メテオ・インフェルノ
まだまだ続くSaM編。やばい、このままじゃあ、今日五話投稿なる……。下手すりゃ六話?
「おや、内緒話はお終いですか? それでは、今度は私から行かせてもらいますよ!」
「キャラ戻んのかよ……」
今度はクライヴが駆けた。目指すはただ一人、アリスだ。だが、そうはさせない! と目の前にナイトが立ちはだかる。
「アリスはお前に殺させない。いや、違うな。殺せない、の方があってるか……」
「……それはどういうことですか?」
「言葉の通り、お前の強さじゃアリスには勝てないって言ってんだ」
年上に対する口の利き方がなっていないが、それでも夜はやめない。言ってしまえば、夜にクライヴを恨む理由はない。実際、負けたのはアリスであり、夏希だからだ。だとしても、夜にとって夏希は相棒であり、ALICE in Wonder NIGHTは二人で一人なのだ。つまり、もう一人の自分が負けたと言っても過言ではない。
それに、夜は嘘は言わない男だ。つまり、クライヴじゃあアリスには勝てない。絶対に。
「勝てないって、現に私はアリスさんに勝って決勝へと来ているのですよ? つまり、私に負けたアリスさんの方が力不足なのでは?」
「……っ……」
クライヴの言いように、夏希は言い返すことが出来ない。アリスが負けたのは事実だ。それに、これだけの証人がいる。つまり、覆すことの出来ない事実である。
「ナイトさん、他の人と組んでみてはどうですか? そんな弱いアリスさんは捨てて」
「はぁ? 何を言って……」
「だって、より強い人と組めば、あなたは更に高みを目指せるのですよ?」
確かに、夜にとっては魅力的な誘いかもしれない。自分よりも強い人と組めるのだ。今よりも、アリスと一緒にいる時よりも強くなれるだろう。そうなれば、アリスはお役御免となり、一人となってしまう。否、独りになってしまう。ナイトがいたからアリスでいられたのに、ナイトがいなくなってしまったら、もう自分はアリスではいられない。相棒では、いられなくなる。
夏希は涙で濡れた瞳を夜に向けた。
「……ごめんな? アリス……」
「!」
どうして謝るの? どうして僕から離れようとするの? ねぇ、どうして? 僕とナイト、二人でALICE in Wonder NIGHTだったんじゃなかったの? ナイトがいなくなったら僕はどうすればいいの? 独りに、なりたくないよ……。
「余計な心配させて、ごめんな?」
「え……?」
「……ったく、俺がアリスを独りにするわけがないだろ? それに約束したじゃねぇか。盟友として、俺の傍にいてくれって。それなのに、俺から夏希を独りにするわけないだろうが。それとも、夏希は他の奴に組んでもらいたいって思ってるのか?」
「思ってないよ。でも、そっちの方がナイトはいいのかなって……」
「はぁ、何年一緒にALICE in Wonder NIGHTやってきたんだよ。いいわけないだろ。次言ったら許さないからな?」
言葉はきついが、夜の顔はとても優しく微笑んでいた。夏希は、ごめんね? と謝った。
「あのな? こういう時は謝られるよりも感謝される方が嬉しいんだぞ?」
「うん、そうだね。ありがとう、ナイト」
「あぁ、気にすんな」
因みに、二人が話している間もナイトとクライヴは小競り合いをしていた。スクリーンの中では死闘を繰り広げているというのに、スクリーンの前では何故か桃色空間が創り出されていた。どうしてだろう、心なしか夜と夏希の周りがピンク色に見える。
「と、言うわけだ。他の奴等と組む気は一切ない。俺の相棒はアリスだけなんでな」
「そうですか、言い提案だと思ったのですがね!」
クライヴはナイトを弾き飛ばすと同時に魔弾を放った。だが、ナイトはそれを空中で身を捻ることによって躱して見せる。流石最強と言ったところだろうか、まったく攻撃が当たらない。これでは勝てない。
「さてと、そろそろ時間だな」
「は? 何を言って……、時間?」
「あぁ、そうだ。夏希がお前を屠る準備が終わる時間さ」
「!」
そう言われて、クライヴはアリスの方を見た。そこには、すでに準備を終えたアリスの姿があった。
クライヴの脳内は、ヤバイの言葉で埋め尽くされていた。考えが及ばなかった。クライヴは一人と戦っていたのではない。ナイトとアリスの二人と戦っていたのだ。それなら、一人がタゲを取り、もう一人が攻撃をするなんて戦術は当たり前のこと。どうして、それに気が付かなかったのか。
それは、夜と夏希の会話に気を取られていたからだ。二人の桃色空間にムカついていたのだ! 私の前で、非リアの前でイチャイチャしないでください! と。きっと、観客の中にも似たような考えを持つ同士がいるはずだ! 私だけではないはずだ! はず……だよね? はずですよね!? ねぇ!?
「くそ、まさかこのためにあのような話を……?」
「いや、そんなつもりはないけど」
どうやら、あの会話は素だったようだ。尚更腹が立つ。
だが、そんなことを言っている場合ではない。だって、今目の前には死が待ち構えているのだから。
「アリス! かましてやれ!」
「うん! 爆ぜろ、燃えよ、滅せよ! そして、すべてを破壊し尽くせ! メテオ・インフェルノ!」
何度も言うが、詠唱なんて必要も無ければ魔法名を叫ぶ必要も無い! では何故叫ぶのか! カッコいいからだ! 中二病万歳!
アリスの放った魔法――メテオ・インフェルノ――によって、クライヴ目掛けて隕石が落ちてきた。今から安全圏に移動しようとしても、無理だろう。
「クソ! オレはまだ負けねぇ! 負けねぇぞぉぉ!」
クライヴの叫びは、落下した隕石にかき消された。
後書きはSaM編ラストの話で。




