★第84話 優希サイド③――ルナティの復活――
光の国、ブリンティスの森にて見事竜人族クエルを撃破。ユニコーンと契約した優希とブリンク。ブリンティス村で双子妖精ライティ、レフティと別れ、夢の都へと還って来ていた。そこに雄也達一行と合流し、なんやかんやで『ゴルの宿屋』横の路地裏にて……。
「嗚呼……ブリンクーー」
「優希お姉様ーーー気持ちいいにゃーー」
優希の豊かな果実に埋もれるブリンク、ブリンクの頭を撫で撫でモフモフする優希。傍から見ると、美しい女神が猫耳少女へ芳醇に育った果実の恵みを与えるため、優しく包み込んでいるような……微笑ましい光景にも見える。そんな光景を前方に冷たく見据えたまま、桜色の浴衣を着た少女が路地裏へと入って来る……。
「はーい、優希様ーーブリンク様ーーー? 十六夜様が待ってますよーーー?」
ルナティの身体を救わなければならないという緊急事態であるため、路地裏でイチャイチャしている優希とブリンクを見兼ねて十六夜さんが卯月を迎え役として送ったらしい。と、いうよりは、運命が視えている十六夜さんはこの展開も視えていたのか……こればかりは十六夜のみぞ知るのである……。
「きゃっ、卯月さん!? どうしてここに!?」
「び、びっくりしたにゃーー!?」
「優希さん、女の子みたいな声出さないで下さい。弥生様の事は騙せても、私は騙されませんよ? いやぁー、二名だけの世界に入らないで貰えますか? ……てか優希さん? だいたいルナティ様と融合してるんですから、ちゃんとルナティ様の身体救いに来て下さいよ?」
溜息をついて、急いで夢見の回廊へ向かいますよ? 十六夜様が保護空間にて優希様をお待ちになってますから……と、促す卯月。
「いやぁー、そこは心の中でルナティと対話したよー?」
「そうだにゃー。優希お姉様からルナティの香りもしたにゃー」
「うそ!? まさかのルナティ様公認!?」
卯月がわざとらしく飛び上がってリアクションを取る。
「ルナティによると愛の形は千差万別、性別や種族なんてものは関係ないんだって。そもそもルナティ、この間融合関係なく俺差し置いて弥生さんを抱き締めてたしね。しばらくはブリンクに擽られたり、じゃれあったりしていたんだけど……ブリンクを優しく包み込んであげなさいってルナティが言うからさ……つい……」
「優希お姉様ー温かかったにゃーー」
「はいはーーい、そこまでーーー。後は想像にお任せという事で、これ以上は聞きませーん」
「えーーー? 卯月聞かないのーー? あ、もしかして混ぜてもらえなかった事嫉妬してるーー?」
「一緒に混ざるかにゃーー?」
「お前等いい加減にせんかい!」
夢見の回廊へと移動しつつ、優希には分かった事があった。ルナティは夢妖精だ。嫉妬の感情はもちろん持っているが、ライティのように、優斗自身へと愛情を注いでいる相手に対してのみその感情は発動するらしい。むしろ、女の子同士な百合な展開は夢妖精としては大歓迎らしく、弥生やレフティ、優斗を敬愛するブリンクも問題ないらしい。エロ斗としては大歓迎な展開ではあるが、残念ながら今の姿は優希ちゃん……なのである。どうせなら優斗の姿で……なんて考えるとルナティに殺されそうなのでこれ以上はやめとこう、そう思う優希。
『あ、もしかしたらルナティは、俺とひとつになれたという優位的な立場から、寛容的になっているのかもしれない。うーん、愛とは奥が深いですなぁ……』
優希が心の中でそう考えていると……。
「――よく分かってるじゃない優斗」
「ん? 何か言いました優希様」
優希の言葉を借りて、ルナティが発言してくれたのである。声に出たため卯月が反応する。
「あ、ごめん、今のはルナティの発言だよ」
「そうですか……一つの身体に二名居るってややこしいですね……」
卯月と優希がそんな会話をしつつ、夢見の回廊を進む。尚、ブリンクは夢見御殿でお留守番だ。夢見の回廊へは夢妖精の案内があれば、他の妖精や人間なんかも入る事が出来るが、保護空間は、外敵から身を守るために夢見の巫女が創った特殊空間。夢妖精や優斗のような夢妖精と契約した認められた適合者のみしか入れないらしく、魔王のような強大な力を持つ相手でも入って来れないらしい。
「魔王も入れない? 保護空間ってその名に違わぬ空間なんだね」
「そうですね。私も今回入るの初めてですから」
やがて、夢見の回廊へ数秒毎に様々な色へと変化する、身長の二倍はあるかという巨大鏡のような扉が目の前に現れる。
「これが……入口!?」
「十六夜様が一時的に私達へ扉を開放してくれています。急ぎましょう!」
意を決して優希と卯月が中へと飛び込んだ。
―― ん? 身体が軽い……体重……いや重力を感じない……
―― 優希さん……ようこそ保護空間へお待ちしておりました。
優しく語りかける声に目を開けると、自身の身体が宙に浮いている事に気づく。
―― え? え? これは!?
