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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
4章 ヤンデレ妹の兄は新入部員の夢を応援するそうです。
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玲奈の居場所 後編

 ドサリと音を立てて、玲奈はその場に倒れた。


「レイ? おい、レイ!」


 夜は玲奈の元へ慌てて駆け出す。そうして、玲奈の顔が紅潮していること、息遣いが荒くなっていることに気付く。


 夜は玲奈の額に自分の手を置いた後、あかりに体温計を持ってくるように言った。流石に、夜が玲奈の体温を測ることは出来ないのであかりに頼む。これで、夜がいきなり玲奈の服をはだけさせ体温を測りでもしたら夜は警察のお世話になることだろう。あかり達なら喜んでされそうなものだが、それでも警察のお世話になることには変わりない。流石に、そんなことで警察に捕まるのは勘弁被りたい。


 図り終わった体温計に表示された数字は、38.2℃。玲奈が風邪をひいているということを示していた。


「くそ……、やっぱり道中のあれは……」


 玲奈が電車の中で寝ていたのは、寝不足だったからではなく、具合が悪かったからだったようだ。夜が早く気付いていれば、玲奈を病院に連れていくことが出来たのかもしれない。


「……ここから近い病院って何処だ?」

「えっと、確か小早川総合病院が一番近かった気がするよ、夜クン」

「それって、絶対玲奈の父親の病院だよな。つか、あの人院長だったのかよ……」


 こんなことを考えている暇などないが、やはり玲奈はお嬢様だったようだ。普通の医者だけではあれほどの家を建てれないとは思っていたが、まさか院長だったとは……。


「レイをあの父親に会わせるのは俺も嫌だけど、レイをこのままにしとくのも……嫌だ。だから、俺は連れていく」

「待って、ルナ……先輩……」


 夜の言葉に、制止の声を掛けたのは意外にも玲奈だった。いや、意外でも何でもないだろう。玲奈は家出しているのだ。それなのに、ある意味で事の発端な智哉の勤める病院には行きたくないだろう。


「わた、しは……大丈夫、ですから……」

「レイ、悪いけど大丈夫そうには見えない。だから、レイが嫌と言おうが何を言おうが俺は連れてくからな」

「おにいちゃん、わたしたちは……」

「あかり達はここにいてくれ。病院に行くのは俺だけでいい」

「で、でも……」

「いいからいてくれ、頼む……」


 夜の真剣みを帯びた眼差しに、あかり達は首を縦に振るしか出来なかった。


 きっと、夜は最低なことをこれからする。兄として、友として、仲間として、人として、最低なことを、きっと。そんな姿を、あかり達には極力見せたくない。すでに、何度も見られているとしても、見せたいものではない。


 夜は嫌々と呻く玲奈を背負い、タクシーで病院へと向かった。空は未だに灰色の雲に覆われ、雨が降り続けていた。




 病院に着いた夜と玲奈は、待合室で待っていた。因みに、保険証など必要なものは玲奈の財布に入っていたので出しておいた。因みに、勝手には開けていない。開ける前に玲奈の巨かは取っている。具合が悪い上に、機嫌まで悪くなってしまったが。


 そうして、待合室まで待っていると、何やら周りが騒がしくなっていた。特に、先生方が驚いた声を上げていた。周りにいる人は何事だ!? と思っているだろうが、夜と玲奈だけはわかった、否、わかってしまった。


 今、夜と玲奈が来ている病院の名前は小早川(、、、)総合病院。つまり、玲奈の父親である小早川(、、、)智哉が院長をしている病院なのである。そこに、小早川(、、、)玲奈が来たのだ。同じ名字である智哉に連絡を入れてもおかしくはないのではないだろうか。だから、玲奈はここには来たくなかったのだ。


 そんな夜と玲奈の予感は見事的中しており、智哉がこちらに歩いて来ていた。


「玲奈が一人の男と一緒に来ていると聞いて、まさかとは思ったが君だったとはな、夜月君」

「俺も、まさかここがあなたの病院だとは思ってませんでしたよ、小早川さん」


 二人の何とも言えぬ威圧に、院内は自然と静かになる。そもそも、病院とは静かな場所だったはずなのだが、この際それは置いておく。


「玲奈、どうして夜月君とここにいるんだ? まさか、彼と会うために家を出たわけではないだろうな? 会うくらいは許してやろうとも思ったが……、それも許せそうにないな。後で、私から学校に転校を頼んで置く。さっさと帰って来い」


