第82話 水精霊<ウンディーネ>の試練 【★前後書きハロウィンファンアート付】
本編とは関係ないですが、
世間はハッピーハロウィン! という事で、本編開始前に小ネタを投下します。
★★★
「うーん、ハロウィンの仮装と言っても普通にやると面白くないわね……」
フランケンシュタインのような仮装をしているルナティ。
どうやら、魔女の衣装をどうしようか迷っているらしい。
「ルナティ、この魔女の衣装は私が着てあげるわよ!」
「ウインクが着ると面白くないでしょ……だいたい貴方いつも仮装してるようなもんでしょ?」
「な!? このバニースーツは普段着よ、普段着!」
ウインクとルナティの会話を尻目にノリノリな妖精が三名……
「がおーーーブリンク食べちゃうぉおおーー」
「リンク耳がうちとお揃いにゃー! 狼リンクにゃーー!」
「ブリンクの天使可愛いなぁー、ま、僕の小悪魔には負けるけどね!」
狼姿のリンク、天使と悪魔姿のブリンクとパンジーが抱き合っている。
「はぁ、なんで仮装なんかしてるんだ……だいたいハロウィンに仮装しなくてもいい……」
「ファイリー? どうして他人事なんですかぁーー?」
「リンク……なんで目が光ってるんだよ!?」
あたいは関係ないよといった表情で現れたファイリーを見た瞬間、狼リンクが何かを閃いたかのように目を光らせ、ファイリーに迫る。
「リンク、それいい考えね!? リンク、そのままファイリーを襲っちゃいなさい、狼だけに!」
「がおーーーファイリーーー覚悟ぉおおおーーー」
「な、やめろ、リンク! 待てーーー!?」
「鎧を脱ぎ棄てたファイリー似合ってますー」
「なんであたいが魔女に……」
「これは持っていかれた感があるわねー」
――ハッピーハロウィン from 妖精界
★★★
という訳でハロウィンイラストをモコショコさんからいただきました! ありがとうございます。
狼リンクにフランケンルナティ、魔女ファイリーも似合ってますね。
イラストにミニエピソードを添えてみました。
ではでは、「近森」本編をどうぞ。
★★★
雄也、優希、和馬がそれぞれの国で奮闘する中、水妖精の彼女もまた、水精霊の試練をクリアすべく、試練の間――洞窟の階層を突き進んでいた。
「これで最後なのです! 水流閃光!」
リンクの指先から放たれた水流閃光が目玉に蝙蝠の羽根が生えたような謎の生物を打ち抜き、生物は煙を出したまま落下していく。地面に何百近い打ち抜かれた生物だったものが落ちていた。
「さすがに……魔力が少なくなって来ちゃいました……」
水精霊の試練は一階層に一つの試練が課せられる仕組みであった。試練をクリアするとその階層にある閉ざされた扉が開き、次へと進める仕組み。入口の第一階層では、道を塞ぐ水流を操り、次の第二階層では水上を歩く試練。第三階層は負の妖気力で動く闇の球を浄化させる試練……こちらは水の戯れ<静>で一層する。続いて、第四階層では高い天井にある一から十まで描かれたボタンを押す試練、これは天井まで伸びる水爆柱を発動させ、クリアした。
そして、今リンクは第五階層の試練をクリアしたところであった。
目玉に蝙蝠の羽根が生えたような生物は、闇の光線のようなモノを放ち、回避しつつ倒していくのはかなり高難度であった。リンクの回避スピードでなければ恐らく光線により身体が溶かされていた事だろう。
次の階層へ続く階段を降りつつ、リンクは考える。だんだん試練の難易度はあがっている。しかし、魔力が尽きてしまえば試練どころじゃなくなってしまう……しかし、温存する余裕は恐らくないだろう……。
「でも雄也さんに立派になった姿を見せるのです! シャキーンです!」
そして、第六階層へ降りた時、水妖精は驚きの声をあげるのである。
「え!? これは!?」
「ようこそーー第六階層へーー!」
そこには蒼い髪が美しいフリフリなエプロン姿の妖精が笑顔で立っていたのである。洞窟の中だった筈……なのに、テーブルには白いレースのクロスが敷かれ、肉料理や野菜サラダ、スープに、巨大な海老……御馳走の香りが部屋に漂っていた。
「あ……あの……これは何の試練ですか?」
恐る恐る目の前に居る妖精へ尋ねるリンク。
「いやいや、心配しなくても毒なんて入ってないよ? ここは水精霊の試練――試練の間、第六階層にある安らぎの空間よ? どうせ、上階層で魔力使い果たしちゃってるでしょ? あの階層クリアすると、水流閃光百発は最低撃たないといけないからね。さぁ、しっかり食べて、次の階層へ備えなさい」
「え……えっと……いいんですか?」
―― グルルルルーー
言葉とは裏腹にお腹が返事をするリンク。
「はぅうう……」
