第68話 平穏の刻
夢見御殿にて、豪華な懐石を堪能した雄也達御一行。この日は、夢見御殿へそのまま宿泊する事となった。さすが夢見御殿、広い客間はもちろん、大きな大浴場まであった訳だが、優希ちゃん、男湯女湯どちらに入るのか問題が浮上し、女の身体で男湯に入る訳にも行かず、他のメンバーがお風呂に入った後、優希一人で女湯へ入るという展開となった。
雄也はお風呂あがりの優希ちゃんから、『鏡に映った自分の女体がエロすぐる』とか、『俺が今履いてるルナティの下着がスースーしてヤバい』とか、興奮気味なエロ斗情報を聞かされるのである。最初は優希に見つめられドキドキしてしまった雄也だったが、中身は優斗だったので、ようやくいつも通り接する事が出来るようになっていた。尚、どうでもいい情報だが、脱衣場の入口でレイアさんがずっと監視していたらしく、下手な事は出来なかったそうだ。下手な事って何だ? と一瞬聞こうかと思った雄也だったが、深くは追及しない事にした。
翌日、これまた豪華な朝食バイキングを食べた後、十六夜から、夢の国を救った事で人間界にも自由に還る事が出来るだろうという、嬉しい情報を聞かされた。これで、妖精界と人間界を自由に行き来出来る事になるのだろうか? ひとまずミズハラマリネを救った事で、人間界がどうなっているかを確認するため、雄也達は還る事にした。一旦、ゴルの宿屋で挨拶を終えた後、十六夜お付の弥生が人間界へと送ってくれるらしい。
「十六夜さん、色々とお世話になりました! これからもよろしくお願い致します」
夢見御殿の玄関口にて、雄也が代表してお礼を言う。
「いえいえ、今回は救っていただいております故、感謝するのはむしろこちらの方ですよ」
十六夜がお辞儀をする。
「あ、あの! 十六夜さん、すいません。俺……これからどうしたらいいでしょうか?」
そう告げたのは優斗……いや、優希ちゃんだ。さすがに今後の事が心配になったらしい。
「心配しなくとも、ルナティの身体が復活した時点で元の姿に戻りますよ? それに、今の姿もまんざらではないのかと思っておりましたが?」
十六夜がからかうかのように笑いかける。
「いやいや、勘弁して下さい。さすがにずっとは困ります」
自身のすべすべした腕に頬をスリスリしているブリンクの頭を撫で撫でモフモフしつつ、優希ちゃんが困った顔をしていた。そんなブリンクと優希ちゃんの様子を複雑な表情で見ているのはパンジーだ。
「何かある時は私がうまく調整しておきます。一度人間界での用事を済ませた後、優斗さんはまた夢見御殿を訪れなさい」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
優希が十六夜に頭を下げる。今後も十六夜さんには色々とお世話になる事になりそうな優希だった。
「和馬ーー! みんなーー!」
玄関口と正面鳥居の間、金色の鯉が泳ぐ池の横に空から謎の飛行物体が降り立った。地面にヒールがつくと同時に周囲につむじ風が舞い上がる。
「おぉ! ウインクさん!? もしかして!?」
和馬がいち早く降り立った飛行物体に声をかけた。そう空から舞い降りた物体……それは翼を取り戻した風妖精、ウインクである。
「そうなの! 朝起きたら翼が戻っていたのよ! もう、嬉しくって。夢の国を一周して来ちゃったわよ!」
嬉しそうな様子のウインクを見て、皆が笑顔になる。
「うわぁー、翼素敵ですねー! 翼が戻ってよかったです! ウインクさん」
初めて目の前で見る天使の羽根のように美しく真っ白な翼に、リンクが蒼色の瞳をきらきらさせていた。
「リリスによって奪われた妖気力も、ようやく皆の元へ戻ったという事ですね。あとはアリスの事ですが……」
レイアが考え込む様子を昨日アリスと対峙した時の状況を聞いていた雄也が案じていた。
