★第62話 愛の融合<ラブユニゾン>
雄也の眼前に現れた女性は、どうみてもルナティの姿ではなかった。
サラサラで艶やかなブラウンヘアーは輝きを放ちながら肩まで伸び、長い睫毛に丸い金色のウルっとした瞳が光る。ミルク色の美しい肌は思わず触りたくなる程の透明感。白とピンクのレオタードのような衣装は煌びやかで優雅、金色の留め具で白銀のマントが付いている。スラっとした身体のラインを強調するかのような衣装により、二つの豊かな双丘とヒップのライン、脚線美が強調されていた。銀色の鞭からは桃色のオーラが蒸気のように溢れていた。
「あ、あの……誰ですか?」
そう、ナイトメアと戦った際、大人リンクと初めて出会った時……あの時と同じ質問を雄也は目の前の女性へ投げかけた。
「何言ってるんよ……俺は俺やん、雄也?」
その笑顔が眩しくて、思わずドキリとする雄也。でもその口調からして……
「まさかと思うけど……優斗?」
「いや、まさかって何だよ?」
「うーん……まずは自分の姿を見た方がいいと思うよ……?」
「え? 何を言って……え? えぇえええーーーーーーーー!?」
雄也に告げられ、優斗はまず自身の身体を見たのだが、下半身が何かの膨らみに遮られて見えないのだ。とりあえず鞭を腰のバンドに掛け、恐る恐る両手で触ってみる。うん、柔らかい。思わずその弾力に感動を覚えてしまう程だ。頬もなんだかもちもちと弾力がある気がする。
よく見ると服もホーリーベストとズボンではなくなっている。なんだか太もものところがスースーするなと思っていたが、まるでフィギュアスケートの衣装のようだ。レオタードと言った方が正しいのか? それに、背中にも何やら勇者のマントのようなものがついている……髪も艶やかで潤いを閉じ込めたサラサラヘアー、肩まで伸びた美しいブラウン……キューティクルに溢れるその髪は世の女性が憧れる程であろう。
そして、何より大事な事がある。これは死活問題だ。認めたくはない、認めたくはないが……そう思いながら、優斗はゆっくり股間に手を当てた……。
「……うん、ない! ないーー!」
ルナティを失いかけた先程の喪失感とはまた違う喪失感が優斗を襲った。そう、優斗の息子である、男のシンボルがないのだ。
「はぁ……リアクションは優斗のままでよかったよ」
雄也がため息をつきながら少し笑顔になる。驚き様から察するに、優斗本人はこの姿になる事を知らなかったようであった。
「ナイトメアと戦っていた時の蒼眼妖精と同じ現象かしら? 闇影槍!」
どうやらリリスはルナティが変身したものと思っているらしい。闇影槍が優斗へ一直線に向かって来た! のだが……!?
「ちょっと! こっちはそれどころじゃないからちょっと待ってよ!」
なんと心臓へ向かって来た闇影槍を優斗は素手で掴み、横へと投げ捨てたのである。床に突き刺さった漆黒の槍は舞台に亀裂を残したままそのまま消滅する。
「素手ですって!? しかも、どうやらあれだけの致命傷が一瞬で消えちゃっているようね……あの眼鏡君が何かしたのかしら? ―― 地獄からの誘いよ 死神の鎌!」
瞬間、リリスは自身の最大級闇魔法である死神の鎌で全てを終わらせようとした。あの女メイドが居ない今、この魔法を止められる者はこの舞台上には居ない、そう考えていた。
「だからー! ちょっと待っててばー! 気持ちの整理をするのに時間がかかるんだから!」
「……っな! 馬鹿な!?」
その時リリスは驚愕した。武器ではなく首元に向けられた紫色の鎌を素手で……いや、目の前の女性は親指と人差し指で掴んだのだ。秒速で発動されるこの魔法攻撃を指で止めるなど……考えられない動きだった。こいつ……一体何者!? リリスに焦りの表情が浮かぶ。
「なぁ、優斗……さっきからさ、女口調になってないか?」
分かりやすく口調が違ったため、雄也が女性姿の優斗に尋ねる。
「雄也……わかってくれるか……なんかルナティの想いというかさ、感情が頭の中に凄く流れてくるんだよぉーー。気づいたら無意識に女口調になってしまう事があるみたいなんよー。これさ、融合技らしくてさ、ルナティと俺が今まさにひとつになってる訳よ。ルナティ助けたいって思ったらこうなっちゃったみたいでさ……妖気力と人間の夢見る力が一緒になる訳だから最強技なのは分かるし、俺が創造する事が力になるらしくてさ、今、頭の中が創造で溢れてる位なんよ? たまにルナティの意思が出てくるから女口調になる訳。俺のアイデンティティがさー……ねぇー雄也ー、わかってくれる? この気持ち……」
凄いウルウルとした瞳で訴えかける優斗。ちなみに声のトーンは男姿の時より高く、まさに可愛らしい女性が男にお願いポーズでおねだりするかのような仕草と表情なのである。雄也は優斗とわかっていても惚れてしまいそうな程だった。
「いや……わかったからさ、その瞳でじーっと見つめるのやめてくれ……」
ポリポリと指で頬をかき、ばつの悪そうな表情をする雄也。
「え……? あぁ……ごめん雄也……」
そして、そのまま互いに目をそらす雄也と優斗。
