アリスの実力 後編
「それでは、戦闘開始!」
アナウンスの開始と同時に、アリスとキャシーはそれぞれ自分に援護魔法をかけた。本来、アリスとキャシーの職種である大魔導士は前線に出て戦ったりはしない。基本、前衛の後ろから援護、回復するのだ。つまり、大魔導士同士の戦いは長引くことが多いのだ。
勿論、アリスとキャシーの戦いも必ずしもそうだとは言い切れない。だけど、長引けばそれだけアリスの勝利は遠ざかるだろう。アリスの付けている装備は、ある意味呪いの装備なのだ。
アリスが今着けている、否、来ている服は夏希がナイトと同じ色だ~! と着た瞬間、装備欄から外せなくなった。後に知ることになったのだが、それは呪いの装備だったという。二人が初めて運営に罵倒という罵倒を言いまくった原因である。
その呪いの装備はとある条件を満たさなければ外せないのだが、未だに外し方は発見されていない。しかし、中二病な夏希はその装備を気に入ってしまった。きっと、外し方がわかったとしても、夏希がその装備を外すことはない。それほど、装備の恩恵が魅力的だったのだ。
戦闘開始から十分経過するまで、MP消費軽減、魔法の威力上昇、ステータス上昇という、チートな能力だったのだ。その反面、十分経過してしまうとMP消費増加、魔法の威力下降、ステータス下降というハイリスクハイリターンな装備だったのだ。
普段のクエストやレイドボス、PvPなら十分も経過しない。ナイトとアリスなら十分も経たずにクリアできるからだ。だが、それはナイトがいる場合の話である。つまり、夏希一人では十分以上かかってしまうかもしれないのだ。それが、試合が長引く大魔導士同士の戦いなら尚更だ。
レベルMAXの夏希でも、魔法の威力が、ステータスが下がってしまうのは辛い。例え、レベルで勝っていようとも、大魔導士だと自分の魔法の威力を向上させることも出来るため、レベルは当てにならない。つまり、十分が夏希の戦える時間である。
しかし、夏希がその呪いの装備をしているということもすでに、他のプレイヤーに知られていること。いつもなら、ナイトがいたが、今はいない。つまり、十分さえ経過してしまえば勝てるチャンスはいくらでもあるということなのだ。
キャシーも、その情報を知っていたのか、回避に専念するようだ。その証拠に、敏捷力上昇の魔法を自分にかけている。
「ふふ、十分逃げ切れば勝ちなんて、簡単なゲームね」
アリスはキャシーの煽りになど耳も傾けず、ひたすら自分に魔法をかけていた。魔法の威力上昇、ステータス上昇、敏捷力上昇、そして、とある魔法を自分にかけた。かなりの魔法を使ったが、アリスのMPは全く減っていない。
「……デメリットも凄いけど、やっぱりメリットも凄いのね、その装備」
十分間というタイムリミットがあるものの、呪いの装備の恩恵はかなり大きい。更に、援護魔法を重ねがけすれば、簡単な魔法でも致死級の威力を持った魔法となる。
「先に宣言するよ。一分以内に、僕は君を倒す!」
「はぁ? やれるものならやってみなさいよ!」
アリスは魔法を唱えながらフィールドを駆けまわった。簡易な魔法を、連続詠唱し、魔法で弾幕を作る。キャシーが動けないように。キャシーに魔法を放つ時間を与えないように。
「小賢しいわね!」
キャシーは周りをぐるぐる駆けるアリスに苛立ちを覚える。一体、何がしたいのか。アリスには十分しか時間がないというのに、一分を無駄にする理由が全くわからない。それが、気味が悪くて怖いのだ。
そうして、アリスがキャシーを中心に一周した後、持っていた杖を掲げた。
「ありがとう、動かないでいてくれて」
「は? 何を言って……」
「丁度一分。ふふ、僕の勝ちだ! 穿て! 爆ぜろ! その絶大な力を解き放て! エクスプロージョン!」
「そんな、嘘でしょ!? い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
キャシーさん、意外とノリがいい。
勿論、エクスプロージョンを放つのに、詠唱なんて必要はない。わざわざ詠唱した理由、そんなもの決まっている! カッコいいからだ! それ以外に理由などない! 中二病モード全快!
