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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
4章 ヤンデレ妹の兄は新入部員の夢を応援するそうです。
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失った幸せ

毎日投稿三日目。

 玲奈が受賞していたのは佳作だった。


「大賞じゃなかったけど、佳作か。すげぇよ、レイ!」

「はい、そうですね……」


 夜達が嬉しがろうと、玲奈はそこまで嬉しくはないようだった。入賞したことは心から嬉しいだろう。だが、辞めなくてはいけないと確実にわかったことがショックでそれどころではないのだ。


「ルナ先輩、みなさん……。短い間でしたけど、本当にありがとうございました」


 そう言う玲奈の表情は、酷く哀しげで、痛々しかった。


「おい、ちょっと待てって……!」


 夜の制止の言葉を聞かずに、玲奈は部室を後にした。




 家に帰る道中、玲奈は瑠璃の言葉を思い出していた。正直、遊びに来てもいいと言ってくれたことは嬉しかった。だが、そうは言われたものの、きっと行くことはないだろう。もう、夜に会うことも……、ないだろう。


 家に着くと、玲奈は智哉がいるであろうリビングへと向かった。智哉は、ソファに座って読書をしていた。何を呼んでいるのかは、玲奈からは見れなかったが。


「お父さん……」

「玲奈か。どうかしたのか? 大賞は、取れたのか?」

「……受賞はしました。けれど、取れませんでした」

「! ……だろうな。約束通り、部活は辞めて夢も諦めるんだな」


 智哉は淡々と告げた。まるで、わかりきっていたことのように。事実、智哉はわかっていたのだ。玲奈に、大賞を取る自信などなかったことを。


 玲奈は何も言えなかった。大賞を取ったら続けていいかと自分で出した条件を達成できなかったのだ。今、玲奈が何を言っても、それは負け犬の遠吠えに過ぎない。つまるところ、玲奈は詰んだのだ。


 その後、玲奈は部屋に籠った。晩御飯だと呼ばれても、部屋に籠り続けた。流石に、風呂に入るために部屋から出たが、それ以外は引き籠った。


 玲奈が受賞したのは佳作。受賞したとはいえ、玲奈は小説家デビューは出来ない。そもそも、例えデビュー出来たとしても、大賞を取れなかったら智哉は認めないだろう。親の制止を振り切ってでも小説は書きたい。でも、認められなくては意味がないのだ。


 玲奈は部屋で、ひたすらキーボードを叩いていた。小説家という夢を諦めることになっても、小説を書くことをやめるつもりはない。小説は目指すから書くものではなく、書きたいから書くものだ。


 智哉がそんなことを許すとは思えないが、それでも、玲奈は書くことをやめない。好きな物をやめさせる権利は誰にもないのだ。つまり、玲奈が小説を書きたい限り、書かないなんてことはない。絶対に。


 玲奈は、夜との遊園地デート(仮)で書き溜めたネタ帳を基に、物語を創っていく。夜達と過ごした時間は、玲奈にとってキラキラと輝く宝石のように綺麗で、大切な思い出だ。今まで生きてきた中で、きっと一番楽しかった時間だ。


 家族と過ごした時間はあっても、楽しいと思える時間は極僅かだった。出かけるにしても、旅行に行くにしても、笑顔になることはなかった。昔から、玲奈は笑わない子だった。


 教室でも、あまり人と関わるようなことはせず、無口で物静かな子だった。友達という友達もおらず、いじめられているわけではないものの、話しかけてくれる子もいなかった。話しかけづらい子だったとはいえ、子供にとってその一人は辛いものだった。家でも一人、学校でも一人。それなのに、楽しい思い出が出来る訳もない。


 だから、そんな玲奈にとって二次元部のみんなは玲奈が望んでいたもの、だったのかもしれない。夜に話しかけたのは偶然だが、その偶然が玲奈を幸せにしてくれた。だからこそ、二次元部は辞めたくなかった。あの場所は、短い時間だったとしても、玲奈にとっては大切な、大切な場所だったのだ。


