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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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好きなのはただ一人

 小さくなってしまった夜の背中を引き留めることが出来ずに見送ってしまった後、真璃はというと……。


「今すぐここを開けなさい、瑠璃。聞きたいことがあります」

「……いや」


 まるで何かから逃げるかのように部屋に閉じこもった瑠璃に問い質そうと、部屋に押しかけていた。正確には、押しかけてやりたいのに部屋に入ることが出来ないでいた。


 瑠璃の部屋には鍵はないはずなのだが、家具か何かで塞き止められていて中に入ることが出来ないのだ。


 無理矢理こじ開けるという選択肢もあるにはあるが、真璃にそんなことは出来ないため、誰か男の人に助けを求めるしかない。


 だが、来てくれたのが隆宏や賢二だったら話がややこしくなるし、きっと瑠璃の本音を聞くことが出来ない。だから、選ぶに選べない。


 話をする、聞くだけなら壁越しだろうが襖越しだろうが可能ではあるだろう。


 だが、しっかりと顔を合わせて、目を見て話をしないと、瑠璃の言葉が本当か否かがわからない。


 声色で判別がつくかもしれないけど、真璃は瑠璃にしたいことがある。してやりたいことがある。


 そのためにも、瑠璃にはさっさと扉……じゃなくて襖を開けてもらわなくてはいけないのだ。


 だが、瑠璃に開ける気も部屋から出る気もないようだった。


 真璃はため息を吐き、独り言ちるかのように瑠璃に声をかける。


「……夜月君に聞きました。結婚することにしたそうですね」

「……」

「それも、瑠璃のために頑張ってくれていた彼を捨てたとか」

「す、捨ててなんか……!」

「同じでしょう。あれほど優しい男の子を、あなたは切り捨てた。ほら、違わないでしょう?」

「――っ……」


 真璃の的を射た反論に、瑠璃は何も言えない。


 そもそも、言えるわけがない。だって、まさにその通りなのだから。


 頼ってほしいと、一緒に帰ろうと、背中は任せてと言ってくれた優しくて、カッコよくて、大好きな男の子()が差し伸べてくれた手を、瑠璃は払いのけたのだ。真璃の言う通り、切り捨てたのと何ら変わりない。


「夜月君も可哀そうに。目元が赤くなっていましたし、あなたに裏切られたのが相当辛かったのでしょうね……」

「……」

「でも、もうあなたには関係のないことでしたね」

「よ、夜クンは……?」

「帰りましたよ」

「え……?」


 今なんて言ったの……? と瑠璃は真璃に聞き返す。


「帰ることにしたそうです。何も言ってくれなかったと、悲しそうに笑っていました」


 悲しそうに笑っていた、その事実がより一層瑠璃の心を締め付ける。


「それと、夜月君から伝言を頼まれました」

「よ、夜クンはなんて言ってたの……?」


 夜から預けられた伝言を、瑠璃は恐る恐る真璃に聞く。


 聞きたくない、けれど聞きたい。否、聞かなくてはいけない。


 さぞかし嫌われたことだろう。


 さぞかし恨まれることだろう。


 真璃が夜に頼まれた伝言というのも、怨嗟や恨みつらみが込められた悪口かもしれない。


 それでも、瑠璃は聞かなくてはいけない。逃げるわけにはいかないのだ。


「……今までありがとうございました、だそうです」


 交わした約束を踏みにじってしまったというのに。


 心をズタボロに傷付けてしまったというのに。


 嫌われてもおかしくないことを、恨まれても仕方のないことをしたというのに。


 最後に伝えたかった言葉が、ありがとうだなんて……。


「――行かなきゃ……!」


 誰も入れないように襖の前に移動させた箪笥をどかして、部屋を飛び出す。


 今すぐに追いかければ、もしかしたら……!


 そう考えて、走りだそうとして。


「どこに行くのですか?」

「は、離してっ!」


 真璃に引き留められた。


 離してと、行かせてと、腕を振り解こうとしても、真璃は離してくれない。


「夜クンのところに……」

「行かせませんよ。決して」

「なんで!?」

「当たり前でしょう。あれほど優しい男の子を傷付けておいて、泣かせておいて。これ以上、夜月君を傷付けさせるわけにはいきません」

「そ、そんなことしない……! だからっ」

「いい加減にしなさい!」


 ぱちぃん! という音が廊下に響き渡る。


 目を白黒とさせながら、瑠璃はそっと叩かれた頬をなぞる。


 ひりひりする。今まで叩かれたことがなかったから、初めての痛みに思考が途切れる。


「痛いでしょう? でも、夜月君があなたに受けた痛みはこんなものではありません」

「……お、かあさん……」

「叩いてしまったことは謝ります。ですが、こうでもしないとあなたは夜月君のところへ行っていたでしょう」


 そう言われて、瑠璃は否定出来ない。


 確かに、無理矢理にでも振り解いて夜のところへと走りだしていただろうから。


「ですが、これではっきりしました。あなたが好きなのは夜月君であることが」

「そ、それは……」

「誤魔化す必要はありません。夜月君の手を振り払って結婚することにしたあなたが、夜月君のところに自ら行こうとはしないでしょう?」


 真璃の正論に、ぐうの音も出ない瑠璃。


 きっと、どれだけそれっぽい理由や理屈を並べ立てても、夜に対する想いは絶対に誤魔化すことは出来ないだろう。


「本音を聞かせてください。あなたは、誰が好きなのですか?」

「……わ、たしは……」

「はい。私は?」

「よ、るぐんが……夜クンが好きぃ! 大好きなのぉ!」


 今まで精いっぱい押し殺していた感情が、ダムが決壊したかの如く涙となって溢れ出した。


 今までも、そしてこれからも。瑠璃が好きで好きで仕方がないのは、大好きなのは夜ただ一人なのだ。


 約束だってちゃんと覚えてる。


 頼りないと言ったのも、何も出来ないと言ったのも、全部全部嘘だ。


 楽しくなかったわけがない。つまらなかったわけがない。


 それに、瑠璃が幸せだと思うのは夜の隣だけだ。他の男なんかと幸せになれる気がしない。


 だけど……。


「でも、でも私は……!

「さてと、それでは聞かせていただきましょうか? どうして、あなたが心を殺してまで夜月君に嫌われようとしたのか……いいえ、隆宏さんに何を言われたのかを」


※2020/11/11に三章改稿に伴い割り込み投稿しました。

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