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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
5章 ヤンデレ妹たちはひと夏の思い出を作るそうです。
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最強のお荷物

「うあぁ、うわぁぁぁぁぁぁん! ひぐっ、えぐっ、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!」


 SaMの大会の会場に、嗚咽が鳴り響く。悔しさに、悲しさに、大粒の涙を流しているのは言わずもがな、夏希である。夜は、泣きじゃくる夏希を宥めることしか出来ない。今の夏希の悔しさは夜に理解出来るものではない。それほど、悔しいのだ。


 どうして、夏希が泣いているのかは、スクリーンに映し出された画面を見れば一目瞭然だろう。スクリーンには、決勝、ナイトVSクライヴ(、、、、)と書かれている。つまり、アリスは負けてしまったのだ。


 あの時、夏希のスマホにはLI〇Eの通知が一件きた。相手は、知らない人だったのだが、その所為でバイブ機能が起動してしまい、夏希のスマホは震えた。そのため、手元が狂ってしまい、魔法陣が完成できなかったのだ。


 高度な魔法を使うには魔法陣が必要。といっても、本当に高度な魔法でしか魔法陣は必要ないのである。というか、ほとんどの人は魔法陣を使った魔法は使わない、否、使えない。それは何故か。かなりのPSを求められるからだ。


 魔法陣を使った魔法は、戦況をひっくり返すほどの威力がある。つまり、魔法陣さえかければ簡単に強くなれてしまうのだ。


 だが、誰も使おうとはしない。それは、魔法陣を書き間違えると、三秒間何も出来なくなるというデメリットが存在するからだ。


 たった三秒だけ、と思う人もいるかもしれないが、戦闘の中で三秒もあれば戦況は充分にひっくり返る。つまり、戦闘では一秒ですら生死を分けるのだ。なので、敵の前で三秒間も動けないデメリットを負いたくないプレイヤーは魔法陣を使わないのである。そのためか、魔法陣を使用するプレイヤーは極僅かである。それほど、難しい操作、PSが求められるのだ。


 最強の片割れであるアリスも、最初の方は何度も死にかけ、ナイトに迷惑をかけることも多々あった。それでも、今では画面を見ないでも魔法陣を書けるように上達したのだ。魔法陣書けないよ~勢から見れば、アリスのPSは凄いを通り越して怖いのレベルなのである。


 しかし、見なくても書けるとは言っても、かなり集中しなければいけない。少しでもミスれば三秒スタンなのだ。ナイトが傍にいなければ、尚更集中しなければならない。


 そこに、スマホがバイブ機能で震え、魔法陣を書き間違えた。つまり、アリスは三秒間動けなくなってしまったのだ。


 元々後衛職だったアリスは、HPも耐久力も低めだったため、動けるようになった頃には倒されており、夏希のスマホの画面、そしてスクリーンには“GAME OVRE”の文字が書かれていた。最強と呼ばれるようになってから初めて見たその画面に、アリスは心を折られてしまったのだ。


 観客も、まさかの初歩的なミスに動揺を隠せなかった。まさか、ミスるなんて、と。その言葉も、夏希の心を更にへし折っていく。


 その場に膝から崩れ落ち、悔しさの余り泣き出した夏希を見ていられなくて、夜はすぐに始まろうとしていた決勝の前に休憩時間を貰えるように運営側に頼み込んだのだ。運営さんも、夏希の気持ちを理解してか快く了承してくれた。本当、感謝の言葉しかない。


 そして、今に至るという訳だ。


「うぐっ、ナイトぉ、ごめんなざい! 僕、負げちゃっだ……。約ぞく、守れなかっだぁ……!」


 夜の胸に顔を埋め、未だに泣き止むことの出来ない夏希を、夜は抱きしめる。流石に、抱きしめるのはマズいと思ったが、否、マズいのだが、それでも今の夏希を放っておけば、遠くに行ってしまうような気がして、夜は抱きしめざるを得なかったのだ。


 夏希がどんなに悔しいのか、それは夜にはわからない。だって、負けたことがないのだから。今まで一度も、SaMの対戦で負けたことがないから。それなのに、夏希の気持ちが理解できるわけがない。だから、どんな声を掛ければいいのかもわからない。これでは、盟友も、相棒も失格である。


 夜の胸中を、黒くどんよりとしたものが支配していく。怒りが込み上げる。それは、夏希を負かせたクライヴにではない。何も出来ない、してやれない自分に対してだ。


 夜が夏希を抱きしめていると、二人にも十分に聞こえるほどの大きな声で、


「アリスも大したことないですね!」


 と、クライヴが言った。それはもう、夏希を嘲笑うかのように、下卑た笑みを浮かべて。


 それは、言ってはならない言葉。今の、夏希の心を、完璧に壊してしまう言葉。


「あっ、あぁ、あぁぁぁぁぁ……!」

「夏希! 落ち着け! いいか、耳を貸すな! 大丈夫だ、俺がいるから!」


 生気を失った目で虚ろな表情をする夏希を、夜は強く抱きしめる。どこにも行かないでくれ! と。ここにいてくれ! と。もう一人にはさせない! と。


「あの、ナイトさん。そろそろ時間なんですが……」


 そんな二人の前へ、おずおずと来たのは運営さんである。そろそろ、決勝を始めないといけないらしい。


「……わかりました。なぁ、夏希、一人でいれるか?」

「……」


 夏希に話しかけても、何の反応もない。


「もう少し、休憩時間を取りましょうか?」

「いえ、これ以上迷惑はかけられません」


 夜は夏希の手を握り、決戦の舞台へと向かう。今の夏希を、一人にすることは出来ない。


 舞台へ行くと、すでにクライヴが待ち構えていた。


「それでは決勝戦! 今大会の最強プレイヤー! ALICE in Wonder NIGHTの一人で、漆黒の騎士! 灼熱と蒼穹の双剣を自在に操り、敵を屠る! 剣王(ソードマスター)の、ナイトォ――ッッッ!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」

