玲奈の居場所 中編
投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
夜の嫌な予感は的中してしまい、ポツリポツリと雨が降ってきた。玲奈が朝の内に家を出ていたとしたら、玲奈は傘を持っていないはずである。
「早く探さないとな……。連絡はまだ来てないし……」
学校を後にして玲奈を捜索してから三十分近く経っているが、見つけたという連絡はまだない。思い当たる場所に行ってみると言っていたので、その場所にはいなかったということになる。一体、何処に行ったというのか。
「玲奈が行きそうな場所って何処だ?」
と言っても、玲奈と過ごした時間が短いため、どんな場所が好きなのか、どんな場所に行くのかは知らないのだ。過ごした時間が長いあかりの好きな場所など知らないので関係ないかもしれないが。
だが、捜索する場所なら大体の予想は付く。大抵の場合、人は探してほしいと願い、捜索しやすい場所にいる。つまり、人の多いところ、もしくは、人と行った場所である(詩和の自論)。
玲奈も、そのような場所にいる可能性が高い。と言っても、玲奈が探してほしいと思っていなければ探し出すのは難しいだろう。
「でも、玲奈なら探してほしいと思っているはず。後は何処にいるかだ」
あかり達は近くを探していたらしいが、玲奈の姿はなかったという。ということは、玲奈の家からは離れた場所にいるのではないだろうか。
しかし、ここから遠く離れた場所で、思い当たる場所は……。
「いや、一つだけある。でも、あそこは……」
確かに、一つだけあった。玲奈達と一緒に行った場所。玲奈にとっては、思い出になっていてもおかしくはない場所。だが、可能性は低いだろう。家出ということは、かなりの荷物を持っているはずである。そんな荷物を持って行くとは考えにくい。
「でも、行ってみる価値はあるはずだ……!」
夜はあかり達に行く場所を伝え、電車へと乗った。玲奈と取材をした場所――遊園地へと向かうために。
遊園地に着くと、雨が降っているためか、そして、平日なためか人はほとんどいなかった。いる人がどのようなことをしているのかはわからないが、知らない方がいいだろう。世の中には知らない方がいいことが幾つもあるのだ。
「来たのはいいけど、ここも広いからな……。とりあえず、行った場所に行くか」
無理矢理乗らされて吐きそうになったジェットコースター。夏希と二人で乗ったゴーカート乗り場。あかり、梨花、瑠璃と二人で乗った地獄の乗り物。夜が何とは言わないが大きい方か小さい方のどっちが好きかと問われ、非リアなお化け達がリア充死ネ! と叫んでいたお化け屋敷。玲奈と二人で話したベンチ。しかし、そこに、玲奈の姿はなかった。
そして、玲奈にとって一番思い出に残っているであろう観覧車乗り場に、その姿はあった。
観覧車の前に置かれているベンチに、一人座っていた女の子――玲奈。ずっと座っていたのだろうか。雨が降っているにもかからわず座っていたためか、雨に濡れてしまっている。
夜はゆっくりと近づいた。玲奈は夜に気付くと、少し嬉しそうな表情になった後、申し訳なさそうに俯いた。
「ここに、いたんだな」
「……」
「……どうして家出したのか、聞いてもいいか?」
「……嫌だったんです」
玲奈曰く、親の言いなりになってこれからを生きていくのが嫌になったらしい。子供の頃は、医者になるのが夢だったが、成長していくにつれて思うのだ。どうして、自分は医者を目指しているのだろう、と。子供の頃は、智哉のような医者になるのが夢だった。だが、それは子供が抱く憧れ故のもの。
玲奈が小説家を目指そうとした時、智哉は応戦してくれるのではないかと思っていた。親は子供の夢を応援してくれるものと勝手ながらそう思っていたのだ。しかし、現実はそううまくは行かない。故に、智哉は夢を諦めさせ、医者を目指すよう言ってきた。
それだけなら、まだ我慢できたかもしれない。小説家という夢を諦めることにはなっても、小説を書き続けることは出来るからだ。しかし、智哉は部活を辞めるようにも言ってきた。玲奈が初めて見つけることの出来た居場所を、ここにいたいと思った居場所を、智哉は奪おうとしたのだ。それが、玲奈には許せなかった。
「私は、ずっとあの場所にいたかった。みんなと一緒に過ごす時間が、私はすごく楽しかった……。だから、もっとみんなと一緒にいたかった。それなのに……、それ、なのに……」
玲奈の頬を、雨とともに涙が伝った。
「……帰ろう、レイ。いつまでも、ここにはいられないだろ?」
「いや、です。帰りた、くない……」
「そう言われてもな……。でも、帰りたくはないよな……。なら、俺の家に来るか?」
「え?」