「あんた身体は正直だね! 腹が減ってはなんとやらだよ! さぁ、たんとお食べ!」
「ありがとうございますです!」
どうやら罠ではないと分かり、リンクが目の前にあるご馳走を口にする。エプロン姿の妖精も、その様子をじーっと見つめている。
「はぅうー美味しいです。ほっぺが落ちちゃいますー」
「それはよかった」
「あ、あのー。貴方は?」
「ん、アタシ? アタシはこの試練の間に住まう見届け役とでも言っておこうか? 水妖精のフィリア・アクアよ。よろしくね」
「私はリンク・ルーシーです。よろしくお願いしますー」
ご馳走に舌鼓を打ちつつ、互いに自己紹介をする。フィリア・アクアは、この試練の間全体を管理する他、水精霊の試練に挑戦する水妖精を導く役目を担っているらしい。第六階層に来る頃には魔力が尽きている妖精がほとんどらしく、こうして休息の時を与えているそうだ。
「それにしても、さすが、エレナ王妃の娘だね。第六階層まで辿り着いた妖精は久しぶりだよ」
「そうなんですか? え? お母様を知っているんですか?」
「そりゃあ王妃を知らない水妖精なんて居ないでしょう? あんたなら、第八階層までクリア出来るかもしれないね」
当たり前のように母と接して来たリンクにとって、未だに母が女王様であり有名な妖精であるという実感がないのである。しかし、ここに来て、フィリア・アクアから第八階層というキーワードが出て来た。
「じゃあ、第八階層がゴールなんですか?」
「そうだね。この後の第七階層と第八階層をクリアした水妖精なんて、過去数える程しかいない。ゆっくり休んで英気を養った後、覚悟を決めて挑むんだね」
そして、翌日……
第七階層へ続く階段へと案内してくれるという事で、フィリアの後に続くリンク。第七階層は、とても広い吹き抜けのような場所だった。遠く吹き抜けを囲む岩壁は、水色の光を放つ魔水晶が煌めいていた。吹き抜けの先、正面奥に、身長より何倍も大きな固く閉ざされた青白く光る扉が存在感を示している。
「……さぁ、着いたよ。ここが第七階層さ」
「フィリアさん、ありがとうございます。後はここの試練に挑むだけですね」
「大気に揺蕩う水の雫よ 今ひとつとなりて 彼の者へ向け爆散せよ! 高位水爆砲!」
「え!?」
雄也と契約した状態でリンクが放つ水爆砲より何倍も巨大な水の塊が、うねりを伴ったまま突然彼女を襲う! 水の勢いに吹き飛ばされ、そのまま回避出来ずに広い階層の壁へと激突するリンク。
「どんな時も油断してはいけないよリンク。まぁ、高位水爆砲が当たる直前に水陣結界を張ったのは褒めてやるよ」
「……フィリアさん……どうして……」
口元が切れた状態のままリンクが立ちあがる。高位水爆砲を放ったのは、紛れもなく先程までリンクへ案内役をしていたフィリア・アクアだった。元々水に対する耐性があるリンクは、高位水爆砲による魔法爆撃が自身にぶつかる直前、水陣結界を展開する事で壁に激突した物理的ダメージ以外は軽減出来たようだ。しかし、フィリアが突然放った攻撃に彼女は戸惑っていた。
「どうしても何も、アタシは見届け役だと言ったろ? この階層の試練はアタシを倒す事だよ」
「そんな……!?」
「アタシを倒すか、リンク……あんたがここで死ぬかだよ! 水流閃光!」
フィリアは言い終わると同時に、無数の水流閃光を放つ。リンクは華麗な動きで回避するが、連続で放たれる水流閃光に対し、反撃が出来ない。いや、リンクはどうしたらいいのか分からなかった。
「フィリアさん……いい方だと思ったのに……どうすれば!」
「言っただろ! 覚悟を持って挑みなって。迷いがあってはこの先立ちはだかる敵なんて倒せないよ!?」
「……!?」
フィリアはどうやらこちらの事情を全て分かっているようだった。試練を超えて雄也さんに強くなった姿で逢うんだ。そのためにはここを乗り越えないといけない。水流閃光を交わしつつ、リンクが舞を披露する。
「大気に揺蕩う水の雫よ 今ひとつとなりて 彼の者へ向け爆散せよ! 高位水爆砲!」
「――水の戯れ<動>!」
強力な圧縮された水の塊と、リンクが巻き起こした水流とが中央でぶつかりあう! 中央で巻き起こる爆発と共に、水蒸気が舞い上がり、雨となって地面に落ちた。視界が晴れた時、その場からリンクの姿が消えていた。
「――水の戯れ<静>」
「戯れか……シャボンで視界を遮って、さぁ、どうするんだい?」
目を閉じたまま相手の出方を窺うのはフィリア。
「――水の戯れ<輝>!」
視界が遮られた状態で階層へ響き渡るリンクの声と共に、周囲に満ちたシャボン全てが光を放ち始める。雄也にもまだ見せたことのない、新たな水の戯れを披露する。
「なるほどね……そう来たか」
