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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
5章 ヤンデレ妹たちはひと夏の思い出を作るそうです。
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リミット・ブレイク

まだだ、まだ終わらんよ!(震え声)

「リミット・ブレイク」


 ナイトの口から発せられたその言葉に、魔法名に、会場全体に動揺が走った。


「お、おい、ナイトのやつ、今なんて言ったんだ? 俺の気のせいじゃなければ“リミット・ブレイク”って聞こえたんだが……」

「あ、あぁ。俺にもそう聞こえたぜ? でも、まさかなぁ?」


 会場はナイトが使った魔法――リミット・ブレイク――に対し、信じられないと呟く。会場がざわざわとして来た。動揺と驚愕の混じった声が聞こえてくる。


「はぁ? 相棒に感化されておかしくなっちまったのかぁ? 血迷ったなぁ、なぁ!? 漆黒の騎士のナイトさんよぉ!」

「失礼だな、俺の本気の戦術なのに……」

「本気の戦術だァ? それこそ本物のバカじゃねぇか! HP1の状態(、、、、、、)が本気? 笑わせるな!」


 そう、観客が動揺し、驚愕し、クライヴがバカか! と嘲笑った理由。それは、ナイトの唱えた魔法――リミット・ブレイク――が術者に及ぼす効果にある。


 自分のステータスを大幅に向上させ、他人の魔法に干渉されない効果を得る。それが、リミット・ブレイクの効果の一部(、、)である。ここまでなら、とても強力な魔法に聞こえるだろう。


 大幅に向上、と言っても、二倍や三倍、ステータスが向上するわけではない。十倍である。例えば、ステータスがオール100のプレイヤーがリミット・ブレイクを唱えた場合、ステータスは1,000になるというわけだ。強力とかそんな次元の話ではなく、もはや頭がおかしいと言っても過言ではないレベルである。本当、イカれている魔法である。


 そして、他人の魔法に干渉されない効果も、非常に強力である。俗にいう、デバフが無効となるのだ。まぁ、一方で他人の中に味方も含まれているため、バフ(援護魔法)もかからない。まぁ、ステータスが十倍になあっている時点で、バフもあってないようなものなので、そこまで気にすることでもない。


 つまり、リミット・ブレイクは自分自身を超強化する魔法なのだ。限界破壊(リミット・ブレイク)とはよく言ったものである。


 しかし、これだけ超強力な魔法な魔法だが、使う人は極僅かしかいない、というか、きっとナイトだけしかいないだろう。


 本来、魔法とはレベルアップすることで手に入れることの出来る“スキルポイント(sp)”で習得出来る。だが、リミット・ブレイクを習得するには、100のspが必要なのだ。因みに、一度のレベルアップで手に入れることの出来るspは5sp。つまり、リミット・ブレイクを習得するには、20レベル分のspが必要なのだ。SaMの最大レベルが100なので、五分の一のspをたった一つの魔法に使うのだ。それなら、複数の魔法を覚えた方が戦術の幅も広がる。というわけで、わざわざリミット・ブレイクを習得しようとする人はいないのだ。


 しかし、これは本当の理由(、、、、、)ではない。


 リミット・ブレイクを習得しない真の理由、それは使用した際のデメリットにある。


 ステータス十倍、バフ・デバフ無効という超強化を自分にもたらすのに、デメリットが存在しないわけがないだろう。もし、デメリットがなかったら、みんな血眼になって習得して使ってる。そしたら、全員が最強になってしまう……。そしたら、ALICE in Wonder NIGHTはお払い箱だ。


 リミット・ブレイクのデメリット、それは、|自分自身のHPが1になる《、、、、、、、、、、、、》というもの。つまり、自分の命を引き換えにして自信を超強化する。それが、限界破壊(リミット・ブレイク)なのだ。


 しかし、それだけならばリミット・ブレイクを使う人はいるはずである。だって、回復すればいい(、、、、、、、)のだから。


 だが、そんな美味しい話が存在するわけがない。デメリットは、もう一つ(、、、、)存在するのだ。


 魔法、道具による回復を無効とする。簡単にいえば、回復が出来ないのだ。回復無効だけならまだいいが、HPが1の状態での回復無効となれば話は別である。まぁ、ただでさえチートな魔法なのに、回復なんて出来たらチートを通り越して。通り……越して……。チートの上ってなんだ?


 そのため、誰もリミット・ブレイクを使おうとはしないのだ。自分で自分の首を絞める魔法を、どうして自ら使わなくてはいけないのか。


 そんな魔法を、ナイトは使った。クライヴが血迷ったと思うのも無理はない。観客も、みな同じような考えを持っているだろうし。


「まさか、リミット・ブレイクを使うなんてなぁ、夢にも思わねぇわ。だがな、俺の勝ちは確定したッ!」

「随分と自信があるんだな……」

「だってそうだろう? 最強と謳われた漆黒の騎士様は、自爆するほどの大バカだった! HP1なんて死んでんのと同じことだろう!?」

「……はぁ、バカはそっちの方だろ。わざわざHP1にしてやった(、、、、、、、、、)っていうのに……」

「なんだと?」


 ナイトの言葉に、クライヴは疑問を露わにする。今、なんて言ったんだ? と思うのは仕方がないだろう。


「あぁ、悪かった。言い方を変える。お前を倒すのにHP1で十分だって言ったんだ」

「お前こそ、随分な自身じゃねぇか? なぁ!?」


 クライヴは怒りを露わにし、ナイトを怒鳴り付ける。舐められているのが腹に据えかねたらしい。まぁ、ムカつくのも仕方がないだろう。というか、自分がやられたら絶対ムカついている。


