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第6話 決着 ~夢みる力~

――おもちゃの兵隊で終わるとは思っていなかったけど……。


 いざボス戦闘となると、雄也の額に汗が滲んで来た。

 いや、そもそも化け猫になる前はボスっぽくなかった。おもちゃ操るだけの妖魔と思っていたんだけど、目の前には筋肉隆々の化け猫だ。

 例えるなら人間界のネットの掲示板とかでよく見るよね……ムキムキの猫。


――実際対峙すると……気持ち悪いよね……。


「雄也さん、一気に片付けましょう」

「うん、わかった。あれだね。攻撃透過(アタックトレース)接続(リンク)! 強化水撃(パワーショット)!」


 見た目おもちゃの水鉄砲の銃口に光が集積し、そこから強力な水球が放たれる!


 雄也が放った水球は攻撃対象へ一直線上に向かっていく。見事キャッツバーンに水球が直撃し、衝撃と共に土煙が舞い上がった!


「よし、やった!」


 やがて視界が晴れると……そこにはキャッツバーンが何事もなかったかのように立っていた。


「どうした? それだけか?」


――おいおいおい!? 岩を砕く程の水球だよ? 効かないってそれ、ヤバイでしょ?


 そう思い、一旦距離を取る雄也。


「雄也さん、ここは私に――」

「分かった、リンク任せた!」


――任せたって言っても、今の状況必殺技が効かなかった状況だよね? 大丈夫なのか?


「さぁ、次はこちらから行くぞ! 火の粉連弾(ひのこあられ)!」


 手のひらサイズの大量の火の球が雄也達に降り注ぐ。


――ヤベェ、ヤベェ! あちち! 服に少し火ついてるから!

 慌てて火を消しつつ逃げ惑う雄也。


水陣結界(アクアシールド)!」


 リンクは手をかざすと、水で出来た魔法陣が火の球を防いでいた。


――え、なにそれ欲しい。


「雄也さん、私の後ろに下がっていて下さい! きゃっ!」


 そうリンクが言った矢先、キャッツバーンの拳がリンクの身体に直撃し、リンクが後ろに吹き飛んだ。


「リンク!」

「やはり、そこの妖精、直接攻撃は苦手のようだな? それでは俺には勝てんぞ」


――てか、こいつ、女の子を殴ったな? なんて野郎だ。許さないぞ。


「次はお前だ!」


 咄嗟に横に避ける雄也。キャッツバーンの拳がめり込み、雄也の目の前の地面が抉れる。かろうじて避けれた、と思ったら化け猫の爪が雄也の腹をかすめた。ひっかき傷に血がにじみでる。


――くっ、今までで一番痛い!


 雄也の表情が思わず歪む!


「ゆ、雄也さん!」

「だ、大丈夫。治癒源水(ヒールウォーター)があるから」


 そういって一つ治癒源水を消費する。もう一つをリンクへ投げる。


「リンク、これを」

「だめ、雄也さん、前!」

火炎球(ファイアボール)!」キャッツバーンが炎の球をすかさず放ったのである。


――ぐわっ!


 雄也の身体が後方に飛ばされる。治癒源水(ヒールウォーター)の力で傷がふさがったお腹は、今度は焦げ臭い匂いと共に焼けていた。


「くそっ」


 水鉄砲を放つが、強化水撃でもダメージを与えられない相手に普通の水球は無意味だ。笑いながら弾かれる。


――これ、絶体絶命ってやつだよね? 熱いし痛いしヤバイよね……この世界で死んだらどうなるのかな? 棺桶引きずって教会とかに転送されるシステムだったらいいな? あ、でもよく考えたらお金って違うんだっけ? リンクやレイアは金貨っぽいの使ってたよな……。


「冥土の土産でも考えてたかな? 人間ごときがここに来た事を悔みながら死ね!」


 キャッツバーンが雄也へ向けて拳を放つ ――





「いやいやいやいや、これヤバイっしょ。雄也どうなるん。ヤバイやん!」


 優斗は焦っていた。最上階に来た雄也達も、おもちゃの兵隊を一掃したところまでは余裕だった。それにあのリンクとかいう妖精。可愛らしい容姿に似合わず強い。兵隊の弓矢も全て水のシャボンで弾き、一瞬で倒してしまった。猫のボスも弱そうだし、これは楽勝だろうと彼は思っていたのだが……。


「あの人間の男の子、そう……そういう事ね……あれはマズいわ……」


 男の子が出て来たとこらから、ルナティの表情が変わった。


「え、どういう事なん? てかなんで人間の子供がおるん?」

夢みる力(ドリーマーパワー)は子供の頃が一番強いの。もっと言えば成人した人間には使えない力。それがあなたたちがここに来た理由でもあるの。あの男の子、見る限りかなりの夢みる力を持っているわ。しかもなんらかの力で強制的に眠らされている事で、夢みる力を周囲の負の妖気力に転換させられてしまっている」


