第88話 雄也サイド⑤――精霊樹と竜人族の知将――
次々と襲いかかる植物を退け、森の奥へと突き進む雄也達一行。ドワーフであるゴルゴンが道案内役となり、精霊樹と呼ばれる土精霊の力を祀ると言われた御神木がある場所へと向かう。
途中、ウネウネとした触手で襲いかかる悪魔の蔓の上位種、触手邪草にパンジーとゴルゴンが縛りあげられ、粘液により服が溶かされた時は……。
「うぇーーこのやろー、ウネウネと気持ち悪いんだよー! 種子爆弾!」
「そんなに俺の裸が見たいかー! ――疾空戦斧」
パンジーは地面から眷属の植物を出現させ、種子爆弾を放ち、ゴルゴンは自慢の斧を本体へ向かって投げつけ、斬り捌いてみせた。触手邪草は力を無くし、そのまま萎れていった。
「うぇーーヌメヌメして気持ち悪いーー服溶けてるしー」
「パンジー、大丈夫!?」
雄也が近づこうとすると……。
「ば、ばかっ、雄也見るな! こっち来んな!」
ロリ少女の可愛らしい衣装が半分溶け、下着が露わになるという、異世界ならよくありがちなシチュエーションに、雄也も思わず視線をそらす。
「ハハハ、俺の肉体なら見ていいぞ!」
その様子を見て、自慢の髭をいじりつつ、ゴルゴンが雄也を誘う。ヌメヌメした粘液を身体に塗りたくって光沢を放つのをやめて下さい。てか、ゴルゴンさん、ガストさんと同じ趣味じゃないでしょ、奥さんいるんだから……そう思う雄也。
「パンジー様、ゴルゴン様、『装甲修復』で服を修復します故、こちらへお越し下さい」
「ありがとうーレイアーー。レイアが女神に見えるよーー」
「ですが、修復する前に露になった小さな蜜柑に触れてもよいですか?」
呼びかけに応じ、ぱたぱたと飛んでいくパンジー……の背後に素早く回るレイア。なぜか背後から腕を回して彼女を捕まえる。そして、花妖精の僅かに膨らんだ丘へ手を滑らせ……。
「ちょ!? レイア、やめっ、僕っ、そんなっ」
「小さくてもパンジー様は可愛いからもっと評価があがってもよいかと思います。いつもならお嬢様がおります故ライバル関係ですが、昨日の恋敵は今日の百合と言いますから」
あのーー、レイアさーーん、何やってんですか? 俺どうすればいいですか? 友が違う言葉に視えたのは気のせいですかー? 雄也は視線を泳がせ、銀髪メイドと粘液まみれ妖精の様子をチラ見しつつ困り果てる。レイアさんって普段もしかして、優斗以上に色々妄想してたりして……。ちなみに雄也の位置からはちょうど背中が見える位置で何をしているかは見えない。『カメラさん、仕事して』状態だ。
「最近の若いのは大胆だな、うん」
大人の余裕なのか、単なるエロ親父か、遠目から頷くゴルゴン。いやいやゴルゴンさん貴方、上半身ほぼ服溶かされてるし、俺の世界だったら覗きで逮捕されてますよ? 冷たい視線でエロドワーフを見つめる雄也。
「あーー、待って!? ヌメヌメしててちょっ、ぁあ、んぁあっ!?」
「―― 装甲修復」
「へ?」
パンジーが、ホワーーンとした光に包まれ、服が修復されていく。ある程度堪能して満足したのか、何事もなかったかのように花妖精から離れる銀髪メイド。いや違う、雄也は、一瞬レイアと視線が合って気づく。途中で終了したのはきっと、周囲の視線があったからだ。これが誰も居ない場所だったなら……嗚呼……レイアさんの清楚なイメージがぁあああ……一人頭を抱える雄也。
「雄也様、水鉄砲の水でパンジー様を洗ってあげて下さい。パンジー様、私は服のどこが綻んでいるかチェックしただけですよ? それに、私にはリンクお嬢様がおります故。ですが、パンジー様がその気なら、今度続きをしてもいいのですよ?」
「なっ、べべ、べつに、こんなのどうって事ないからっ!? 服、修復ありがと……レ、レイアの馬鹿ーーーー」
顔を真っ赤にしてパンジーが森の奥へと飛んでいく。慌ててパンジーの後を追う雄也。
「パンジー待って! まだ服ヌルヌルだろ!?」
「ゆ、雄也こっちに来るなーー!?」
「お前等青春してるなーーハハハハ」
そんな様子を笑顔で見つめるエロドワーフなのであった――
★ ★ ★
はい、ようやく到着しました精霊樹。精霊樹の周囲はまるでカルデラのように大きな窪みとなっており、そんな開けた場所に一本だけ大きな樹が立っていた。本来神聖な場所である筈の開けた空間は禍々しい空気に包まれており、空気に触れただけでゾクゾクっと寒気がするようだった。
