好きなことだから
「み、みなさん、こんにちは。二次元部の副部長を務めています、夜月夜と言います」
なんだか気の抜けるような、ちょっとしっかりしてよとツッコみたくなるような挨拶で、二次元部の部活動紹介は始まった。
最後の部活動紹介ということも相まって、何かと期待していたのであろう新入生達から何それ? や、最後これとかつまんなくない? とかちらほら聞こえて来る。
正直、確かに訳のわからない部活動が大取を飾っていたらそう思うのも無理はないけど、だからって聞こえる声量で話さなくてもいいと思う。傷付きはするけど、聞こえないようにこそこそと話してほしい。傷付くけど。
「えっと、それでは二次元部がどんな部活か説明したいと思います」
例え、殆どの生徒が興味なさそうにしていても! まともに聞いている生徒が片手で数えられる程度いればマシだとしても! 早く終わらせてこんな地獄から解放されたい夜は泣きたい気持ちを抑えて、夏希が画面を変更してくれたのを確認して説明を強行!
「主な部活内容はゲームして親睦を深めたり、アニメ見て感想言い合ったり、マンガやラノベ読んで偏った語彙力を養ったりします」
それ部活じゃなくて趣味でやればいいじゃん、という声が聞こえて来るが、そんなのはさらっとスルー。決して、図星を突かれて何も言えないなんてことはない。
確かに、趣味の範疇で済むことではある。というか、わざわざ部活でするようなことでもないとは思う。けど、部活動だからこそ楽しめるものがあると思うのだ。
「ナギ高は絶対に部活に入らなきゃいけないって決まりはないですけど、何かしら入部した方がいいよな~と思う人はいると思います。けど、そんな中途半端な気持ちで入部はして欲しくない」
こんなことを言っていいのかはわからない。だって、夜が今この場で話しているのは、二次元部という部活を紹介し、新入部員を確保するため。だから、嘘でもぜひ入部してくださいと言わなければいけないだろう。
だが、そんなこと知らない。知ったことではない!
そんな夜のマジトーンの発言に、新入生達はおろか在校生、教師達も困惑の表情を見せる。ただ、慎二は一人だけおかしそうに笑っていた。
「たかが部活かもしれない。そもそも、部活動として成り立っているかすらわからない。でも、好きなことに本気なのは確かです。でも、サッカーが好きな人がサッカー部に入るように、音楽が好きな人が吹奏楽部や軽音部に入りたいと思うように、二次元が好きな人の入部は歓迎します」
そんな夜の発言に、先程までの楽しそうな声や騒がしい声は消え去り、まるで凍ってしまったかのように張り詰めていた。あれ? もしかして俺やらかした? と今更後悔しそうになるが、時すでに遅しである。
因みに、流石に部活動紹介で入部して欲しくない発言はマズかったと反省し、取って付けたような勧誘をしてみたが、寧ろ逆効果だったのではないだろうか。あんなことを言われて、入部しようと思う人がいるとは思えないが……。
「まぁ、その……あれです。ご清聴ありがとうございました……」
やっぱり最後の最後まで締まらないらしく、あれ? 今ので終わり? みたいな空気のまま二次元部の部活動紹介は終わった。
夜はさっさと逃げ出したいとノートパソコンを回収、夏希の手を取って先程までいた部屋へと向かった。
部屋に戻り、緊張感から解放された夜は精神的な疲労感に襲われ、その場に横たわった。夏希も夜の傍に横たわる。
「……はぁ、疲れたぁ……」
「お、おつかれ、ナイト」
「夏希こそお疲れ。ありがとな、手伝ってもらって」
「ううん、どういたしまして! でも、あんなこと言ってだいじょうぶだったの?」
「どうだろうな……」
慎二は笑っていたが、他の教師達からはよく思われていないことは確かだ。
だって、部活動紹介なのに紹介なんて殆どせず、終いには入部して欲しくないと言ってしまったのだから。
それに、発表時間が五分設けられているというのに、二次元部の発表は二分も経たずに終わってしまった。そのことも相まって印象は最悪だろう。
そもそも、二次元部の顧問を引き受けてくれる先生すらいなかったことを考えると、最初から印象は悪かったのかもしれない。
因みに、顧問はいないままである。どうして慎二が部活設立を許可したのかは未だに謎でしかない。
まぁ、印象が悪いことに変わりはないので、そこまで気にしなくていいとは思う。流石に、廃部とかにはならない……と願いたい。
「……新入部員、来ると思うか?」
「……ナイトはどう思うの?」
「思わないな」
即答だった。まぁ、それもそうだろう。もし、自分があんな部活動紹介を聞いたとしたら、その部活にだけは絶対に入りたくないもの。
「でも、ナイトの発表、よかったと思うよ? だって、ナイトカッコよかったもん!」
「……そっか、ありがとな」
そうして、二人の二次元部としての初めての活動は幕を閉じた。
その日の放課後。
「ねぇ、夜クン。どうして新入部員が三人もいるの?」
「……お、俺に言われても……」
夜は正座で座り、理不尽な理由で瑠璃からお説教をされていた。
理由は瑠璃の言う通り、新入部員が三人も来たから。
一人は言わずもがな、夏希である。残りの二人は……。
「落ち着いてください、部長。新入部員って歓迎するものじゃないですか。夜だって部活動紹介頑張っていたんですし……」
何故か入部してきた夜の幼馴染である梨花と。
「そうですよ部長。おにいちゃんから離れてください……」
これまた何故か入部してきた夜の妹であるあかり。
つまり、今まで二人だった二次元部に、新たに三人が加わったという訳だ。
二人ではちょっと広いと感じていた部室が、今ではちょっと狭いかもしれないと思えるようになっていた。
それに、静かで寂し気だった部室も賑やかで楽し気な雰囲気へと変わっていた。
それもこれも、あかりと夏希、梨花の三人が二次元部へと入部してくれたおかげだろう。
因みに、あかりと梨花に入部した理由を聞いたところ……。
「おにいちゃんがいるからだよ?」「べ、別になんだっていいでしょ!」
とのことらしい。まぁ、入部を拒否する権利なんて夜と瑠璃にはないので理由を聞いたところで何の意味もないのだが。
あかり達が入部する前は新入部員なんていらない、今のままでいた方が楽と思っていたが。
「で、でも、部長。部員が多い方が楽しくないですか?」
「そ、それは……まぁ、そうなんだけど……」
案外、二人ともこの賑やかさが気に入っているようだった。
「それじゃあ、新入部員の歓迎も兼ねてゲーム大会でもどうですか?」
「おにいちゃんがやるならわたしもやる!」
「僕もやりたい!」
「わ、私ゲームしたことないんだけど……」
「どうして梨花クンは二次元部に入部しようと思ったの……?」
そうして、夜のちょっとした一言から急遽、二次元部ゲーム大会が始まった。
初めて大人数でするゲームはやっぱり楽しくて、面白くて。
部室内は喧騒と狂騒に満ち満ちていた。
時々静かだったあの頃の方がいいと思う時もあるのだが。
好きなことならどんな状況でも楽しいんだな、と夜は再認識した。
※八話目を改稿した際に思ったよりも文字数が増えたため割り込み投稿をしました。