「お前みたいな外道なことをしないと勝てない奴に、俺が負けるわけないだろ?」


 内心で、負けて堪るかと付け足す。もし、ここで負けようものならその時はSaMを辞めてもいいと思っている。つか、辞めてやる。逃げるようで恥ずかしいが、それほどの意気込みでやらなければ、例えクソ野郎(クライヴ)に申し訳ないと思ったのだ。


「勝手に言ってろ! 後で自分の言ったことを悔いるんだな!」


 クライヴは魔弾を放ちながら、ナイトに向かって特攻した。今のナイトのHPは1しかない。つまり、どんな攻撃だろうと、当たればクライヴの勝ちである。であれば、特攻するしかない。


 だが、不思議なことにナイトは逃げようとはせず、突っ立っているだけだった。ナイトの相棒である灼熱の剣と蒼穹の剣を構えすらもしない。ただ、だらんと手をぶら下げているだけ。


 クライヴはナイトの舐め切った態度に殺意すら抱きながら、その大剣を振りかぶった。しかし、そこにいたはずのナイトの姿はなかった。


「な!? 何処に行きやがった!?」

「……後ろにいるだろ、後ろに」

「!?」


 クライヴはナイトの声に、反射的にその場を飛び退いた。すると、先程まで自分がいた場所には灼熱の剣が轟轟と燃え盛りながら地面に突き刺さっていた。


「やっぱし躱されるよな~」

「クソ、舐めやがって……!」


 顔には出さなかったものの、クライヴは内心物凄く焦っていた。だって、目の前にいたはずなのに消えたと思ったら後ろにいたのだ。焦らないわけがない。というか、訳がわからない。


 あれではまるで、展に魔法みたいじゃないか。ステータスが十倍向上しただけであそこまで早く移動できるものなのか?


 そこまで考えて、クライヴはナイトの着ている黒コートを見て血の気が引いた。


 ナイトはクライヴの青褪めた顔を見てニヤリと笑った。やっと気づいたか、と。


 確かに、クライヴの言う通り、ステータスが十倍向上したからと言って、姿が消えるほどの速さで移動できるはずがない。ならば、何故それが可能なのか。それは、ナイトの着ている黒コートに理由がある。


 ナイトの着ている黒コートは、アリスが着ている呪いの服と同様に、特殊な効果がある。それは、HPが低いほど攻撃力が上がる、という普通ならばあまり効果を期待できない能力が付与されているのだ。


 HPが1の時に最大効果を発揮し、最大でステータスが五倍も向上する。普段なら意味はないが、今は違う。


 今は、リミット・ブレイクを使っている。つまり、HPが1の状態なのだ。そのため、黒コートの効果も適用される。つまり、リミット・ブレイクの効果で十倍、黒コートの効果で更に五倍。ここまで言えばわかるだろう。


 そう、今のナイトのステータスは元のステータスの五十倍(、、、)なのである! もはやただのチートだ! チーターだ!


「クソがァ! んなもんズルじゃねぇか!」

「ズルじゃない、れっきとした戦術だよ」


 ステータスが五十倍という、普通ならばありえない大幅過ぎる向上だが、それはSaMがバフの重ねがけが出来るようになっているから出来た、言ってしまえば荒業である。まぁ、ステータス五十倍とかいう頭のおかしい倍率を見て、運営が調整をするかもしれないが、それはそれ、これはこれである。現時点で使えるものはすべて使わなければ。


「こんなの、オレに勝ち目なんかねぇじゃねぇか……」


 クライヴはその場に膝から崩れ落ちた。どうやら、敵わないと知るや戦意が喪失したらしい。


 姿が一瞬で消えるほどの速さで移動でき、一太刀でも浴びれば即死は不可避。最初から、最強相手に挑むなど、無理ゲーだったのだ。


「ハハ、オレの負けだ。もう、一思いに殺してくれや……」

「腑に落ちねぇが、まぁいいだろ」


 ナイトはクライヴの首元に灼熱の剣を添えた。燃え盛る炎がクライヴの首を少しづつ焼いていく。あまりもの熱さに、クライヴは顔を苦汁に歪めた。


「最後に言い残したいことでもあるか? 俺的には夏希に謝って欲しいんだけど、謝る気ねぇだろ?」

「あぁ、あるわけねぇよ。そうだなぁ、言い残すことか……。おぉ、そう言えばあったわ」


 死神の鎌が今まさに己の命を刈り取ろうというのに、クライヴはニタァと笑った。そして、作戦成功、と小さく呟いた。


「舐めてくれてありがとよ。そのお陰で、オレの勝ちだッ!」


 その言葉と同時に、夜のスマホに一件のLI〇Eの通知が届いた。


後書きはSaM編ラストの話で。

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