「清き水よ……閃光となり、悪しき壁を突き破れ!――水流閃光!」
この時リンクはフィリアへ向かってではなく、無数に浮かぶシャボンへ向かって、大量の水流閃光を放っていた。シャボンは全ての水流閃光を反射し、まるで誘導されるかのようにフィリアの身体へ向け、角度を変え、無数の水流閃光が飛んでいく。やがて弾けるようにシャボンが割れ、爆発音と共に煙があがった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら、リンクは水流閃光がぶつかった先を見つめていた。彼女はもう分かっていた。水流閃光の閃光は敵を貫くのだ。爆発が起きたという事は、水流閃光は貫通せず、壁にぶつかったという事。そこには両手を前に出し、水色の光で出来た球状の膜を展開していたフィリアの姿があった。膜には罅が入り、まだ閃光が当たった場所から煙があがっていた。
「悪くはないね。でも間違いだ。強行突破は通用する敵も居るけれど……人間に使役されていない状況で、水精霊の福音も発動していない状況では、強行も何もないね」
「凄いですね、フィリアさん。今の攻撃が当たらないなんて……」
リンクが苦笑いをする。今負ける訳にはいかなかった。待っている人が居るから……。意を決して彼女は蒼色の瞳を閉じた。
「大気に揺蕩う水の雫よ 今ひとつとなりて 彼の者へ向け爆散せよ! 高位水爆砲!」
結界が一度解かれ、再びリンクへ向け放たれる高位水爆砲。が、彼女は目を閉じたまま動かない……。
やがて、巨大な水球がリンクを飲み込んだ。
「ん? もう諦めたのか……残念だよ……久しぶりにアタシを超える相手に会えたと思ったんだけど……」
次の瞬間、高位水爆砲に包まれたリンクから光が放たれる。眩しくて思わず目を閉じるフィリア。
「ありがとうございます、フィリアさん。そうだったんですね。避ける必要はなかったんですね」
舞を舞う女性の姿が現れては消え、現れては消える。美しい女性はツインテールの髪を靡かせ、水しぶきを纏ったまま魔法陣を四方へ展開した。先程までの幼さが残るリンクの姿は、豊満な二つの果実が実り、妖艶なそれへと変わっていた。
「……正解だよ、リンク。さて、と。水球結界陣!」
「――水精霊の戯れ<制裁>」
フィリアが先ほどと同じ球状の魔法結界を展開すると同時に、四方の魔法陣から何百、何千と放たれる水流閃光! 球状の膜に罅が入り、フィリアの身体を光輝く水の閃光が貫いていった……。血が入り混じった水たまりに赤い飛沫が飛び、フィリアはそのまま膝をついて倒れる。
「フィリアさん!」
そのまま走って駆け寄るリンク。一瞬大人の姿になっていたリンクは、元の姿に戻っていた。
「今ので……わかっただろ? ……リンク……水精霊の福音は本来、選ばれし強さを持った水妖精の……潜在的な能力を……引き出す力なんだ……」
「フィリアさんは、教えようとしてくれていたんですね……ごめんなさい……私……」
水の力そのものが水妖精の力となる……大気中の水蒸気も、敵から放たれる水さえも、全てが自身の力となりうるのだ。リンクはフィリアが放つ高位水爆砲を吸収する事で、一時的に水精霊の福音を強制発動するに至ったのである。
「謝る必要なないさ……それに……元々アタシは……」
そういうとフィリアの身体が光に包まれる。
「え!? フィリアさん!?」
実体がなくなりかけた状態のまま宙に浮かんでいくフィリア。
「アタシはね、昔魔王との戦いで瀕死の重傷を負ったんだよ。当時、夢見の巫女であった十六夜さんとエレナ王妃に、魂を身体へ結びつけるため、浄化の力に満ち満ちているこの試練の間でのみ生きていけるよう此処に送られたんだよ。本来アタシは妖精界に居てはいけない存在なんだ……」
「そんな!? フィリアさん!」
リンクがフィリアへ向かって叫ぶ。
「リンクが来てくれて、やっと報われた気がするよ。今妖精界で起きている事……悪しき力がきっと働いている……あんたなら、きっと最後の試練もクリア出来るさ」
フィリアの姿が光の粒となり、消えていく……。
「待って、フィリアさん!」
「リンク……エレナ王妃から聞いたよ。雄也君、悲しませるような事しちゃあいけないよ。それから……雄也君へ、ヨウコによろしくって言っといてくれ」
やがて、フィリアの言葉が聞こえなくなると、階層奥の扉が開いたのである。赤く淀んだ水溜まりは、フィリアという水妖精がさっきまで此処に存在していた事を証明していた。
「ごめんなさい……ありがとう……フィリアさん……」
目から溢れる雫を拭い、目の前に開かれた扉へと歩み出すリンク。
それは決意の表情だった。
水精霊の試練は第八階層――いよいよ最終試練を残すのみだ。




