本物のナイト 後編
この前に前編があります。お読みでない方はそちらの方からどうぞ。
「それでは、戦闘開始!」
戦いの火蓋は切られた。夜と男の子の画面がプロジェクターによって、スクリーンに映し出される。そうして、観客も、男の子も、夜の画面を見て瞠目した。だって、そこには、最強の内の一人――ナイトがいたからだ。
観客の熱気が会場を押し寄せる。まさかの、参戦に、みんな盛り上がっているようだった。
「はぁ? ナイトってあのナイトですか? こんなパッとしない人が? いや、ありえないでしょう。ただ、名前と装備を真似ている可能性もあるんです。あなたが本物なわけがない」
そう、男の子の言う通り、夜の画面に映し出された黒コートの剣士が、本当にあのナイトだという保証はないのだ。真似ただけのファンかもしれない。
「まぁ、本物かどうかなんて関係ないだろ? 俺の本当の力を見せつければいいだけなんだから」
今の夜さんは、凄い中二病してる! 夏希もそうなのだが、SaMをしている時は決まって中二病に戻るのだ。ある意味、呪いとも言えるかもしれない。
「かかって来いよ、クロ! 本気で来い!」
「! 言われなくても!」
今の夜は、見るからにイキっていた! というか、調子に乗っていた! それはもう、傍らで観戦している夏希がカッコいい! と目をキラキラさせるほどに! おい、まともな奴はいねぇのか! 親が見たら顔を隠すレベルだぞ!?
「まずは小手調べと行きましょうか」
そうして、男の子改めクロは魔法で大量のアンデッドを創成した。数は優に百をこえるだろう。簡易な魔法なら必要ないのだが、あれほどの高度な魔法を使用するには魔法陣が必要である。SaMでは、魔法陣はプレイヤーが己で操作して作るしかない。つまり、魔法陣の出来の良さで魔法が強力になると同時に、そのプレイヤーのやり込み度もわかる。つまり、やり込んでいなきゃあれほどのモンスターを生み出すのは難しいのだ。男の子が余裕綽々だったのも納得がいく。
だが、相手一人に対し、百を超える数のモンスター。絶体絶命といえるかもしれない。
「ふん、あなたは僕に敵わない。素直に負けを認めたらどうですか?」
流石にこれは無理だわ~、と観客も夜に憐みの含まれた声を掛けた。ALICE in Wonder NIGHTのナイトだったらまだ可能性はあったが、今までナイトが大会に出場したことはない。つまり、あいつはただのファンだ。もう、勝ち目はない。
だが、みんな勘違いしている。ナイトは出なかったわけではない。出れなかったのだ。一人で出るのが怖かったのだ!
しかし、今は後ろで応援してくれている相棒のアリスがいる。相棒の前で、盟友の前で無様な姿などさらせるわけがない!
夜は大量のアンデッドが襲ってこないことに疑問を浮かべながらも特攻した。
だが、その所為でナイトは早速無様を晒してしまうことになった。ナイトの身体中に、アンデッドの手が伸びて絡みつき、その場に拘束したのだ。
夜はこの時、完全に慢心していた。でなければ、こんな初歩的ミスをするわけがない。
相手が小学生ということもあって、罠である可能性を低く見ていたのだ。
「まさか、まんまと罠にはまるとは思わなかったですよ」
クロはニヤリと笑った。すると、先程描いた魔法陣よりも、一回り、下手をすれば二回り大きい魔法陣を書いた。
すると、刹那の内に百体ものアンデッドが消えた。それと入れ替わるように、一体の巨大アンデッド、リビングデッドが現れた。
百体のアンデッドを引き換えにし、超強力なアンデッドであるリビングデッドを召喚する魔法。まさか、クロがそんな魔法を使えるとは……。
観客は大盛り上がりだ。それもそうだろう、あれほどの高度な魔術、滅多に見れるものではない。その上、リビングデッドは一人で倒せるようなモンスターではないのだ。
更に、クロはリビングデッドに能力向上の魔法をかけた。どうやら、補助魔法までも使えるようだ。完全に侮っていた。
会場の誰もが思っただろう。偽物のナイトの負けは決まった、と。
援護魔法までかけられたリビングデッドに、闇魔法を使って援護攻撃。その上、今のナイトは拘束されている。かろうじて、武器は振るえるだろうが、リビングデッドの攻撃を防げるわけがない。本物のナイトでない限りは。
だが、目の前にいるナイトは所詮偽物。チェスで言う“チェックメイト”の状態だった。
「これで終わりです。偽物さん!」
リビングデッドは夜に向かって殴り掛かり、クロも魔法を打った。これで、僕の勝ちだ!