 ルナティが説明してくれている間、男の子が赤い光を放ち、猫のボスが巨大化した。そして、雄也の強化水撃で傷ひとつすら与える事が出来なかったのだ。



「これどうすればいいん? ヤバイって? なんとかならんの?」

「この隔離された状況ではどうする事も出来ないわ。私達には祈る(・・)事しか出来ない」

「なんだよそれ……聞いてないんだけど」


 誰でも友達が死ぬところなんて見たくない。それがゲームか異世界か、よくわからない状況であっても一緒だ。


 ここは〝夢見の回廊〟とルナティには説明された。ルナティは夢妖精(ドリームフェアリー)であって、この妖精界(フェアリーアース)と人間界の夢みる力を司っているらしい。


 夢見の回廊は夢渡りの力(ドリームポーター)の原理となっている狭間の空間で、夢妖精は他の妖精よりも強くその力を行使出来るため、人と人との夢を渡る事が出来るという。


 そんな夢妖精であるルナティが、夢見の回廊へ来た際、世界が隔離された事で、この空間に閉じ込められた。同じくして空間に川を流れる桃のようにドンブラコー、ドンブラコーと流れて来たのが優斗だったそうだ。


 人間界の食べ物が流れてくるので食べ物にも困らない。この空間は悪くないと思っていた。だけど、今は違う……なんとかして雄也を助けられないか……優斗はそう考えていた。


火炎球(ファイアボール)! ―― 』


―― ぐわっ!


 キャッツバーンの放った炎の球をまともに受け、モニター越しに雄也が吹き飛ぶ!


「雄也!」


 思わず叫ぶ優斗!

 雄也が追いつめられていく……一瞬ルナティを見ると、目を閉じて祈っていた。

 妖精でも神頼みかよ……くそっ……。


『冥土の土産でも考えてたかな? 人間ごときがここに来た事を悔みながら死ね!!』


 化け猫が雄也に向けて攻撃をしようとした……。


「雄也ーー!」


 その瞬間、何かが起きた。


使役主(マスター)創造(イメージ)の力が一定量を超えました。使役主(マスター)創造(イメージ)接続(リンク)完了。これより創造(イメージ)命令(コマンド)を実行します」


 見ると、ルナティのブロンドの髪が光っている。優斗の肩にルナティが両手を置く。


「この瞬間を待ってたのよ。支援透過(サポートトレース)接続(リンク)! 愛の祝福(ラブブレッシング)!」






 雄也はこの時、死を確信していた。


――まさか、こんなところで死ぬなんてなー。世界を救うなんてやっぱ普通の人間じゃあ無理だよね。家族になんて言うかな……次、目を開けたら『おー、死んでしまうとは情けない』って王様か誰かの前で復活している事を祈ろう……。


 なんて考えていると、キャッツバーンの拳が雄也目がけて放たれた……。


 終わったな……と目を閉じる雄也。が、何も起きない。それどころか、強大な一撃を受けたような、痛みを全く感じない。


「んんんん、な! なにぃ!? 貴様なにをした!」


 拳が雄也の身体へ直撃するかしないかの瞬間、雄也の身体が桃色に光っていた。拳が雄也に届かない。


「あ、あれは……」その様子を見て、リンクが呟く。


――え? あ、あれ? 俺死んでない……?


 見ると雄也の身体を纏った光がキャッツバーンの拳を受け止めていた。


「あれは、確か……夢妖精(ドリームフェアリー)愛の祝福(ラブブレッシング)……でもどうして、ここには夢妖精は居ないのに……」リンクが何かを考えている。


「あれ? 俺死んでないみたいだね……」

「貴様がやったんだろう! そんな奥の手を持っていやがったとはな! 火の粉連弾(ひのこあられ)!」


 大量の火の球が雄也へ放たれる。……が、雄也の前に全て消滅した!!


――何この絶対防御! これ凄くない? てか俺なんかしたっけ? 


 何が起こっているのか全く分からない雄也。


「くそ、なんで効かない……ん? 何だこれは?」


 気づくとキャッツバーンの周りを大きな魔法陣が取り囲んでいた。その周囲でリンクが優雅に舞を披露していた。


「こんな時に踊りか……それになんの意味が……それにしても綺麗な舞だ……気持ちが安らかになる……ほわあああん……」


 凄く華麗で美しい舞に思わず雄也も見とれてしまう。可愛らしいリンクの姿に似つかわしくないほど妖艶で華麗だった。


「水の踊り子<(チャーム)> 雄也さん、キャッツバーンが見惚れている今がチャンスです……ってどうして雄也さんまでほわーんってなってるんですか! これ敵と見做(みな)した標的にしか効かないはずですよ?」


 舞を踊りながら話しかけるリンク。


「あ、いや、あまりに綺麗だったもので」


 照れながら言う雄也。


「え、あ、ちょ、ちょっとそんな事言われると恥ずかしいですから。それよりキャッツバーンがほわわーんってなっている今がチャンスです。雄也さんの必殺技でやっつけちゃって下さい」

