第81話 和馬サイド②――鳥獣王パズズ――
ハーピー達の襲撃を退け、ウインクの故郷であるウィンディアナ村へと急ぐ和馬と弥生。しかし、そこに待ち受けていた光景は……
「おいおい、どうなってるんだよ、これ!」
白蛇のぴゅあちゃんに乗り、無事にウィンディアナ村へと降り立った和馬と弥生だったのだが……目の前に広がる光景は、誰も想像していなかったものであった。
「これも……きっとパズズの仕業でしょう。酷い事をする……」
崩れ落ちる瓦礫、焼け落ち燃え滓となった家だったものは黒い炭となり、残骸となっている。死んだ者達の魂を浄化するかのように、空から哀しみの雫が落ちて来た。
「ウインクさん、どこだ! ウインクさーん!?」
和馬はウインクの名前を呼び、村を走る。しかし、呼びかけに応じる声はない。滴る雫をそのままに走る和馬へ駆け寄り、慌てて呼び止めたのは弥生だった。
「和馬さん……待って下さい。私は夢妖精です。この周囲にあるウインクさんの記憶を辿り、読み取ります……もし……ウインクさんが生きているのであれば、この村で起きた光景を読み取れる筈です」
「そ、そんな事が出来るんですか!?」
「ええ、急ぎましょう」
そう言うと弥生が目を閉じ、念じ始める……。
「……なるほど、そうですか……ウインクさんもここを訪れたようです。あちらですね、行きましょう」
弥生は目を閉じたまま歩き始める。やがて、ウインクの生家だった場所へ自力で辿り着いた。
「これは……惨すぎる……」
「ここがどうやら、ウインクさんの家だったようです。いえ……和馬さん、記憶の残滓が強い。恐らくウインクさんは生きていますよ?」
「本当ですか!?」
顔をあげる和馬。再び目を閉じる弥生。
「……こ、これは!? え? どうして彼女が!? え、そんな!?」
一瞬、表情が変わる弥生。
「……いや……彼女が攫うような事をする訳がない。ならば……」
「弥生さん、どうしたんですか!?」
明らかに様子が変わった弥生に問いかける和馬。やがて、目をゆっくり開けた弥生は和馬へ笑みを浮かべ返答する。
「大丈夫です、ウインクさんを見つけましたよ。それに昔のお友達も」
「どういう事ですか?」
「村の住民も、何名かは亡くなってしまったようですが、救出されているようです。恐らく彼女達の目的も私達と同じ。急ぎましょう!」
「弥生さん、彼女って一体誰の事ですか?」
「へっくち!?」
「あら、ビビ、風邪?」
「おかしいやんな。うちは健康には自信があるねん」
「誰かに噂されてるんじゃないの?」
「そうかもしれへんな。うちは人気者やさかい」
「あんた相当の自信家ね……」
ビビがウインクとそんなやり取りをしていると、妖撃団の団員らしき忍装束姿の女妖精がビビの下へやって来た。
「ビビ様! 山吹部隊全員帰還、北東の集落と東ブリージア村の住民達、無事に避難完了しました!」
「ご苦労様。後はブリーズ城を奪還するだけやさかい、時間の問題やんな。奪還作戦の時間まで、ちょっと休んどき」
「ありがとうございます。失礼します!」
妖撃団団員の報告を受け、ビビが指示を出す。
「風の都奪還も時間の問題かもしれへんな」
「本当に? よかった!」
ウインクの表情が笑顔になる。しかし、入って来る団員からの報告により、事態は急変する。
「ビ、ビビ様! 黒百合部隊がブリーズ城偵察中、鳥獣達と好戦、敵将パズズと接触した模様です!」
「なんやて!? あの娘達は!?」
「……あんこ達がまだ粘っておりますが、長くは持たないかと……」
「くっ、よう知らせてくれたな。下がってええで」
そういうとビビが洞窟の出口へと向かう。すると、後ろを当たり前のようについていく女妖精の姿があった。後ろを振り返らず立ち止まるビビ。
「あんたはここでうちが帰って来るの待っとき!」
「なんでよ! 私の村を滅茶苦茶にした相手よ? 一発殴らないと気が済まないわ」
「あんたまだ人間と契約してへんのやろ? 遊びやないねんで。わかっとるんか?」
「その位、分かってるわよ! 人間と契約していないのは一緒でしょ? 私だって、力になりたいの! お願い!」
ビビの前に立ち、ウインクがお願いする。
「足手まといにはならへんな?」
「ええ、あんたの邪魔はしないわ」
はぁーと溜息をつくビビ。
「分かったついてき!」
「ありがとう、ビビ!」
「ビビ様、単独では危険で……」
入り口に立っている見張り役の妖撃団団員がビビを止めようとするが、その瞬間ビビは彼女の背後に廻りこみ、首もとにくないをつきつけていた。
「あんた、うちを誰と思ってるん? そう簡単にくたばる魂やあらへんよ」
「申し訳ありません、ご武運を!」
団員とのやり取りを見ながらウインクは思う。ビビのように強くなったなら、和馬と一緒に強い魔物も倒せるのではないか?