アリスが自分にかけたとある魔法。それは、魔法陣を透明化させる魔法だ。夏希に十分しか時間がないことはみんなが知っていること。それならば、十分間逃げ切られることもわかっていた。ならば、一発どデカい魔法をぶっ放せばいい話である。
魔法を放つだけなら、わざわざ走り回りながら魔法を放つ意味はない。アリスが駆け回っていたのは、魔法陣を書くためである。しかし、透明化された魔法陣に気付くことは出来なかったようだ。感知魔法を使えばまだ気付けたのだろうが、キャシーにそんなことを考える余裕はなかっただろう。魔法を躱すことに夢中だったのだから。
魔法で弾幕を作ったのも、魔法陣を悟らせないためである。魔法陣を透明化したとしても、魔法陣を書く行為は不信に思われてしまう。よって、弾幕を作ることで視界を遮り、キャシーからはアリスのことが見えにくい状況にしたのだ。
そうして、見事魔法陣を書いたアリスは、フィールド全体に及ぶ範囲魔法――エクスプロージョンを放ったのだ。いくら威力がバカげているとはいえ、術者に攻撃は当たらない。つまり、簡単な魔法でも致死級の威力なのに、元々致死級な威力の魔法を底上げ、さらに、逃げ場をなくす、そうすれば、アリスの勝利である。
本来ならば、決勝で夜と対戦するときに見せたかったのだが、テンションが上がりまくっていたのか、アリスの新たな戦術を晒してしまった。つまり、この方法はもう二度と使えないだろう。相手が、ナイトのような強い敵でなければ、の話だが。
それもそうだろう。相手は致死級の魔法の弾幕をよけるのに夢中しなければならないのだから、アリスが魔法陣を書くのを邪魔する余裕などない。よって、一分経てばドッカ~ンッ! である。範囲魔法恐るべし、否、アリスの戦術恐るべし。
爆発の起こった中心――キャシーの立っていた場所には、何も残っていなかった。あれほどの爆発をモロに喰らったのだ。それで死んでいなければただの化け物である。
「こ、この勝負、大魔導士アリスの勝利ですッ!」
観客は、アリスの勝利に盛り上がる。あんな戦い方があったのか! と。何あれすげぇ! と。多者多様の感想を零している。まさに秒殺。詳しく言えば分殺。
「やったよ、ナイト!」
「あ、あぁ、おめでとう……」
夜は激励半分、焦り半分といった様子だった。よかったぁ、先に見といて。対策できるぅ……とアリスの戦術に内心驚愕していた。正直、夜にも夏希が何をしているのかわからなかった。もし、あれを自分と戦った時にやられていれば、間違いなく負けていただろう。夏希には失礼だが、バカでよかった……と心底思った。
その後、アリスに敵うものがいるわけもなく、決勝トーナメント出場が決まった。もう一人は、狂戦士のキリシアというプレイヤーだった。
夜の予想通り、一時間の休憩時間となった。本当に一時間も休憩になるとは……。
夜と夏希は会場近くに設置されていたベンチに座った。
「ふぅ、やっと決勝か。何気に長かったな……」
「うん、特に休憩時間がね……」
休憩時間が長いのは主に二人の所為である。言ってしまえば自業自得だ。
「ナイト、僕勝てるかな?」
「……わからない。だけど、優勝するのは俺だ」
「ううん、勝つのは僕だよ」
二人は再び宣言する。己が最強と証明するために。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
やっと、やっと予選が終わりましたよ……。なげぇ、なげぇよぉ……。
かれこれ、五章を投稿し始めてからもう少しで十日が経つわけですが、意外と早かったなぁと思ってます。まぁ、PV数の伸びがヤバくて焦ってますけど……。
お陰様で、展ラブが95,000PVを達成しました。いやぁ、早い。多分、明日は100,000PV達成の報告が出来ると思います。多分、きっと……。
さて、今回はこの辺で。
それと、100話記念番外ですが、苦肉の策ゆえに展ラブ作成秘話でも話そうかなと思ってたんですけど、例のN君にダメだしされました。黒歴史増やす気か!? と言われて踏みとどまりましたね。危うく、私の恥ずかしい過去がバレるところでした。まぁ、制作秘話はいつか離したいなと思います。なので、100話記念番外はもしかしたらなくなるかもしれないので、ご了承ください。まぁ、制作秘話でもいいって言うのなら出しますけどね? 他思いつかないんですよ……。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




