第71話 再び妖精界へ
現実世界での異変を察知し、水霊神社にて待ち合わせる雄也達。優斗は女子の姿――優希ちゃんのまま、幼馴染と神社へ向かう。
「ふぅーん、じゃあ、その妖精と夢の国を救う時に優希ちゃんになったら、戻れなくなっちゃったって訳?」
「そうそう、だいたい今まで人間界に還って来た時は、妖精界で持ってたアイテムや装備も元に戻っていた訳で、姿がそのままっていうのが有り得ないんだって! しかも、記憶すり替わってるわ、制服は壁にかかっているわ、服や女性物の下着までタンスに入ってるわで、もう、早く戻してもらわないと困るよ……」
神社へ向かう道を歩きながら、優斗が美優へ事の経緯を説明していた。優希ちゃんの姿で和馬との会話を聞かれたものだから、説明せざるをえない状況へと追い込まれてしまったのだ。
「それにしても美優……スカートの下がスースーするんだけど……」
美優に無理矢理着せられた、自身の部屋にあった白い花柄のワンピースを見つめながら、ため息をつく優希ちゃん。
「いいじゃん、可愛いんだから! 私が嫉妬するくらい似合ってるわよ? 優希ちゃーーん」
そういうと優希の腕へ自身の腕を絡ませ擦り寄ってくる美優。
「いやいやからかうな……って……ちょ、美優くっつくなって!」
「いいじゃーん、女の子同士なんだしさーーー」
完全に状況をもて遊んでいる美優。そうこうしている内に神社の鳥居が見えてきた。
「おーい、優斗ー! ……って、あれ? 隣に居るのは……美優さん?」
首を傾げながら手を振っていたのは雄也だ。
「こんにちはー! 雄也さんと新井君、優希を連れて来たわよー」
「おー、こんにちは美優ちゃん、俺だけ上の名前かよ。俺も和馬でいいぜーって、おい優斗……じゃなくて優希! どうして一緒に美優ちゃんが居るんだよ?」
和馬は美優に挨拶しつつ、どうして関係ない女の子が一緒に居るんだ? という片眉をつり上げた表情で優斗へ迫る。
「いやぁー、和馬ごめん、これには色々理由がありまして……」
両手を合わせて謝る可愛らしい姿の優希。
「まぁ、細かい事は気にしないで! 三人共、私に黙って面白い事してたんでしょう? 私も連れてってもらうわよ!?」
「え、優希ちゃん……喋っちゃったん?」
美優の提案に、雄也が驚いて優希ちゃんを見る。
「妖精界……? 優希にはそう聞いたわ。あ、それと、私、優希が優斗だった記憶もちゃんと残ってるから、雄也さんも和馬君も、いつも通り、優斗って呼んでも大丈夫よ?」
そういうとニヤリと笑った美優は再び優希に腕を絡める。優希はなんとも言い難い表情をしている。
「え!!??」
「マジか!?」
その発言に驚いたのは雄也と和馬だ。だから仕方なく話したんだよ……と優希が補足している。
「それはおかしいでしゅねーー。人間の記憶は夢見の巫女が調整しているはずですから」
突然近くから聞こえた幼い声に、周りを見渡す雄也達。
「ん? 優希? 今何か言った?」
「いや、俺は何も言ってないよ?」
優希と美優が会話する。
「ちょっと! ここよ、ここ! これで何度目ですか!?」
「あ、ごめん、なんだ三葉か。ちっちゃくて気づかなかったよ」
雄也が巫女服姿の三葉を見下ろしつつ、いつもの台詞で返答する。
「え? 可愛いーーー! この子、神社の子供? 初めましてー。神社のお手伝い? 偉いねー!」
どうやら美優と三葉は初対面のようだった。
「ちょっと、雄也! どうして部外者がここに居るですか?」
「ちょ、部外者って!? 何この子なんなの?」
まさかの部外者扱いに憤りを隠せない美優。
「その子は三葉、水無瀬三葉、水霊神社第十七代水無瀬家当主である、いつもアラタミヤ高校の保健室にいる水無瀬先生の娘だよ?」
優希が美優に説明する。
「え? 何? 水無瀬先生の娘なの? しかも水無瀬先生って……そんな凄い人だったの?」
美優にとっては色々と初耳だったらしい。
「そこのこむすめ! じきとうしゅにむかってずがたかいですよ?」
「こ!? 小娘ですって!? あんたみたいなガキに言われたくないわね!」
両者顔を近づけて闘志剥き出しの二人。
「まぁまぁ、三葉も美優さんも、喧嘩してる場合じゃないですから……。三葉、水無瀬先生は拝殿かな?」
水無瀬先生の力で、妖精界へと送ってもらわないといけないのだ。雄也は水無瀬先生の居場所を三葉へ尋ねる。
「え? ママは巫女巫女会議の最中で留守ですよ?」
「な、なんだって?」
「みこみこかいぎ?」
「み? みこみこかいぎ? なんだよそれ?」
三人同時に反応する。
「何……そのネーミングセンスなんとかならなかったの? 巫女が集まる会議ってのは分かるけど……ウケる……」
美優が一人でウケている……そんなに面白くもない気もすると雄也は思う。
