第83話 雄也サイド③――夢の都での再会――
「なるほどな! それで俺のところを訪ねたという訳か」
自慢の髭を弄りながらそう答えたのは夢の都で人気の宿屋「ゴルの宿屋」主人であるドワーフのゴルゴンだ。
森妖精都市の宿屋で『ドワーフの知り合いなんか居ない』というパンジーの発言から、雄也とレイアが思い出した相手こそ、『ゴルの宿屋』主人であるゴルゴンだったのである。雄也達は森妖精都市の宿屋で一泊した後、花の街へと戻り、そこから記憶の魔法陣で夢の都へと戻って来ていたのであった。
「そうなんです。それで、ゴルゴンさんの力をお借り出来ないかと思いまして」
「単刀直入に聞きます。土精霊の森に入るための合言葉をゴルゴン様はご存知ですか?」
雄也がお願いし、レイアがゴルゴンに質問する。パンジーはメイドのシャムを呼んで、ドリームオレンジジュースを注文していた。
「……そうだな……土精霊の森へ入る合言葉は……知ってるぜ!」
ゴルゴンがニヤリと笑う。
「本当ですか!?」
「それはよかったです!」
「やったね、雄也!」
「ただな……俺が住んでいたドワーフの村では、その合言葉を他言する事は禁忌とされているんだ」
ゴルゴンの真剣な表情にみんな神妙な面持ちへと変わる。
「そ、そんな……」
「そこをなんとかお願い出来ないですか!?」
「そうだよ、おっちゃん! 僕の顔に免じてなんとかしてよ!」
三名がお願いする。しばらく目を閉じ腕を組んで考え込んでいる様子のゴルゴンだったが……。
「まぁ、いいだろう。どちらにしても俺は、ドワーフの村と土の国から追放された身だからな。国の危機とありゃあ、俺が一肌脱ぐしかねーだろ。この間の借りもあるしな」
「ありがとうございます! ゴルゴンさん!」
「ゴルゴン様ありがとうございます」
「さっすがーおっちゃん!」
パンジーがいつの間にかおっちゃん呼びしているのが気になるが、話は決まったようだ。
「それにしても、ゴルゴンさん、土の国を追放されたって、何かあったんですか?」
「それはだな……」
「ゴルはな、魔王を倒すために必要だからと言って、土精霊の神具を昔勝手に持ち出した事があるんだよ」
「お、おい、ガスト。今言う話じゃねーだろ!」
キッチンからムキムキのコック、火妖精のガストが出て来て、雄也の質問へ代わりに答えた。
「ゴルゴン様、魔王を倒すためとは、どういう事ですか?」
レイアがゴルゴンへ向き直る。
「しゃーねーな。お前達、もうシュウジには会ったんだろ? 俺はな、土の国で昔シュウジ達勇者パーティーに命を救われたんだよ。そんな恩もあって、シュウジのお付としてかつて一緒に旅をし、魔王と戦った経緯があるのさ。魔王討伐には精霊の神具っつー武器防具が必要でな。当時旧都である土魔都市の遺跡に奉納されていた土精霊の神具を勝手に持っていったもんだから、旧都の王と樹女王が激怒してな。まぁ、お願いして貸してくれるような女王だったらよかったんだが、そうもいかなかったからな」
確かにあの樹女王は、そんな大事な物をはいはいどうぞ、と簡単に貸してくれるような方ではないだろう。それにしても、ゴルゴンさんが勇者パーティーの一員だったって……。
「じゃあ、ゴルゴンさんもしかして、ミナセヨウコを知ってますか?」
「な……!? おめーどうしてヨウコの名前を知ってるんだ!?」
雄也がヨウコの名前を出した瞬間、ガストが驚愕の表情となる。
「どうしても何も、ミナセヨウコは俺の叔母にあたる人です。妖精界へ来る事になったのも、今思えばエレナの水鈴を彼女が間接的に俺へ渡したのが原因ですし……」
「という事は……ヨウコは……生きてるのか!?」
「え? はい、生きてますよ?」
「そうか……よかった。突然妖精界から姿を消したもんだから、サクヤちゃんの事もあったし、俺はてっきり死んじまったのかと……」
え? 気づくとゴルゴンの瞳からなんと涙が溢れていた。突然の事に皆が動揺する。
「ゴルゴン様、大丈夫ですか?」
レイアが思わず心配する。
「ああ、すまねぇ、レイアさん。それから雄也君。君とこうして出会ったのは運命かもしれん。なにせ時を経て今、俺の初恋相手の甥っ子に出会えたんだからな」
