観覧車での一時
玲奈と少し話した後、二人は小説の取材のために観覧車に乗ることにした。ここの観覧車はかなり有名で、今は丁度空が蜜柑色に染まりつつあるという夕焼け。景色を見るなら丁度いい時間だ。夜景の方が綺麗かもしれないが、蜜柑色の空と街並みも夜景と同様映えるのだ。
「あの、ルナ先輩、あかりさん達一緒に乗らなくてはいいんですか?」
「仮にとはいえデートの取材なのに、他の女の人がいていいのか?」
「あ、確かに……」
どうやら、玲奈はここに来た理由を忘れていたようだ。まぁ、取材という取材を出来ていなかったのは確かなので、忘れていても仕方が無いとは思うが……。
忘れさせたのは元を辿れば夜の所為なのだが、本人が気付くことは無いだろう。何故なら、殆どどっかの誰かの所為なのだから。誰とは言うまい。今も夜を探すべく歩き回っているヤンデレチックな女の子達だとは言うまい……。
少し寒気がしたような気がしたが、きっと気のせいだと夜は首を振った。後ろの方で声が聞こえたような気がしたのも、気のせいだと気にしないことにした。観覧車に乗ろうと後ろの方で並んでいる人影に見覚えがあったのも、気のせいだ。気のせいったら気のせいなのだ。
(まぁ、あかり達には後で説教されればいいか。説教で済むとは思わないけど、今はレイの取材だしな……)
いくら、気のせいだと自分に言い聞かせても、気付いてしまっては意味がないのだ。きっと、あの四人は二人で観覧車とかズルイ! とか言っているのだろうが、二人きりで乗ったはずである。夏希とはゴーカートに、あかりと梨花と瑠璃とはフリーフォールに。
「どうかしました、ルナ先輩?」
「いや、何でもない。もう順番だし、乗ろうか」
「は、はい……!」
スタッフさんに促され、二人は駕籠に乗った。乗る直前に、ゴーカートの時同様お幸せにとか言われたが、夜は愛想笑いだけ浮かべてさっさと乗ることにした。後ろからの視線が痛いこと痛いこと。説教くらいいいかと言ったな、だがあれは嘘だ。前言撤回させてもらう。これを乗り終わったら逃げなくては!
「やっぱり、ルナ先輩大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。それより、取材はいいのか?」
「でも、ルナ先輩が……」
「大丈夫だから気にすんな。ほら、この景色とかいいんじゃないか?」
「そうですね、確かに綺麗です」
玲奈は蜜柑色に染まった空をスマホのカメラで撮影する。小説で風景はそんなに重要かと言われれば首を傾げざるを得ないが、それでも、今いる場所を理解するためには必要な物なのだ。玲奈の書くラブコメな物語なら尚更だろう。デートしている場所が何処かわからないなど言語道断である。
「なぁ、レイ」
呼びかけられたことに玲奈は手を止めながら首を傾げた。
「今日、楽しめたか?」
「え?」
そして、質問の内容に驚く。
「いや、今日の取材って俺の所為で殆ど出来なかっただろ? だから、せめて楽しんでもらえたらって思ってたんだけど、楽しめたか?」
どうやら、夜は玲奈が今日の遊園地デートが出来なかったことに申し訳なく思っていたらしい。確かに、今日は取材はあまり出来なかった。誰の所為とは言うまいが、本来の目的が達成できなかったのは確かである。
だから、せめてもの罪滅ぼしとは言わないが、玲奈には遊園地を楽しんでもらいたかったのだ。それに、何気にこれが二次元部全員でのお出かけである。だから、あかり達との親睦を深めつつ玲奈自身が楽しんでもらいたいというのが、夜の考えだった。
あの四人の中に入って行くのは相当難しいだろう。でも、優しいのだ。自分に利益があるというのに、他人のために動くことが出来る、そんな優しい奴らなのだ。だからこそ、玲奈にはあかり達と仲良くなってもらいたかった。何かいい刺激になってくれるのでは? と思ったのだ。
「えっと……、はい、凄く楽しかったです。私の家、凄く厳しくて普段はこういったことが出来ないんです。だから、今日も部活の活動って嘘を吐いてきちゃって……」
「まぁ、あながち嘘でもないけどな。二次元部での活動のための取材だろ? なら、れっきとした部活動じゃん」
「はい、そうですね……」