「いや、変な意味じゃないからな? こんなところにいさせるわけにもいかないし、このままじゃ風邪引く。それに、飯も食ってないんだろ?」
「はい……。その、お邪魔させてもらいます」
「おう、お邪魔されます」
夜は玲奈とともに自宅へと向かうことにした。そして、あかりに電話をかける。
『もしもし、おにいちゃん? もしかして、玲奈さんが見つかったの?』
「あぁ、今からレイを連れて家に帰る」
『おにいちゃん、それどういうこと? お持ち帰り?』
「いや、そんなことする訳ないだろ? それと、夏希達にも知らせといてくれ。それじゃあ、あとでな」
『あ、ちょっと! おにいちゃ……』
夜は強制的に電話を切った。これ以上は色々と面倒なことになりそうだったからだ。まぁ、どのみち家で言われることに変わりはないだろうが。
その後、二人は電車に揺られ、夜の家へと向かった。道中、眠たかったのだろう。玲奈は夜の肩を枕代わりに眠ってしまっていた。
「ただいま~」
「お、お邪魔します……」
二人は夜の家に到着すると、夜は玲奈にシャワーを薦めた。着替えただけでは雨に濡れてしまった身体は冷たいままだろう。因みに、シャワーを薦めた特別な意味はない。決して。
玲奈がシャワーに入っている時に、あかりは家へと帰ってきた。夏希、梨花、瑠璃を連れて。
「ただいま、おにいちゃん」
「「「お邪魔しま~す」」」
「……なんで三人がいるんだ?」
あかり曰く、玲奈だけ夜の家に泊まるなんてズルイ! それなら自分たちも泊まる! 文句ないよね? ね? ということらしい。珍しいことに、あかりも許可を出したらしい。普段なら、絶対に許可しないのに。わたしとおにいちゃんの二人きりの時間を邪魔はさせない! と言いそうなものなのだが……。
「はぁ、わざわざ荷物まで持って来たのか。言っとくけど、俺達学校休んでんだぞ?」
「それなら、大丈夫よ。パパに連絡はしといたから」
「それで? 理事長は何て言ってたんだ?」
「『楽しそうだね、夜君といい雰囲気なったら押し倒してもいいんだよ?』って言ってたわ」
「あの理事長何考えてんだよ……。娘になんてこと言ってんだ……」
ほんと、あの理事長は何を考えているのだろうか。娘に男を襲えなど、普通の親なら言わないだろう。あ、あの理事長普通じゃなかった……。
「はぁ、まぁ入れ。因みに、人数分の布団はないからな?」
「じゃあ、わたしがおにいちゃんと一緒に……」
「少し黙れあかり。家の中を血で染める気か」
そんなことをしたら、家の中が惨劇と化してしまう。ヤンデレな女の子が四人もいたら何が起きてしまうのかわかったものではない。
その後、みんながそれぞれシャワーを浴びている間に、夜は夕食作りに勤しんだ。これだけの量を作るのはテスト勉強をした時以来だろう。あの時は、梨花と一緒に作ったはずである。まだ一ヶ月くらい前のことなのに、ものすごく懐かしく感じるのは、その間に色々あったからだろう。
夕食を作り終わった後、みんなで食卓を囲んだ。やはり、大人数での食事は楽しいものである。といっても、学校ではみんなで一緒に食べたくないが。周りの視線が痛いのだ。リア充死ねという視線が痛いのだ。
みんなと一緒にいるときは、玲奈も心から楽しそうだった。今、玲奈は幸せを感じているのかもしれない。
「あの、みなさん」
そして、玲奈は徐に口を開いた。
「その、今日はみなさんに迷惑をかけてしまい、すみませんでした」
深々と頭を下げて謝罪をする玲奈。かなり、落ち込んでいるようだ。
「まぁ、気にすんな。たまには、家出もいいんじゃないか? 俺も考えたことあるからな」
「ほんとなの? おにいちゃん……」
「まぁ、それは置いといて。でも、いくら親があれでも、心配はさせんな。それと、無事でよかったよ」
夜の言葉が、玲奈の心に深く突き刺さった気がした。夜は、こんな自分のことを心配していたのだ。そう思うと、とても嬉しいのだ。
「みなさん、ありがとうございます……」
玲奈は目尻に涙を溜めて、笑った。あの日見せた、悲し気な笑顔ではなく、嬉し気な笑顔だった。
そして、ふっと意識を闇の中へと落とし、その場で横に倒れた。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
前書きでも書きましたが、投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
さて、今回はいかがでしたでしょう。玲奈が少し元気になってくれて俺は安心です。
さて、長々と語るとボロが出そうですし、何より九時まであと十分なので今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




