兄妹の証?
瑠璃とのあれこれがあった日の翌日。一週間ほど前にあかりと行って買わされたペアリングが完成したとジュエリーショップから連絡が来た。それまで、機嫌の悪かったあかりだったが、ペアリングのことを言うと不機嫌? 何それ美味しいの? とでも言わんばかりに機嫌がよくなった。あかりの機嫌の変わり様の早さに、夜は冷めた笑みを浮かべた。
そうして、超ご機嫌のあかりに腕を引っ張られ、夜は最近お世話になることが多いショッピングモールへと来ていた。と言っても、夏希と一緒に参加したSaMの大会以来来ていなかったのでそこまでお世話にはなっていない気がするが。
あの時はSaMの大会があったからだったのか、人は多いものの、そこまで多くない気がした。まぁ、あれほどの人混みを経験したからかもしれないが。しかし、あれほどの人の多さであわあわしていると考えると、夜と夏希には夏と冬に開催されるオタクにとっての戦地には行けないだろう。クソ、行きたいのに……。
「ほら! おにいちゃん、はやくはやく!」
「わかった、わかったから、そんなに引っ張るなっての……」
あかりの足取りは、ペアリングを注文した日よりも軽いものだった。どれだけ嬉しいのだろうか……。夜にはあかりの気持ちを理解することは出来ないが、心の底から嬉しいということだけはわかる。これでわからない方がおかしい気がするほどの喜びようだからだ。だから、あまりはしゃがないでもらいたい、知り合いと思われたく……無理ですね、はい。
道行くお客さんの目が痛い。女性客からは温かい眼差しが、男性客からはそれはもう殺意に満ち溢れた眼光を頂戴している。やめてくれぇ、リア充爆ぜろとか言うのやめてくれぇ、隣にいるの妹だからね? 彼女じゃないからね? だから、その目をやめようね?
夜はため息を吐きつつ、あかりと共にジュエリーショップへと向かった。それに連れて、女性客の目がさらに優しく、男性客の目が血走る。あのさ? ジュエリーショップ=婚約指輪って考えはあかりだけで勘弁して欲しいんだが……?
そうして、ジュエリーショップの中へと足を踏み入れた。二度目だからマシかと思ったが、それは間違いだった。何度入るにしろ、緊張してしまうものである。これが、リア充だったらそんなことも……、って前回来た時に言ったような気がする。
夜は、受付の女性に本人だということを示して、ペアリングを持って来てもらう。
「お待たせいたしました」
そうして、あかりは受付の女性が持って来た小さな箱を受け取り、開けた。そこには、夜の名前とあかりの名前がそれぞれ彫られている二つの指輪が入っていた。あかりは自分の名前が彫られている指輪を手に持ち、
「ほわぁぁぁ……!」
嬉しさのあまり変な声を漏らしながらうっとりと指輪を見つめた。そして、ほんのりと頬を赤く染めた。
「お、おにいちゃんと、お揃いの指輪……。えへへ……」
そうして、あかりは自分の左手の薬指に指輪をはめた。あかりさ~ん、左手の薬指は婚約指輪をはめる指ですよ~? あ、聞いてないです。
「ほら、おにいちゃんもつけて!」
「いや、俺は別に……」
「何で? わたしと一緒の指輪を、どうしてつけてくれないの?」
「あぁ、わかったから、付けるから! だから、こんなところでヤンデレ発揮しないでくれ……」
夜は渋々と指輪をはめようとして、どの指にはめればいいんだ? と悩んだ。はめる指によって意味が変わると言うが、どの指がどんな意味かはわからないので、余計に悩んでしまう。まぁ、どこでもいいとは思うのだが……。
「おにいちゃん、悩む必要なんてないでしょ?」
「は? いや、確かにそうなんだけどな……?」
「おにいちゃんがはめる指は決まってるでしょ?」
「へ? ま、まさか……」
あかりは夜から指輪を受け取ると、夜の左手の薬指に指輪をはめた。
「おい、あかり。どうしてこうなるんだ?」
「どうしてって、おにいちゃんがくれた婚約指輪でしょ?」
「……」
夜は婚約指輪と勝手に盛り上がっているあかりを横目に、指輪を外した。そして、箱の中に戻そうとして……、
「何してるの? おにいちゃん」
「お前こそ何をしてるんだと俺は言いたいんだけど?」
「なんで外してるの? わたしとの愛の結晶でしょ?」
「兄弟の絆の証って言ってたのは誰だ?」
目の前にいるあかりさん……のはずなのだが、本人はすでにお忘れのようだ。あれれ? おかしいぞぉ? 夜の言葉は一言一句覚えられるのに、どうして自分の言葉は忘れてるんだぁ? まぁ、それをあかりに聞いたところで返ってくる答えは、おにいちゃんが好きだからとかに違いない。好きなだけでその人の行動掌握できるって、愛って怖いね。
「おにいちゃん、指輪をつけてくれないと、わたし何するかわからないよ?」
「その脅しはズルいんじゃないですかね……」
夜は渋々、本当に渋々、左手の薬指に指輪をはめた。あかりさんはご満悦のようだ。本当に、あの脅し方はズルいと思う。何をするかわからないと定義されていないのが一番怖いのだが……?
「あの、サイズなどは大丈夫でしょうか?」
話すタイミングをやっと見つけることが出来たのか、受付の女性は遠慮がちに夜達に尋ねた。夜は、ここが店内だったということを思い出し、羞恥に顔を赤くし、大丈夫ですと告げた。あかりの方も大丈夫だろう。
「それでは、またのご来店をお待ちしております」
「はい、その、すみませんでした……」
夜はお騒がせしたことを謝り、未だに指輪を見て笑っているあかりを連れてアクセサリーショップを後にした。向かいにあるアニメートに、玲奈らしき人影が見えたような気がした。
「あれ、レイ?」
「どうかしたの? おにいちゃん」
「いや、レイがいたような気がして……」
夜は玲奈らしき人物がいた場所をもう一度見た。だが、そこには玲奈らしき人物はいなかった。
「おにいちゃんの見間違いじゃない?」
「あぁ、そうかもな……」
どうやら、夜の気のせいだったようだ。まぁ、本当に気のせいなのかはわからないが……。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう楽しんでいただけましたでしょうか?
忘れているかもしれませんが、兄弟の証として買ったはずのペアリングの登場です。ペアリングのはずだったんですがねぇ……、まぁ、あかりだったらこうなりますか、うん。ヤンデレ関係ない気がするけど。
さて、これからこのペアリングが騒動を巻き起こす火種となるわけですが、どんな展開が起きるのか……、乞うご期待!
因みに、次回はお気づき通りアニメートにいた玲奈視点でお送りします。
まぁ、玲奈だけ何もないのは流石に可愛そうなので、五章の後半で玲奈編をやりたいと思います。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