「それも、もう行けないんだよね……」


 大切なものは、いつかなくなってしまうものである。だとしても、このタイミングはあんまりではないか。これからだという時に、その場所は消えてしまった。


「もう少し、ルナ先輩(、、、、)と話していたかったな。一緒に、いたかったな……」


 どうして、二次元部のみんなと、ではなく、ルナ先輩と、と言ってしまったのか。それは、玲奈にはわからなかった。咄嗟に、夜の名前が浮かんだことも、夜のことを想うと、胸が締め付けられるのも、玲奈にはわからなかった。




 それから数日後、受賞者を表彰したいという出版社側の考えで、玲奈は智哉とともに表彰式の会場へと来ていた。佳作とはいえ、流石に、表彰式を欠席することを躊躇ったのか、出ることだけは智哉は了承してくれた。といっても、玲奈が祝福して欲しい人はいないわけだが。


 表彰は滞りなく進行していく。代表者の挨拶の後に、名前を呼ばれ、賞状を貰う。そして、受賞者一人一人が挨拶をする。それとともに、作品の紹介。あらすじだけでは、どれほど面白いのかはわからないが、貰った賞が賞だ。さぞ、面白かったことだろう。羨ましいことこの上ない。それほど面白い作品を書けたなら、みんなと楽しい時間を過ごせたはずなのに。


 そうして、玲奈の出番が来てしまった。


 玲奈が書いた作品は、春樹と結衣、二人の男女の物語だ。幼い頃、約束を交わした二人。しかし、結衣はすぐに離れてしまう。その十年後、運命の再開を果たした二人は、何気ない日常を過ごしていく。しかし、近所で開催された夏祭りの日に、二人の関係は一変する。


 祭りを二人で歩いていたところをクラスメイトに冷やかされ、春樹はただの幼馴染だと言ってしまう。しかし、春樹に好意を寄せる結衣としては、違う返答をして欲しかった。その後、結衣の方から春樹と距離を置いてしまい、春樹との恋は停滞してしまう。


 だが、結衣には秘密があった。それは、二人の関係が変わるだけに留まらず、崩壊させるには十分すぎるもの。故に、結衣はそのことを春樹に言えないでいた。しかし、言えないままでも、いずれ関係は壊れてしまう。そこで、結衣は決意をする。


 そして、恋愛が成就するという言い伝えのある花火が打ちあがる花火大会の日に、結衣は春樹に言うことにした。赤色のハートの形をした花火を見た後、結衣はとある場所で秘密を打ち明けた。そこは――結衣の名前が記されていた墓石の前だった。


 実は、約束を交わしたすぐ後に、結衣は事故に会って死んでしまっていたのだ。今、こうして春樹と話しているのは、春樹の傷ついた心が、後悔が結衣という形となったものだったのだ。


 恋愛が成就するという言い伝えは、あくまで言い伝えで。幼い頃に交わしたずっと一緒にいようという約束も、あくまで約束で。それが、叶うことはなかった。


 そうして、いなくなった結衣と交わした、新しい約束を胸に、春樹はこれからも生きていく……という、二人の恋愛模様を描いた作品だ。


 作品の紹介が終わった後、玲奈はこの作品を通して伝えたいことを聞かれた。


「当時、この物語を書いた時は、特に何も思っていなかったと思います。でも、今なら理解出来るのです。私が、この作品を通して皆さんに伝えたかったこと。それは、失ったものはもう二度と戻らないこともある、ということです。今、こうして感じている幸せ、それは、誰かのお陰で感じているものです。しかし、その誰かを失った時、幸せを感じることはもう出来ない。私は手遅れだったけど、皆さんは失わないようにしてください。今は何も思っていなくても、失った時に大切だったと気付きます。ですから、大切なものは、ずっと大切にしてください」


