表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
2章 ヤンデレ妹は兄を宿泊研修に同伴させたいそうです。
23/339

無駄な職権乱用

 慎二から引率者として宿泊研修に参加しなければいけないということを聞かされたあの日から、時が経つのは早いもので一週間が経過していた。


 今日は宿泊研修の前日ということで、体育館にて集会が開かれていた。明日からの宿泊研修についての決まり事や日程の再確認などが主な内容となっているため、集会に参加しているのは一年生だけで、二年生や三年生は通常通り授業中……なはずなのだが……。


「……どうして俺がここにいるんですかね、理事長……」


 二年生である夜も何故か参加していた、否、参加させられていた。


「どうしても何も、君も宿泊研修に行くからに決まっているだろう?」


 何を今更……と言いたげな慎二に、夜は誰の所為でこうなったと思ってんだと言いたい気持ちをぐっと堪える。だって、それを言ったところで夜が宿泊研修に行くことは、残念ながら変わらないのだから。


 因みに、お気づきだとは思うが夜がいる場所は慎二の隣。つまるところ、引率する先生たちがいる場所である。場違い感が半端ないのは自分が一番わかっている。


 だからだろうか、一年生達は何故かこの場にいる夜のことで盛り上がっているようだ。


 流石に集会中ということも相まって、大きな声では話せないようだが、それでも耳を済ませれば聞こえる程度の声量で。


 「あれ、夜月さんのお兄さんだよね?」だとか、「なんで二年生があそこにいるんだ?」だとか聞こえて来る。


 うん、確かにごもっともな疑問だとも。それが正常な人の正常な反応だろう。何も間違ってはいない、いないのだ。


「ねぇ、あかりちゃん。もしかして、あそこにお兄さんがいるのって……」

「…………どうかした? 美優ちゃん」

「……美優さん、聞かない方がいいと思います……」

「うん、そうだね……」


 きっと、美優と志愛の判断は正しい。世の中には、知らない方がいいことなんて星の数ほどあるのだから。


 そうして、日程の確認や、決まり事を説明した後、引率者の紹介となった。夜が一年生の時にも思ったことなのだが、宿泊研修のしおりにすべて書いてあるのに、この集会って意味はあるのだろうか……。まぁ、授業が潰れるのは嬉しいのだけど。


「そ、それでは引率の先生方はご登壇ください!」


 一年B組の担任である日葵の指示に従い、慎二達は壇上へと向かう。勿論、夜も一緒である。


 そのことに、再びざわざわし始める一年生達。何故だろう、夜が壇上に登ると騒がしくなるのは決まり事なのだろうか。


 一年A組の先生から順番に一言ずつ挨拶していく。まぁ、一言とは名ばかりで、大抵の場合は二、三言くらいなのだが。


 それぞれの担任の先生の挨拶が終わり、残るは夜と慎二のみ。夜が面倒だな……と名前を呼ばれる前に立とうと……。


「え、えっと、次は理事長、お願いします」

「……って、あれ? 俺じゃないの?」


 何故か、夜ではなく慎二が先だった。こういう時って、一番偉い人の挨拶が最後じゃないのだろうか。今回の宿泊研修の団長は慎二なのだし。


「まぁまぁ、いいじゃないか。夜君はいわばゲストのようなものなんだからね」


 確かに、慎二の言うことも一理ある。元々参加するはずもなかった夜は、言ってしまえばゲストのようなもの。最後に挨拶というのもゲストだからと言われれば納得は出来……るわけがない。


「……理事長、裏で手を回したりしてません?」

「……」

「……理事長、何かしたりしてません?」

「……さて、なんのことかな?」


 やはり、慎二が裏工作をしていたらしい。きっと、楽しそうだからとかそんな理由で。


 しかし、それを指摘したからと言って挨拶の順番が変わるわけもなく、慎二の挨拶は滞りなく終了。夜の出番となった。


「さぁ、夜君の番だ。いい挨拶を期待してるよ」

「わかりました、一回殴らせてもらえるなら」

「……適当な挨拶を期待しているよ」


 それもそれで失礼だが、変に期待されるよりはよっぽどマシである。


 演台――よく見るステージの上なんかに置かれてる台――の前に立つ。


 緊張はする。手足は震える。あの時――部活動紹介をした時と同じくらい、心臓は脈打ち、逃げ出したくなる。


 言ってしまえば、あの時逃げ出さなかったのは一抹の安心感があったからだ。背中は夏希が守ってくれるという、夏希に対しての絶対的な信頼感があったからだ。


 だからって、今、逃げ出していい理由にはならない。それに、逃げ出すわけにはいかない。


 一年生ということは、夏希がいるということだ。あかりがいるということだ。


 信頼感を寄せてくれる夏希と、好意を寄せてくれるあかり。そんな二人が見ているというのに、逃げ出すわけにはいかないだろう。


 ……ステージの上で話すだけだというのに大げさすぎるのではないか? という疑問はごもっともだが、忘れないで欲しい。夜は、夏希同様対人恐怖症だということを……。


 だからこそ、マイクを握りしめ、口を開く。


「……みなさん、こんにちは。この度、みなさんの宿泊研修に引率者として同伴することになりました、夜月夜です。……どうして俺が、教師でもない、一年生でもない俺が宿泊研修に行くのかは正直お答え出来ません。しないんじゃなく、出来ないんです。だって、俺だって知りませんし」


 一年生達の頭には“?”が浮かんでいることだろう。


 因みに、慎二に聞いても理由は教えてもらえなかったので知らないが、何となく察しは付いている。どうせ、あかりが関係しているのだろうと。


 まぁ、あかりに聞いても教えてもらえなかったのだが。


「……けど、誠心誠意みなさんが宿泊研修を楽しめるように頑張りたいと思います。以上、明日からはよろしくお願いします」


 夜の言葉に嘘はない。嘘はないが、本来はありえなかった二度目の宿泊研修だ。


 折角なのだし楽しみたい、というのが夜の本音である。その延長線上で、あかりや夏希達が楽しめるように頑張る、というのが夜の考えだ。


 そんなこんなで、引率者の紹介も終わり、集会は終わった。


「よかったよ、夜君。実に素晴らしい挨拶だったとも」

「理事長、それ皮肉にしか聞こえないんですけど……」


※十一話目を改稿したときに思ったよりも文字数が増えたため、2019年12月29日に割り込み投稿をしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