兄妹の証
夜とあかりの二人は、ショッピングモールへと来ていた。あまり、いい思い出のない場所だが、買い物をしたりするなら最適な場所と言えるだろう。何度も来ているはずなのに、何処に何があるかはいまいちわからない程、大きいのだから驚きである。
「さてと、ジュエリー関係の店は……?」
「……おにいちゃん、ほんとうに買ってくれるの?」
「だからさっきも言っただろ? わざわざ嘘吐く理由もないしな」
まず、ここに来たのはあかりが欲しいと言った指輪を買うためなのだ。それなのに、買わないのはおかしいだろう。何のために来たのかわからなくなってしまう。
それに、あかりに指輪を買おうと思ったのは、今までの謝罪と感謝をしたかったからだ。
黙って離れたことを、ずっと謝罪したかった。夜とあかりが離れ離れとなった空白の一年の間に何が起きたのかなんてわからない。だが、あかりに何かあったのかだけはわかる。でなければ、親を脅してまで一緒にいることを願うほど病むはずがない。精神的に傷付けることはあっても、物理的に傷付けようとしたことなんてなかったのだ。そうでないと説明がつかない。
そんなあかりが、夜に近付く女を絶対に許すことのなかったあかりが、夏希、梨花、瑠璃、玲奈のことを傷付けるようなことはなかった。夏希達のことを友達と思っているのだろう。だから、あかりには謝りたいこともあれば、お礼を言いたいこともあるのだ。
だからといって、指輪がその代わりになるとは思っていない。だから、指輪はせめてもの償いだ。まぁ、あかりが嬉しがるなら何でもいいとは思っていたが、まさか指輪になるとは……。
「ん、あった。四階か……。アニメートと同じ階か。帰りに寄ってもいいかもな……。それじゃ、行くぞあかり」
「うん、おにいちゃん♪」
指輪がそんなに嬉しいのか、ご機嫌なあかりを連れて、夜はジュエリーショップへと向かった。
ジュエリーショップの中は、ショーケースの中に展示されている数多のジュエリーが店内を照らす白色の光を反射して煌びやかに輝いており、壮麗な雰囲気だ。しかも、店内を見て回っているのは女性客だけ。流石、ジュエリーを取り扱っている店だ。とても……、男客が入っていいような場所ではなかった。
そもそも、一般的にジュエリーを身に着ける人は女性だろう。例外はあるだろうが、大抵の場合は女性が身に着けるものである。そんなものを取り扱っている店に、男である夜は物凄く、ものすご~く入りづらいのだ。入った瞬間の女性客の目が怖い……。
だが、あかりに買ってあげると言った以上、夜がここに入らなくてはいけないことに変わりはない。男に二言はないのだ。二言は、ないのだ……ッ!
夜は意を決して店の中へと足を踏み入れた。まだ、あかりがいるから恋人に見えるかもしれないが、プロポーズを考えている男性は一人で来るだろう。彼らは男子禁制の間に一人で足を踏み入れたのだ。並大抵の勇気では入ることは出来ないだろう。勇者か!? まぁ、リアル充実してるあいつらは苦も無く入るんだろうけど(夜の勝手な偏見)。
あかりは店内を一瞥し、何かを見つけたのかそこへと駆けて行った。夜はその後を付いていく。
あかりの視線の先には婚約指輪が並んでいた。ちょっと、あかりさ~ん? 指輪はいいけど婚約指輪はだめって言いましたよね~? あ、聞いてないわこれ。
「あかり、婚約指輪は買わないからな?」
「むぅ~、おにいちゃんのけち」
「いや、けちって言われてもな……」
けちだろうが、なんだろうが、妹に婚約指輪を買うわけにはいかない。法律上結婚できないからという理由もあるにはあるが、社会的に死んでしまうからだ。夜も、あかりも……。
「じゃあ、おにいちゃん。これ買って?」
そう言って、あかりが指さしたのは二つで一組の指輪――ペアリングだった。
「ん、もう一つは誰の分なんだ?」
「言わなくてもわかるくせに……」
「いや、察してはいたんだけど、やっぱり俺か……」
逆に、夜以外誰がいるというのか。答えは否である。友達とのペアリング? それならその友達と来ている。
「おにいちゃんと一緒のが欲しいの。兄妹だって証が……。だめ?」
あかりは少し悲しそうな表情で夜に頼んだ。あかりは、夜とあかりだけが持っている何かが欲しかったのだ。離れても寂しくないように、指輪を見れば夜と繋がっているんだと思えるように。
ペアリングが兄妹の証になるかはわからない。が、そんなものは誰にもわからない。だから、そうだと思えば、そのペアリングは二人を繋ぐ証となるのだ。
「ん~、わかった。買うか」
その後、受付の人に指のサイズを測ってもらい、作ってもらうことになった。大体一週間はかかるらしいが、詳しくはわからないので、完成したら伝えてくれるそうだ。
因みに、名前も彫ってもらうことにした。値段は財布に厳しすぎる額だったが、まぁ仕方がないだろう。買うと言った以上、今更後に引けない。
そうして、ジュエリーショップを後にした後、丁度真向かいにあったアニメートに立ち寄り、帰路へと着いた。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
二人きりだとあかりのヤンデレは発揮されないんですね(今更)。本人がよくわかってないってどうなんですかね? でも、最近あかりと夜を二人きりにしないどころか、会話もあまり書かなかったのでもう忘れてるんですw メインヒロインなのにあまり出てないってどうなの?
毎日投稿だと書くことないので今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