「は、初恋!!??」
「ぶーーーーーーーーー」
まさかのゴルゴンの発言に驚く雄也。パンジーが噴出したドリームオレンジジュースが見事に雄也の顔へと降りかかっていた。
「ちょ、パンジー!?」
「あ、ごめんごめん。だっておっちゃんの初恋って!? しかも雄也の叔母さんだよ? 思わず噴き出しちゃったよ」
「パンジー様、誰でも恋の一つや二つ経験しているものですよ?」
レイアがパンジーを窘めつつ、雄也に噴きかかったオレンジ色の液体を拭いていた。ホールに居たシャムまで気づき、タオルを持って来る。
「パンジーちゃん、まぁ、そういうな。ヨウコはそりゃあ当時は誰もが振り返る程美人だったんだぞ!? あれは魔性の女だ、間違いねぇー」
腕を組みつつ昔を懐かしむゴルゴン。ヨウコ叔母さんが今此処に居たのなら、美人だったという過去形に対して相当突っ込んでいるんだろうな……アラフォー女性を敵に回すと怖いという事を、雄也は叔母さんという実体験を持って体感しているのである。
「俺様が何度アプローチかけてもゴルはヨウコさん一筋だったからな。まぁ、そんなヨウコさんも居なくなり、今は一緒に仕事が出来ているから俺様は満足だけどな」
ムキムキの身体をアピールしつつ、なぜか料理長のガストさんがゴルゴンの横をしっかりキープしている。いやいや、そこにガストさんが入ってくると話がややこしくなるからやめて欲しい……と、雄也は思う。こんな三角関係、こんなトライアングラーは嫌だ、と。君は誰とキスをする……ヨウコ叔母さん、それともムキムキのガストさん……どっちもいやぁああああああああ!?
「おーい、雄也ーーーどうしたーー?」
「雄也様、顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
パンジーが雄也の眼前で手をフリフリしており、我に返るとレイアさんが心配してくれていた。どうやら顔色に出ていたようだ。
「あ、大丈夫だよ、レイアさん、パンジー。ゴルゴンさん、世間は狭いですね……ははは」
苦笑いをしつつ話題を逸らす雄也。
「そうだな、雄也君。まぁ、宿屋はガストや女将に任せるから、飯を食べたら出発しようか」
「え? 付いて来てくれるんですか?」
「合言葉はドワーフか樹女王が言わないと森の入口は開いてくれないぜ?」
「あ、そうだったんですね!? よろしくお願いします、ゴルゴンさん」
雄也とゴルゴンが握手を交わす。
「ガストさんも大変だったんだねぇー。僕も恋の三角関係真っ最中だから気持ちわかるよー」
「おー、嬢ちゃん。分かってくれるか? ありがとうよ」
なぜかその横でパンジーが、羽根をぱたぱたさせつつ、ガストの肩をポンポンと叩いていた。パンジーはいつから恋の三角関係真っ最中なんだろうか?……ガストとパンジーの様子を横目で見つめる雄也なのである。
「あんた、もう皆さんに迷惑かけるんじゃないよ!」
「おぅ、わかってるって!」
ゴルゴンの奥さんである、女将さんが宿屋の外まで見送りに来てくれていた。
「しばらくご主人をお借りします」
レイアさんが女将さんへお辞儀をする。後は夢の都に設置されている、記憶の魔法陣を使って花の街へ向かうだけだ。雄也がそう考えていると……。
「記憶の魔法陣は使う必要ないやん、雄也!」
心の声に反応!? 可能性があるなら心読力だ。それより、いつもより声は高いが特徴のある喋り方に心当たりがあった。声がした方を向く雄也。
「え? 優斗!?」
「おや、優希様ではないですか」
美しいブラウンヘアーを靡かせ、まさかの優希が雄也達のもとへとやってきたのだ。雄也とレイアがその姿を見て反応を示す。
「パンジーにゃー、数日振りにゃーー!」
「おー、ブリンクー会いたかったよー!」
パンジーとブリンクが両手を取り合い再会を喜ぶ。
「いやぁー、凄いタイミングやん雄也」
「優斗、光の国に行ってたんじゃ?」
