第58話 パンジーの秘策と熱き漢の戦い
童夢TV高層階、スタジオフロアに出現する光の柱を素早い動きで回避しつつ、空中を旋回しながら矢を放つパンジー。パラダイスも自身に向け放たれる矢を横へ跳びつつ避け、そのまま再び地面に手をつき、光の柱を放つ。両者膠着状態が続く。
「パンジーちゃん、避けているばかりでは私を倒せなくってよ?」
そう言い放つパラダイスの前にウイングカッターが出現し、飛び上がるパラダイス。ウイングカッターは遠く離れたウインクの下へと戻る。ウインクは緑の葉っぱを肩の傷に当てた状態でパラダイスへウイングカッターを投げつけていた。
「パンジー! この薬草葉ありがたいわ! じわじわ傷が癒えていってるのが分かるわ。ありがとう」
ウイングカッターを投げつけながら、ウインクがパンジーへ声をかける。
「お、よかった! しばらくすれば肩の傷も元通りだよ! 煎じて飲んでも湿布のように貼っても有効なんだよ! ……って、おっと!」
パラダイスが放つ光の柱を避けながらパンジーがそれに答える。
「よく喋る余裕があるわね、次いくわよ!」
先ほどよりも広範囲の光柱が放たれ、パンジーを捉えたかに見えたが、素早く飛ぶ事で直撃を避ける事が出来た。左足にわずかなかすり傷が出来るが致命傷には至らない。
「やっぱりね、その技、地面に妖気力を送る量によって光柱の大きさを調節してるでしょ? 僕の種子爆弾で創る地雷源とそっくりだから分かるよ」
矢を放ちながらパンジーがパラダイスへと話しかける。
「分かったところで私の攻撃は止められないわよ!」
パラダイスは攻撃の手をやめない。やがて、パンジーが飛行する先を予測しながら光柱を放つようになり、パンジーの手足をかすめるようになっていた。パンジーは蔓縛りを合間に入れるが、パラダイスもそれを予測し、動きを止められないでいた。
「パンジーちゃん、ジリ貧ね。次で終わらせるわよ!」
パラダイスがパンジーの矢を避けながら、両手を地面につくべく構えをとる。
「ウインク今だ! 風をお願い!」
「おーけー、わかったわ!」
パンジーがウインクへ声をかけると同時に強力な風がフロア内に巻き起こった。強力な風に吹き飛ばされまいと、パラダイスが踏ん張る。
「それで止めたつもりかしら!」
パラダイスにダメージはない。パラダイスは風に耐えながら、攻撃態勢を取ろうとする。
「舞い広がれ! 妖吸生苔!」
パンジーがそう言い放つと同時に、視界を遮るほどの緑色の粉のような物が風によって舞い上がり、フロア一面に広がった。やがて風が収まり、床一面が芝生のように緑色へと変貌していた。
「風収まっちゃったわね。もう終わりかしら! とびきりのいくわよ! 衝撃王国! 昇光!」
一瞬緑色に染まった床全体が光ったかのように見えた。だが、光の柱は起きない……キュイーーンという光が収縮するような音だけがフロアに広がり、やがて何も起きないままフロアが静寂に包まれる。
「馬鹿な! な、なによこれ!」
パラダイスが驚愕の表情をしている。とびきりの妖気力を床へ放つ事で、フロア全体が光の柱で包まれるハズだった。当然パンジーは避けられない、パラダイスは勝利を確信していたのである。しかし、光の柱が現れるどころか何も起きず、パラダイスは両手を床から離す事すら出来なくなっていた。両手、両膝をついた状態で動けないパラダイス。
「パ、パンジーちゃん……何をしたの!」
動けない状態で話しかけるパラダイス。額には汗が滲み、明らかに焦りの表情を見せていた。
「妖吸生苔はね、妖気力が大好物の苔なんだ。普段は自然に溢れる妖気力を少しずつ貰って自生しているんだけどね。妖気力を大量に放つ者が居ると、栄養を全て吸収しようと妖気力を全部食べちゃうんだよね。ほら、両手くっついちゃってるでしょ?」
パラダイスが衝撃王国のために放った強力な妖気力は、全て妖吸生苔により吸収され、大量の栄養をくれる者の出現に、妖吸生苔はパラダイスの両手を掴んで離さなかったのである。やがてパラダイスの両手が緑色に侵食されていく。
「うげっ……気持ち悪い……やめ……やめなさーい!」
やがてパラダイスの両手が完全に緑色へと包まれると、くっついていた両手が解放されたのか、そのままぐったりと横に倒れた。
