第91話 ガディアスの能力と解放される魔眼
精霊樹を救い、帰ろうとした雄也達の前に立ちはだかる竜人族の知将。ガディアスは自身の里を滅ぼした相手が聖魔の巫女、ビクトリア・ホワイトであり、その娘がレイアだと雄也達へ告げる。
ガディアスから思ってもみない事実が告げられ、困惑する雄也達。
「お言葉ですが、私は聖魔の巫女にお会いした事もありません。残念ですが、竜人族の里と私は関係がございません」
「まぁよい、銀髪侍女よ。嘘をついているかどうかは戦ってみたなら分かる事よ」
ガディアスはレイアへ向けてそう告げると、静かに目を閉じる。
「レイアさん、駄目だ。恐らくこれ以上は話が通じない」
「雄也様、一筋縄ではいかない相手です。危なくなったら逃げて下さい」
「え?」
まさかのレイアの発言に驚く雄也。
「ガディアスの目的は私、雄也様達は関係ありません。戦って分かる相手ならば、きっと大丈夫です」
「いや、レイアさん。一緒に戦う。俺はもう逃げないから」
「……雄也様」
「雄也! 来るよ」
パンジーの呼びかけに雄也達がガディアスを見つめる。
「話合いは終わったか。では行くぞ!」
ガディアスが両手の剣を持ったまま迎撃態勢を取った瞬間……!
「お前等下がってろ、行くぜ! 大地断絶割!」
雄也達の前にゴルゴンが立ち、斧を地面へ打ちつけた瞬間、大地の裂け目がガディアスへ向け一直線に走る。さらには裂け目に沿って地面が隆起し、崩れた地盤が弾丸のように竜人を襲う!
剣を持ったまま腕をクロスさせ、隆起した地面よりも高く飛び上がるガディアス。よく見ると右手に持っている赤い刀身の剣が光っているように見える。
「雄也!」
「攻撃透過、接続! 花ノ生命ヨ、我ニ力ヲ! 花妖光弾!」
パンジーが素早く雄也の背後より妖気力を送り、雄也が花の生命力が籠った水弾を空中に居るガディアスへ向け放つ。空中なら回避不能、そう考えたからだ。しかし、この後放たれるガディアスからの攻撃に、雄也達は驚く事になる。
「竜剣、右刃 ――龍炎刃」
翠色の光に包まれた光弾をガディアスが右手の剣をひと振りした瞬間、強力な炎が一直線に放たれ、光弾が呑み込まれる! 相殺されずに残った火焔流が雄也達へ向かって襲いかかる。
「悪しき者より我等を守りたまへ! 光源の衣」
パンジーと雄也の前に素早くレイアが立ち、炎を防いだ、のだが……! 彼女の前にガディアスの剣が迫る。二刀流の剣を高速移動としなやかな身体の動き、短剣で見事に捌くレイア。
「その精練された動き、やはり只者ではないな」
「ガディアスと言いましたね。貴方の先ほどの技、火妖精が扱う龍炎刃ですよね?」
ガディアスの剣圧に若干気押されつつも、すんでのところで回避しつつ、レイアが問いかける。髪に剣先が触れ、数本の銀髪がはらりと落ち、燃え屑となる。そう、雄也も同じ事を考えていた。恐らくパンジーもだ。先ほどの炎の一閃、ファイリーが放つ龍炎刃と全く同じだったのである。
「火妖精の扱う龍炎刃は火精霊の力を借り、妖精が扱えるように改変したもの。小生が使う龍炎刃が始祖よ」
「レイアさん、下がれ! 隆起土撃!」
ゴルゴンの呼びかけに応じ、レイアが背後に下がる。素早くレイアに迫ろうとしたガディアスのサイドより、隆起した地面がぶつかり爆発が起こる。
「よし、当たった!」
「いや、まだだ!」
雄也が直撃した様子を確認し叫ぶが、ゴルゴンは既に爆発し土煙があがる場所へ向け走り出していた。その瞬間、隆起し、瓦礫の山と化していた場所から強力な爆風が放たれ、瓦礫が吹き飛ぶ! いや、爆風ではなく、それは、ガディアスの剣圧だった。直撃したハズの隆起土撃だったが、ダメージを与える事は出来ない。
「――疾空戦斧」
放たれた斧を二本の剣で弾かれ、戻って来た斧を掴むゴルゴン、そのままガディアスへ突撃しようと試みるが……。
「なっ、しまっ……」
「まずは一名……」
刹那一閃、ゴルゴンの身体から赤い血飛沫が舞う。彼がガディアスへ迫る直前、竜人は左手の剣を地面に突き刺し、周囲の地面を凍らせていたのである。ドワーフの両足は凍り、身動きが取れなくなった瞬間、右の剣で焼き斬られるゴルゴンの身体。
「く、くそっ!?」
ガディアスが左の剣を地面から引き抜き、氷が解け、力なく倒れるゴルゴン。
「ゴルゴンさん!」
「雄也、止まるな! 準備出来たよ! 麻痺乱射!」
パンジーが空中から麻痺追加の籠った矢を放つ。走りながら熟練の剣捌きで降り注ぐ矢を打ち払い、回避するガディアス。しかし、走った先で突然、地面が爆発する!