「対するは、今大会のダークホース! あのアリスを打ち破り、決勝まで上り詰めた騎士の中の騎士! 魔法騎士(マジカルセイバー)の、クライヴゥ――ッッッ!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 ナイトとクライヴの紹介に、観客は盛り上がりに盛り上がる。どちらかといえば、クライヴの方が盛り上がってそうだ。だって、あのアリス(、、、)を倒したのだから。


「それでは意気込みをお聞きしましょう! ナイトさん」

「勝つ」

「……それだけですか?」

「……」


 夜はこくりと頷く。


「えっと、クライヴさん! 意気込みは?」

「あのアリスに、私は勝った! だから、ナイトも倒して最強の名前を渡してもらう!」

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」


 クライヴの宣言に、観客は今まで以上の盛り上がりを見せる。それもそうだろう、最強はクライヴだ! と、そう言ったのだから。


「両者気合十分です! それではバト……」

「ちょっと待ってください」


 バトル開始の合図を制止したのは、クライヴだった。


「確かに私はアリスを倒しました。でも、それはアリスであってALICE in Wonder NIGHTではない。つまり、ナイトを倒してもALICE in Wonder NIGHTを倒したことにはならないのです!」

「えっと、つまりはどういう……?」

「ですから、二人でかかって来いと言っているのです」

「んなっ!?」


 クライヴの言葉に、司会は言葉を失い、観客にも動揺が走る。


「どうでしょう? ナイトさん、いや、ALICE in Wonder NIGHT」

「……夏希、いや、アリス。お前はどうする?」

「……ぼ、く……?」

「二人でかかって来いだってよ。俺だけ倒しても最強にはなれないって、俺に勝つの確定かよ」


 クライヴのいいように、夜さんは頭に来ているようだった。挑発されたのだ。あからさまな挑発を。最強として、ムカつかないわけがない。


「俺は二人でやってもいいと思う。汚いと言われようが、何と言われようが、俺はALICE in Wonder NIGHTであの野郎を負かせたい。だから、アリスはどうする? お前が嫌だって言うんなら、俺は無理にとは言わない。でも、やる気があるなら……」

「でも、僕ナイトの、足を引っ張っちゃう……。僕の所為で、ナイトが負け、ちゃう……」

「そんなの気にすんな。負けたら負けただ。そん時は、また奪い返せばいいだろ?」


 奪い返せばいいと言っても、夏希は俯いたままだった。やはり、先の戦いで戦意喪失してしまったらしい。


「やはり、私が耳にした噂は本当だったようですね。ゲームではナイトがいなければ雑魚に等しい。だが、どうやら現実でもあなたはナイトに頼りきりだったようですね! 最強じゃなくて、“最強(ナイト)のお荷物”に称号を変えてはどうですか?」

「っ! てめぇは黙ってろ!」


 クライヴの煽りに、夜は声を荒げる。大会で、大勢の人がいる前でやるべきことではないが、それでも、黙ってはいられなかった。夏希の今までを否定するようなクライヴに、怒りを通り越して殺意が湧いてくる。我慢をしなければ、殴り掛かっていきそうだ。だが、そんなことは出来ない。夏希に、リベンジのチャンスをなくさせてしまうことになるからだ。


「ほら、やっぱり僕には何も出来ないんだよ。ナイトのお荷物、本当にその通り……」

「アリス……。本気でそんなこと言ってんのか? まぁ、無理だってんなら何もしなくていい。ただ、俺の後ろにいるだけでも構わない。だけど、それでいいのか? やられっぱなしなんてお前らしくないだろ? なぁ、夏希(、、)?」

「! ――……やるよ……」


 夜の言葉に頷き、夏希はそう言った。


「やる。また、失敗するかも、しれな、いけど……」

「あぁ、何度でも失敗していい。俺がカバーしてやる」


 それに、夏希が操作をミスるなんて、ありえない(、、、、、)のだから。だから、カバーする必要はない、とは口に出さない。だって、言う必要すらないのだから。


 流石に、二対一はダメかもと思った司会が運営さんに聞きに行ったところ、特別に許可が下りたらしい。運営さん、GJ!


「そ、それでは戦闘開始(バトルスタート)!」


 クライヴは、開始直前、観客席の方に視線を向けた。そのことを、夜は気付いていた。そして、その先を見やる。


「っ! ……なるほどな。行くぞアリス! 後ろは任せた!」

「う、うん……!」


 そうして、すべてを理解した夜は、目の前にいるクソ野郎(クライヴ)をぶっ倒すために、特攻した。


ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんで……、って無理に決まってんだろうが! 夏希泣いてるのに楽しい訳ねぇだろ!

はぁ、はぁ……、すみません、取り乱しました。一番好きなキャラを泣かせるのはかなり心苦しかったものですから……。あかりじゃねぇのかよ、というツッコミは受け付けておりますw

次回からは、二人でクライヴをボッコボコにしてもらおうと思います。やってくれ! ナイト!

さて、今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。

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