―― 大丈夫です。重力も物理法則もこの空間では通用しません。卯月、案内ありがとう。貴女はここで待っていて
―― 分かりました。十六夜様!
優希が横を振り向くと、同じく卯月も宙に浮かんでいた。
―― さぁ、心を無にして、私に身を任せて下さい
空間を飛んでいく十六夜さんへ促されるままついていく。不思議と宙に浮いたまま流れていく身体に、優希が違和感を覚える事はなかった。
やがて何もない無の空間を進んでいくと、天蓋付きの大きなベットが浮かんでおり、そこにルナティが横たわっていた。
―― ルナティ!?
急いで泳ぐようにして駆け寄る優希。目を閉じたままルナティは動かない。そっと手で頬に触れると白い雪のように冷たくなっていた。
―― さぁ、優希さん、ユニコーンをここで召喚して下さい
十六夜に言われるがまま目を閉じ、両手を握り祈る優希。
―― お願い、ユニコーン……ルナティを助けて……
優希の両手が光り始め、キラキラと煌めく光が小さな星のカケラのようにベットを包み始めた。やがて、優希と十六夜が居る場所と対面する形でユニコーンのミドリとコハクが登場した。
「へぇーー、ここが保護空間。不思議な空間ねー」
「ふぇーー凄いですー、姉さん、私達宙に浮かんでますーー」
翠色の鬣と瞳が美しいミドリと、琥珀色の鬣と瞳が煌めくコハク。召喚は無事に成功したようだった。
―― ミドリさん、コハクさん、よろしくお願いします
「了解よ優希さん、任せておきなさい!」
「優希さん、見ててください」
ユニコーンのミドリとコハクがそう言うと、それぞれの全身が淡い翠色と琥珀色に光を放ち始める。やがて、光は一角獣の角へと集まり、光はゆっくりとルナティへと放たれた。ルナティの身体が翠色と琥珀色の光へ包まれる。
「光よ、我等一角獣の名の下に、彼の者を癒し、生命の源を――浄化の奇跡―― 奇跡の輝光!」
―― 優希さん、そのままルナティの身体へ触れて下さい!
神秘の光に包まれたルナティの身体を見て、十六夜が優希へ指示を出す。神秘の光景に一瞬見入ってしまっていた優希だったが、そのままルナティの身体へ手を触れた。そのまま光は強くなり、やがて周囲を包み込む。優希の視界は完全に光に包まれた!
『あれ? ルナティ?』
ベットにルナティが横たわっている……なぜか周りは真っ暗。十六夜もユニコーンのコハクとミドリも居ない。呼びかけてもルナティに返事はない。
『ルナティ、回復したんじゃなかったん?』
ルナティの身体を揺さぶる……そして、優斗は気がつく。ルナティの身体がさっきと違って温かい。よく見ると、目を閉じたルナティの瞼が動いているような気がする。
『ルナティー! もぅーーー心配したんよー』
思わずルナティが横になったベットへ飛び乗る優斗。身体はまだ優希のままだった。ルナティは目を覚まさない……いや、どうやら何かを待っているようだ……。じーっと優希が見つめていると……ルナティが唇を窄ませる。
『ルナティ……?』
―― もうーーー、空気読みなさいよ優斗! こういう時は王子様のキスで目を覚ますものでしょーー!?