……と。部下とのやり取りを終え、ビビが洞窟の入口に立つ。
「ウインク、ほな行くで」
「あ、待って!」
洞窟を出ると、木々の隙間から射し込む木漏れ日が眩しかった。雨が上がった後なのか、木々の葉から雫が落ち、水溜まりが出来ている。ビビとウインクは羽根と翼をそれぞれ持っているため、目にも止まらぬ速さで木と木の隙間を抜け、森を抜けていた。空を飛んでいった方が早いが、そうすると敵にすぐ見つかってしまうため、忍び寄るために森を抜けていく作戦を取った。やがて、ブリーズ城手前の広い平地が見えて来る。刹那、目の前に猛烈な突風が吹いて来たため、平地手前の岩陰に素早く隠れるビビとウインク。背後にあった木々が靡き、何本かへし折れていた。
「あれが……パズズ!」
「くっ、みたらし、あんこ……みんな!」
ウインクとビビが見つめる先に、その魔獣は降りたっていた。雷光の妖撃団の団員らしき、黒と赤紫色の忍装束を身に纏った雷妖精が何名かは倒れ、何名かはかろうじて立っている状況だった。
「ゲババババ! もう終わりか? 集落を燃やしても死体の数が少ないと思っていたゲバよ。妖精の癖に小賢しい真似をしおって!」
そう言うと、再びパズズが鳥獣の王たる大鷲のような紫色の翼を羽ばたかせる! 瞬間猛烈な風が襲い、くノ一の格好をした妖精達が風により巻き上げられ、地面に叩きつけられた。
「みたらしー! く、くそ……雷光の妖撃団を嘗めるな! ――雷光球!」
掌から光の球を放つ妖精。バチバチっと、空気が弾ける音を出しつつ光弾はパズズに直撃する! パズズの腹部から煙があがるが、避ける事もなく、何事もなかったかのように立ったままのパズズ。
「ゲバババ……、これではマッサージにもならんゲバよ。俺様にマッサージをするならもっと強い刺激が欲しいゲバ」
再び猛烈な風を起こすパズズ。最早これまでか……目を閉じる雷妖精あんこ。しかし、身体に痛みを感じない、一瞬身体が軽くなったのを感じた。目を開けると、見慣れた黄色い忍装束を身に纏ったくノ一の顔があった。
「あんこ、もう大丈夫やで!」
「ビビ……様……」
あんこはそのまま気を失った。
「ゲバババ! まだ虫けらがおったゲバか? 俺様以外に風を使うなど生意気ゲバよ!」
「あんたね、ウィンディアナ村を滅茶苦茶にしたのは!」
「だったら何ゲバ? そうか、あの村の生き残りゲバね? この国の……いや世界中の風は俺様がいただくゲバよ!」
パズズの風を相殺したのはウインク。風が相殺され、巻き上がる瞬間、ビビがあんこを助けたのだった。彼女はあんこを離れたところへ寝かせ、すぐに参戦する。気づけばパズズの上空に飛翔していた。
「うちの団員をよくも可愛がってくれたやんな」
「ゲバ!? 貴様、いつの間に!?」
「強い刺激が好みなんやろ? 雷精霊よ、導きのままに、天からの裁きを! ――迅雷撃!」
突如巻き起こる雷雲により、パズズに強烈な雷撃が直撃し、パズズ全身を焼いた! 一瞬視界が見えなくなる程の閃光と地面へと広がる轟音。並の魔物であれば、恐らく黒く焦げた影しか残らなかったであろう。
「ゲバババ……今のはなかなかの刺激だったゲバよ?」
「な、なんやて!?」
ビビと同じ高さにゆっくり舞い上がるパズズ。獅子の頭と大鷲の翼が少し焦げつき、傷がついた程度で致命傷にはなっていないようだった。最大級の雷撃魔法をお見舞いしてかすり傷程度。ビビの額に汗が滲む。しかし、気を取り直し、ビビの姿が一瞬で消える。背後からパズズの首もとを一突きするが……。
「届かんゲバよ?」
「そうやろうな」
分厚い猛獣の鍛え抜かれた身体。くないは急所を撃ち抜いてくれない。急所突きを諦め、一旦距離を取るビビ。その瞬間、パズズが動いた。
「行くゲバよ? ――熱風翼撃!」
猛烈な突風の中に、炎を纏った紫色の羽根が混ざり、紅蓮の刃となってビビを襲う! 慌てて防御を取るが、避けきれずに被弾してしまう。そのまま傷を負ったまま落下するビビの身体をウインクが受け止めた。
「ビビ、大丈夫!?」
「いやー油断したわ、自身の力を見誤っとったかもしれへん。勇者と契約したままやったらあの雷撃だけでいけたかもしれへんな……」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! てか、ビビ、あんたまさか?」
「そうやで……うちは……疾風迅雷の勇者、シュウジと契約していた妖精やよ。人間とは大人になってしもうたら、ほとんどが契約解除になるんよ。ウインク、早くその和馬とかいう人間と契約しい。こいつは今のうちだけだと時間かかりそうやわ」
ビビの発言が引っ掛かり、ウインクが質問した事でとんでもない情報が出て来たのである。ビビは以前、疾風迅雷の勇者――シュウジと契約していた雷妖精だったのだ。
「ゲバババ! 話は終わったゲバか? 止めをさす前にやっとく事があるゲバ!」
すると、パズズが懐より何やら怪しい宝玉を取り出し、天にかざした。次の瞬間、ビビをはじめ、その場に伏していた雷妖精達の羽根が怪しい紫色の光に包まれ、宝玉に吸収されたかのように奪われたのである!