「アリスの事ですが、今夢見部隊に調べさせております故、また追って報告致します。皆さん、まずは戦いの疲れを癒し、次の戦いに備える事が先決でしょう」
そんなレイアの様子を察したのか、十六夜がアリスの件を補足してくれた。
「十六夜さん、次の戦い……ですか?」
十六夜の言葉に和馬が反応する。
「もう、気づいている筈ですよ? 今回1人救って後3人、行方不明の子供が居るんでしょう?」
今までと同じ展開だとすれば、残りの子供が居る場所は恐らく妖精界の何処かであって、そこを救う事で、子供を助ける事が出来る……雄也も同じ事を考えていた。
「夢渡の力が解放された事により、今までより妖精界にある他の国にも行きやすくなるでしょう。それに異変が起こっているなら、私の力で感知する事が出来ます故、皆さんは恐らくそこへ向かえば間違いないでしょう!」
「それなら話は早いな! 俺とファイリーのコンビプレーを見せる時だな!」
和馬がファイリーへと声をかける。
「……え? あ、そうだな、和馬!」
突然声をかけられて驚いたのか、一瞬間を空けてファイリーが反応した。
「ん? どうした、ファイリー?」
「いや、何でもないさ、よろしくな、相棒!」
「さぁ、皆さん、ゴルの宿屋へは私が夢渡の力でお送りします」
弥生が渦を巻いた夢渡のゲートを開いた。
「ありがとうございます、弥生さん。じゃあ、みんな行こうか」
雄也を先頭に皆ゲートへ向かおうとする。
「あ、私は『カジノ&バー プレミアム』へ飛んで行くわ。支配人にもお世話になったから挨拶しておきたいしね」
そういうと、ウインクさんは翼をはためかせ大空へと舞い上がっていったのである。ウインクを見届けた後、雄也達は各々ゲートへと入っていくのであった。十六夜は笑顔でその様子を見届ける。
「――卯月、居ますか?」
「はい、ここに!」
十六夜の背後に、桜色をした浴衣を着た少女が現れる。
「夢都冒険者協会へ連絡し、ギルマスのシュウジをここへ呼んで下さい。どうやらまだ夢の国に残っているようです。私は今から巫女巫女会議の準備をします」
「御意!」
卯月の姿がその場から消える。
「さて、今から忙しくなりますね……」
妖精界全体を見渡せる力で、夢見の巫女は次なる動きを思案する――
★ ★ ★
「おぅ! お前ら! 今回は本当にすまなかった。俺まで操られてしまって本当情けねーぜ!」
雄也達が『ゴルの宿屋』へ入るなり、主人のゴルゴンを始め、皆が集まって来た。
「本当だよ、あたしゃあー旦那に首を絞められて、この世の終わりかと思ったよ!」
ゴルゴンの女将さんがゴルゴンの頭を叩くものだから、ゴルゴンが申し訳なさそうに女将さんへ頭を下げていた。しばらくは頭が上がらなさそうだ。
「それにしてもあんたら、夢の都ごと襲っちまうような今回の黒幕を倒しちまったんだろ? 本当強えーんだな! 見直したぜ! 和馬、困ったらいつでも俺を尋ねて来ていいからな!」
ガストさんのウインクに和馬がぶるっと身震いしていた。
「あ、あの! ブリンクさん、その節は助けていただいて、ありがとうございました!」
「うちはいいにゃー、みんな元気になってよかったにゃー」
ミディアム・シャムとブリンクが猫妖精同士、握手を交わしている。
「皆様、食堂の奥にお客様がお待ちです。今日は一般のお客様は中にお入れしてませんので、積もる話は中でお願いします」
メイドのレア・トレビィさんが食堂へ入るよう案内する。
「え? 自分たちに用事って……誰だろ?」
疑問に思いつつ、雄也達が中に入ると、黄色いフリルのワンピースを身につけた女の子が白のスーツに悪趣味で派手なスカーフを身につけたサングラスの男と一緒に座っていた。雄也達に気づくや否や、立ち上がる女の子と男。
「プ、プラチナちゃん?」
「ちょ!? あんたプロデューサー!?」
雄也とパンジーが同時に声をあげ、同時に顔を見合わせた。
