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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
2章 ヤンデレ妹は兄を宿泊研修に同伴させたいそうです。
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これまでも、そしてこれからも

 翌日――宿泊研修三日目。


 朝食を頂き、本来ならバスに乗っている頃……だったのだが、夜達の姿は昨日ウォークラリーにて足を踏み入れた迷いの森の前にあった。


 理由は言わずもがな、肝試しを行うためである。


 しかし、ここで疑問が一つ浮かぶ。


 即ち、朝っぱらから肝試しなんて可能なのだろうか、と。


 そもそも肝試しとは、簡潔に言えば闇夜の学校や墓所に自ら赴き恐怖心を試すもの。


 つまり、夜が更けていないとぶっちゃけ意味がないのである!


 にもかかわらず、誰もそんなことを気にしているようには思えない。


 何故なら、森の中は太陽が差し込まず、夜闇のように暗いのだということを知っているから。


 まぁ、肝試しの雰囲気をギリギリまで味わえないのは残念ではあるが、本当なら中止で今頃はバスに乗って学校に帰っていたはずなのだ。贅沢を言うのはお門違いというものだろう。


 これから行わなれようとしている肝試しに一喜一憂している生徒たちの中、俯いている人影が一つ。夏希である。


 表情を窺うことは出来ないが、少なくとも肝試しを楽しみにしているようには思えず、それ故に少し浮いてしまっていた。


 しかし、それも当然なのだ。


 昨日今日で身体的に負った傷は消えたとしても、精神的に負った傷は消えやしない。中には、永遠に消えてくれない傷だってある。


 だから、そんなすぐに気持ちを切り替えて肝試しを楽しもう! だなんて思えるわけがないのだ。


「……夏希、ちょっといいか?」

「……な、いと?」


 声をかけられた方へ顔を向ければ、そこには夜の姿があった。


 何か二人で話したいことでもあるのか、離れた場所へ向かう夜の後を追う。


「どうしたの、ナイト。話って……」

「夏希、先に謝っておく。ごめん」

「き、急にどうしたのナイト?」


 突然頭を下げて謝罪の意を示す夜に戸惑う夏希。


 まぁ、何の脈絡もなく謝れても何のことかわからずに困惑するのは最早必然といえよう。


 だが、夜はそんなことは承知の上である。わかった上で、言葉通り先に謝ったのだ。


 これから夜が言おうとしている言葉は、きっと、否、絶対に夏希を傷付けることになるだろうから。


 本当なら傷付けたくなんかないし傷付いて欲しくもない。


 けれど、それでも言っておかなくちゃいけないことがあるのだ。


 だから、覚悟を決めて言葉を紡ぐ。


「夏希、言ってたよな。俺みたいに強くなりたくて、自分だけでどうにかしようとしたって」

「う、うん……」

「でも、俺は夏希が思ってるよりも弱い人間だ。傷付きたくないし、傷付けたくもない。だから、色んなものから逃げてばっかで……」

「そんなことない! ナイトは、ナイトは……!」

「いや、正直今は俺の強さなんか関係ないんだ。肝心なのは、夏希の力で解決出来るかどうかだ」


 そう、夜が強いか弱いかだなんてそんなことはどうでもいい。


 今、重要なのは、夏希自身の力で解決出来るか否か、それだけなのである。


「ぼ、僕の力で……。無理だよ、僕なんかじゃ……」

「夏希なら出来る。だって、俺よりもずっと強いんだから」

「え?」

「だって、俺を最初に助けてくれたのは夏希だろ?」


 あの日――夜と夏希が初めて出会った日。


 夏希が自殺しようとした時に夜と出会ったことで救われたと思っているように。


 夜だって、あの時夏希に救われていたのだ。


 クラスでは孤立し、投げかけられる悪意に満ちた言葉と時々振るわれる暴力。


 やり返したところで無駄なのだし、自分も相手と同じ土俵の人間なのだと宣言するようなものだからと我慢し続ける日々。


 あの日も教室にいるのが馬鹿馬鹿しく思えて、誰もいない屋上で一人時間が過ぎるのを待っていた。


 ただただ苦痛でしかない日々を過ごしていくのだろうと思っていた時に、声をかけてくれたのが夏希だったのだ。


 二人で笑い合いながらSaM(ゲーム)をしたあの時間が、夜にとっては今も鮮明に思い出せるほど大切なものなのだ。


 夏希に出会えたからこそ、嫌で嫌で仕方がなかった学校生活が楽しく思えた。


 勿論、相も変わらず孤立していたけど、それでも夏希と過ごす時間はとても楽しかった。


 だから……。


「だから、夏希は強いんだよ」

「で、でも……僕は……」


 夜に強いのだと言ってもらえて、嬉しかった。


 自分は弱いという劣等感も、夜の隣に立ってていいのかという不安も、夜の言葉のおかげで消えていた。


 でも、夏希の心は折れてしまった。


「……僕一人……なんて、無理だよ……」


 自分自身で負けを認めてしまった。


 もうダメなのだと、諦めてしまった。


 故に、夜に頼るしか出来なかったのだ。


 今まで何度も何度も助けてくれた盟友(相棒)なら、英雄ならきっと、否、絶対に何とかしてくれると思って。


 そんな自分を夜は強いと言ってくれた。でも、僕は……もう……。


「夏希、誰が一人でなんて言った?」

「え、でも、だって……」

「言っただろ? 俺と夏希は、いや……ナイトとアリスは二人で一人、二人で最強だって。だから、一人で抱え込まないでさ、二人で分かち合おう。一人で戦うんじゃなくて、二人で戦おう。今までもそうだったように、これからも」


 夜と夏希は、否、ナイトとアリス――ALICE in Wonder NIGHTは二人で一人、二人で最強なのだ。


 どちらかが欠けるだけで最強ではなくなる、それ故に二人で最強。


 一人では敵わなくとも、二人でならなんとかなる。


 だから、二人で一緒に前を向いて、一緒に戦うのだ。


 これまでもそうだったように、これからもそうであるように。


「……そう、だよね。僕たちは二人で一人……二人で最強……。ねぇ、ナイト。僕と一緒に戦ってくれる?」

「当たり前だろ?」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして」


 笑い合う夏希と夜。


 夏希の顔には先程まで影が差し込んでいたというのに、今や憑きものが落ちたかのように晴れ晴れとしていた。


「でもナイト、僕どうしたらいいの?」

「そこは問題ない。俺に作戦がある……」


ども、詩和です。

さてさて、長ったらしく宿泊研修やってきましたが、あともう少しで終わりを迎えそうです。

俺個人としてはラブコメよりもファンタジー異世界ものを書きたく、にどきみを書いていましたが、やっぱりラブコメっていいですよね。

自分が出来ない青春を小説で書けるのは嬉しいことです。決して、決して!悲しいことではないんです!

まぁ、私情なんていいんですよ。とりあえず、お読みいただきありがとうございます。例の如く校閲しておりません!最近忙しいのよ、察して。

それでは今回はこの辺で。

それではまた。

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