大賞を取ったら
Twitterでも言った通り、今日から四章終わるまで毎日投稿!
夜と玲奈がドアを開けると、目の前には眼鏡をかけた男が仁王立ちで立っていた。玲奈の少し怯えたような、決意をした表情からすると、どうやらこの男が智哉らしい。
智哉は玲奈を見ずに、隣にいた夜を睨み、ゆっくりと口を開いた。
「家を出ていったからどうしたのかと思ったら……。玲奈、何をしていたんだ。彼は?」
「はじめまして。レイ……、小早川さんの入っている部活の副部長をしている、夜月夜と申します」
「玲奈の父親の智哉だ。それで、アニメなんぞに現を抜かしているような輩が何の用だ?」
アニメなんぞ、という智哉の言葉に思うところがあったが、夜はグッと我慢した。ここに来たのは、何も智哉に喧嘩を売るために来たわけではない。玲奈の夢を叶えさせるための説得をしに来たのだ。
玲奈も、少し不満を抱いている。やはり、好きな物を侮辱されるのは誰しも嫌なものなのだ。
「今日は、小早川さんを退部させないために、その説得に来ました」
「説得? そんなものをしても意味はないよ。いくら、君に言われようとも私は考えを改める気はない。わざわざ来てもらってすまないが、帰りなさい」
智哉はそう言うと、踵を返した。本当に話を聞く気はないのか、智哉に取り付く島はなかった。考えは変えない、だから、さっさと帰れと門前払いである。
きっと、今の智哉に何を言っても意味はないだろう。しかし、ここで帰るわけにもいかない。
だが、智哉に話が聞く気がない上に、帰られると、今の夜には何も出来ないのだ。
「レイ。悪いな、俺、何の役にも立ちなさそうだわ」
「いえ、お父さんがルナ先輩の説得を聞く気がないのはわかってたんですけど……。ごめんなさい、ここまで来てもらったのに……。私、一人で説得してみます」
「……俺は退場するから、頑張れ! レイ」
「はい!」
夜は玲奈に別れを告げ、その場を後にした。玲奈にバレないように顔に出さないようにしていたが、内心、智哉には腸が煮えくり返るほどの怒りを抱いていた。アニメをなんぞ呼ばわりしたこともそうだが、そんなことよりも、玲奈の夢を応援しないような言い分がいかがなものかと思ったのだ。
そして、自分自身にも怒りを抱いていた。いくら、帰れと言われたからって素直に帰る必要などなかったのではないだろうか。瑠璃の時と同じになるかもしれないのに。あの時感じた嫌な予感が、今も脳裏を過っているというのに。
でも、玲奈一人だけでも大丈夫だと思ったのも事実だ。玲奈の瞳には、今まで見たことがないほどの強い眼差しだった。決意が込められていた。絶対に、説得して見せる、と。夢を諦めるわけにはいかない、と。だから、夜は玲奈を信じることが出来た。信じるだけではいけないということを知ってはいるが、それでも、玲奈を信じることにした。何より、今の夜には信じること以外できないからだ。
「……はぁ、今も昔も、俺は何も変わってねぇじゃねぇか……」
夜は心の中で玲奈に応援の言葉を贈りつつ、帰路へと着いた。胸の中に芽生えた、自分に向けた苛立ちを忘れることなく……。
「お父さん……」
「何だ? 言っておくが、考えを改めるつもりはないからな?」
リビングで座っていた智哉に、玲奈は呼びかけた。やはり、娘である玲奈の言葉でも、智哉の考えを変えるには至らなかった。そもそも、玲奈の言葉で、智哉の考えが変わっているなら夜を呼ばなくてもよかったはずだ。
「……お父さん。私は、部活を辞めたくない。それに、小説家という夢を諦めたくない」
「それがどうかしたのか? お前は医者になるんだ。だから、諦めろと言っている」
玲奈がまだ幼い頃から、智哉は玲奈に医者になるよう言ってきた。その為に、アニメやマンガから玲奈を遠ざけ、今はもうやめたが、習い事としてピアノも習わせていた。
どうして、アニメやマンガを遠ざけたかと言うと、勉強の妨げになるかららしい。確かに、ゲームのし過ぎで宿題を忘れるということはよくある話だし、成績が悪くなるというのもよく聞く話だ。智哉が、玲奈の未来を心配したが故の行動なのだ。だからといって、国民的アニメであるア〇パ〇マ〇すら見せないというのは、いかがなものかとは思うが。
つい先日まで、智哉は玲奈は医者を目指していると思っていたのだ。そこに、遠ざけていたアニメなどに興味を持ち、さらに、小説家を目指すと言い出した。智哉も、突然のことで動揺しているのだ。