「あれが……精霊樹」
精霊樹を前にし、雄也が息を呑む。邪悪なオーラに包まれた精霊樹は、最早邪心の樹と化していた。
「邪悪な力を浄化させなければ、妖精界、ひいては人間界の植物にまで影響が出てしまうでしょう」
先程とはうって変わって真剣な表情のレイアが続く。
「でももともとは精霊樹なんでしょ? 攻撃しちゃっていいの?」
「いや、そうも言ってられねーみたいだぜ」
パンジーが攻撃を躊躇い、ゴルゴンが精霊樹を指差したその時、精霊樹から無数の枝が槍のように飛んで来たのである。四方に旋回する四名。
「どうするのレイア!?」
「雄也様、光源水弾で弱らせて下さい。私も光源弾で応戦します!」
「おーけー分かった!」
レイアの合図で、四名が戦闘態勢に入る! 無数の枝をマシンガンのように放つ精霊樹。広範囲の攻撃により迂闊に近づけない。雄也も必死で回避し、攻撃が届かない場所まで後退する。
「痛っ」
避け切れなかった枝により、腕と顔に傷がつき、ズボンが避け、赤い血が飛び散る。思わず顔をしかめる雄也。
「くそっ、あの樹、樹枝散撃なんて面倒くさいの使ってくるし!」
パンジーは空中にも放たれる木の枝を飛んで回避しつつ、矢を放つが、無数の葉に覆われた精霊樹がダメージを受けた様子はない。
「こういうのはな、飛び込むに尽きるぜ! ――大樹切断」
自慢の斧を振りかざし、降ってくる枝の散弾をもろともせず突撃を開始したのはゴルゴン。自身に傷がつこうが関係ない特攻状態。相手の懐へと入り込み、巨大な幹へ向かって斧を振りかざす! 巨大な樹木が悲鳴をあげたかのようにうねり始めた。
「―― 光晶石、セット、光源水弾」
「闇を浄化せよ! ――光源弾!」
斬り込みが入った場所へ向け、後方から雄也が光源水弾、レイアが光源弾を放ち、闇を浄化させようと試みる。再びうねりをあげる精霊樹。そして、変化が起きる。精霊樹の巨大な幹の上部に、口のような核のような紫色に光る部分が現れたのである。
「どうやら……あれが核のようですね」
「レイア、来る!」
再び樹枝散撃による攻撃が雄也とレイアに向けられる。レイアは素早く回避するが、広範囲攻撃の速さについていけない雄也。
「雄也様!」
―― ヤバイ当たる……。
避けられない、雄也はそう思った。瞬間目を閉じた雄也の脳裏に、先日優斗やシュウジがやってのけた、足下へ夢みる力を集中させて地面を弾いた光景が浮かぶ。考える余裕はなかった。雄也は足下へ力を集中させる……。
「わわわわわ!?」
木の枝による無数の槍が地面に突き刺さり、雄也は一瞬で、自身が居た場所よりもずっと前方へと移動していた。あまりの勢いに身体がついて行かずに転倒してしまう。精霊樹の核が幹を移動し、雄也を目標へと定める。どうやら目の代わりになっているらしい。再び放たれる無数の散弾!
「蔓縛り!」
「――疾空戦斧!」
雄也の前にパンジーが創り出した蔓の柵が出現し、樹枝散撃から守る。同時にゴルゴンが斧を投げつけ、核を攻撃し、精霊樹の視界を遮る。
「ちょ、雄也、戦闘中に何転んでんの! てか、さっきの動き何? 初めて見たんだけど」
「パンジーごめん、ありがとう守ってくれて!」
「べ、べつに当たり前だろ、戦闘中なんだから!」
パンジーが慌てた様子で視線をそらす。
「雄也様」
「ああ、レイア! 出来たよ!」
精霊樹に光源弾を放ちつつ、レイアが雄也の下へ駆けつけた。夢みる力による移動術を教えたのは彼女だったようだ。
「さっきのは溜めた夢みる力が強すぎます。もう少し、薄く膜を張るように展開出来るようになると、あの高速移動を維持出来るようになりますよ?」
「わかった! ありがとうレイア」
「おい、お前等、来るぞ!」
紫色の核から巨大な闇の球が放たれた。ナイトメアが放つ暗黒球と同等かそれ以上の巨大さだ。
「パンジー!」
「わかってるよ」
「攻撃透過、接続! 花ノ生命ヨ、我ニ力ヲ! 花妖光弾!」
「―― 高位光源弾」
「――疾空戦斧!」
素早く雄也の両肩へパンジーが手を乗せ、攻撃透過を発動させる二名。レイアさんは一名で上級の高位光源弾、ゴルゴンは斧を核へ向け投げつけた。二つの光弾は暗黒球を呑み込み、精霊樹の核へと向かう! 先に疾空戦斧が核へと激突し、亀裂が入る。そこに強力な光弾による浄化攻撃を受け、精霊樹が眩い光に包まれた!
