後悔という名の杭
星城家の門を潜り抜けた夜はバス停へと向かっていた。
足取りは重く、軽かったはずの荷物が何故だか重たく感じる。
だけど、その理由に夜は薄々気付いていた。
瑠璃に裏切られた。その事実が、ただひたすらに夜の心を切り刻み続けている。
もちろん、今でも瑠璃があんなことを言うはずがないと、嘘だったと信じている。いや、正確には信じたいのだ。
一年という人によっては感覚が違うだろうが長くも短い月日を瑠璃と過ごした。
ゲームをして廊下に声が響くほど盛り上がったり。
アニメを見て好きなキャラで対立したり。
無謀と承知の上で二人でギャルゲーを作ろうとして開始十秒で諦めたり。
部活とはいえ設立して間もないせいで碌に部費も貰えず、二人で慣れない短期バイトをして部費に充てたり。
貯まった部費を湯水の如く使ってすぐに後悔したり。
そんな笑って、泣いて、笑って、怒ったあの日々が、夜は楽しくて楽しくて仕方がなかった。
瑠璃が楽しかったかどうか、それは夜にはわからない。だって、それがわかるのは世界中でたった一人、瑠璃自身なのだから。
だけど、楽しくて浮かべた笑顔が、感動のあまり流した涙が嘘だったとは、夜にはどうしても思えないのだ。
だからこそ、約束を踏みにじられても、ズタボロに傷付けられても。心のどこかでは信じたいと思っている、否、信じ続けているのだろう。
しかし、一度受けた傷がすぐに癒えるわけがない。
故に、未だに心が締め付けられているかのように痛いし、思い出すだけで女々しいことこの上ないが泣きたくなる。
もし、夜が今自宅にいたとしたら、恥も外聞もなく泣き喚いていたことだろう。ご近所迷惑にならないように枕に顔を埋めながら。
それで気が晴れるわけがない。傷が癒えるわけもない。
だから。
家に帰って、思う存分泣いて、泣いて泣いて泣き喚いて、気が済んだら今回のことは、否、瑠璃のことは忘れよう。
それが、瑠璃のためなのだと、「絶対に違う!」「忘れたらだめだ!」と煩い本音を無理矢理覆い隠して、自分に言い聞かせよう。
そうすれば、いつの日か忘れることが……。
「――出来るわけないだろ……!」
きっと、夜は一生忘れることは出来ないだろう。
心の傷が癒えるわけないし、瑠璃のことを忘れられるはずもない。
だって、夜は先の自分の行動を悔いているから。
瑠璃があんなことを言うわけがないと信じていたはずなのに。
何かしら事情があったに違いないと信じていたはずなのに。
夜は最後の最後まで、瑠璃のことを信じ切ることが出来なかった。
その悔いが、夜の心に一生外すことの出来ない杭を差し穿つ。
「――瑠璃先輩……」
もう二度と、会うことがないであろう先輩の、友達の名前を呼ぶ。
もちろん、彼女からの返答は……ない。
ただ、夜の耳に届いたのは。
「――おにいちゃん……」
ここにはいないはずの、あかりの声だった。
※2020/11/12に三章改稿に伴い割り込み投稿しました。




