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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
2章 ヤンデレ妹は兄を宿泊研修に同伴させたいそうです。
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騎士の役目

 時間を知らせる鳥の鳴き声と言えば、本来なら鳩か鶏が定番なのだろうが、雀のちゅんちゅんという鳴き声を目覚まし代わりに、夜は目を覚ました。


 眠気眼をダメだとはわかっていてもぐしぐし。ふわぁと欠伸をしつつ身体をう~んと伸ばす。


 そうして立ち上がろうとして、違和感に気付く。


 夜は違和感の正体を探るべく、下――膝元へ視線を移すとそこには。


「すぅ~すぅ~……」


 寝息を立ててぐっすりと眠っている夏希の姿があった。


「な、夏希? 何でこんな所で……」


 少なくとも、夜が眠る前まではベットの上でぐっすり眠っていた。起きる気配もなかった。だから、夏希が移動したのは夜が眠った後なのだろう。


 しかし、そうだとして、否、そうだとしても夏希が移動してきた理由がわからない。皆目見当もつかない。


「……まぁ、そうか。夏希だって疲れてるよな……」


 宿泊研修はまだ一日しか経っていないというのに、色々なことがあった。疲れていても無理はないのだ。身体的にも。そして、精神的にも。


 ちらりと時計を見れば、時刻は六時五十分。しおりの予定ではすでに起床時間が過ぎている。


 朝食は七時三十分だから、それまでに起きれば問題はないだろう。本来ならば。


 夏希の部屋はあかり達と同じで、夜と同じ部屋ではない。


 だから、着替え等の荷物はすべてあかり達の部屋にある。


 つまり、朝食の時間までに部屋に戻り、着替えを取りに行かなきゃならないのだ。


 それに、聞かなきゃいけないこともある。


 だけど。


「……もう少しだけなら大丈夫か」


 本当に少しだけになるかもしれないけど、このまま寝かせてあげたい。


 眠っている時は、何もかも考えなくて済む。嬉しいこともそうだが、辛いことだって考えなくて済むのだ。


 人はそれを、現実逃避だの、逃げだの、目を背けているだのと正論をぶちまけてくれるのだろうが。


 逃げるのがダメだとどこの誰が言ったのだろうか。


 辛いことから、苦しいことから、嫌なことから逃げ出したいと思うのは人間として当たり前のこと。だから、そう思ってしまうのは仕方のないことだし、実際に実行してしまっても無理もないのだ。


 それに、世の中には戦略的撤退という言葉があるように、一時期“逃げるが恥だが役に立つ”というハンガリーのことわざが一大ブームになったように。


 逃げることは恥でも何でもない。失敗が成功の基であるように、逃げることだって何かに繋がっているはずなのだ。


 逃げることは、誰かにああだこうだと言われるようなことではないのだ。


 夏希だって一人の女の子、一人の人間なのだ。いつ逃げたくなってもおかしくはない。


 だが、その時は盟友として、相棒として手を差し伸べるし、背中は預かるし、共に戦うし、逃げ続けようとすれば引き留める。


 けど、何も考えずに済むのなら、それに越したことはないはずだ。


 だったら、ほんの少しだけでも、寝かせてあげたいと思っても無理はないだろう。


「……って、夏希の傷を抉ろうとしてる俺が言えたことじゃないか……」


 嫌な思いをさせたくないくせに、自ら嫌な思いをさせようとしている。


 聞かなきゃわからないからと自分に言い聞かせても、罪悪感しか湧かない。


 だが、罪悪感を抱くなんてのはお門違いだろう。


 何せ、夜にこの状況を打破出来るほどの力があれば夏希に聞かなくてもわかるだろうし。


 そもそも、こんなことにならなかったのかもしれないのだから。


 きっと、夏希は気にしないでと、ナイトのせいじゃないからと言ってくれるのだろうが。


「……気にするなとか、無理に決まってるよな……」


 立ち入り禁止と書かれている場所ほど入りたくなってしまうのと同じで。


 気にしないでと言われれば、余計気にしてしまうものなのだ。


「……って、そろそろ起こさないとな。お~い、夏希~。起きろ~」


 夏希の頬をぺちぺち。


「うぅ……な、いと? あれ、僕もしかして……」

「もしかしなくとも人の膝を枕にして寝てたぞ」

「ご、ごめんナイト!」

「別にいいけど……そろそろ部屋に戻らないと時間がマズいんじゃないか?」


 夜に言われて時計を確認する夏希。時刻はすでに七時を過ぎている。


「ほんとだ……ねぇ、ナイト。後でね?」

「あぁ、後で」


 すぐ会うのに……とは思っても口には出さないし出したくもない。


 だって、夏希が望んでいる答えはそうじゃないのだから。


 望んだ言葉じゃない返答が返ってきた時、どれだけ悲しいのかを夜は知っているから。


 返される側と返す側、そのどちらも経験しているが故に。


 慌ただしく部屋を出て行く夏希を横目に。


「……はぁ、俺って意気地ないな」


 結局、何も聞けなかった自分に、ため息を吐く。


 夏希を傷付ける覚悟はしたくせに、いざ聞こうとすると声が出なかった。


 一日経っても、夏希の心にぽっかりと開いてしまった穴は塞がっていなくて、塞がっているわけもなくて。


 その穴を、自分が広げてしまうかもしれないと思うと怖くて足が竦んだ。


「……思い立ったら即行動ってのが出来たら、きっと苦労しないんだろうな……」


 二次元の主人公のようにはやっぱりいかなくて、どうしても自分と大切な人の保身に走ってしまう。


 誰も傷付けたくないと思っているが故に、傷付けることが出来ないでいる。


「……っ!」


 弱気になっている自分に活を入れるため、自分で自分の顔をはたく。頬はヒリヒリとし、手のひらも少し痛いが気にしてなどいられない。


「……ったく、本当に逃げてるのは俺じゃねぇか……」


 嫌なことから逃げるのは人間の本能。だから仕方のないことと割り切るのも無理もない。


 だが。


「……二人して逃げるのは、ALICE in Wonder NIGHTの完全敗北も同然……だよな」


 最強のプレイヤーと名を馳せてからかなりの時間が経過したが、未だに負けを知らない。


 勿論、一人だけだったら最強じゃないし普通に負けるだろうが、二人なら最強。だから、文字通り二人で一人なのだ。


 リアルはクソゲーとしか思えないけど、ALICE in Wonder NIGHTとしてこの場から逃げ出すわけにはいかない。


 夏希(アリス)を支えるのは相棒であり盟友である(ナイト)の役目なのだ。


「……今度こそ覚悟を決めろよ、夜月夜(ナイト)……ッ!」

※2020/06/11に割り込み投稿しました。

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