負けられない戦い
運営さんのお慈悲の休憩時間が終了し、いよいよ準決勝が始まろうとしていた。
「さぁ! 残すところあと二戦となりました、SaM最強決定戦! それでは対戦者を発表いたしましょう! あの最強と呼ばれるALICE in Wonder NIGHTの一人! 呪いの装備に身を包み、魔法の才は今大会最強! 大魔導士のぉ、アリス――ッッッ!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
「対するは! 白銀色に輝く鎧に身を包み、時に大剣で斬り伏せ、時に魔弾で敵を屠る! 魔法騎士のぉ、クライヴ――ッッッ!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
毎回毎回似たような紹介がされているというのに、観客たちのこの盛り上がりようである。ほんと、頭のネジが飛んでしまっているのではないだろうか。いい意味か悪い意味かはお任せする。あぁ、運営さんがあわあわしている。これは、準決勝が終わった後も休憩時間となるだろう。ほんと、運営さん優しい……!
「それでは、お二人に今の心情をお聞きしましょう! アリスさん、意気込みをお願いします!」
「ひゃ、ひゃい! えっと、かかか勝ってナイトと戦うのは、ぼぼぼ僕です!」
いきなり話しかけられたことに驚き、とても震えている。コミュ症にやらせる所業ではない。あぁ、夏希が涙目になっている。司会さん、気付いてあげて! 彼女はもう限界だから! 今に泣きだしそうだから!
「お次にクライヴさん! 意気込みをどうぞ!」
「会場にいる皆様は、アリスの圧勝。そう考えていることでしょう。ですが、ALICE in Wonder NIGHTを倒し、今大会の優勝者、そして、最強を倒したものとしてSaMの歴史に名前を刻んで見せましょう」
ガタイがよく、強面で怖い印象だというのに、口調は紳士を彷彿とさせるものだった。意外過ぎて観客がフリーズしてしまっている。おかしいな? リアルにラグは発生しないはずだけど……。まぁ、固まるのも無理はないだろう。実際、夜も夏希も少し固まっていた。
「どちらも気合十分です! それでは、戦闘開始!」
スタートの直前、クライヴは何処かに目配せをした。観客たちは、スクリーンに注目しているので気付かなかっただろう。ある一人を除いて。
戦闘が開始すると、アリスもクライヴも自分に援護魔法をかけ始めた。大魔導士と魔法騎士の基本的な戦術である。魔法が使えるのが強みなのだから、それを使わない手はないというわけだ。
しかし、この勝負。不利なのはどちらかと言えばアリスの方だろう。呪いの装備の効果で、十分間しかまともに戦えないというのもそうだが、クライヴに詰め寄られたら防ぎようがないからだ。大魔導士は後衛で、魔法騎士は前衛職だ。タイマンだと前衛職の方が有利となってしまう。それに、小競り合いになればアリスの負けはほぼ確定、十分間逃げ切られればアリスの負け確定。難易度鬼である。
となれば、クライヴが無理に特攻しないのは当たり前のことである。それもそうだろう。放っておけばそれで自分の勝ちは確定となるのだ。突っ込んでもいいが、安全策を取るのが人というものである。無理に、危険は冒したくない、それが人が持つ当たり前の思想である。
しかし、アリスがそんなことを許すわけがない。故に、特攻する。普通ならありえない大魔導士での特攻。しかし、アリスに普通など通用しない! 最強を普通でカテゴライズ出来るわけがないのだ! いい意味でも、悪い意味でも! 例え、主に悪い意味でも!
だが、そんな誰もが考えそうな作戦が、アリスに通用するわけがないだろう。今まで、何度戦ってきたと思っている。いつも隣には、背中にはナイトがいたとしても、時間稼ぎをしようとしていたプレイヤーは何人もいた。だが、それでも勝ってきた。それは何故か、そんなもの決まっている。
ALICE in Wonder NIGHTが最強だからだ!
最強だから、それ以外に理由などない。最強たるもの、最も強くなくてはいけないのだ。つまり、アリスに負けは認められない! 勝って、ナイトが待っている場所へと行かなくてはいけないのだ!
「僕は、絶対に負けられない! 勝って、ナイトの所に行く!」
アリスは魔法で灼熱の剣と蒼穹の剣を創ると、クライヴに向けて放った。どちらも、習得が難しいと言われている魔法である。しかも、それを同時詠唱だ。会場が熱気に包まれる。
クライヴを紅と蒼が包み込む。これで終わりかと思われたか、クライヴのHPはそこまで削られていなかった。直前で防がれたのだろう。やはり、二人の予感は当たっていたようだ。
これで終わりとは思っていなかったが、まさか、ほとんどダメージを与えられないとは思っていなかった。
顔にはあまり出さなかったものの、夏希は相当焦っていた。かれこれ、三分間は経っている。カップラーメンが一つできているし、宇宙人も怪獣を倒して宇宙へと帰っている時間が、すでに経ってしまっているのだ。つまり、あと七分しか碌に戦えないのである。
「はやく、はやくしなきゃ……! じゃないと、僕は……!」
アリスはクライヴとの距離を取るため後ろへと飛ぶ。やはり、突っ込む気がないのか、クライヴはその場に立ったままだ。
アリスはじれったく思いながらも、決着をつけるために、己に援護魔法をかけ、高度な魔法を使用するために魔法陣を書き始めた。十分距離を取ったのだから、わざわざ魔法陣を透明にする必要も無ければ、クライヴを牽制する必要も無い。だって、攻撃をして来ないのだから。
いくら、PSがあったとしても、躱すことが出来ないと言われている魔法、必中魔法。それさえ放てば、アリスは勝てる!
そうして、魔法陣を書き終わろうというその時、
クライヴが拍手のエモーションをしたのだ。
アリスは煽りと受け取り、そのまま魔法陣を書き続ける。煽られたことなど何度もある。気にしないほどに、精神も強くなったつもりだ。現実では弱くても、ゲームなら最強なのだ!
一方、クライヴの煽りエモーションに、観客たちは歓声を上げた。
アリスが勝つと確信していたため、期待などされていなかったクライヴの見せたある意味で魅せプレイに、観客はクライヴに釘付けとなった。
しかし、次の瞬間、信じられないことが起こった。
夏希のスマホ画面に一通の通知と、マナーモードにしていたせいか、バイブレーション機能でスマホが震えたのだ。つまり、バイブレーションの所為で手元が狂ってしまった。
「そんな……!?」
あと少しというところで、魔法陣は完成しなかった……。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
いやぁ、夏が終わってしまいましたね。平成最後の夏、私は小説しか書いてませんでした。悲しいなぁ、遊ぶ人いねぇとこうなるから、みんなは友達作ってね? 心から信頼できる友達を、ね?
さて、しく〇り先生からの授業なんて聞かなくていいんですよ。
九月、夏も終わり秋になってしまいましたねぇ……。うっ、秋? 体育大会、マラソン大会、頭が、脳が震えりゅうぅぅぅぅぅッ!
すみません、取り乱しました。大罪司教さんにはお帰りいただきます。
さて、九月も色々と忙しくなると思いますが、頑張っていきます。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




