表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
1章 ヤンデレ妹は兄を追いかけて入学して来たようです。
10/339

持つべきものは不安を打ち明けられる幼馴染

「はぁ……」


 懲りずにまたもため息を吐く。


 ため息を吐いたら幸せが逃げるとはよく聞く話ではあるが、実際は身体をリラックスさせる効果があるらしい。


 まぁ、だからといってため息がいいものかと問われれば「本当に?」と首を傾げるだろうし、その効果も本当かどうか疑わしいが。


 だって、まったくリラックスできてないし。むしろ、ため息をするようになってから肉体的疲労も精神的疲労も増えたような気がするし。


 しかし、それもそのはずで。夜がため息を吐くようになったのは主にあかりが原因である。つまり、ストレスが元凶というわけだ。


 ストレスから零れるため息が身体にいいわけがなく、リラックス効果を及ぼしてくれるわけもないのだ。


 じゃあストレス以外でため息吐いたりするのかと思わなくもないが、十人十色なこの世界、きっとどこかにはストレス以外の理由でため息を吐く人がいるはずである。多分。


「せっかくの新学期だっていうのに、辛気臭い顔しちゃてどうしたのよ」

「なんだよ、梨花……」


 夜が顔をあげてみれば、目の前には。


 肩まで伸びる茶髪を靡かせ、おしゃれな感じで制服を着崩し、日本人らしからぬ透き通った碧眼を夜へとむける少女――|柳≪やなぎ≫|梨花≪りか≫が立っていた。


「なんだよとはなによ、幼馴染みにむかって」

「言葉の通りだよ……というか、幼馴染関係ある?」

「あるに決まって……あれ?」

「ないのかよ」


 自分でも何を言っているのかわからなくなったのだろう、困惑している梨花にふと笑みがこぼれる。


 夜と梨花は幼馴染というやつである。といっても、生まれて間もない頃からというわけではなく、家が隣同士というわけでもない。ただ、親同士が仲が良くて、小学生の頃くらいからよく一緒に遊んでいた仲なだけ。


 だから、正しくは腐れ縁というやつなのかもしれない。


 だが、そもそも幼馴染の定義自体が曖昧なのだし、幼い頃から仲が良くて今もなお関係が続いている間柄のことを幼馴染というのならば、夜と梨花の関係も幼馴染といえるだろう。


「それで、何かあったの? ため息ばっか吐いて」

「まぁ、ちょっとなぁ……」

「もしかして、あかりちゃんのこと?」

「あれ、俺あかりのこと言ったか?」


 梨花は幼馴染だ。もちろん、夜にあかりという妹がいるということは知っている。


 というか、夜がクラスで孤立していた時に普段と変わらず接してくれた友人二人のうちの一人は何を隠そう梨花なのだ。知らないはずがない。


 しかし、今改まってあかりのことを聞くということは、夜が今まさにあかりのことで悩んでいると思ったからに他ならない。


 つまり、梨花は今現在あかりと夜が一緒にいるということを知っているということなのだ。


 夜は教えていない。あかりも違うだろうし、あおいと浩星でもないだろう。


 だとしたら、一体誰が……?


「パパから聞いたのよ」

「あぁ、なるほど……確かに知っててもおかしくないか。理事長(、、、)だし」


 梨花の父親から聞いたという返答に得心がいったとうなずく夜。


 だって、梨花の父親――(やなぎ)慎二(しんじ)は、夜たちの通う柳ヶ丘高校の理事長なのだから。


「‥…って、いやちょっと待て。いくら知り合いとはいえプライバシー侵害してないか? 理事長としてやったらダメなことしてない? 大丈夫?」

「流石にパパだってそんなことはしない‥…はずよ? 夜のお父さんに聞いたって言ってたしね」

「あ、なるほどね?」


 確かに、あおいと浩星が梨花に伝えるのはおかしいが、慎二に伝えるということなら何もおかしくない。娘が通おうとしている高校の理事を友達が務めているのだ、よろしくお願いするのはもはや当然と言えるだろう。


「それとこれもパパが言ってたんだけど、新入生代表のあいさつもするんでしょ?」

「え、なにそれ俺知らない」


 唐突に、突然に告げられた衝撃の事実に、夜は目を丸くする。


 新入生代表とは、その名の通り新入生代表である。そのままとか言わない、だってそのままなんだもん。


 どうやって代表を選考しているかはわからないが、基本は成績優秀者が、それこそ受験の際の試験で一位だった生徒とかが選ばれるのだろう。


 だとしたら、あかりが選ばれるはずがないのだ。だって、バカだし。勉強できないし。ダメ元で受験させてあげたとあおいと浩星が言うくらいのバカだというのに。


「あれ、もしかしてあかりちゃんから聞いてなかった? どうしよう、ヒミツとかにしてたのかな……? ねぇ、夜。今の話なかったこととかにできない?」

「ごめん、無理」


 流石に衝撃的過ぎて忘れるなんて出来そうにない。


 どうしてだろう。話したら楽になると、悩みを打ち明けたら少しは気分が晴れると思っていたのに、結果は何も変わらなかった。


 いや、変化はあった。少し気分が悪くなるというマイナス面での変化が。


「……ごめん、ちょっと気分転換に外の空気吸ってくる……」

「う、うん、わかった……けど、ちゃんと時間には教室戻ってきなさいよ?」

「大丈夫大丈夫ちゃんと戻ってくるから……」


 屋上にでも行って外の空気を吸おうと、なんなら寝転がって青空見ながら気を紛らわそうと、夜は教室をあとにした。


 因みに、梨花の「外の空気吸ってくるって……窓開けたらいいんじゃないの?」という至極まっとうなツッコミは聞こえていない。聞こえていないったらいない。そういうことじゃない!

※2023/01/29に改稿に伴い割り込み投稿しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