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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
2章 ヤンデレ妹は兄を宿泊研修に同伴させたいそうです。
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盟友の在り方

 夏希の寝息を気にしないようにしつつ、椅子に座ってからというもの、夜はただひたすらに思考を巡らしていた。


 温泉に浸かっていたときも考えていたことだが、夏希を誑かし、泣かしてくれた奴が皆目見当もつかない。


 そもそも、どうして夏希が標的になったのだろうか。


 オタクというだけで標的にされやすいこのご時世に、中二病なんていう一生治ることのない病を患っている夏希が標的になりやすいというのは理解出来る。夜もそうだったし。


 だが、だとしたら夏希に投げかけられた言葉に違和感が生じてしまう。


 夏希がオタクで中二病だから標的に選んだというのならば、夏希に投げかけられる言葉は「キモオタ」だの「イタイ」などという誹謗中傷だろうが、そのどれもがオタクと中二病だからこそ生まれる言葉。


 しかし、夏希が泣きながら夜に向かって、まるで確認するかのように言ってきた言葉は違った。


『……ねぇ、ナイト。僕たちって、盟友……だよね?』

『あの契約は、嘘じゃない……よね?』


 普段の夏希ならば絶対に言わないであろうその言葉。


 それを言うきっかけとなった言葉が、そのどこぞの誰かだったとしたら、夏希を標的にした理由はオタクだからとか中二病だからとかそんな理由ではないということは明白だろう。


 だとしたら、益々わからない。


 夏希を標的にした理由がオタクであるということでもなく、中二病であるということでもないのならば、一体どんな理由で標的にしたというのか。


 それがわからなければ、そもそも誰なのかを特定することすらまず間違いなく……不可能だろう。


 何故、夏希が盟友という関係に不安を抱いたのか。


 それは、盟友という関係に対して何かを言われたからに他ならない。


 しかし、それだけならば夏希が涙を流すまで傷付くとは到底思えない。


 そりゃ、人間だから傷付きはするだろうけど、夏希はオタクであるということも中二病であるということも隠していないのだし、何かしら言われることくらい覚悟している。


 故に、言われ慣れたことを散々言われたところで、泣くほど傷付くはずがない。


 だからこそ、まったく全然これっぽっちもわからないのだ。


「……クソっ……」


 やはり、一番手っ取り早いのは夏希本人に聞くことだ。たった一言、「夏希を泣かせた奴は?」と聞くだけで解決する。


 だが、それは犯人がわかると同時に、夏希の傷口に塩を塗りたくる行為に他ならない。


 そんなことは絶対に出来ない。例え、口が裂けても言えないし言いたくないし言わない。


 夏希を傷付けたくないから。辛そうな顔をして欲しくないから。


 何より、大切な存在だから。


 辛くて苦しくて、本来なら中学校生活を思い出したくないはずなのに。


 こんなことがあったなと笑いながら思い出すことが出来るのは、誰あろう夏希のお陰なのだから。


 しかし、夏希に聞けないのならば自分で探し出すしかない。まぁ、元よりそのつもりではあるのだが。


 だけど、犯人がそう簡単に尻尾を見せてくれるとは思えない。


 この世に蔓延るいじめっ子という輩は、自分がクラスカースト上位であると周りに宣言し、誰も逆らえないようにするというのが目的な場合が多い。それ故に、自分より地位の低いと思う者――その代表格がオタク――がいじめられる傾向にあるのだ。


 だが、夏希が一人のときを狙っていたのだとしたら、目的は違うということ。誰かに見せつけて自分の地位を確立させるわけじゃないのなら、クラスメイトの前では絶対に何もしないだろう。


 それは夜も同じ。夜が夏希の傍にいるときは、絶対に顔を出しては来ないはずだ。


 つまり、夏希の傍にいることが出来れば、夏希は辛い目に合わずに済むということ。


 逆を言えば、夏希の傍にいる限り、犯人は絶対にわからないということだ。


 絶対は言い過ぎかもしれないが、それでも特定は難しいだろう。


 本当ならば、夏希には気付かれないようにしながら犯人を見つけ、やめろと言ってやるつもりだった。


 けど、それは無理なのかもしれない、否、無理なのだ。


 何が起こるかわからないこの“人生”というゲームは、思い通りに事が進んだ試しなんて一切なく、無数のマルチエンドが存在するクソゲーなのだから。


 夜はベットの方へと視線を移す。


 そこには、さっきまで部屋の前で泣いていたとは思えない程、幸せそうな笑みを浮かべながら寝息を立てる夏希の姿。


 夏希を傷付けたくない。だから、夏希に聞くわけにはいかない。そう思ってきたけど。


 言ってしまえば、それは夜の余計なお世話なのかもしれない。


 だって、夏希という女の子は、夜が思っているよりもずっとずっと強い女の子なのだから。


「……ALICE in Wonder NIGHTは二人で一人……だもんな」


 ナイトとアリスが二人で一人だとしたら、夜と夏希だって二人で一人なのだ。


 嬉しいことも、ムカつくことも、悲しいことも、楽しいことも二人で一人。


 それが、夜と夏希の考える盟友(相棒)の在り方である。


 どっちかが辛くて苦しい時は、手を差し伸べて助けるんじゃない。


 隣に立って二人で戦うのだ。今までがそうだったように、これからもそうであるように。


 一人じゃまだまだ弱い夜と夏希だけど、二人――ALICE in Wonder NIGHTならば最強なのだから。




 同時刻。


 すでに眠ってしまった舞と茜音を横目に、亜希は一人ほくそ笑んでいた。


 適当なことを言っただけで、少しずつ絶望に歪む夏希の顔を見たら、愉快で仕方がなかった。


 中学の時から、亜希は人を見下すことでスクールカースト上位に君臨し続けて来た。舞と茜音とは、その頃からの仲である。


 三人で気弱でいかにも陰キャっぽい見た目の女子を選んで、いじめるのが楽しかった。


 高校では流石に控えようと思っていたのだけど、人間そう簡単に変わるわけでもなく、初日から男といる夏希がどこか気に食わなかった。


 いかにも自分より下位の夏希には男がいて、自分には男がいない。そのことがただひたすらウザくてムカついて。


 亜希のような他人を見下す人間を好きになる人なんて誰もいないだろうが、亜希がそのことに気付くことはなく。


 だからこそ、夏希がウザくてムカついたのだ。夏希からしてみれば完全なとばっちりである。


 誰かが注意したりしていれば、亜希が調子に乗り続けることもいじめることで自分は強いのだと思うこともなかったのだが、面倒事を極力避けたいのが人間というもの。


 そんなわけで、クラスメイトにも教師にも何も言われることはなく、歪んだ考えは変わらないまま亜希は高校生になってしまった。


 だから、亜希は今までやってきたことを今回も繰り返す。


「ふふっ、明日が楽しみね……」


 ムカつく奴には何をしても許されると、本気で思ってしまっているが故に。

※2020/05/20に割り込み投稿しました。

※追記:2020/05/20にプロローグを大幅に改稿しました。

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