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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
2章 ヤンデレ妹は兄を宿泊研修に同伴させたいそうです。
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高校生活二度目の宿研?

「ねぇ、夜。一体、何をしたの?」


 部室で名指し放送された後、渋々SaMを中断。理事長室に行ってくると部室を後にした夜の後を追いかけて来た梨花の第一声がそれだった。


 どうして、自分が何かしたのかが前提条件になっているのか、とツッコみたいところではあるが……。正直、理事長に呼ばれるとなると何かしでかしたと思われるのが普通なのでそう思われるのも仕方がない。


「別に何もしてないんだけどな……。というか、何で梨花まで付いてくるんだよ……」

「べ、別になんだっていいでしょ?」

「まぁ、そうなんだけどさ……」


 夜には何かをしでかしたつもりは一切ない。まぁ、強いて言うなれば入学式と部活動紹介だが、後者は兎にも角にも前者に関しては夜は被害者である。


 部活動紹介での問題発言をとやかく言われるというのなら甘んじて受け入れる。まだ入部していない新入生である夏希に手伝わせたことが問題というのならそれも謝ろう。


 正直、夜自身あれは問題発言だったという自覚だってあるし。


 けど、入学式の件に関しては夜は何も悪くない。だって、何もしていないんだもの。寧ろ、夜は被害者なんだもの。


 入学式の一件、誰が悪い? と聞かれれば、まず間違いなくあかりと慎二と、即答でそう答えるだろう。


 新入生代表挨拶という大切な挨拶で兄に告白(?)をしでかしてくれやがったあかりと、悪ノリして場を混乱に陥れた慎二が悪くないというのならば、一体、誰が悪いというのか!


 しかし、それを咎められるというのならば二週間経った今ではなく、入学式の翌日しかり部活動紹介の翌日なのではないだろうか。


 とすると、一体、慎二は夜にどのような要件があるのだろうか……。


「……行けばわかるか……」


 考えてもわからないというのなら、それでいいじゃないか。だって、慎二本人に聞けばわかることなのだし。


 そうして、梨花と些細な会話をしていると、気付けば理事長室の前に立っていた。思ったより近く感じたのは、何かをしながら歩いていたからだろうか。普段よりも、二、三分は早く着いたように感じる。まぁ、ただの錯覚なんだけど。


 しかし、しっかりと疲労感は堪っていたようで少しばかり息が切れている。


 ナギ高は一般的な高校と比べればかなり大きい部類に含まれるだろう。故に、教室から教室への距離はかなりある。部室棟の二次元部の部室から本校舎の理事長室までなら尚更である。


 その上、夜の体力は高校二年生の平均と比べたらかなり劣ってしまうだろう。故に、部室から理事長室まで歩くだけで疲れてしまうのだ。こういう時、引き籠り体質だった自分が嫌になるが、まぁ、今更改める気もないのでその点に関しては諦めている。


「ねぇ、夜。なんで疲れてるの?」

「お前みたいな運動神経抜群なやつと一緒にしないでくれ……」


 平然な顔をして小首を傾げる梨花を横目に、夜は理事長室のドアをノックした。


「入り給え」

「……失礼します」

「失礼します」


 そう言うと同時に、ドアを開く。


「よく来てくれたね、夜君」

「来てくれたも何も、俺を呼んだのは理事長じゃないですか……」


 そうだったね、と笑う慎二。何言ってんだ、この人……と冷え切った眼差しを向ける夜。


「そういえば、どうして梨花も一緒にいるんだい? あ、もしかして楽しい楽しいデートの最中だったかな?」

「で、でででデートなんて……!」


 頬をりんごのように真っ赤に染め、あわあわと慌てふためく梨花。


 そんな梨花を見て、慎二はけらけらと笑っている。どうやら、娘をからかって楽しんでいるらしい。ほんと、良い性格しているというかなんというか……。


「それで、理事長。俺を呼び出した要件って……?」

「おっと、そういえばそうだったね。すっかり忘れるところだったよ」

「……」


 どうしてだろうか、無性に腹が立ってくるのは。


「……さて、単刀直入に言おう、夜君」

「……」


 急に真面目な顔つきになった慎二を見て、ごくりと喉を鳴らす夜と梨花。夜はともかく、どうして梨花まで緊張しているのだろうか……。


 しかし、夜と梨花の緊張は一瞬でほぐれることだろう。寧ろ、拍子抜けするのではないだろうか。


 だって、慎二が夜を呼び出した理由は……。


「来週、宿泊研修があるのは知っているだろう?」

「あぁ、来週あるんですね」

「あれ、知らなかったの? 今日の帰りのHRで先生が言ってたけど?」

「……聞いてないな」

「いい加減聞きなさいよ……」


 帰りのHRとかいる? さっさと帰らせろよ……というのが夜の本心なので、基本的に帰りのHRはぼけ~としていることが多い、というか大半なのだ。だから、大事なことを聞き逃すことも多いのである。


 まぁ、その度に梨花には注意されるのだが、まったく反省していそうにないところを見るに、効果は無いらしい。


「それで、その宿泊研修がどうかしたんですか?」

「あぁ、関係しているとも。夜君、君には宿泊研修に引率員として同伴してもらうことにした」

「……は?」「……え?」


 一体、どうしてそうなったのか。慎二の口から飛び出したとんでもない呼び出し理由に、二人仲良く間抜けな声を漏らす夜と梨花。しかし、それも仕方がないと思う。


 何言ってんの、この人……と困惑する夜。一方で、声が重なったことに少し嬉しそうにする梨花。青春だねぇ、と最早他人事な慎二。


 夜が慎二の言葉の意味を理解するのに、約三秒程を要した。


「い、いやいや! 俺が宿泊研修に同行!? 一体、どういう意味ですか、理事長!」


 やっぱり、よく理解出来ていなかったようだ。まぁ、それが当たり前の反応である。


「どういう意味も何も、言葉通りの意味に決まっているじゃないか」


 そう言いながら、慎二は夜の前へと歩み寄り、肩をぽんと叩く。


「……あの、理事長?」

「頼んだよ、夜君」

「……はい、任せてください……なんて言えるかァ!」


 その日、理事長室から校舎中にとある生徒の虚しい叫び声が響いたという。


※十一話目を改稿したときに思ったよりも文字数が増えたため、2019年12月29日に割り込み投稿をしました。

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