「皆さん、この度は助けていただきまして、ありがとうございました」
先にプラチナちゃんがぱたぱたと駆け寄り、お辞儀をする。普段のアイドル衣装より抑え気味の格好だが、黄色いワンピースを着た姿も可愛らしく、あどけない笑顔にドキリとする雄也。
「プラチナちゃん、もう大丈夫なんですね、よかったです」
リンクがプラチナちゃんへ声をかける。雄也とリンクがプラチナちゃんと笑顔で話している。
「あんた、また僕にやられに来たのかい?」
どうやらパンジーと悪趣味な男は顔を知っているらしい。パンジーは弓に手をかけ、一触即発状態だ。
「あら、パンジーちゃん? あなたと戦うのはもう懲り懲りよ? それに私もリリスに操られていた口よ? これでもお詫びに来たんだからもうちょっと歓迎してくれてもよくって?」
お姉口調で近寄る男を警戒した目で睨みつけるパンジー。
「パンジー様、大丈夫です。その方からは殺気が感じられません。戦うつもりがないのは間違いないようです」
レイアがパンジーの弓に手をあてた事で、渋々弓を収めるパンジー。
「私もプロデューサーのパラダイスもリリスやアリスに利用されていだけのようです。申し訳ございませんでした」
パンジーとレイアの様子に気づき、改めて頭を下げるプラチナ。
「いやいや、プラチナちゃんは悪くないから」
そこに優斗……いや、優希ちゃんがプラチナちゃんに声をかけた、その時!?
「あ! お姉様!」
突然プラチナちゃんが、キラキラした瞳で優希ちゃんの両手を自身の両手で包み込んだのである。
「え!?」
「な!?」
「はい!?」
優希、和馬、雄也が同時に反応し、各々驚きの表情になる。
「夢見の回廊ではお世話になりました! あの時お姉様が居なければ私、どうなっていたか……」
そういうと両手を離し、自身の頬に手をあてるプラチナちゃん。顔が赤くなっているのは気のせいだろうか?
「え……えっと……よかったね、プラチナちゃん。俺……いや、私もプラチナちゃんが元気になって嬉しいよ」
どうしていいか分からない優希が言葉をかける。
「お姉様、お名前はなんとおっしゃるんですか?」
優希に顔を近づけ、ズイっと迫るプラチナちゃん。
「え……いや、えっと……」
「こいつは森山優希って言うんだよ、プラチナちゃん」
困っている優斗の様子を見て、雄也が代わりに答えてあげる。
「そうなんですね! 優希お姉様! 私、一目見た時から貴方様の虜です! お姉様の弟子にして下さい!」
「ん、え? あ、で、弟子ぃいいいー?」
告白かと思いきや……思わぬ方向に話が飛んだものだから、思わず聞き返す優希。
「ちょ! 弟子、弟子って! ブフォッ」
その言葉を聞いて思わずパンジーが噴き出した。
「リンク、弟子って美味しいのかにゃー?」
「弟子は食べ物じゃないですよ、ブリンク」
「そうかにゃー、残念にゃー」
「ちょっと、ブリンクー、そのボケやめてー。あははは……嗚呼お腹痛い!」
リンクとブリンクのやり取りがツボに入ったらしく、笑い転げるパンジー。優希の登場に困惑していた和馬やファイリーでさえニヤニヤしている。
「よかったですね、優希様! プラチナ様へ乙女心とは何ぞやと、説いてあげるといいではないですか?」
いつの間にか優希の横に居たレイアがポンポンと肩を叩く。それは何か悪い事を考えている表情ですよ、レイアさん。そう思う雄也。
「プラチナちゅあんにそこまで言わせる優希殿は才能があるかもよ? アイドルになりたい時は私の所へ来なさい。ちょうど、アリスちゃんも居なくなっちゃった訳だし、素敵なアイドルにしてあげるわよ?」
「か、勘弁して下さーーーい!」
パラダイスまで近づいて来るものだから、走って逃げる優希。『お待ちになってー』と追いかけるプラチナちゃん。皆の心からの笑顔にほっこりする瞬間だった。
夢の国に、ようやく平和が訪れたのだ。