あまりの眩しさに思わず目を閉じる雄也。精霊樹を覆っていた紫色のオーラは浄化され、翠色の神聖な光が精霊樹を包み込んだ。雄也は足下へと転がって来た夢の欠片を拾うのだった。
「やったーー! 見たか! 僕の力ー」
「やったね、パンジー、みんな!」
「ええ、皆さん頑張りましたね」
「さすがだな、お前達!」
精霊樹の神聖な空気がやがて森を覆っていた禍々しい空気を浄化させていく。厚く覆っていた雲も少しずつ晴れていく。土精霊の森が無事に守られた瞬間であった。精霊樹へ祈りを捧げ、四名は元来た道を帰ろうとしたのだが……。
―― 精霊樹を元に戻すとは、貴殿等はなかなかの強さを持っていると見える。
カルデラのような窪みの上部分、雄也達が来た道の前に、竜の頭をした二刀流の男が立っていた。
「あんた誰だよ?」
大きな声で男へ呼びかけるパンジー。
「もしかして、あいつが……」
「ええ、恐らく、優希様が言っていた相手でしょう。私の眼で近くに来ている事を感知出来ませんでした。相当な力を持っていると考えられます」
雄也とレイアが小声で話し、頷きあった。竜の頭に心当たりがあったのだ。そう、夢の都で優希姿の優斗に再会した際、彼の口から出た竜人族である親玉の名前。
「小生の名はガディアス。かつて栄華を築いた竜人族の生き残りよ。土精霊の神具を渡せ。大人しく渡せば命だけは助けよう」
「ガディアス! 土精霊の神具なんてものは知らない! だからここは引いてくれないか?」
「雄也? 何言って?」
雄也がガディアスへと話しかける。パンジーが驚いて雄也の顔をまじまじと見つめる。
「神具を知らぬのならばそれでもよい。だが、小生は興味がある。ナイトメアとリリスの猛攻を退け、妖精界を救おうと動いている人間の存在を聞いている。それは貴殿の事ではないのかね?」
ナイトメアとリリスと繋がっている存在。やはり目の前に居る相手は、敵側という事になる。という事はやはり戦うしかなのか……。雄也の額に汗が滲む。
「だったらどうする? 敵討ちでもするのか?」
雄也の投げかけに、窪みの内部へとゆっくり降り、ガディアスが近づいた。
「ナイトメアとリリスの敵討ちをするつもりはない。小生は己の信念に従って動くのみだ」
この時、信じがたい出来事が起きた。ガディアスが右手を翳し、雄也達へと向けたため、攻撃が来ると思い、構えた一同。しかし、その瞬間、雄也達の傷が癒えていったのである。
「え? どういう事!?」
「俺の傷が癒えちまった」
突然の事にパンジーとゴルゴンが困惑する。
「どういうつもりですか?」
レイアが相手をゆっくり見据え、声をかける。
「相手が傷ついた状態で戦う事は小生の信念に反するのでな。それに敵討ちをするなら全力でぶつかりあわねば、仲間も報われぬ」
「じゃ、じゃあやはりガディアス、あなたは敵討ちを?」
ガディアスは、ナイトメアとリリスの敵討ちはしないと発言したばかりで、発言に矛盾があるように聞こえたのだ。
「勘違いするな。小生はかつて滅んでいった竜人族達の魂を弔うため、そこの銀髪侍女に死んでもらうだけだ」
雄也の問いかけに答え、二本の剣を引き抜くガディアス。なぜ、そこでレイアさん? 雄也は疑問に思う。レイアさん自身も納得がいっていない様子だ。
「え?」
「ど、どういう事でしょう?」
そして、ガディアスから、全く予期していない事実を告げられた。
「銀髪の侍女よ。貴殿の正体は割れておる。かつて我が竜人族の里を滅ぼした、現〝聖魔の巫女〟――ビクトリア・ホワイトの娘であるという事をな」
ガディアスとの戦いは、衝撃の事実より幕を開ける ――




