好きだから
梨花が夜を看病し終わった後、夜はトイレに行くとだけ伝えその場を離れていった。一人になりたかったのか、それともジェットコースターに乗って酔い、その後溺れたために駆け込んだかはわからないが、夜がいないことには変わりなかった。
「おにいちゃん、大丈夫かな?」
「ナイトなら大丈夫だよ。僕にはわかるよ、なんたってナイトは最強なんだから!」
夏希の言う最強というのはあくまでゲームの中での話だ。それに、最強、そして最凶と恐れられているのはナイトとアリスの二人組である、ALICE in Wonder NIGHT(二人の異名)なのだ。現実ではどうなのかはわからないが、少なくともゲームの中では二人は一心同体、二人で一人なのだ。といっても、最強であることは関係ないのだが。
「いいなぁ、例えゲームとはいえ夜クンと二人で一人なんてさ。夏希クンが羨ましいよ」
「ホントよ。でも、羨ましいと言ったら部長の方が羨ましいじゃないですか。夜の彼女になってたんですから」
「まぁ、彼女と言ってもほんの数日のことだけどね……」
確かに、この場で一番羨ましいと言われるべきなのは瑠璃だろう。状況が状況だったとはいえ、夜と数日間という短い期間だったが付き合っていたのだ。しかも、襲われそうになったところを救ってもらう(正確にはあかりに救われた)という二次元のような展開。夜に恋心を抱くあかり達からしてみれば羨ましいを通り越して妬ましいだ。
だが、瑠璃が抜け駆けをしたからといって、誰も瑠璃を咎めたりはしなかった。好きじゃない人と結婚、しかも襲われるという恐怖体験に同情したというのもあるにはあるが、彼女達はお互いのことが好きなのだ。部員同士として、恋の恋敵として、友達として。
しかし、それを知らない玲奈からしてみればこの状況は不思議に思えるのだ。どうして仲が悪くないのだろうと。
「あの、質問いいですか?」
「「「「?」」」」
「みなさんはルナ先輩のことが好きなんですよね?」
「「「「(こくり)」」」」
「なのに、どうしてそんなに仲がいいんですか? この中の誰かがルナ先輩と付き合うかもしれないんですよ?」
玲奈の言うことも一理ある。いくら、お互いのことを好きだからと言って、いつかこの中の誰かが、もしくは他の誰かが夜と付き合うかもしれないのだ。なのに、仲がいいということに、玲奈はずっと疑問を抱いていた。ナギ高では有名な話なのだ。学校では有名な美少女達はみな、ある一人の男に好意を向けている。しかし、その美少女達は険悪どころか仲がいい、と。それを聞いた生徒はみな同じ疑問を抱く。どうして仲が悪くないんだ? と。
そんな玲奈の質問に、いち早く答えたのはあかりだった。
「そんなの、おにいちゃんが好きだからに決まってるからだよ」
「……え?」
「そうだね、みんなナイトが大好きだから仲がいいんだよね」
「そうね、あいつがその、す、好きだからよね」
「私もそうかな」
どうやらそれだけのことだったらしい。普通ならばこれが理由で仲違いするだろう。お互いを出し抜かなくてはいけないのだ。仲良くなんて出来る訳もない。しかし、彼女たちは違う。
「おにいちゃんは、みんなのことが大好きなんだよ。優しいから、特別な人を作れないだけで友達として大好きなんだよ。でも、それとわたしたちが仲がいいのは関係ないかな」
「えっと、なんだっけあれ。バトルするほど……」
「喧嘩するほど仲がいい、でしょ?」
「うん、それ!」
「まぁ、喧嘩と呼べるようなものはしていないんだけどね」
要はそういうことなのである。喧嘩ではないのかもしれないが、夜のことを奪い合っているという点では同じようなものなのかもしれない。
「そういうものなんですか?」
「「「「そういうものなの」」」」
四人はそう言うが、玲奈にはよくわからなかった。それもそうだろう。まったく同じ考えを持つ人間などこの世に一人もいない。
「玲奈さんにはまだわからないよ。好きな人が出来たらわかるようになるかな?」
恋に対する考えは人それぞれだと思うが、少しは理解できるのではないだろうか。恋は人を変えるともいうし、事実、あかりは変わった。その結果病んでしまったとしても、恋をすることによって人は変わることが出来るのだ。それがいい方向に向かうか、悪い方向に向かうかは別としてだが。
「私もわかる日が来るのかな?」
「来るよ。だって、僕たち女の子だもん。いつかはきっと恋に落ちるでしょ?」
夏希の笑う姿は、女の子の玲奈も見惚れるほど可愛らしいものだった。