部活動と言われた時、玲奈の表情が暗くなったような気がした。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。
「まぁ、楽しかったならよかった。これでつまんなかったとか言われたらどうしようかと思ってたよ……」
「どうしようって、やっぱりルナ先輩は優しいですよね」
「優しくなんかない。俺が優しかったらあいつらに希望なんて持たせてない」
「それでも、人のために動けるじゃないですか。二次元部のみんなは、本当に優しい人たちです」
「まぁ、そう言ってもらえるんならありがたい。さて、そろそろ終わりだな」
夜と玲奈を乗せた駕籠は少しずつ地上へと近づいていた。これが地上に付いたら、夜との二人きりの時間は終わりだ。そのことに、玲奈の胸をちくっとした痛みが襲った。どうして、胸が苦しくなるのか。どうして、夜ともっといたいと思うのか、この気持ちが玲奈にはわからない。
「あの、ルナ先輩……」
「ん? どうかしたか?」
「その、えっと……、また一緒に取材に行ってくれますか? こ、今度は二人で……」
玲奈は頭に血が上っているような気がした。どうして、こんなに恥ずかしいのか。どうして、顔が熱いのか。
「構わねぇよ。レイが書いた小説、早く読みたいしな」
玲奈は取材をまたしてくれるということに、自分が思った以上に喜んでいた、嬉しがっていた。どうして、そんなに嬉しいのかはわからないが、これでまた夜と二人で取材が出来るのだ。
「じゃあ、その時はよろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな?」
その後、夜は玲奈と乗っていた駕籠が降りてくるまでずっと待っていたあかり達にこっぴどく怒られた。どうやら、二人で観覧車というのが許せなかったらしい。他のアトラクションならいいのに観覧車だけダメというのはどうしてなのだろうか。
あかり曰く、恋人っぽいからダメなの! らしい。他の三人も似たようなことを言っていた。観覧車=恋人という考えは間違ってはいないだろうが、だからこその取材だったというのに……。
帰り際、微笑みながら楽しそうに歩く玲奈を見て、今日は来てよかったな、と夜は思うのだった。
「ただいま……」
玲奈は少し怯えた様子で家のドアを開けた。実は、玲奈の家の門限は七時までなのだ。しかし、時間を忘れて楽しんでいたためか、玲奈が帰ったのは八時、門限から一時間も経ってしまっているのだ。
「やっと帰ったか……」
玄関には腕を組んで仁王立ちをした男――玲奈の父、小早川智哉がいた。娘である玲奈の帰りを待っていたらしい。
「今、何時だと思っているんだ」
「ご、ごめんなさい……」
智哉の威圧に、玲奈は堪らず謝罪する。
「まぁ、いい。先に風呂でも入ってきなさい」
「わ、わかりました……」
玲奈は小走りで洗面所へと向かった。その拍子でポケットから落ちたそれに気付かず。
「む、玲奈の落とし物か。――な、なんだこれは!?」
智哉は玲奈の落としたそれを拾い、中身を見た。そして、驚愕した。
玲奈の落としたそれとは、玲奈が大事にしていたもの――小説のネタを書き集めたメモ帳だった……。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません! 死姫ばっかり書いてました。見苦しい言い訳をすみません。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
玲奈が感じ始めた謎の感情、そして、新たな登場人物である玲奈の父親――智哉。さて、ここからの物語はどう変わっていくのか!? これから、四章は終わりへと近づいていきます。
因みに、五章はやっと夏休みです。多分、書いている頃には夏休みも終わり間近、もしくは二学期始まってますね。嫌だなぁ、学校。休みてぇ……。宿題何一つやってねぇ……。青春過ごしてねぇ……。
まぁ、そんなことはどうでもいいんです。次回は、そこまでお待たせしないようにします!
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




