第76話 優希サイド①――猫妖精との再会――
「にゃーーー優希お姉様にゃーー会いたかったにゃーーー」
「おー、ブリンクー、私も会いたかったよーーー」
セーラー服を着た猫耳少女を撫で撫でモフモフする女子が一人。傍から見れば、微笑ましい光景なのだが……。
「優斗ーーー、どうしてそっちに目覚めちゃったのーーー?」
「優斗様……少し見ない間にお変わりになられて……」
ナース服と魔導士のローブとを掛け合わせたかのような衣装に身を包んだ双子の光妖精。流れる涙をハンカチで拭っているのはライティ。そして、口をあんぐり開けたまま優斗とブリンクの様子を見ているのはレフティだ。雄也達と別れた後、優斗は単身ブリンティスの村へ夢渡りの力で渡ったのである。そこへ待っていたのはブリンクとの再会……だったのだが、この姿を他のメンバーへ説明する必要があった。
「優希お姉様は優希お姉様にゃーーー! うちは優斗も優希も大好きにゃー!」
そんなライティとレフティの様子を見て、ブリンクが反応する。
「嫌よ……もう優斗とイチャラブ出来ないなんて、私は嫌よ……」
「姉さん……本人が望んだのであれば、私達は受け入れるしかありません。苦しんで日々を過ごすより、個を受け入れ、自由に生きる……素晴らしい事ではないですか……」
ライティを宥めるかのように優しく語りかけるレフティ。
「いやいや、ライティ、レフティさん! これ、マジで趣味じゃないからね!? 俺が契約している夢妖精のルナティと、色々あってひとつになってしまって、むしろ、元の姿に戻るためにここに来たんだから!」
双子妖精が勝手に解釈を始めるものだから、真っ向から否定する優希ちゃん。だったのだが……。
「ひ、ひとつに……優斗!? まさか……私という存在が居ながら、その夢妖精とひとつになったですって!? 優斗酷い! 酷いよーーー!」
「あ、姉さーーん!」
涙を瞳に浮かべたまま、診療所奥の部屋へと駆け込み、閉じ籠ってしまうライティ。
「優斗さん……姉さんの気持ちを知ってるんでしたら、嘘でも人間界で手術をして戻って来ましたーとでも言わないと駄目です」
「いや……さすがにその嘘はつけないでしょ……」
苦笑いするしかない優斗……。
「ライティ、お腹でも痛いのかにゃ? 心配にゃー……」
「ブリンク、大丈夫ですよ。時間が経てば元通り元気になる筈ですから」
「そうかにゃーー」
ライティが入った奥の扉を心配そうに見つめるブリンク。
「レフティさん、ライティのためにも俺は元の姿に戻らないといけないんだ! ユニコーンの居るブリンティスの森へ案内してくれるかい?」
「あ、そうでしたね。最近は光の国も平和になって、診療所に来る患者さんも少なくなっていますから、私が抜けても問題はないでしょう。ブリンク、優斗さんとブリンティスの森へ行きましょうか」
「やったにゃー! 冒険にゃーー! 行くにゃー、わくわくだにゃー!」
ブリンクの瞳がおんぷおんぷになっていた。十六夜が優希へ出した指示は、単にブリンクと合流する事だけではなく、ブリンクと合流し、ユニコーンが持つ浄化の力でルナティの肉体を復活させる事が今回の目的……という訳だ。
「あ、そういえば! エイトさんは留守ですか? もしかして、ブライティエルフですか?」
診療所にエイトの姿が見えなかったので、優希がレフティへ尋ねる。シュウジから勇者と魔王の話を聞いた今、エイトからも話を聞きたいところだったのだ。
「エイト様は最近留守にしている事が多いですよ。今日もどこかへお出かけになられています。エイト様も強さならお付きも必要ありませんしね。それに、アラーダ様もクレイ様も最近はブライティエルフ再建に忙しいようで、ブリンティス村とブライティエルフを行ったり来たりしています。先日の聖魔大戦での犠牲者も少なからずおりましたしね」
「ん? 聖魔大戦?」
レフティの発言に疑問を持つ優希。