「許さない……許さないわよ……ルナティか誰だか知らないけれど、私の前でイチャイチャするような余裕を見せつけて……妖欲の女王を嘗めていると後悔するわよ……」
紫色のオーラを出しながら、遂にリリスが怒りの表情を露わにした。尚、雄也と優斗は決してイチャイチャしている訳ではない。
「雄也、ここは俺に任せて! ルナティの意思と今俺は一つにあるから、今創造が溢れてるの! 今から私が言った通りに動いて!」
「優斗……口調……」
「ああああああーー俺の言った通りにぃーーー」
「分かった、分かったから……」
女優斗とリリスとの最終決戦が幕を開ける ――
★ ★ ★
「こ……これは?」
巨大な闘技場のような石で出来た円形の客席に囲まれた場所……その中心にレイアは立っていた。目の前にはプリンセスドレスを着た女の子が立っている。
奇妙だったのは女の子からは一切の妖気力を感じなかった。にもかかわらず、近寄ってはいけないオーラを感じる……それはまるで、感覚を研ぎ澄ませている熟練の相手に対峙した時に覚えるような感覚だった。
「凄いでしょー、夢見の回廊外で遊ぼうと思ったんだけど、街が吹き飛んじゃうかなーと思って、移動してみましたー! アリスちゃんってば親切でしょう? あ、今回は闘技場風だよ? 心配しなくても大丈夫、罠とか一切作ってないから。ここなら安心して遊べるでしょ? レイアさん」
「そうですか……私の名前まで知ってるんですね……貴方はどこまで知ってるんですか?」
レイアは溜息をつきながらアリスへ話しかける。
「どこまでも知らないよ? むしろ貴方の事が知りたくてここに連れて来たんだもの」
「そういう貴方は、どうして人間の女の子なのに魔族と手を結んでいるのですか?」
アリスの返答に対し、レイアが逆に質問する。
「手を結んでいた訳ではないよ? まぁ、協力してあげていたのは事実かもしれないけどね」
アリスは淡々と質問に答える。
「なるほど……もしかして、人間界の子供達を誘拐したのも……アリス、貴方ですか?」
「えー、それはまだ教えられないなー」と、笑顔でごまかすアリス。
「まぁ、いいでしょう。ここで貴方を止めた方がいいという事は分かりました!」
「そろそろ始めましょうか? レイアさんの能力、もっと見せて欲しいな!」
するとアリスは、赤と白のシマシマで出来た、赤いリボンがついた小さな魔法のステッキのような物を取り出す。ひと振りすると幾つかの黄色い星が目に見える形でレイアに向かって飛んできた。レイアが横に飛んでかわすと、レイアが居た場所の地面に星が触れ、爆発する! 地面に小さな穴があいた。
連続で放たれる星を回避し、気づけばアリスのすぐ目の前に移動するレイア、そのままアリスへ短剣を振るうが、振るった先にはアリスの姿は既になく……レイアが背後に気配を感じると、魔法のステッキの先端がいつの間にか刃に変わっており、アリスは背後から真っ直ぐレイアの背中を狙う!
短剣を背中に当て、背後からの攻撃を瞬時に受け止めるレイア。そのまましゃがんで背後に居るであろうアリスを狙い回し蹴りをするが、またもやアリスの姿が消える。今度はレイアの右後方より星が飛んで来たため、飛びあがり避けるレイア。
「こちらも貴方の能力に興味を持ちました。その動き、普通の動きではないですね」
「そうかな? 私としては普通なんだけどなー」
レイアの目の前に現れ、首をかしげるアリス。
「単純な高速移動ではありませんね? 恐らく、夢渡りの力を利用した移動術……でしょうか?」
「へぇー凄ーい! 分かるんだ! やっぱりその眼のお陰なのかな?」
「私の眼は観察に優れているだけですよ?」
「えー嘘だー?」
「そんな貴方の瞳も能力を隠しておいでですよね?」
お互いの手の内を探るかのような会話が続く。やがて、アリスが下を向いて息を吐く。
「そっかぁ、さすがに分かるよねー。私ね、昔から、左の蒼い瞳で対象の望みが視えるの! でね、右の緑色の瞳で夢を創り出すんだよ! そうやってみんなの夢を叶えて来たんだ! 凄いでしょう?」
褒めて欲しそうな眼でレイアに語り出すアリス。
「それがこの舞台を創り出したカラクリであり、人間の女の子を操ったカラクリという訳ですね」
「操るだなんて、人聞きの悪い! だから、夢を叶えてあげてるんだってば!」
「貴方がそうする事で、たくさんの方々が不幸になっていると、貴方は気づかないのですね?」
「不幸になってるとは思ってないよ? だってみんな幸せな夢を視ているんだから」
首をかしげるアリスは全く悪いと思っていないようだった。
「ひとつ質問してもよろしいですか?」
「え、なになに?」
「この空間は貴方を倒してしまうと閉じ込められるなんて事はありますか?」
「え? あ、大丈夫だよ、私が死んでも出る事が出来るし、そうじゃなくても、私の合図で外にはいつでも出る事が出来るから!」
「それを聞いて安心しました、これで貴方を心置きなく倒す事が出来ます」
「わーい、やっと本気になってくれるんだね! じゃあ私もちょっと本気出しちゃおうかなー」
巨大な闘技場がある空間で、銀髪メイドとプリンセスドレスの少女との、本気の戦いが幕を開けようとしていた ――