「な!? あんた……何したん?」
鋭い目でパズズを睨みつけるビビ! 空中から見下ろすようにしてパズズが叫ぶ。
「その表情、いいゲバね! 風も空も全て俺様のものゲバよ。お前達の羽根も、風妖精の翼も、みんな俺様が全部奪ってやったゲバよ」
「――風速刃!」
「な!?」
今この場で飛んでいるのは自分だけ。そう思い上空からビビ達を見下ろしていたパズズの腕が、目の前から飛んで来た風の刃により、引き裂かれた。
「貴様! なぜ飛べるゲバ?」
「さぁ? 私は一度奪われたからじゃない? あんたさ、その宝玉誰かに貸したりしなかった? 例えばリリスとか?」
ウインクが悟ったかのようにニヤリと笑い、問いかけた。
――パズズ、その宝玉、翼奪えるんでしょ? 面白そうだから少し貸してくれない? ええ、も・ち・ろ・ん、無料でとは言わないわよ? お・ね・が・い、パ・ズ・ズ?
「ゲバーゲバババー!? 貴様なぜそれを!?」
何か後ろめたい事があったのか、鳥肌が立っているように見えるパズズ……鳥だけに……。
「そうかー、まさか私の翼奪ったのがリリスの力じゃなくて、その宝玉の力だったとはねぇー。じゃあ、あんたを倒せばみんなの翼は戻るって事ね」
「貴様ーー、どうしてそれをー!」
「どうしても何も、リリスを倒したら私の翼戻ったもの」
「そ、そうか、夢の都でリリスを倒したという妖精は貴様等かー!? リリスちゅあんの敵ゲバー!」
直後猛烈な風が直線上に巻き起こり、ウインクは旋回し回避する、振り向き様にウイングカッターを放つが、パズズは大鷲の爪で弾き返す。
「リリスちゅあんて……あんたリリスの下僕か何か?」
「うるさい、許さんゲバ! ――熱風翼撃!」
先ほどの炎を纏った強烈な旋風がウインクへ向かって放たれる!
「ウインク、それは危険やんな!」
ビビが地上よりウインクへ叫ぶ! ウインクが自身の風でなんとか相殺しようとしたその時!
―― 冷気の檻よ、やつを捕らえよ! 銀冷吐霧!
「キュゥウウウウウウウウウウウウウーーーー!」
ウインクが放った風速刃と背後から放たれた銀冷吐霧が見事に混ざり合い、氷の刃は紅蓮の羽根を消滅し、風迅は巻き上がり消え去った。
「ゲバババ! な、何者ゲバ!?」
「待たせたな化物! 俺は和馬、あんたを倒しに来た者だ」
空中を浮遊する巨大な白蛇に乗った和馬と弥生が、ウインクと再会を果たした瞬間だった。
「和馬ーー! 和馬ーー! 会いたかったわー! 来てくれると思ってたわー。てか、その白い竜みたいなのって……?」
「ウインクさん、無事でよかった! これは、ほら、弥生さんが飼ってたぴゅあちゃんだよ」
「えぇ!? あの白蛇!?」
ウインクと和馬が空中で会話する中、ぴゅあちゃんから飛び降りた弥生はビビの傍へと駆け寄る。
「無事ですか? ビビさん」
「なんや、助けに来てくれたん、弥生」
「いえ、たまたまです」
「まぁ、ええわ。仲間を頼めるか?」
戦況は思わしくないようだった。弥生は周囲を見渡す。
「ぴゅあちゃん!」
「キュウウウウウウウウウーーー」
ウインクと和馬を乗せたぴゅあちゃんも地上へ降り立つ。何をすべきかは、もう分かっていた。互いに頷きあう和馬とウインク。
「ゲバババ、どれだけ虫けらが増えても俺様を倒す事は出来んゲバよ? 地獄へ落ちるゲバ!」
パズズが地上へ向け咆哮した――




