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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
1章 ヤンデレ妹は兄を追いかけて入学して来たようです。
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部活動紹介

 場所は変わり体育館内。


 あかりの隣に座っていた浅田(あさだ)美優(みゆ)はあかりの耳元に顔を近づけ囁いた。普通に話しかけなかったのは、周りにいる生徒に配慮してのことだろう。


「やっとだね、あかりちゃんのお兄さんの部活動紹介……」

「う、うん……」

「ふふ、楽しみですわね、あかりさん」


 緊張した面持ちでこくりと頷くあかりと、美優の隣で微笑む幅田(ふくだ)志愛(しお)


「あれ、志愛ちゃん聞こえてた?」

「はい、聞こえていましたよ?」

「なら、こそこそ話さなくてもいっか」


 あかりと親し気に話すこの二人は、今日出来たばかりのあかりのお友達である。


 趣味が同じで仲良くなったとか、出身中学校が同じだったからとかそんな理由ではなく、話しているうちに気が合って友達になったのだ。


 きっと、理由があって友達になったというよりは、理由なんてなくても友達になった方が繋がりとしては強いのではないだろうか。


 そもそも、友達でいることに理由なんていらないのだから。


 因みに、美優と志愛がどうして夜が二次元部に所属していることを知っているのかは、あかりに聞いたからだ。


 これまた因みにあかりが知っている理由は、夜に教えてもらったからである。まぁ、どうにかして聞き出したという表現の方が正しいかもしれない、というか正しい。


 あはは、ふふふと笑う二人を横目に、あかりは集中しているかのように壇上を見つめていた。というか、集中しまくっていた。もしかしたら、美優と志愛の会話も聞こえていないのかもしれない。


 何故なら、今から壇上で最愛の兄が演説(?)をするのだ! 最愛の兄のカッコいい姿を目に焼き付けなくてどうするというのだ!


 そこまで集中しなくても……と苦笑いを浮かべる美優と志愛。


 しかし、二人の苦笑いは次の瞬間、恐怖故に怯えへと変わった。


 あかりの目から、一瞬でハイライトが消え去り、深淵と見紛うほどの漆黒になってしまったが故に。


 まぁ、あかりの反応も仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。


 だって、今か今かと待ち望んでいた兄が姿を見せたと思えば、隣には他の女がいるのだ。


 見覚えのある女が、否!


 よぉく知っている女が、否!


 ものすごぉく知っている女――夏希が兄と手を繋いで壇上の上にいるのだ!


 どうして? と、なんで? と、頭の中は疑問で一杯。


 そこはわたしの場所なのに、と思うのも仕方がないではないか!


 まぁ、別に夜の隣はあかりのものではないのだけど、ヤンデレなあかりにはそんなの関係ない。ナニソレオイシイノ? と言わんばかりに蹴散らしていくのがあかりのスタイルなのである!


「えっと、あの子って同じクラスの……」

「確かあの方の名前は……」

「夏希……」

「あぁ、そういえばそんな名前だったね」

「もしかして、あかりさんは既にクラスメイトの名前を憶えているのですか?」

「ううん、中学校が同じなだけ……」

「へぇ、そうなんだ……」


 そう、夜と夏希が同じ中学校出身ならば、あかりと夏希も同じ中学校出身になるのだ。因みに、梨花も柊也も同じ中学校だ。


 しかし、夏希はあかりのことを詳しくは知らないだろう。知っているのは夜から聞いた妹だということと名前くらい。


 なのに、あかりが夏希のことを知っているのは、あかりが夜のことをストーキングしていたからだ。


 まぁ、事情は長くなるし、何なら物語の最初の方で語ることでもないので割愛させてもらう。


 そんなわけで、あかりが一方的に夏希を知っているだけで、夏希はあかりのことを詳しく知らないのである。


 だから、夜の隣にいる女の子が夏希だということはすぐにわかった。昨日、同じクラスに夏希がいたことにもすぐに気付いた。きっと、夜を追いかけて入学してきたのだということにも察しが付いていた。


 その時はそこまで脅威になるとは思っていなかったけど、それは大間違いだったようだ。


 他の生徒達や教師達も困惑しているようで、体育館内はざわざわしている。


 柳ヶ丘高校は男女ともにネクタイ着用で、一年生が水色、二年生が青色、三年生が赤色となっている。


 遠目から見ても、ネクタイの色はわかるので、夜――誰かわからなくても二年生だということはわかる――の隣にいる女の子が一年生だということは誰もが気付く。


 けれど、一年生は部活動紹介を見聞きする側であってする側ではない。何せ、どの部活にも所属していないのだから。


 だというのに、一年生が二年生と一緒に壇上に立っている。そのことに、困惑しているのだろう。


 まぁ、一人だけ様子がおかしい女の子がいるが、この際それは置いておく。因みに、誰かは推して知るべし。


「おにいちゃん、どうしてそこに夏希がいるの……?」


 わからない。夏希と一緒にいる理由も、手を繋いでいる理由も、何もかもがわからない。


「どうして、どうしてなの……?」


 そう呟いたあかりの言葉は、ざわざわする生徒達の声にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。




 夜と夏希の登場(?)と同時にざわつき始めた体育館内に、二人は内心ビクビクしていた。


 もしかして、もう何かやらかしたの? と。もう恥を晒してるの? と。


 けれど、そんなことよりも二人がビクビクしているのは、全校生徒の視線が自分達にだけ向けられているが故だろう。


 たった一人からの視線だけでも怖いのに、それが全校生徒に加え全教師なのだ。全校生徒が四桁(千人)近く。教師が三桁(百人)近く。合計で千人以上という大勢の人からの視線が自分達だけに向けられているのだ。


 それだけで、足は竦み、手が震える。頭は真っ白になり、何も考えられなくなる。


 けれど、隣には夏希()がいる。そう思えるだけで、不思議と大丈夫だと思える。


 二人は深呼吸をし、準備に取り掛かった。


 ノートパソコンの画面をスクリーンに映し、プレゼンテーション作成ソフトを立ち上げ実行。スクリーンに「二次元部について」という何の変哲もない、つまらない画面が映される。


 確か、瑠璃が作るとか言っていたが、流石にこれは如何なものなのだろうか。手抜き感が半端ないのだが……。まぁ、確認しない夜も悪いっちゃ悪いのだけど。


「でも、部長らしいな……」


 しかし、そのどことなく感じる瑠璃らしさが、緊張感を少しだけ和らげてくれた。本人が聞いたら私らしいって何!? と怒ること間違いなしだろうが。


「……それじゃあ頼んだぞ、アリス」

「うん。ナイトも頑張って」

「おう」


 パソコンの操作は夏希に任せて、夜はマイクを手に壇上の真ん中に立つ。


 後ろを振り返れば、夏希と視線が合う。お互いに数秒見つめ合い、こくりと頷き合う。二人の間に言葉はいらない。だって、言葉なんかなくとも意思疎通が出来るから。それほど、二人の絆は深いものだから。


 夜は三度目の深呼吸をする。


 背中は夏希が見ていてくれる。信頼出来る相棒が、盟友がいてくれる。


 ならば、何も恐れることなどない。だって、二人で最強なのだから!


「み、みなさん、こんにちは。二次元部の副部長を務めています、夜月夜と言います」


 そうして、何だか気の抜けるような夜の挨拶とともに、二次元部の部活動紹介は始まった。


※八話目を改稿した際に思ったよりも文字数が増えたため割り込み投稿をしました。

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