だからといって、智哉が意固地になっているという訳でもない。アニメなどに興味を持ったことには、驚いたものの、趣味を見つけたことは嬉しかった。趣味が趣味だったために、少し不満を抱いたというのもあるが。夢も応援したいと言う気持ちはあるが、医者になって欲しいという思いは変わらない。というか、医者になってもらわないと困る、とまで思っている。
因みに、部活を辞めて欲しい、夢を諦めて欲しい、というのは、智哉の本心である。いくら、娘の成長が嬉しいからと言っても、小説家、しかもラノベ作家を目指すというのを許すわけにはいかない。そして、勉強の妨げになるアニメやマンガを主軸とした部活をやらせるわけにはいかない。
「どうしても、だめですか?」
「あぁ、どうしてもだ」
「……それなら、小説家になったら、いや、大賞を取ったら認めてくれますか?」
「大賞?」
「応募していた大賞の結果がもう少しでわかります。だから、それで大賞を取ったら認めてくれますか?」
智哉は玲奈の瞳を見た。そこには、絶対に辞めてたまるか、諦めてたまるかという決意が、意思が宿っていた。智哉がいくら言ったとしても、同じように玲奈も諦めることは無いだろう。考えを曲げないと言ったところは、智哉と似ているのかもしれない。流石親子、といったところだろうか。
「取れるのか? 大賞を取る自信があるのか?」
「ない。けれど、受賞しただけだと認めてもらえないと思いました」
「……いいだろう。無理だった時は素直に諦めろ。それまでは、部活動も許してやる」
「はい……」
話はそれで終わった。当初の目的は達成できたかはわからないが、それでも、猶予だけはもらえたようだった。
自室にて、玲奈は大賞に応募していた小説を読み直していた。
まだ、二次元部に会う前に、夜と話す前に書いていたもの。まだ、小説家という夢を目指し始めたばかりに書いたもの。
「こんなので、大賞なんて取れる訳ないよ……」
玲奈はスマホで電話帳を開き、夜へと電話をかけた。
「ルナ先輩……」
『レイ、どうかしたのか? 説得は、上手くいったか?』
「……大賞を取ったら、続けてもいいって言ってくれました」
『大賞?』
玲奈は夜に、説得の結果を説明した。ずっと前に応募していた大賞で、大賞を受賞することが出来たら、二次元部を辞めなくていい、小説家という夢を諦めなくていいと言ってくれたことを。
『そっか。でも……』
「はい、自信がないです。今、読んでいた限りでは、大賞なんて取れるとは思えないです」
文法も滅茶苦茶。書いてあることも支離滅裂。物語としては、纏まっているとは思えるが、大賞なんて取れるような作品でないことは明らかだった。あの場では、あのように言うしかなかったとはいえ、無謀な提案だったのかもしれない。
『レイ、俺に言えることは無い。でも、これだけは言わせてくれ。俺は、いや、違うか。二次元部のみんなは、レイの味方だから』
「はい、ありがとうございます……」
自然と、涙が頬を伝った。夢を諦めなくてはいけない悔しさ故か、味方でいてくれるという夜の言葉が嬉しかった故かは、玲奈にはわからなかった。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
よかった。似たような展開にはなってるけど、まるまる同じになるということは無くなりました。まぁ、これも俺の友達のN君のお陰なんですけどね。
さて、前書き、Twitterでも言った通り、今日から毎日投稿です。ただし、一日遅れる可能性もあります。だって、その日に書いた奴を次の日に掲載しているわけですし。
なので、途切れてもお許しください。出来るだけ、いや、可能な限りでそんなことはしないようにしますので。
それと、五章ですが、多分四章が終わってから時間が空くと思います。私の疲労のせいで。
まぁ、そんなことを言い訳にはしたくないので、本当の理由を。
現時点で、五章の流れが全く決まっておりません。というか、流れを作っても必ずそこから外れます。夜達が勝手に動くからです。特にあかりは暴走します。
なので、お待たせすることになるかもしれませんが、そこもお許しを。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