「? お前等固まって何か話してたのか?」
そこに、黄昏ていたのか、ある意味バトルを繰り広げていたのかはわからないが、帰ってきた夜は固まっていた五人に首を傾げた。
「えっとね、おにいちゃんについてだよ?」
「何それ、嫌な予感しかしないんだけど……」
「ナイトがどんだけカッコいいかって話をしてたんだよ?」
「……まぁ、そういうことでいいか。それで、次は何処に行くんだ? 絶叫マシン以外ならどこでも付き合うぞ?」
「じゃあ、ナイト! 僕とゴーカート乗ってよ! 運転はナイトがしてね?」
「あ、ズルいわよ夏希ちゃん! 私も一緒に何か乗ってよ!」
「梨花クンはさっきジェットコースターで隣だったし膝枕までしていたじゃないか。私は一緒に観覧車をお願いしようかな?」
「あ、観覧車なら私も乗りたいです。取材にもなると思うので」
「はぁ、ったくわかったから早く行くぞ。最初は夏希のゴーカートな」
「やったぁ!」
夜はあかり達だけでなく玲奈の遠慮のなさに呆れながらも嬉しくもあった。最初は途中から入部ということで少し心配していたのだが、その心配は杞憂に終わったようだ。今日の遊園地デート(仮)も楽しめているかどうかわからなかったが、先程のジェットコースターでのはしゃぎ振りと今の楽しみようを見れば楽しんでいるなどすぐにわかる。
とりあえず、夜達は夏希が乗りたいと言ったゴーカート乗り場へと向かった。夜は道中、夏希がゴーカートと言ってくれて助かったと安堵していた。下手をすれば一人で行っていたかもしれないのだ。ある意味で助かった。
ゴーカートは一人乗り用と二人乗り用の二種類がある。殆どの人が二人乗り用のに乗るようだが、並んでいる人は思ったよりも少なかった。やはり、他の人気のアトラクションの所に行っているのだろうか。もしくは、子供用のイベントでもやっていたりするのだろうか。
そんなわけだから、夜と夏希の番はすぐにやってきた。
「お次の方、どうぞ~」
「おし、それじゃあ夏希、行くか」
「う、うん」
スタッフさんの指示通りに、二人は席へと座った。そこで、ブレーキやアクセルの場所などを教えてもらう。知っているとは思ってもいるのだろうが、それでも教えてくれるのはスタッフさんの優しさだろう。
「おにいちゃん、行ってらっしゃ~い!」
出発する前に、あかりが大声を出して手を振っている。その横には同じく手を振っている梨花と瑠璃、そして玲奈。
スタッフさんは何かを察したのだろう。でなければこんなことを言うはずがない。
「隣の彼女さんを大切にしないと愛想を尽かされますよ?」
スタッフさんは夜の耳元でそう呟いた。夜は彼女と呼ばれた夏希の方では無く、あかり達の方を見た。今、夜はスマホを持っている。そこには確か、色々な器具があかりの手によって取り付けられていたはずなのだ。因みに、取ってもらえるよう頼んだところ、嫌だの一言だった。
夜の嫌な予感は結構当たる。今回も、どうやら当たっていたようである。
「へぇ、夏希がおにいちゃんの彼女かぁ……」
夜はこの瞬間、すべてを察した。あ、終わった、と。
「それじゃ、行こ? ナイト」
「あ、あぁ、そうだな……」
夜は頬を引き攣らせながら、隣で子供のようにはしゃぐ夏希を見た。とても嬉しそうである。そして、あかりを見る。あぁ、目が死んでる。スマホ持たなければよかった、と後悔した。そして、スタッフさんに、そんな優しさはいらないですから! 下手したら俺が死んでしまいます! と心の中で叫ぶのだった。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。楽しむ要素がない気がしますが。
今回は、何と言えばいいのかわかりませんが、とりあえず、どうして仲がいいのかという根本的な問題になるのかな? を書いてみましたが、書いて気付く。どうしてこんなに仲いいの? ってw 友達ってすごいですね。まぁ、あの四人の場合、遠慮がないからいいんでしょうけど。
えぇと、前話に書いたと思いますが、アンケートを実施中です。流石にこれは書いてもらえないとキツイです。投票が一つもなければ絶対に夏希になってしまいますw 俺が一番好きなのが夏希なのでw あかりじゃないのかよ! というツッコミは野暮でしょう。わかるでしょ? 一章と二章がいい例ですw
さて、話が逸れましたが今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




