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第49話 イカサマはしてませんよ?


「魚にゃーーー! おんぷおんぷにゃーーーー! いただきますにゃーー!」 


 瞳がおんぷおんぷになっているブリンク。目の前には魚料理に肉料理、多少荒さも見えるが美味しそうなフルコースが並んでいる。


「俺様特製のトロトロサーモンのムニエルに、濃厚コーンポタージュ、レッドポークのステーキとウインナー、ビックレタスサラダ、夢芋のマッシュポテト、火妖精特製パラットチャーハン、他にも色々あるぜ! さぁ、たんと食べてくれ!」


 ムキムキ料理長のガストが料理を進める。ゴルの宿屋料理長ガスト、趣味はアレ(・・)だが腕は確からしい。


「ほら、リンク、泣いてないで、さぁ、食べるよ! 今日は僕が横についてるから元気出して!」


 リンクの頭をポンポンと叩いて宥めているのはパンジーだ。


「えぐっ、えぐっ、酷いですーー、もう私は大人なんですー。なのに留守番なんて……雄也さんと一緒にカジノ行きたかったですーーショボーンですーー」


 リンクの蒼色の瞳(ブルーアイズ)からポロポロと零れおちる涙。


「まぁ、あれだ。お嬢ちゃんは可愛らしいからな。それに雄也とかいうあの人間の男も、危険なところにお嬢ちゃんを連れていけねーって配慮あっての事だと思うぜ。あんたのメイドさんから今日のお代は既に貰ってるから、食べて元気出しな!」


 そう言ったのは宿屋の主人、ゴルゴンだ。そう、突然ブリンクの喜ぶ声から始まったこの宴であるが、どうやら今ゴルの宿屋にはパンジーとリンク、ブリンクの三名しか居ないようだ。その頃雄也達はというと……。





「これは凄い……本当にゲームやアニメで見るカジノの世界だ……」


 雄也が思わずごくりと唾を飲み込んだ。スタイル抜群な本物の兎耳が生えたバニーちゃんがたくさん居るのだ。胸、お尻と出るところが出て、引っ込むところは引っ込んでいる。ついつい視界に入って気になってしまう。これはリンクを連れて来なくてよかったかもしれない……と、ある意味ホっとする雄也。きっと、リンク達には刺激が強すぎる光景だ。


 尚、このお店のバニーさん、みんながウインクの仲間なのかと聞くと、そうでもないらしい。風妖精である兎妖精はウインクだけで、夢妖精が多いのだそう。実際、バニースーツでアルバイト先を探していたところに、支配人から声をかけられたのがきっかけだったようだ。むしろこの中で、ウインクは新米バニーらしい。最近出稼ぎに来たみたいな話していたっけ?


「危険そうなお客様も居ます故、雄也様もお気をつけて。皆さん手分けして、聞き込みを開始致しましょう」


 そう告げたのはレイア。確かに、騎士の格好をした者から、顔立ちのいいエルフ、中にはゴブリンやオーク、リザードマンのような妖精以外のお客も居る訳で、立ち振る舞いには気をつけなければいけない気がする。そう雄也が考えているとレイアさんが手に何かを持っているのに気づく……あれ? レイアさん、既にコインを換金しているぞ? 雄也が思わずその様子を眺めていると……


「ゴホン……これは聞き込みするなら、ゲームをしながらする事が一番早いと思い、換金したまでです。ですから、雄也様もこれを」


 そういうと、レイアが二十コイン渡してくれた。


「へぇーなるほどな。銀貨一枚が二十コインか。銅貨十枚が銀貨一枚だから、銅貨十枚が二十コインって事になるのか……まぁ、細かい事はいいか。ファイリー、俺達も遊びながら聞き込みしよーぜ!」