 智哉はそう言うと、踵を返した。しかし、そこに待ったをかける声が。


「待てよ……」

「……今、なんて言ったんだ? 夜月君」

「待てって言ったんだよ、聞こえなかったのか?」

「いやいや、あまりにも言葉遣いが悪かったものでな、聞き間違いかと思ったのだ。何か用があるのか?」

「……説教よりも、先にやるべきことがあるんじゃないのか? 今のレイに、他に言ってやる言葉があるんじゃないのか!?」


 夜の怒りの込められた言葉が静寂な院内に木霊する。夜の大声に、小さな子供は泣きじゃくっているようだった。少し申し訳ないが、それでも今は一歩も引けない。


「レイが、どうしてここに来たのか、あんたはわかってるのか?」

「どうして、そんなもの決まっている。私にまだ話があったのだろう? どうせ、未練がましく諦めさせないでと頼むために君と来たのではないのかね?」

「そんなわけないだろ。今のレイを見てそんな言葉が出てきたんなら父親よりも先に医者失格だよ」


 智哉はそう言われ、玲奈の容態を見た。息遣いが荒く、顔も紅潮している。


「風邪を、引いているのか?」

「あぁ、そうだ。だから、一番近い病院に来たんだ。それなのに、あんたは娘の心配よりも先に説教を始めた。こんなに苦しそうなレイに気付かなかった。違うか!?」

「た、確かに具合が悪そうだ。今すぐ診察をしよう。夜月君は帰り給え……」

「……今すぐ? 他にこんだけ診察を待ってる人がいるのが見えないのか? なのに、先に娘を診る? ふざけんなよ! 娘の様子に疑問も覚えず、自分の意見しか言わない。更には、患者さえ放っておく。あんた、父親も、医者も失格だよ!」


 夜の怒りは止まらない。あの日、夜が玲奈とともに智哉を説得しに行った日からふつふつと湧き上がっていた怒り。それが、今爆発してしまったのだ。あまりにも自分勝手な智哉に。


「あんた、レイが家出した理由わかってんのか?」

「そ、それは、夜月君に会うため……」

「違う。あんたの言いなりになるのが嫌だったんだ」


 玲奈は言った。智哉の言いなりになってこれからを生きていくのが嫌だと。自分が見つけた居場所を奪われるのが嫌だと。つまり、智哉の操り人形にはなりたくないと、玲奈は言ったのだ。


「レイは自分の夢を見つけた。居場所を見つけた。親なら、少しくらい応援してやってもいいんじゃないのか!? レイは、レイはな……!」

「ルナ先輩、もういいです。ここからは、私が話します」


 夜の言葉を遮るように、玲奈は口を開いた。夜はまだ言い足りなさそうだったが、玲奈の目を見て一歩後ろに下がった。どうやら、夜の役目はここで終わったようだ。選手交代である。


「玲奈……」

「お父さん、私は何て言われても、小説家は諦めたくないし、部活も辞めたくない。お父さんにどんなことを言われても、私は辞めない。二次元部でみんなと過ごしていたい。あそこが、私の居場所だから。だから、絶対にあきらめない」

「それが、お前のやりたいことなんだな?」


 智哉の言葉に、玲奈はこくりと頷いた。玲奈の決意は一切揺るがない。それは、瞳に込められている決意が、そう物語っていた。


「そうか……」


 智哉は玲奈に近付くと、その身体を強く抱きしめた。


「お、お父さん……?」

「すまなかったな、玲奈。私は、私のことしか考えていなかった……」

「おと、うさん……。ごめんなさい、ごめんなさい……」


 抱きしめ合う二人を横目に、夜は踵を返した。カッコつけすぎな気がするが、今の二人の時間を邪魔するほど夜も無粋ではない。それに、夜はいいことをしていない。ただ、自分勝手な考えを大声で叫んだだけだ。つまり、ここでの悪者は夜だけでいい。やっぱり、カッコをつけすぎな気がするが。


 その後、玲奈と智哉の間に生じていた軋轢はなくなり、智哉は玲奈の夢を応援することになった。因みに、薬は処方されたので風邪の心配はもうない。


「夜月君には、感謝をしなければな……」

「はい……」


 玲奈は自分の胸に手を置いた。そして、自分の気持ちをようやく理解することが出来た。大切な、自分の想いを。


 雲に覆われていた空は、いつの間にか消えており、眩しいくらいに光る太陽が顔を出していた。それはまるで、玲奈を祝福しているようだった。

ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。

やっと、レイと智哉が仲直りをしてくれました。それにしても、今回の夜はカッコつけすぎです。少しやりすぎた……。

まぁ、たまにはいいですよね? いつか書き直しますけど。今は、これでお許しください。

次回かそのまた次回になったら、四章は終わりです。そして、五章からは夏休み。俺の夏休みはもう終わるのに……。

さて、今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。


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