「やったわね、パンジー!」
ウインクが空中よりゆっくり降りて来た、パンジーへと駆け寄る。
「予想通りだったよ。あの技の形状からして妖吸生苔が有効かなと思ってさ」
倒れているパラダイスの所へゆっくりと歩み寄るウインクとパンジー。
「あんた達……私を倒したからって……もう外ではリリス様の計画が始まっているわよ……」
動けない状態のままパラダイスが不敵な笑みを浮かべている。
「リリスは僕のリンクが倒すから心配いらないさ」
「そうよ、私の和馬も居るしね」
パンジーとウインクは雄也達の勝利を信じているのだ。
「まぁいいわ……あんた達も早く外を……見た方がいいわよ……」
やがて、妖気力を完全に奪われ、パラダイスが気を失う。パラダイスの最期の言葉が気になって、スタジオの透明な壁から外を見てみるパンジー。
「外って何も起きてな……え?」
高層階からだとよく見えないが、街の所々から煙があがり、なぜか住民同士が戦っているように見える。さらにはコンサート会場前の広場に、大きな魔獣の姿が見えた。
「あ……あれは……キマイラ!? どうして街の中に魔物が居るのよ!」
ウインクが遠くコンサート会場前に居る魔物に戦慄した。獅子の頭と大きな山羊の胴体、大蛇の尻尾をウネウネとさせ、一体のキマイラが広場を闊歩していた。背中には赤茶色の翼まで生えている。
「とにかく早くここを出よう!」
「そうね、行きましょう!」
パンジーとウインクが童夢TVを出ようと動き出す ――
★ ★ ★
ゴルの宿屋路地裏……斧と刃が激しくぶつかりあう音が辺りに響く。宿屋の中だと被害が出るため、ガストが外へとゴルゴンを誘導したのだ。ゴルゴンはやがて距離を取り、ガストへ向け斧を投げつける。
「―― 疾空戦斧」
真空の刃を纏った斧がガストへ向け放たれる! 斧はガストの胴体目がけて旋回し、捉えようとするが、ガストは中華包丁のような巨大な包丁でそれを受け止め弾く。弾いた斧はゴルゴンの下へと戻る。斧は受け止めたものの、纏っていた真空の刃により、ガストの腕が切り裂かれる。
「ちっ、やるなゴル! 流石かつて勇者と共に旅をしていただけはあるな!」
そう言い放つと、ガストは中華包丁のような包丁と、魚を捌く時に使うような出刃包丁を構えた。
「スベテハリリスサマノモノ……」
「リリスは関係ねー! これは漢と漢の戦いだ!」
ゴルゴンへ向け叫ぶと、ガストは走り出していた。
「―― 回転戦斧」
素早く回転しながらゴルゴンが斧の連撃を放つが、ガストは二本の刃で捌く。
「ゴル行くぜ! 鱗剥がし」
ゴルゴンの斧へ向け、ガストの出刃包丁が斧の刃先に沿うような一撃を放つ。ゴルゴンが斧を見ると、斧の刃が綻んでいた。そのままガストが連撃を放つ。
「片刃斬り!」
もう一本の包丁で素早く斬り捌くガスト。ゴルゴンが斧で受けようとするが斧は弾き飛ばされ空中を舞い、地面へと突き刺さった。そのままの勢いで手足を斬りつける。
「ゴル! あの時助けてくれたように、今度は俺様があんたを助ける番だ」
刃が綻んだ斧を無視し、ガストへ拳を放つゴルゴン。ガストは包丁を収め、なんと身体で受け止める。低く鈍い音が響いた。しかし、ガストは動じない。
「俺様の肉体は鉄壁の防御だぜ!」
胸の筋肉をピクピクさせながら、今度はゴルゴンへと拳を放つガスト。ゴルゴンは殴り飛ばされる。殴られた頬には火傷のような痕がついていた。そう、ガストの拳は炎を纏っていた。ゴルゴンは怯まず今度は地面を殴りつける。殴りつけた地面が隆起し、ガストへ向かって隆起した地面が襲う。そのまま横へ飛んで回避するガスト。
「そうこなくっちゃな!」
ゴルゴンとガスト、漢と漢の拳がぶつかりあう。
―― 俺の名前を呼ぶのは誰だ
頭の中がまるで靄がかかったかのように記憶が曖昧になっている。自分の身体は誰かと戦っているのに、意識は別のところから客観的に自分を視ているかのようであった。ゴルゴンは大切な何かを思い出そうとしていた。
―― リリス様……俺は……
愛しく忠誠を誓う存在はリリスという妖艶な女性に書き換えられていた。忠誠を誓った筈なのに、このモヤモヤはなんだ?