「なるほど」
爆音と土煙があがる中、ガディアスの声が響く。
「―― 光晶石、セット、光源水弾!」
「―― 高位光源弾」
地面による爆発は、ゴルゴンと戦っている間にパンジーが臨時に創り出した種子爆弾による地雷だった。短時間で全範囲へ地雷を配置する事は不可能だったため、一部の地面へ地雷を作り、空中からの攻撃でガディアスを誘導する。地雷による爆発を受けた隙をつき、両サイドから雄也とレイアによる浄化攻撃。見事な連携だった。
「さすが、ナイトメアやリリスを倒しただけはある。流れるような動き、いい連携をしている」
かすり傷がついているようには見えるが、全くダメージを受けていない様子のガディアス。
「どういう事でしょう。傷が浅いだけなら分かりますが、負の妖気力を全く感じられない。雄也様の光源水弾はナイトメアにすら効いた技。負の妖気力を直接減らす事が出来るはずですが……」
「簡単な事であるよ、銀髪侍女よ。小生は負の妖気力を持っておらぬ」
「な!?」
「え?」
「竜人族は本来、妖魔や悪魔と同じ厄災と勘違いされがちだが、大半は正の妖気力で構成されておるのだよ。負の妖気力で構成されたドラゴンは、悪魔へ魂を売ったものや、妖魔と結びつきが強かった魔竜くらいのものだ。小生に浄化による攻撃は効かぬよ」
「どうりで妖気力を感知出来ないはずです。益々貴方が敵側についている理由がわかりません」
「さっき、竜人族は滅んだと……聖魔の巫女が滅ぼしたと貴方は言いました。過去に何があったのですか?」
レイアと雄也が疑問を口にする。
「人間の青年よ、そこの銀髪侍女に聞いてみたらどうだ? 竜人族が先に仕掛けたという理由で聖魔の巫女が、我が里を一瞬にして塵にしたのだよ。かろうじて残った一族を今の主が拾ってくれたのだ。今は一族を根絶やしにした聖魔の巫女の一族、引いては妖精に報復する事……これが小生が果たすべき使命なのだ」
レイアは出生の過去を知らないという。聖魔の巫女の娘だとしても、彼女には幼い頃の記憶がない。聖魔の巫女と竜人族の間にある因縁など関係ない話なのだ。それに聖魔の巫女は、十六夜さんの話によると四大巫女だったはず。そんな四大巫女が竜人族の里を滅ぼす……なんて事をするのであろうか?