 和馬は聞き込みをしたいのか遊びたいのかよく分からない発言をしている。


「了解、相棒! あたいがこういう場所での遊び方っていうのを教えてやるぜ!」


 いやいや、ファイリーさん聞き込みという台詞すらなくなってますよ? ここにリンクが居たら、まだ……あ、でも『カジノなんて初めてですー』蒼色の瞳がきらきらーって展開になる気もする……レイアさんがリンク達を置いてきたのも頷ける。


 実際、入口で和馬や優斗、雄也も未成年者はと、怖そうなスーツのお兄さんに止められそうになったのだ。最初ウインクが支配人へかけあってくれて、それでも支配人が渋っていたところに、ルナティが見事支配人を誘惑し、今に至る。こういう場ではルナティは強い。聞き込みやスパイ活動って何気に得意分野なのではないかと思う。あ、そういえば優斗とルナティはどこへ行ったんだろう……と雄也がカジノ&バー『プレミアム』内を探しながら移動を開始する。


 ルーレットにポーカー、スロットマシンやジャックポットなど、たくさんのカジノゲームが並ぶ。コインは夢コインという名前らしく、人間界のそれと遊び方はほぼ変わらない。他にもビリヤードやダーツなんかもあるので、色々楽しめそうな気もしてくる。


 バーフロアには二名席のカウンターテーブルやソファー席がいくつかあり、ゆったり飲めるようにやや照明が暗くなっている。中には社長さんのような横が大きいスーツのおっさんが両サイドにバニーちゃんを配置して座っているような席もあった。うん、ここはキャ●クラですか? と問いたい。雄也はもちろん未成年なので、夜の店は行った事がないのではあるが。


 そして、そこで雄也が気づいた。あれ、あのフロア端の席で飲んでるのって……もしかして……


「ああーールナティーーやめ、やめてーー俺……もう限界です……」


 最初は逃げまくっていた優斗が思わず声を漏らしている。豊満なメロンを押しつけられ、耳を甘噛みされ、ほぼノックアウト状態の優斗。優斗の横をガッチリキープし、優斗の弱点を知りつくしたかのように身体のラインを指でなぞっているのはルナティだ。


「優斗ーもうバニーちゃんに(うつつ)を抜かしちゃダメよ。でないと……フーーッ」


 耳に息をそっと吹きかけられ、そのまま優斗はへなへなーっと膝から崩れていった。


「はぅう……ルナティ……あぁ……俺の負けだよーー」

「あのー、すいませーーん、灯りが暗いからってうちの店で何やってるんですかー?」


 そこへ現れたのはバニースーツのウインク。夕暮れ時の燃えるような空の色をしたカクテルと、南国の透き通るエメラルドブルー色をしたカクテルを、ちょうどシルバートレイに乗せて運んで来たところだったようだ。


「当店お薦めの、『夕暮れ時のイグニスネーブル』『ディーネの休息』お持ちしましたよ。『ディーネの休息』はノンアルコールだからそこのエロ斗君でも飲めるわよ。それにしてもルナティって、私以上のやり手ね。いま仕事中で和馬とイチャイチャ出来ない立場からすると本当羨ましいわよ」


 溜息をつきながらウインクが話しかける。そうだね、見ていて、『ダメだ、こいつら早くなんとかしないと』って思ったもんね。雄也も溜息をついた。


「あら? ウインク、私が何も仕事(ききこみ)をしていないと思って?」


 ルナティがヘナヘナーっとルナティの膝上にダウンしている優斗をそのままにウインクへと話しかける。


「いやいや、そこのエロ斗とイチャついていただけでしょ?」


 ウインクが細い目で優斗とルナティを見つめる。


「ふふふ……夢妖精をなめてもらっては困るわよ……ひゃっ優斗! そこ舐めちゃだめ!」

「ルナティの太もも……すべすべーーペロペロするぅーー」

「ひゃん! そこ……弱いんだからやめな……優斗!」


 はいはい、優斗がこれ以上『変態エロ斗モード』に入る前に止めに入ろう……そう思ったその時!


―― おい! あんた! なにやったんだ! あ、ありえねーーだろ!


