そのことに気付いたのは、否、気付かされたのは、亜希がまだ中学生の頃。彼に、幼馴染に、好きな人に好きな人が出来たと打ち明けられた時だった。


 その時の絶望は、本人である亜希にしか知りえぬものだろう。


 どうしてあたしじゃないの? という戸惑い。


 好きな人って誰なの? という疑問。


 こんなことになるくらいなら告白すればよかったの? という後悔。


 そんな感情たちが綯い交ぜとなって、亜希の心を締め付けた。


 故に、伝えた。伝えてしまったのだ。自分の秘めていた想いを、好きだという気持ちを。


 いてもたってもいられなかった。好きな人を他の女になんか取られたくなかった。それ故の告白。


 しかし、すでに遅かった。いや、正確には何もかもが無意味だった。


『ごめん。亜希のこと、そんな風に見たことなくて……でも、これからも友達でいてほしいんだ……いいかな?』


 亜希に非はない。何せ、幼馴染という関係だったが故に元から一人の女性として見られていなかったのだから。


 もちろん、悲しかったし辛かった。好きな人にフラれて平然としていられる人間などいないのだからそれも当然のことだろう。


 だけど、同時に彼の返答に安堵もしていた。亜希が危惧していた関係が壊れてしまうなんてことにならずに済んだから。


 だが、そんな亜希はすぐに裏切られることとなった。


 その日以来、彼は極端に亜希と距離を取り始めた。


 最初は彼女が出来たから仕方のないことと割り切っていた亜希だったが、次第に気付くことになる。


 自分が告白してしまったから、好きだと打ち明けてしまったから、距離を取り始めたのだと。


 友達でいてほしいという言葉は彼なりの優しい嘘だったのだろうが、亜希の気持ちを裏切ったことに変わりはない。


 亜希の望んでいたもの――“今までと何ら変わらない関係”は二度と戻ってはこないものとなってしまった。


 そうして、亜希は知ってしまったのだ。“男女の友情“なんて、絶対に存在しないのだと。


 だから、亜希の望んだもの――“男女の友情”を持っていた夏希が羨ましかった。嫉妬した。憎かった。


 どうして、自分は裏切られたのに。


 どうして、夏希は欲しかったものをさも当然と言わんばかりの顔で持っているのか。


 そのことがたまらなく悔しくて。憎くて憎くて仕方がなくて。


 そんな負の感情が爆発してしまったから、歯止めが利かなくなってしまった。


 要は、ただの八つ当たりなのだ。


「どうして……どうして……!」


 一向に消える気配はなく、寧ろ次第に増していく憎悪。


「……許せない……!」


 自分が心の底から渇望していたものを持っている夏希が許せない。


 もはや、八つ当たりどころか逆恨みである。


 舞と茜音も声をかけることが出来ず、固唾を飲んでいる。


 静寂な森に怨嗟の言葉が響く中、パキッと枝の折れる音。


 視線を転じれば。


「……」


 極寒零度の如く冷め切った眼差しで亜希を見やるあかりの姿がそこにあった。

 ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。

 さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけましたか?

 亜希をただの屑にするのは作者としてキャラを蔑ろにする行為に他ならないので、それっぽい理由を考えたわけですが……どうでしょう、違和感などありましたか?

 俺的にはバスのシーンでの亜希の発言からすでにこの理由を考えていたわけなのですが(読み返してそういえばこんなこと言ってたな……と思ったわけじゃないよ? ほんとだよ?)、ちゃんとした理由があってこその亜希の行動なのだと、そう思っていただければ幸いです。まぁ、どんな理由があれど許されるわけがないですけど。

 いい加減まだ二章終わらねぇのかよという声が聞こえてきそうですが、大丈夫です。もうそろそろ終わります。多分、きっと。そうきっと。

 そんなわけで、今回はこの辺で。

 それでは次回お会いしましょう。ではまた。


※カクヨムでもあとがきを書くようになったのでなろうのほうにも書くことにしました。

※2020/09/26に割り込み投稿しました。

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