 玲奈にとって大切なもの。言わずもがな、あの日々だ。みんなで、ゲームして、アニメ見て、討論して、話し合って、取材して、遊んだ日々。どれもこれもが、玲奈の失った大切なものだ。


 一方、智哉はとある編集者に話しかけられていた。


「まったく、こんな公の場で私に向けてのあてつけか? だが、佳作だったとはいえ、まさか受賞してしまうとは……」


 智哉が玲奈について考えながら辺りを一瞥していると、見覚えのある男と目が合った。どうやら、男の方も智哉に見覚えがあるらしく近づいてきた。


「ん? あれ、智哉じゃねぇか。久し振りだな! こんな所で何をしてるんだ?」

「おぉ、久し振りじゃないか。元気にしていたのか?」

「あぁ、元気だよ」


 智哉に気さくに話しかけた彼の名前は安城快李(あんじょうかい)。智哉の、高校生の時のクラスメイトだった男だ。同窓会以来会ってはいなかったが、煩いほどの元気は未だに顕在らしい。


「それで、一体こんなところで何してんだ?」

「実は、娘が入賞してな……」

「え、まさか佳作の小早川玲奈って、お前の娘なのか?」


 智哉は頷く。快李は驚いたように目を見開くと、智哉の肩を叩いて、


「マジか……。智哉の娘さん、すげぇな。あれ、初めて書いたんだろ?」

「お世辞で言っているのか?」

「いやいや、お世辞抜きでマジでいい作品だと思うぜ。初めてであれほど、しかも、佳作とはいえ受賞してるからな~。玲奈さん、才能あると思うぜ?」


 小説家の才能、と言われても、智哉にはいまいちわからなかった。そもそも、あんな非現実的な話の何が面白いのか、とまで思ってしまっている。そんなことを言われては、すべてのラノベが否定されている気がするが、気のせいと信じたい。


 だが、いくら才能があるとはいえ、智哉が小説家を目指すことを認めることはない。今、考えを改めては父親としての威厳が無くなる、なんていう理由なんかではない。まず、認めるつもりがないからだ。そんなことを考える必要がない。


 智哉の独断と偏見だが、アニメやマンガ、ラノベと言ったものをよく思っていないからだ。それらに関係するものに、玲奈を出来るだけ関わらせたくない。それが、智哉の考えである。


 そうして表彰式は終わり、玲奈と智哉は家へと着いた。玲奈は家に入るとすぐに自分の部屋へと向かった。


「ふぅ、今日は色々な事があって疲れた……。玲奈に佳作とはいえ受賞したのだから、おめでとうの一言でも言ってやればよかったな。まぁ、あいつも疲れているだろうし、明日でもいいだろう」


 智哉も、寝室へと向かった。


 しかし、この時、玲奈の部屋を覗かなかったことを、智哉は酷く後悔することになった……。


ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんで……無理ですね、はい。なんか、ここ数話重い展開が続きすぎじゃないですかね?

というか、佳作という賞があることも知らないですし、佳作で授賞式呼ばれることも知らないですし、そもそも授賞式とかあるかもわからないですし、あっても挨拶とか作品紹介とかあるかは知らないです。すべて、実在するものとは関係ないです、断じて。そもそも、受賞したことないですしね! あるわけないしね! 言ってて悲しくなってくるんですけど……。

それに、玲奈が書いた物語は、俺が以前話したどこぞの賞に応募するラノベじゃ無い奴が元ネタとなっています。今思うと、そこまでおもしろくないんですよね。作文用紙20枚なんですけど、書けた本文が6600なんですよ。本当に、中身が薄い。ですので、佳作すら取れないとは思いますが、そこはお許しください。毎話毎話前日に書いているのでギリギリなんです。考えている時間がなかったんです。言い訳です、はい。

さて、この話を考えるうえでアドバイスをくれたN君によると、「別のお話……」という終わり方が多いと言われました。確かに多かったです。まぁ、終わらせ方がよくわかっていないので、読み辛いと感じられた方、すみませんでした。これからは気を付けます。

さて、今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。


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