愛しい人の手の温もり
電車内で痛い視線や言葉を頂戴しながらも、夜達を乗せた電車は無事に遊園地の近くにある駅に到着した。非難されまくった夜の心は無事では無いようだったが。
膝枕してもらって満足しているあかり、夏希、梨花、瑠璃。そして、心の底から疲れ切っている夜とその後ろからついてくる玲奈。電車内で、玲奈に助けを求めたのだが、軽くあしらわれてしまった。助けられていても困ったのだが。
「ヒドイ目にあった……」
「ルナ先輩が素直に膝枕するからですよ?」
「でも、あの四人だぞ? 拒否したら……」
「ルナ先輩が危うく昇天しますね」
「やっぱそうなるよな……」
きっと、夜があかりを膝枕したときから他の三人を膝枕しなきゃいけないと決まっていたのだ。別に、夜が必ずしも膝枕をしなくてはいけないなんて決まりはない。しかし、あのヤンデレ気質の四人のことだ。いつ目からハイライトを消すかわかったものじゃない。女の子は怖いのだ。特に、色恋に関しては……。
きっと断ったら「ねぇ、何で? 何で私(僕)にはしてくれないのかな? ねぇ、何で?」と詰め寄られること間違いなしである。あの無機質な目で見つめられるとかなり怖い。慣れてきたとは思っていたのだが、慣れないのである。慣れるものでもないと思うのだが。
「まぁ、いいんだよ。あいつらが楽しければ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものなの」
つまりはそういうことである。結局は、四人が楽しければそれでいいのだ。楽しめれば何でもするというわけではないが、自分に出来ることならなるべくやってやるつもりだ。今日の遊園地デート(仮)だってそうだ。三人のデートという約束も守れるし、玲奈の小説のネタ集めにもなるし、自分も楽しめると言えば楽しめるはず。一石三鳥だ。まぁ、この遊園地であの三人が満足するかと言われれば首を捻ることにはなるが。
そうして、駅から歩くこと数分。目の前に目的地とする遊園地が見えてきた。メインシンボルでもある観覧車はこの辺では一番大きい観覧車で上から眺める夜景は絶景とのことだ。ジェットコースターも人気のアトラクションのようだ。うっ、頭が……。
「さてと、チケット買いに行くか」
夜が受付まで向かうべく歩こうとすると、五人はタイミングを見計らったかのようにその場で止まった。夜は嫌な予感を覚えながらも突然の行動の理由を聞く。
「なぁ、なんで止まったんだ? チケット買いに行くんじゃ」
「おにいちゃん、今日はデートなんだよ? そしたらね? 彼氏であるおにいちゃんがすることは決まってるよね?」
どうやらそういうことらしい。他の三人もうんうんと頷いている。約一名は少し恥ずかしそうに俯いていたが奢ってもらうことに変わりは無いらしい。
夜はため息を吐きながら財布の中身を確認した。そして、もう一度深いため息を吐く。
(今月の小遣いは今日でなくなりそうだな……)
遊園地のチケット一+五人分の出費は高校生にはきつかったようだ。
夜が財布の中身を小銭だけにした後、最初に何に乗るのかという議論が女子の中で繰り広げられていた。全部乗ればいいだろと夜が言ったところ、全部乗れないんだからちゃんと考えなきゃ! とのことらしい。女の子の気持ちはわからないものだ。そもそも、わかる男などいるのだろうか……。
「僕はあれに乗りたい! 高く上がって落ちる奴!」
「最初からそれは嫌よ。ここはメリーゴーランドとか」
「梨花クンは子供だなぁ。だから胸も小っちゃいんだよ?」
「それは部長もそうでしょうよ!」
「私は絶叫マシン以外がいいです」
「じゃあ、わたしジェットコースターに乗りたい。乗った後のおにいちゃん可愛かったし」
あかりの言葉に、三人がぐいんと首を回して夜の方を向いた。その目はドウイウコト? と物語っていた。それを見た小さい女の子が泣きだしている。早く止めなさい。軽くホラーだから。女の子がしちゃいけないような顔になりかけているから。
「どういうことも何も、俺が絶叫系嫌いなのにあかりが無理やり連れてったんだよ」
「その前に、どうしてあかりと二人で遊園地に行ったの? ねぇ、何で?」
「そうよ、夜。どうしてあかりちゃんと二人きりで行ったのよ。私たちは?」
「いや、俺が中三の時の話だぞ? 夏希はともかくそれ以外を誘うのは無理だろうが」
夜の絶叫マシン克服のために絶叫マシンに乗り続けたあの地獄。思い出しただけで吐き気がする。あの時は、危うく死にかけるところだった。一回だけ花畑が眼前に広がっていたような気もする。
結局、じゃんけんで決めたところ絶叫マシンになったようだ。夜は断固否定したのだが、無事に連行された。苦手そうな玲奈に助けを求めたところ、目をキラッキラにさせていた。あれ? さっき私苦手です的な事言ってなかったっけ? ねぇ、おかしくない? と夜が内心、泣き叫んだのは言うまでもないことだった。夜に味方はいなかったのだ。あかり達に、慈悲は無かったのだ……。
席は熾烈な争いにより夜の隣には梨花が座ることになった。しかも、一番前の席だ。後ろからの視線は物凄く痛いが、今はそれどころではない。どうして一番前なのだ!