「でもさっき強化水撃(パワーショット)は効かなかったはずじゃ?」


「いえ、今の雄也さんは恐らく……なぜかは分かりませんが愛の祝福(ラブブレッシング)の影響下にあるみたいです! 夢妖精(ドリームフェアリー)妖気力(フェアリーエナジー)を強制的に影響下の者へと譲渡する透過技(トレーススキル)です。それでも制限時間があるはずですから、今しかありません!」

「ん? よくわからないけどわかった! 攻撃透過(アタックトレース)接続(リンク)強化水撃(パワーショット)!」


 いつもより光の集積が多い。しかも雄也を包んでいた桃色の光もすべて水鉄砲の銃口へと収縮していく。


「ふにゃあああああ、魚が食べたいのぅーごろごろごろ。ふにゃあ!?」


 キャッツバーンが雄也へ目をやった瞬間、目の前に強大な水弾が迫っていた。


「うご、ぐごぉおおおおおおーーぎゃああああああ!」


 今までにない衝撃と共に、後方の水晶の柱へとキャッツバーンが吹き飛ばされる。水晶の柱にヒビが入り、欠片が地面にパラパラと崩れ落ちている。

 キャッツバーンへ目をやると、巨大な化け猫の姿から、元の小さな猫の姿になっていた。


「さ、魚が食べたいのぅ……ぐふっ」


 その瞬間、雄也とリンクが顔を見合わせた。


「やりましたね、雄也さん!」

「やったよーリンク!」


 リンクが雄也に駆け寄る。二人で手を取り合って喜んだ。ボス戦勝利の瞬間だ。


「あとはあそこの子供を起こすだけですね」


 見るとさっきの男の子が再び横たわっていた。閉じた目から涙が流れていた。


「ぼ、僕のおもちゃ……」

「この子は恐らく、夢の中で遊んでいただけなんだと思います。妖魔に夢みる力を利用されただけなんじゃないかと。そこにある聖なる蜀台との接続(リンク)も薄れてきている。あとは起こすだけなんですが……ここは私が起こすより適任の方がおいでのようです」


 そういうとリンクは上空を見上げ、叫んだ。


視て(・・)いるんでしょー? 夢妖精(ドリームフェアリー)さん。この子をお願いします!」

「え? 夢妖精?」思わず聞き返す雄也。


「ええ、先ほどもお伝えしましたが、雄也さんの最後の愛の祝福(ラブブレッシング)は、夢妖精(ドリームフェアリー)透過技(トレーススキル)ですから、恐らくはここに居ないにしてもどこかで視て(・・)いるんだと思います。でも、助けるならもう少し早く助けて欲しかったというのも本音ですねー」





「助けられるならもう少し早く助けたかったよね」


 優斗がルナティへ向かってそう言うと、見透かしたようにルナティが答える。


「一週間こうやって視せて(・・・)居たのが透過のためだったんだから文句は言わない。優斗の助けたいという創造(イメージ)が強くないとさっきの技は使えない。ましてや夢見の回廊が隔離されている今、別空間へとその力の効果を転送する事は、より強い創造(イメージ)との接続(リンク)が必要なのよ。まぁ優斗は無事に、その役目を果たしたという訳ね。さっすがぁー私の優斗ねぇ」


 優斗に後ろから抱きつくルナティ。豊満な胸が彼の背中に当たる。


「あわわわ、ちょっ、待って待って!」

「優斗ってウブよねぇーその反応お姉さん好きよー。」

「だ、だから……そういうの……しゅ、趣味じゃないって……」

「そんな事言わないで、世界を救った記念にひとつに(・・・・)なりましょう」


 迫りくるルナティに優斗が動揺、抵抗していると……。


視て(・・)いるんでしょー? 夢妖精(ドリームフェアリー)さん。この子をお願いします!』


「ちょ……ちょ……ルナティ……あれ……ルナティの事、呼んでる、呼んでるから!」

「えーーちょっと今いいところなのにーー、ん? まぁ、あれは放っておけないわね。どうやら隔離の力も弱まって来ているみたいだし。今なら夢渡りの力(ドリームポーター)も使えそうだし」


 なんとかピンチを脱した優斗が気を取り直す。


「そ、それは今ならここを脱出出来るって事?」

「まぁ、そういう事になるわね。あそこの男の子の『夢の中』へ飛ぶわよ?」


「え? そんな事が出来るの?」

夢妖精(ドリームフェアリー)本来の力ね。子供が悪夢を見ないように、正しく導くのが観察者としての仕事なのよ。負の妖気力にやられているあの子を救ってあげる事で、あの子も水の国も救われるわ」


「じゃあ今すぐ行こう!」


「私としては優斗とぉーずっとここで一緒に暮らすのもぉおーーいいと思ってるんだけどなぁあー?」


 急に甘声となって近づくルナティ。


「じょ、冗談行ってないで行くよ!」

「もうー真面目ね、優斗は」


 そういうと表情をかえてルナティが念じ始める……。


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