玲奈の居場所 前編
気を取り直して、毎日投稿1日目。
翌日になっても、玲奈が部屋から出てくることはなかった。昨日の授賞式で色々大変で疲れていたのだろうが、学校があるので、寝かせているわけにもいかない。学校に遅刻してはいけないと、玲奈の母親である玲香は智哉に起こしてくるよう言った。朝方の主婦は忙しいのだ。
智哉は玲奈の部屋のドアを数回ノックした。しかし、反応はない。やはり、昨日の疲れでぐっすりと眠っているのだろうか。
「玲奈、入るぞ」
このままでは埒が明かないと、智哉は玲奈に断りを入れ、部屋の中へと入った。
しかし、そこに玲奈の姿はなかった。
智哉は部屋の中を一瞥する。すると、机の上に、一枚の紙が置いてあった。そこには、何かが書かれていた。玲奈が書いたのであろう。
“探さないでください”
その紙には、それだけしか書かれていなかった。そして、少し部屋が散らかっているのがわかった。机の上にあったはずのパソコンもなければ、開けっ放しにされたタンスの中にあったであろう服もない。つまり、この紙に書かれている意味は、家出だろう。
智哉はまず家の中を探し始めた。可能性は低いが、もしかしたらと思ったのだ。しかし、玲奈の姿は家の中には無かった。因みに、玲奈の靴は玄関には置いていなかった。
「ちょっと、あなた。一体、どうしたのよ。家の中を歩き回って……」
「玲奈が家出をした」
「え!? 玲奈は大丈夫なの!?」
智哉は携帯で学校に電話し、とある人物の電話番号を聞き出し、その人物に電話をかけた。
学校に行く準備をしながら、夜は玲奈のことを考えていた。受賞者の名前が発表されたあの日以来、玲奈とは会っていないし、話もしていない。遊びに来てもいいとは言ったが、そんな気が玲奈にないことを夜はわかっていた。
あの言葉は、確かに正しかった。しかし、間違いでもあった。遊びに来ていいと言われて、嬉しかっただろう。だが、同時に少し疎外感を感じてしまうのだ。今まで、普通に行っていた場所に、普通に行けなくなってしまう。その事に、少し寂しく感じてしまうのだ。毎日、ではなく、いつでも。言葉の綾だが、それでも、悲しいことに変わりない。玲奈には、申し訳ないことをした。
「俺の所為、なのかもな……」
玲奈を必要以上に傷付けたのも、あかり達を必要以上に悲しませたのも、すべては夜の所為なのかもしれない。夜があの時話しかけたりしなければ、玲奈はここまで悲しまなくてもよかったのではないだろうか。
だが、もしあの時、夜が玲奈に話しかけなかったら、今も玲奈は一人だっただろう。一人で誰とも関わることなく、幸せな時間を知らないまま、小説家という夢を諦めていた。夜は知らないが、あの時、夜が玲奈に話しかけたことで、救われた人がいるのだ。そう考えると、人生とはわからないものである。
物思いに耽っていると、スマホに電話がかかっていることに気付いた。知らない番号だ。
「……はい、夜月です」
『小早川だ。いきなりの電話ですまない。少しいいか?』
どうやら、夜に電話をかけてきたのは智哉だった。夜は訝し気に思いながらも、自分に用があることに疑問を覚えた。きっと、電話番号は教職員から聞いたのだろう。それほど、急用ということだ。何かあるに違いない。
「構わないです。何か急用ですか?」
『あぁ、その通りだ。そっちに、玲奈が行っていないか?』
「いえ、連絡すらないです。それが、どうかしたんですか?」
『あぁ、玲奈が家出した』
夜は目を見開いた。玲奈が家出をしたということには勿論驚いた。しかし、それよりも驚いたのは智哉の落ち着いた声だった。普通、娘が家出をしたとなったら焦るだろう。それは、声色からわかる。しかし、智哉の声は焦りなどなく、あの時のように至って冷静だった。
「レイが家出をしたって言うのに、随分と落ち着いてるんですね。心配はしてないんですか?」
『まぁ、そうだな。すぐに帰ってくるだろうからな、心配するだけ無駄なんだよ』
「無駄、ですか……」
『君のところに行っていないのなら君に用はない。悪かったな』
その言葉を最後に、電話は切れた。
「心配するだけ無駄だぁ? っざけんなよ……!」
娘をまるで心配しないような振る舞いに、夜は苛立ちを覚える。しかし、考えは人それぞれなのでどうしろとも言えない。考えを人に強要するのは酷だろう。
しかし、玲奈が家に帰るとも思えない。家出をするほど、玲奈は傷心していたのだ。それなのに、すぐに帰るはずがない。玲奈は、そんなすぐに決意を曲げるような女の子ではない。家出をするという決意は、並大抵のことでは出来ない。つまり、玲奈の決意が変わることはないだろう。
「……とりあえず、学校に行くか。もしかしたら、いるかもしれないし」
夜は急いで支度して学校へと向かった。いないとは思うが、それでも少しの可能性を信じて。
夜は学校に向かいながら、スマホを取り出し、二次元部全員に玲奈が家出したということを伝えた。あかり曰く、やはり玲奈は来ていないようだった。
「やっぱり、来てるわけがないよな。家出してるのに、親が探し出せそうなところにはまず行かないだろうし……」
思考を巡らしながら、夜は学校へと走った。そして、学校に着くなり理事長室へと向かった。
ドアのノックして、入室の許可を貰い、夜は理事長室の中へと入る。
「おや、夜君か。どうしたんだい?」
「理事長、休みを貰っていいですか?」
普通ならば、担任に言うのが正しいだろう。しかし、夜の言っている休みを貰う人とは、二次元部全員である。全員で探そうということは決定しており、すでに探しに行っている。やはり、みんな玲奈のことが心配だったようだ。
「玲奈君のことで、何だね?」
「その通りです」
「うん、それが聞ければ十分だよ。わかった、先生方には私から言っておこう。警察にも私の方から連絡を入れよう。しかし、君達の方が場所もわかるかもしれない。だから、夜君。絶対探し出しなさい」
「……理事長には敵わないですね。勿論、そのつもりです!」
夜は理事長室を後にすると、玲奈を探しに学校を後にした。
青く晴れていた空を、灰色の雲が覆っていく。雨が降りそうな、嫌な空だった。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんで……って、無理ですね、ハイ。
……どうしてこうなった? なんか知らんけど、玲奈が家出したんですが。どうしましょうね、これから。と言っても、大体は決まってるんですが。
それと、昨日は投稿出来ず、すみませんでした。色々と忙しかったもので……。まぁ、言い訳と言われては言い返しようがないんですけど。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




