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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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助けるために

「いつまで抱き着いてるんですか部長」


 なんだかいい雰囲気を醸し出し始めた二人に待ったをかけるかのように、調子乗ってんじゃねぇと叩き落とすかのように、さっさとおにいちゃんから離れてと嫉妬心剥き出しの冷たい声音が響く。


 夜と瑠璃はびくりと肩を震わせ、声のした方へと視線を転じればそこには……。


「な、なんであかりクンが……!?」


 光などまるで最初から存在しなかったかのような漆黒に染まった瞳でじーっと夜と瑠璃を見つめる、正確には睨みつけるあかりの姿があった。


 まさかの人物の登場に、瑠璃は何でここにいるの!? と思ったことをそのまま口にする。


 しかし、その反応も当然と言えば当然だろう。


 本来ならばここにはいないはずの人間(あかり)が、何故か目の前にいるのだ。むしろ、戸惑わないほうがおかしい。


「おにいちゃんを追いかけて来ました」

「え? 追いかけてきた……?」


 まるで当然でしょ? と言わんばかりにあっけらかんと言うあかりに対し、やっぱり訳がわからないと瑠璃は益々困惑する。


 もっと詳しく教えてほしい、出来れば理解出来る範囲で説明してほしい瑠璃。


 しかし、あかりは口を閉ざしたままで、何かを言う気配すらない。面倒だからなのか、それとも言うべきことは言ったからなのか、その理由は定かではないが。


 このままでは埒が明かない。なので。


「どういうこと? 夜クン……」


 あかりを見ても驚いていなかったし、おにいちゃんを追いかけてきたというあかりの発言から察するにいろいろと知っていそうな夜に説明を求める。


 聞かれたからには答えなくてはいけない。それが礼儀というものだろう。


 だが。


「瑠璃先輩、今はそれどころじゃなさそうです……」


 それどころじゃないと言う夜はどこか焦燥感に駆られていて、頬を冷や汗が伝っていた。


 瑠璃は夜が見ている何かを視界に捉え、はっと我に返った。


 夜が来てくれたことに対する嬉しさや喜びが、忘れ去りたかったことを一時的ではあるが忘れさせていた。現実逃避をしてしまっていた。


 この場にいるのが瑠璃と夜、そしてあかりだけではないということを。


 つい先程まで、自分がどんな目にあっていたのかということを。


「――な、んで……」


 突然の事態に困惑していて放心していたが故なのか、はたまた空気を読んで何もせずにいたが故なのか。まぁ、おそらく後者はないだろうが、今まで押し黙っていた賢二がぽつりと零す。


「何でテメェがここにいやがる!?」


 目を剣呑に細め、怒りを露わにして喚き散らす。


 邪魔をされたことに怒りを抱いているのか、それとも他のことに対してなのか、それは当事者である賢二にしかわからないが、正直どうでもいい。知る必要なんてないし、そもそも知りたくもない。


「何でって聞いてんださっさと答えろ!」


 無視するなと言わんばかりに、同じことを問う賢二。


 何故、ここにいるのか。


 そんなもの、決まっている。決まり切っている。


「――瑠璃先輩を助けるためだ!」


 真璃に助けてあげてほしいと頼まれたから。


 悲しむ姿を見たくない、悲しませたくないから。


 大切な仲間で、大切な先輩で、大切な友達で、大切な人だから。


 だから、自らを犠牲にして、自らの心を殺して嘘を吐いて、自分の人生よりも大切な人達の人生を優先するような優しい女の子――瑠璃を助けるために、夜はこの場にいるのだ。


 そう声高らかに宣言する夜に、賢二は鼻で笑う。


「助ける? まるで、勇者か王子にでもなったかのような口振りだなァ? 粋がってんじゃねぇぞ三下ァ!」

「じゃあ、お前はお姫様を攫った魔王かドラゴンってところか? ……いや、それじゃあ魔王とドラゴンに失礼か。盛りに盛った魔物の方がお似合いだな」

「……急に何言ってんだテメェ……?」


 は? コイツ何言ってんの? と困惑顔の賢二。そして、同じように困惑しているあかりと瑠璃を見て、夜は自分の発言が如何に恥ずかしいものなのかを自覚する。


 賢二に臆さないためだったとはいえ、心の奥底に眠る中二病だった頃の自分を呼び出したのがどうやら仇となってしまったらしい。


 穴があったら入りたいし、今すぐにでも何やってんだ俺! とのた打ち回りたいが、ぐっと堪える。そんなことをしている場合ではないのだから。


 賢二はため息交じりにやれやれと言わんばかりに肩を竦め……ニヤリと嗤った。


「そもそも、テメェの言ってることはおかしいんだよ。俺は別に攫ってなんかねェ。その女は俺のモノになったんだ。そういうテメェの方が人攫いだろうが! 俺のモノを勝手に奪ってんじゃねぇよ!」

「瑠璃先輩はお前の……いや、誰のものでもない! 瑠璃先輩の人生は瑠璃先輩のものだ!」


 結婚したからと言って、相手のことを、相手の人生を自分の好き勝手に出来るわけではない。


 だというのに、あろうことか賢二は瑠璃のことをモノ扱いしている。自分の好き勝手にしていいと思っている。瑠璃の権利を、人生を平気な顔をして踏み躙っている。


 そんなの、許せるわけがない。


 もちろん、物事の捉え方や考え方なんて星の数とまではいかなくとも、その名の通り人の数だけあるだろう。


 だから、そのことに他人が口出しをするなんてお門違いもいいところだろう。


 だが、そんなことはわかっている。承知の上だ。


 それでも、そうだとしても。許せないものは許せない。


「――お前こそ、瑠璃先輩の人生を勝手に奪うな!」

※2020/02/05に三章改稿に伴い割り込み投稿しました。

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