『……目を覚ませ! ゴル!』
―― 誰だ、俺を呼ぶ声は……
『思い出せ! お前は夢の都一の宿屋、ゴルの宿屋の主人だろ?』
宿屋? 主人? そうか……俺は確か宿屋をやっていた……
『信じる者を忘れるな! 俺様との約束、忘れた訳じゃないだろう?』
―― そうか……この声は……暗黒街で路頭に迷っていた……俺が助けた男の声だ……忘れる訳がねぇ……こいつの名前は……
「ゴルーーーー!」
「……ガストー!」
拳と拳がぶつかりあった瞬間! 衝撃により周囲が爆発した。土属性の力が籠ったゴルゴンの拳と、火妖精の力が籠ったガストの拳、二つの力は地面を巻き上げ、舞いあがった炎が衝撃波を起こし、両者は吹き飛んだ。瓦礫の山から両者が顔を出す。いつの間にか両者笑顔が戻っていた。
「ゴル……俺様の名前を呼んだって事は……ようやく正気に戻ったか!」
「どうやら……迷惑かけちまったみたいだな……すまねぇ……」
両者近づいて拳と拳をゆっくり重ねる。そして、その場に両手を広げたまま倒れてしまった。
「信じる者を忘れるな! だろ?」
「ははは……そうだったな……」
漢と漢の戦いは、誰にも見られる事はなく、しかし確かに熱い友情を残して、ここに幕を閉じる。
★ ★ ★
「くっ……これは参りましたね……」
目の前に突如出現したまさかの敵に、レイアは苦戦を強いられていた。レイアは今、まさに先ほどパンジーとウインクが童夢TV高層階より見つけたキマイラと対峙していた。連続で放たれる巨大な豪炎球をかわしながら、持っている短剣で一撃を加える。短剣の一撃では魔獣の巨体には大したダメージを与えられず、大蛇の尻尾を振り上げ、レイアへ向け鞭のようにしなる一撃で反撃をしてくる。レイアは素早く横に飛びあがり着地する。するとキマイラは、再び獅子の威厳を示すかのように巨大な咆哮をあげ、翼で飛び上がりながら、するどい爪で標的を捉えようと襲いかかって来た。レイアがかわした先の地面が抉れ、土煙が舞い上がる音がした。
「どうしましょう……このままではお嬢様のところへ行けません……しかもキマイラを放ってはおけませんし……」
レイアが考えを巡らせていたその時、巨大な氷の刃がキマイラの胴体に突き刺さった! 緑色の血があたりに飛び散る!
「ぎゃしゃああああああ!」
物凄い雄叫びをあげ、キマイラが氷の刃が飛んで来た方向へと向き直る。巨大な豪炎球を四、五発放つ。普通ならそれだけでひとたまりもないが、空中へと放たれる豪炎球はすぐさま消滅する事となる。
「―― 冷気の檻よ、やつを捕らえよ! 銀冷吐霧!」
魔法の詠唱をするかのように呟いたのは、水色の浴衣っぽい衣装を着た女の子だった。女の子は大きな白蛇のような生物に乗っており、白蛇は十メートルはあるかという身体を空中でウネウネさせながら、口から銀色に輝く吐霧を吐いたのである。強力な冷気により豪炎球は全て消滅し、キマイラの五メートルはあるかという巨体をも凍らせる。やがて白蛇に乗った女の子は地上へと降り立ち、レイアの前に姿を現した。
「貴方は確か……弥生様?」
見覚えのある女の子は、十六夜のお付である弥生という女の子だった。
「はい、間に合ってよかったです。このキマイラは先刻、童夢TV上空にあるモニターより他の魔物と共に出て来たのです。キマイラが一番危険と判断し、この白蛇のぴゅあちゃんと共に参った次第です」
どうやら童夢TV上空にあるあの巨大モニターから魔物が出て来たらしい。これもリリスの仕業だろうか? それにしても……
「ぴゅ……ぴゅあちゃんですか……」
まさかの名前が出て、反応に困るレイア。確かに赤いつぶらな瞳は可愛いが、あまりの巨体にレイアでも驚いてしまう。
「純粋無垢な私のペットです。普段は一メートル程の大きさまで小さくなります故、夢見御殿にて飼っております」
「弥生様は凄いお力を持っていらっしゃるんですね。助けていただきありがとうございます」
レイアはただただ驚くばかりだ。
「――ぎゃ、ぎゃしゃあああああああ!」
包んでいた氷が割れ、再び雄叫びをあげるキマイラ。ダメージを受けているが、まだ動けるようだ。
「さぁレイア様、ここは私が努めます故、コンサート会場へと急いで下さい。十六夜よりこれも預かっています」
レイアは弥生より、魔水晶を渡される。淡い光を放つその魔水晶には見覚えがあった。
「これは確か……」
「はい、強制的に夢渡りの力を発動出来る十六夜様の御力を籠めた夢水晶です。ただ、夢見の回廊内部で制限結界が展開されております故、これを発動出来るのはコンサートホールの中でのみになるかと思われます。ご武運を!」
そう言うと、弥生は白蛇へと指示を出す。白蛇……改めぴゅあちゃんは素早くキマイラの巨体を締め上げていた。
「ありがとうございます! 弥生様!」
夢水晶を受け取り、レイアはコンサート会場へと急ぐ ――