「あ、そうでした。ナイトメアとグランドグールとの戦いを、後世に語り継いで行くために、『聖魔大戦の奇跡』と言う事になったんですよ。光の国が救われたのは、まさに優斗さん達が活躍したお陰です」
「凄いな……少し来ない間にそんな事になっていたんだね」
「そうにゃーうちら有名人にゃー」
こうして改めて話を聞くと、妖精界を救う旅をしているという実感が湧いてくる。優希も聞いていて嬉しくなった。
「よーし、それじゃあ早くルナティの身体を取り戻して、世界を救う旅に合流するぞ!」
「えいえいおーにゃー」
優希とブリンクが右手をあげ、三名はブリンティスの森へと向かうのであった。
★ ★ ★
ブライティエルフ北、ブリンティス山の麓にあるブリンティスの森。前回は、雄也・パンジー・レフティの三名で、この聖なる森奥にある湖にてユニコーンの涙を貰い、その力で虹色晶石を作る事に見事成功したのである。
「まさかこんな短期間で再び此処へ来る事になるとは思いもしませんでした」
レフティが目の前に広がる霞がかかった湖畔を眺めつつ呟く。三名はブリンティスの森奥にある、湖畔まで来ていた。
「お姉様ーーー水が美味しいにゃー! こっちに来るにゃー!」
ブリンクが湖の水を飲んでいる。透き通るように美しい水は、見ていて心まで洗われるようだ。
「これは水霊の森にある湖の水より綺麗かもやんーー本当だ、美味しいねブリンク」
透明な水をミルク色の透き通る掌ですくう優希。
「優斗さん、すっかり女の子ですね……」
猫娘と美少女が湖の水を飲む姿を見守るようにレフティが呟く。
「ん? レフティさんも飲みます?」
レフティの視線に気づき、優希が笑顔のまま振り返ると、少し水がかかったブラウンヘアーが靡く。
「そんな美しい顔のまま振り返らないで下さい。私も何かに目覚めてしまいそうです……」
「どうしたにゃーレフティ、顔が赤いにゃー?」
「な、なんでもありませんよブリンク! さ、ユニコーンを呼びますよ!」
そういうと、森の方へ向き直り、ユニコーンの名前を呼ぶレフティ。そう、レフティはこの中で唯一ユニコーンと接触しているのである。
「コハクさん、ミドリさん。いらっしゃいますかー!? 光妖精のレフティです。お二方の力が必要で参りました。出て来て下さいますでしょうか?」
レフティがユニコーンの名前を呼ぶ。森は凛と静まり返っている。
「……てかミドリとコハクって名前なんだね……なんかユニコーンっぽくないよね……」
―― ユニコーンっぽくなくて悪かったわね!
優希の小声に反応して、木陰からユニコーンが出て来た。艶やかな鬣と、透き通るような翠色の瞳が美しい。
「あ、レフティさん先日ぶりですー! 私の涙は役に立ちましたかー?」
続けて琥珀色の瞳をしたユニコーンが出て来る。瞳の色からして、こちらが恐らくコハクなんだろう、と優希は考える。
「はい、コハクさん、その節は、ありがとうございました。お陰様で悪しき者から光の国救う事が出来ました。本日ここに居る優希さん、ブリンクさんも、先日の戦いに参加して下さった者です」
レフティは優希とブリンクを紹介する。優希と名前を紹介したのは説明すると長くなりそうだと思ったから……だったのだが……
「へぇー、凄いね、優希さん? 今時妖精と融合出来る人間が居るなんてね」
ミドリがそう言うものだから驚いたのは優希だ。
「え? ミドリさん、分かるんですか!?」
「そんな事がわかるなんて、姉さん凄いですー」
「いやいや、どうしてコハクは分からないの!? 私達ユニコーンの瞳はその者が持つ魂を視る事が出来るのよ? 優希さん、今の貴女は力に満ち溢れている。ただし、妖精の魂……少しずつその生命力が弱まっている……私達の力を必要としているのは貴女ね?」
まさか説明をせずとも理解してくれるとは思っていなかった。
「ユニコーンさん凄いにゃー。うちはブリンクにゃー。よろしくにゃー」
「ブリンクさん可愛らしくて素敵ですー。私はコハクですー。よろしくお願いしますー」