「そうそう、ユニコーンとは無事に会って契約して来たんよ? ちょうどルナティの身体取り戻すために、夢の都に戻って来たタイミングだったんだけど、雄也達の夢みる力を感じてさ、こうして立ち寄ったって訳なんよ」
優希ちゃんの姿だと、どうやら見知った相手が近くに居ると、妖気力や夢みる力を感じ取る事が出来るらしい。とんでもない能力を開花させたものだ……と感心する雄也。話を聞くと、ブリンティスの森にも敵が襲って来て色々大変だったらしい。
「え? 竜人族?」
「そうなんよ、俺倒したの下っ端だったけどさ。ガディアスってやつが親玉らしいけん、気をつけた方がいいよ!」
優希が敵の存在を教えてくれた。竜人族とは、名前を聞くだけでもとんでもない者が出て来たなと感じる雄也。
「雄也様、竜人族はかつて北東の大陸にて猛威を振るい、一時代を築いた竜種の一族です。恐らくそのガディアスという竜人族はその生き残りではないかと考えられます」
「なんか新たな敵の姿が見えて来た気がするね」
雄也がごくりと唾を飲み込む。話を聞くだけで一筋縄ではいかない相手だと思ったからだ。
「ま、どんな敵が来ても、僕が居るから心配いらないさ」
「凄いにゃー、パンジーかっこいいにゃーー」
「だろーーブリンク! 分かってるねーー」
パンジーは意外と楽観的だ。ブリンクがそんなパンジーに同調する。
「それにしても強くなりましたね、優希様。竜人族を退けるとは流石です。私としても突っ込みの必要がないため、このまま優希様の姿で居てくれる事を所望します」
「ええー、レイアさん、優希姿のままで……とか、そんな事言わないでよー? 私とレイアさんの仲じゃなーい?」
男性姿の時と同じように、女性姿のままレイアさんの果実に触れようとする優希。レイアはいつものように素早くしゃがみ、優希の背後に回り込み、首もとに短剣を押し付けようとした……のだが、その腕を優希は既に右手で掴んでおり、左手でレイアの果実をマッサージしていた。男性姿の時に通用した技が、女性姿には通用しなかったのだ。
「な!? やめて下さい……優希様」
「今まで散々酷い仕打ちをされた御返しですよー、レイアさーん」
「きゃっ、やめっ……」
「優希お姉様ーー」
「え?」
レイアと優希が戯れていると思ったのか、ブリンクが横から思い切り優希にダイブしたのだ。飛びかかったブリンクと共にそのまま地面に倒される優希。ブリンクが上に乗っている体勢となる。
「お姉様、ずるいにゃー。うちとも遊ぶにゃーー」
「ちょ、やめ、ブリンクーーあ、そこくすぐったい、ひゃう!?」
ブリンクが身体をスリスリしながら耳たぶをペロリとするものだから、優希が女子の声をあげる。雄也は両手を合わせて『ご愁傷様』とポーズを取った。
「優希お姉様ーーあっちで遊ぶにゃー」
「ちょっ、ま、待ってーブリンクーーー」
そのまま路地裏へと引きずられていく優希ちゃん。
「まさか、ブリンク様に助けられるとは思いませんでした」
「レイアさん、とりあえず優希ちゃんはほっといて行きましょうか?」
「あんなに美人でも、中身はやっぱり優斗だったな」
レイアとパンジーが冷ややかな視線で見つめる中、優希ちゃんとブリンクは街の路地裏でしばらく戯れていたのであった……。
いや、めでたし、めでたし、じゃないよ、と気を取り直す雄也。
優希が先程記憶の魔法陣は使わなくていいと言ったのは、魔導伝心で十六夜と繋げば、わざわざ花の街を経由しなくても、直接夢渡の力で、森妖精都市まで送ってもらえるのではないかと言う事だった。
早速レイアさんが十六夜と繋ぐと、ある程度十六夜さんも状況を視てくれていたようで、森妖精都市まで、夢渡の力によるワープゲートを繋いでくれた。
「――十六夜さんありがとうございます」
「――いえ、それより皆様、悪しき力が森妖精都市に迫っております。くれぐれも気をつけて」
魔導伝心による通話で十六夜と会話した後、雄也達は森妖精都市へと向かう。目指すは土精霊の森だ。
「行こう、みんな!」
「了解しました」
「僕に任せてよ雄也」
「俺も付いて行くぜ!」
雄也、レイア、パンジー、そしてゴルゴン。いよいよ彼等は土の国に迫る脅威と、この後対峙する事となる――