「なぁ、梨花。どうして一番前なんだ?」
「一番楽しいからに決まってるじゃない」
梨花さん、夜が絶叫マシンが無理だということを完全に忘れていらっしゃる様子。心から楽しんでいることが梨花の満面の笑みから見て取れる。梨花に悪気はないが、それでもふざけるな! の一言や二言は言いたい。
「皆様、シートベルトは確認しましたね? それでは行ってらっしゃ~い!」
夜には「行ってらっしゃ~い!」が「逝ってらっしゃ~い!」にしか聞こえなかった。あれ? デジャヴを感じる。そうして、夜の死刑宣告が下され、コースターはゆっくりと急な坂を進んでいく。この道を終えれば、そこが夜の死刑台、そして死刑の瞬間だ。
刻一刻と死刑台に近付いていく。横では梨花がわくわくしている。
夜が気付いた時には梨花の手を握りしめていた。
梨花は突然のことに驚きつつも、握られたことが恥ずかしいのか頬を赤く染めている。
「よ、夜!?」
「わ、わるい。少し握っててくれ……」
普段の夜なら絶対に言わない言葉。今だからこそ、夜が零してしまった弱音。それが、梨花にはたまらないほどに愛おしくて、可愛らしくて。胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
梨花は夜の手を握りしめ、
「ちゃんと握ってるから」
そう優しく言った。直後、夜達を乗せたコースターは坂を下った。というよりは、崖から落ちたという表現が正しいのでは? と思う程の速さで坂を下っていった。その間、夜は目をぎゅっと瞑っており、梨花の手もぎゅっと握った。
梨花は、そんなことをしている場合ではないとはわかっているものの、夜の普段は見せない弱さが何とも言えない程に可愛くて頬を更に赤に染めていた。
一方、三人から溢れるは濃密になる殺意殺意。一緒に乗っている人が小刻みに震えていたような気もしたが、それは夜の気のせいだろう。気のせいったら気のせいなのだ。
そうして、地獄のような、否、夜にとっての地獄は終わり、地上へと帰ってきたのだった。
夜が口から何かを吐き出している間、梨花は、
(夜の手、ちゃんと男の子の手で温かいんだなぁ……)
と、そんなことを思うのだった。
ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。
さて、更新日が遅れてしまい申し訳ありません。死姫の方を書いていました。
まぁ、連載開始一週間ということもあって毎日投稿していましたが、これからは三日に一回、四日に一回になるのかな? 展ラブもそのくらいでしょうね。出来るだけ早く投稿はしますが。
さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。
丁度一か月前くらいに似たようなものを読んだ記憶があるかもしれませんが、俺自身まさかこんな早い段階でかぶるとは思いませんでした。キャラが勝手に動くってよくあるよね?
さぁ、今回は出番の少ない梨花と夜のシーンでしたが、梨花可愛いと思ってもらえたのなら嬉しいです。
さて、今回はこの辺で。
近々、アンケートを取るつもりなのでご協力をお願いします。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。