「貴方の里を滅ぼした相手、本当に聖魔の巫女だったのですか?」
「おい……さっきから聞いてりゃ……あのビクトリアが……そんな事する訳ねーぜ……」
雄也の質問に重ねて先ほど斬られたゴルゴンが滴る血をそのままに立ち上がっていた。
「ゴルゴン様、今すぐ回復致します!」
「いや……こんくらいで俺はまだくたばらねーよ。おい、ガディアスと言ったな! 俺はな、かつて勇者シュウジのお付だったんだ。そう言えば分かるだろう!」
「なるほど、ドワーフよ、貴殿はあの〝ミューナ・ホワイト〟と旅をして来た……という事か」
「そうだ……ミューナの母、ビクトリアはな、私怨で国を滅ぼすような、そんな巫女じゃねぇ」
ゴルゴンの叫びにガディアスは黙って目を閉じる。ミューナの母? レイアさんが娘なら、そのミューナさんって……。雄也の中に様々な疑問が浮かぶが、戦闘中に考える余裕はない。
「もうよいのだ。拾ってくれた主への忠義と小生の信念により、貴殿等にはここで死んでもらうしかあるまい」
ガディアスが再び左の剣を地面に突き刺すと、地面が凍り、道となり雄也達へ向かって走る。
「ゴルゴン様を回復させます。雄也様、パンジー様」
「おーけー」
「りょーかい!」
凍る地面を回避し、レイアはゴルゴンの下へ、当然ガディアスがそちらへ向かおうとするが、パンジーが空中から矢を放つ。
「―― 氷結晶、セット! 凍氷連弾!」
氷の弾丸を雄也が放つが、ガディアスは素早く左の剣で受け止める。やはり左の剣は氷を吸収するらしい。
「竜剣、右刃 ―― 龍炎刃」
先ほど精霊樹との戦闘で使った夢みる力を足元へ溜め、サイドへ移動する雄也。今度は上手い具合に瞬間的にガディアスの横へと回りこむ事が出来た……のだが!?
「いい動きをする。だが、まだ未熟だ。竜剣、左刃 ―― 凍殺刃」
雄也の高速移動に並行してついて来たガディアスが、今まで地面に突き刺していた氷の剣を雄也へ向け放つ。猛烈な吹雪を凝縮させ、閉じ込めたかのような強力な一閃。水鉄砲を前に出し、受け止めるが勢いで吹き飛ばされ、顔、両手両足に氷の刃による傷がつき、凍傷となってしまう。
「雄也ーー!」
「空中だがらといって、安全とは限らんぞ?」
空中に浮かんでいたパンジーの横に、いつの間にか飛び上がるガディアスの姿があり、背後から炎の刃で斬り捨てられる。羽根と衣装が炎に包まれたままなすすべなく落下していく花妖精。
「パンジー!」
自身の凍傷はそのままに、落下する花妖精を高速移動で受け止める雄也。水鉄砲の水でパンジーを包む燃え盛る炎を消火する。
「雄也のくせに僕を助けるなんて、かっこいいじゃん……」
「パンジー、そのまま休んでて!」
「ちょっと休んだら復活するよ。薬草葉もあるから……」
力なく笑うパンジー。ガディアスは雄也とパンジーを見据え、近づいて来ている。
「ゴルゴン様、大丈夫ですか」
「ああ、だが、雄也君とパンジーちゃんが危ない。レイアさん、耳を貸してくれ」
レイアの回復魔法により、なんとか一命を取り留めたゴルゴン。ガディアスの様子を見てレイアに耳打ちをする。
「まさか、そんな事が!?」
「ああ。今から俺が封印を解く。レイアさんはそれまでなんとかあいつを止めてくれ」
「わかりました!」
雄也とパンジーへ意識が集中している隙に、ゴルゴンはなぜか精霊樹がある方向へ走り出す。
「さて、人間と花の妖精よ。お前達の命から我が同志の弔いに捧げる花となるか」
右の刀身に炎を溜め、一歩一歩近づくガディアス。
「貴方が殺したい相手は私でしょう! 私を先に倒したらどうですか?」
「ほぅ、やっとやる気になったか銀髪侍女よ」
雄也達へ向かう足を止め、レイアへと視線を向ける竜人。
「雄也様、今から私が行う戦闘行為、お嬢様へは内緒にしておいて下さい」
「え!?」
レイアが雄也へ言葉を投げかけた瞬間、レイアは目を閉じる。その瞳が開かれた瞬間、銀眼妖精の両目が妖しく光る ――
「聖者の魔眼 ―― 闘剣方式、邪神剣聖」
瞬間、レイアの持つ短剣が吸い込まれるような漆黒の闇を纏い、まるで刀身があるかのように刀剣の形を成した。それはさながら邪心の力を封じたような漆黒の魔剣。
「レイア……さん……?」
戸惑う雄也を尻目に、紫色の妖気を纏った銀髪メイドは、似つかわしくない不敵な笑みを浮かべるのであった ――