ペコリとお辞儀をするコハク。ブリンクとコハクは自己紹介をしている。
「こらー、そこ! 話の途中よ、勝手に自己紹介しない!」
「はぅうーーごめんなさいですー」
ドーンとミドリがコハクに軽く身体をぶつけると、コハクの瞳からポロポロと琥珀色の宝石のような物が零れ落ち、地面に転がっていった。
「凄いにゃーキラキラにゃー綺麗にゃーー」
地面に転がった琥珀色の粒をコロコロ転がして遊ぶブリンク。
「レフティさん、もしかして……」
「ええ、前回もこんな風にユニコーンの涙が呆気なく手に入ったという訳です」
優希としては、ユニコーンの涙という名前だけあって、手に入れるのに苦労すると思っていた訳で……
「もう……コハクこれで何度目よ……あ、でも、その涙の力だけじゃあ、妖精さんの肉体は元通りにならないわよ?」
「え? それってどういう……?」
ミドリの発言に反応する優希。
「魂の力が弱っている……それは本来戻るべき肉体が傷ついている証拠……いいわ、あんた達、光の国を救ってくれたんでしょ? 私達姉妹をその妖精の肉体がある場所へ連れていきなさい」
「え? でもユニコーンはこのブリンティスの森から出られないのではないのですか?」
そう質問したのはレフティだ。
「はい、そうですー。私達は浄化の力が溢れる場所や、結界で守られた場所以外では短い時間しか活動が出来ません」
「ただし、巫女に準ずる力を備えた貴女なら……私達を召喚する事が出来る。召喚するなら場所関係なく連れて来る事が出来る。貴女には素質があるわ」
「しょ、召喚!?」
召喚するなんて、想像もしていなかった。まさかのミドリの発言に驚く優希。
「ユニコーンを召喚出来るなんて、凄いにゃー! さすが優希お姉様にゃー」
優希のすべすべの腕にブリンクが飛びつき、スリスリしている。
「そもそも一定以上の夢みる力を持っていないと融合なんて出来ないしね。さぁ、私とコハクの身体に触れなさい」
優希は促されるまま、それぞれの手で、コハクとミドリの身体に触れる。するとユニコーンの身体が光を放ち、続けて優希の身体が光るシャボン玉のような泡に包まれた。やがて、光は優希の身体へと吸い込まれていき、再び森の中が静かになった。
「おめでとうございます! これで私と姉さんをいつでも召喚出来ますよ」
「こんな簡単に出来るようになるの?」
「ま、後は還ってから試してみるといいわよ? 魔力は消費するから気をつけなさいね」
当初今回のユニコーンとの接触は、ルナティの肉体を元に戻す事が目的だったが、ユニコーンの涙はもちろん、角には呪いや毒、麻痺といった様々な状態異常を治癒する強い浄化の力がある。強い回復魔法にも長けており、今後激しくなる戦闘に於いてこれほど心強い事はないのである。
「ありがとうございます、ミドリさん、コハクさん」
レフティがお礼を言う。
「よーし、後は夢の都に戻ってルナティの身体を回復させるだけ……」
―― ドーーーーン!!??
その時、湖の手前、森の中から突然轟音が響いた。大木が倒れる音のような激しい音と振動が辺りに響き渡る!
「馬鹿な!? 浄化の力に守られた森に、魔物が現れる筈がないわ……」
「はぅうう……姉さんどうしよう……」
ミドリとコハクが明らかに動揺している。
「ミドリさん、コハクさん、契約してくれたお礼をしないとですよね」
優希が笑顔を見せた後、ユニコーンの前に立つ。
「うちも腕がなるにゃーー」
ブリンクがその横をガッチリキープする。
「ミドリさん、コハクさん、大丈夫です。私達が森を守ります」
「あんた達……」
「ありがとうございますー」
ブリンティスの森を進む何者かは明らかにこちらへ向かっている。本来魔を寄せつけない森……普通の相手でない事は明確だ。
「恐らく目的は……」
「ユニコーンが持つ浄化の力……」
「うちの出番にゃーー」
優希達の前に、新たな敵が迫ろうとしていた ――