しかし、不思議なことに傷を負っているのはリビングデッドのようだった。少し、そのまた少しと身体から力の源である魔力が抜けていく。
一体、何が起こったんだ!? 会場の誰もがそう思ったことだろう。だが、次の瞬間、さらに驚くこととなった。
リビングデッドが消え去ったのだ。跡形も無く。
消えた先にいたのは、満身創痍の偽物……などではなく、無傷のナイトだった。そして、その時、誰もが思った。あいつは偽物なんかじゃない! 本物の、本物のナイトだと!
ナイトが手に持つ二本の剣。奈落よりも深く暗い、光さえも吸い込みそうな漆黒の剣。空よりも青く海よりも蒼く、透き通った氷のように何もかもを凍てつかせそうな蒼穹の剣。紛れもなく、最高レア度の剣、ナイトの相棒だった。
そのナイトの相棒が、白く輝いていた。それは紛れもなく、浄化の光。
「嘘、だろ!?」
「まさか、あいつがあのナイトなのか!?」
会場があのナイトは本物なのではないか? という疑惑で満たされる。しかし、その疑惑に否を出す声が響いた。
「そ、そんな、ありえない! 本物のナイトが、あんな簡単な罠に引っかかるわけがない!」
クロの声に、会場が確かにそうだと納得する。最強と言われる一人が、あんな初歩的な罠にかかるわけがないと。だが、それではあの強さは一体……。
「……ったく、偽物偽物ってうるせぇんだよ。好き勝手に言ってくれやがって……」
「ホント、僕の相棒を偽物呼ばわりしないで欲しいよ」
夜の言葉に、夏希が同調する。
「で、でも、あなたは罠にかかった。だから……」
「だから? 本物のナイトなわけがないってか? あのなぁ、そんな幻想捨てろよ。罠見破るとかどういう勘してんだよ。俺だって人間なんだから、間違えることも、失敗することもあるだろうが。理想押し付けるのやめてくれる? 結構プレッシャーなんだぞ?」
最強だからこうだ、こうじゃなきゃありえない。そんな考えは早く捨てた方がいい。そんなもの、ただの幻想だ理想だ。現実は、違うのだ。
「ありえない! ありえない! 僕が負けるなんて、ありえないんだ!」
クロは魔法陣を書いた。しかも、先程書いた二つの魔法陣とは比べられないほどの大きさ。そこから召喚されるは十体のリビングデッド。
「流石に、これには敵わないでしょう?」
リビングデッド十体、なるほど、確かにどんなプレイヤーでも敵わないだろう。しかし、ナイトには勝てる。
「クロ、お前は負ける」
「はん! 血迷いましたか? リビングデッド十体に、いくらあなたが本物のナイトでも敵うわけないでしょう!?」
「確かに、お前は強かった。でも、俺が勝つ!」
ナイトは相棒を手にリビングデッド十体目掛けて特攻した。クロがナイトはバカだった! とほくそ笑んだ時、その笑みは固まった。何故なら、十体もいたはずのリビングデッドがナイトに傷付けることなく敗れたからだ。
「そ、そんな、バカな……」
クロはその場に膝をついた。
「リビングデッドを十体も一気に!?」
「嘘だろ……」
会場もありえないことに、驚いているようだった。
「クロ、一つ言ってやる。SaMはMPが足りなくても、魔法が行使できる。しかし、召喚したモンスターや、行使した魔法の威力は残りMP分しかないんだ。つまり、あのリビングデッド十体は、下級アンデッド十体分の強さしかないんだよ」
「そ、そんな……」
「いいか? お前の敗因は、高度な魔法を使い過ぎたこと、自分の力を過信しすぎていたこと。そして、基礎がなっていなかったことだ。悔しかったら最初から出直してこい」
ナイトはクロへと漆黒の剣を振り下ろした。クロの身体が真っ二つに割れ、HPがゼロへとなる。
「しょ、勝者はナイトです!」
うおぉぉぉぉぉ! と盛り上がる観客。
ふぅ、と息を吐いた夜のところへ夏希が駆け寄ってきた。
「おつかれ、ナイト」
「あぁ、少し焦った。俺を拘束するアンデッドが一体でよかったよ」
あの時、ナイトを拘束するアンデッドが二体以上いたら、流石の夜でも危なかったかもしれない。
「でも、それでもナイトは勝つよ。でしょ?」
「当たり前だろ?」
その後、相手が本物のナイトだなんて聞いていない! というAトーナメント参加者は辞退をした。よって、決勝トーナメントへはナイトとクロが出場となった。一体、ナイトとクロが戦った意味はあったのだろうか……。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
いやぁ、ナイトカッコいいですね。俺も、トッププレイヤーになってみたいものです。
当初の目的では、後四話くらいで終わるなぁと思ったSaM編。意外と長くなってますwどうしてこうなった……。
次回は、夏希、否、アリスのバトルシーンです。これラブコメだよねぇ!?
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。
一話短くする? それは嘘だ(´;ω;`) (本音:これなら二日に一回とかでいいじゃん……)