心の中に声がした。それはそうだ。今ルナティの精神は優斗とルナティの肉体両方に存在していたのである。
『え、マジ!?』
―― 私が強引に優希の身体を動かした方がいい?
心の中でそう聞かれる。いや、心配したのは事実だけどさ、そう言われると覚悟が……そう思う優斗。
―― 私がこのまま死んでもいいの? 優斗も優希のままよ?
『いや、それは嫌です』
我慢出来ずにルナティがそっと目を開けた。ブロンド髪と同じ色をした瞳がウルウルしている。本当は彼女も不安だったんだ。身体が失われる恐怖。肉体の死……それは精神の死と同じだ。優斗と一つなって幸せな半分、だんだんと自身の肉体から生気が失われていく、不安と焦燥……様々な感情に押し潰されそうになりながらも、彼女は気丈に振舞っていたのだ。優希の中にそんな不安だったルナティの感情が一気に溢れてくる。そうか……そうだったんだね、ルナティ……。
『ごめんね……気づいてあげられなくて……もう、大丈夫だから』
―― 優斗……
『ルナティ……』
そのまま優希の姿のまま、折り重なる二名……腕をそっと回すルナティ、優希とルナティの唇が重なり……やがて視界は再び光に包まれた ――
「どうなったの!?」
「何も見えなくなっちゃってましたーー! ……え、凄いです……」
ベット以外に色もない、何もない無の空間だった保護空間に白く小さい花が咲き、辺り一面を埋め尽くした。そこはさながら天上世界に広がる幸福の花畑。天蓋付のベットは消え去り、突然起こった出来事に、二匹のユニコーンと十六夜が瞳をパチクリさせつつ佇んでいた。
「どうやら成功したようですね」
十六夜が送る視線の先から、ブロンドヘアーの妖精と眼鏡をかけた青年が歩いて来ているのが見えた。ブロンドヘアーの妖精がしっかり青年の右腕に両腕を絡ませ、青年が突っ込みを入れている様子が見て取れた。
「十六夜ーーー、ありがとねーーー無事に戻れたわーー!」
「ミドリさん、コハクさん、元優希です! 優斗って言います! この度はありがとうございましたー!」
ルナティと優斗が十六夜達の前へ、元の姿で現れたのである。先ほどルナティと優斗はどうやら精神世界の中に居たらしい。
「女性姿の方が断然いいわね」
「優斗さん、残念ですーーー」
そんな優斗の姿を見て、残念そうな様子のミドリとコハク。
「ええーー!? ミドリさん、コハクさん、そりゃないですよーーー」
優斗が二匹のユニコーンへ近づこうとするが、邪念を感じるので近寄らないで下さいとあしらわれる始末。
「優斗ーー、心配しなくても優斗には私が居るから大丈夫よーー」
「いやー、ルナティ、待って! 趣味じゃないからーーー」
「そんな事言ってぇーーーさっきは……」
「あ、やめてーーそれ以上言わないでーーー」
そんなルナティと優斗の様子を微笑ましく見守る十六夜と二匹のユニコーン。
十六夜はこの後、ユニコーン二匹を保護空間にて保護するために、果実が実る小さな森と湖まで空間に用意する。保護された夢見の空間では、巫女の力があれば、ある程度の事は出来るようだ。
「夢見の巫女さん、感謝するわ!」
「ありがとうございます十六夜さん」
「いえいえ、ルナティの命を救って下さった恩人です。この位のお礼は当然ですよ」
「そうね、救ってくれてありがとう」
お辞儀をするユニコーンへ十六夜とルナティがお礼を言う。
「ルナティ、ユニコーンを連れて来た俺にもお礼を……」
「あら、私の果実ならいくらでもあげるわよーー」
「嗚呼ーーーこのやり取りエンドレスリピートーーー」
「優斗が自分で話題を振ったんでしょーーー」
こうして、ユニコーンは無事に保護空間へと保護され、ルナティの身体は無事に復活し、優希ちゃんは無事に優斗へと戻る事が出来たのである。『一度融合した事でいつでも融合出来るわよー?』と迫るルナティに『しばらくは結構ですー』と、逃げる優斗。そんなやり取りを微笑ましく見つめる十六夜なのであった。