「そんな事言われても、普通の会議だと面白くないから、せいまのみこしゃんが名付けた名前らしいので、困るです。とにかくママは留守だから、用事は代わりに私が聞くです」
両手を腰にあてて、三葉が雄也へ向き直る。
「せいまのみこって何か妖精界の巫女みたいな名前だね。まぁ、いいや、三葉。また妖精界へ行く事は出来るかい?」
「出来ますよ? 拝殿までついて来て下さい」
ひょこひょこと駆け足で拝殿へ向かう三葉の後をついていく四人。
「ちょっと優斗、あの生意気な子……あんなのに任せて大丈夫なの?」
「あれでも実力は凄いんだから、文句は言わない」
小声でひそひそ話す優希と美優なのである……。巫女巫女会議で水無瀬葉子が妖精界の巫女と会議をしているなんて、この時の雄也達は知る由もない。
「な……なにこれ……?」
神社の拝殿に不釣り合いな記憶の魔法陣を見て、驚きの表情を示したのは美優だ。今日になって色んな事が同時に起きていて、頭の中を整理出来ずに居た。
「俺達も初めてここに来た時は同じ反応だったよ」
「ほ、ほんとに優斗は妖精界で優希になっちゃったって事?」
優希の返答に、今まで半信半疑だった事が核心に変わっていく美優。
「美優ちゃんが驚くのも無理はないわな。俺等もまさか自分達が妖精界と人間界を救うなんて今まで考えもしなかったからな」
そう言ったのは和馬だ。
「でも、美優さん? どうするの? 俺達と一緒に妖精界へついて行く気なの?」
「当たり前よ! この姿の優斗をほっとけないわよ!」
美優が優希を指差しながら、雄也の質問へ答える。
「残念ですけど、部外者が来れるのはここまでなのです」
「えっ?」
その瞬間、巫女さんが祈祷の際、手に持つ大幣を振るう三葉。美優は一瞬身体が宙に浮いたかのような感覚を覚え、そのまま気を失った。力を無くした美優を慌てて優希が受け止める。
「待って! 三葉ちゃん! 何をしたの!」
「優希お姉ちゃん、だめなのですよ。どっちにしても、この記憶の魔法陣は妖精と契約した人間の使役主でないと移動する事が出来ないのです。お姉ちゃんがまだお兄ちゃんだった時、ママが説明したハズです。そこの小娘にはちょっと眠ってもらったです」
三葉もどうやら優希が優斗だった事を覚えているらしい。
「でも、三葉、ならどうして美優さんは、改変前の記憶を保持していたんだろう?」
雄也が皆の疑問を代表して口にする。
「それは分からないです。そこはママが還って来たら聞いてみるです。雄也と和馬お兄ちゃん、優希お姉ちゃんは、記憶の魔法陣で妖精界へ向かうです。そこの美優って小娘はママが還って来たら預けるから安心するです」
美優の事が心配だが、妖精界の事も気がかりだ。雄也達は妖精界へ向かう決心をする。
「皆さん、準備はいいですか? ――彼の者達を正しき道へ、正しき者を正しき場所へ ――妖精界の主よ、自然界の調停者よ、精霊の王よ、記憶を基に導きたまへ。記憶、接続! 記憶の魔法陣、発動!」
魔法陣が光を放ち始め、美優と三葉を残し、三人は姿を消すのだった。
★ ★ ★
「えー!? どうしてそうなるの? 雄也さんに会えないなんて嫌ですー!」
夢の国にて、人間界へ還る雄也達を見送った後、水の都のディーネリア神殿へ戻ったリンクとレイア。そこで母である、エレナ・ルーシーの発言に対し、口を尖らせながら真っ向から反対しているのはリンクだ。
「そうも言っていられないのですよ、リンク。分かっている筈です、水精霊の力を扱えるようにならなければ、この先の戦いは厳しいという事を」
「でも!」
「お嬢様、私もエレナ様の御意見に賛成です。お嬢様が心配という事であれば、しばらく私は雄也様についておきます。それなら安心して『水精霊の試練』に専念出来るでしょう?」
「でも、それじゃあレイアとも一緒じゃなくなるじゃない!」
「わかってください、お嬢様!」
珍しく強い口調のレイアにリンクが怯む。
「リンク……これは雄也殿を守る事、皆を……妖精界を守る事にも繋がるのです。分かってくれますね……?」
最後は笑顔でエレナ王妃が優しく語りかけた。
「……はい、分かりました」
「お嬢様……私もお嬢様としばらく一緒に居られなくなるのは寂しいのです……絶対無事に帰って来て下さい。お嬢様ならきっと、試練をクリア出来ますから」
「レイアは優しいね。うん、分かったよ。雄也さんのために、みんなのために私頑張ります、シャキーンです!」
シャキーンをしたリンクが笑顔になった。
「では、準備が出来次第、リンクはディーネリア神殿奥、『試練の間』へと向かって下さい。レイア、雄也殿を頼みましたよ」
「分かりました、お母様」
「お任せを」
妖精界全体を揺るがす戦いへ向け、リンク達は少しずつ歩み始めるのである ――