 おおお! という歓声と、大男の叫び声が同時に聞こえた。


 なんだなんだ! とカジノフロアへと急ぐ雄也。優斗をソファーに転がしたまま(・・・・・・)ルナティとウインクも現場へ向かう。すると、大男、リザードマン、横に大きな大富豪っぽい男、全身鎧の騎士などが並ぶ中、ルーレットの前には、雄也達がよく知る銀髪メイドさんが居たのである。そして銀髪メイドさんの前には山積みとなった夢コインが……。


「いえ、私は何もしていませんよ。玉が入るであろうところに賭けているだけです」


 啖呵を切る大男に全く動じない銀髪メイドさん。まぁ、あの山積みになったコイン見るとね、誰でもそう思うよね。俺もそう思うよ、と考える雄也。


「いやいやいや、ありえねーよ! あんた! 一度も外してねーじゃねーか。しかもさっきのなんかチップ全部賭けるなんて、イカサマだろ、絶対! おい、ディーラー! こいつと組んでるのか? ああ!」


 大男が今度はディーラーに突っかかる。しかし、蝶ネクタイをした執事風のディーラーは全く動じない。


「いえ、私目(ワタクシメ)はこのお方とは初対面でございます。このお方は一切イカサマをしておりません」


 今にもブチ切れそうなお客を前に会場がどよめく。そこへ道化師のような格好で、不思議な動きで現れた男が大男の前でお辞儀をした。


「はーい、お客様ーーーー! うちのお店がイカサマぁああーー? えぇーー? 聞こえませんねぇ。 可笑しいなーー。ああ、可笑しい。そんな事やってたら? この店潰れちゃいますから、から? ハハハ、そんな事言うお客様はぁあーーうちのお店には必要ありまっせーーん!」


 不思議な動きで大男の周りをくるくる回ってパフォーマンスをする道化師。気づくと会場のお客さんが皆釘づけになっていた。


「き、貴様ーー! なめやがって!」


 大男が腕を振り上げ、道化師風の男を殴ろうとする……が!


―― パチン!


「え?」


 道化師が大男の目の前で指を鳴らす。その瞬間、大男の動きが止まった(・・・・)のだ。


「――この男を連れていけ」


 急に低い声で控えていたスーツの男二名に声をかける道化師。大男は気を失っているのか、そのままお店の外へ連れ出された。


「いやぁーー、お楽しみの皆さまーー失礼いったしましたぁああーー。こちらの銀髪メイド様、なーんとこの短時間でぇええーこんなに夢コインをゲットしてしまったのでぇえええっす! さぁ、こちらのお客様へ盛大な拍手をーー」


―― うぉおおおおお!


 いつの間にかお客様が皆、ルーレット席に座る美しい銀髪メイドへ称賛の拍手を送っていた。


「確か……入口でお会いした支配人様ですよね。ありがとうございました」


 銀髪メイド……こと、レイアがお礼を言う。そして、道化師風の男はこのお店『カジノ&バー プレミアム』の支配人だったのである。


「いえいえ、イカサマなんて言われたらお店の信用にかかりますからね。しかし、貴方のその眼……能力(・・)使ってルーレットはまずいですよ……能力(スキル)使うのを禁止ってルール、今度追加しないといけませんね。今日はこれくらいで降りて下さいね。お店赤字になっちゃいますよ」


 最後は小声で支配人がレイアに何かを告げていた。


「あら、気づいていらっしゃったのですね。先ほどの能力(スキル)といい、貴方も只者ではないと見ました。ある程度稼ぐ事が出来ました故、今日はここで降りさせていただきますね」

「いやぁ、ありがとうございます。しかし貴方、ディーラー向けですよ。ここで働きませんか?」


 支配人がレイアをスカウトしようとしている、まさにその時。


「レイアさーーん、もう支配人もー! びっくりしましたよ!」


 ウインクが二名の元へ駆け寄った。雄也達も合流する。


「レイアさん、一体どうやったんですか?」

 

 雄也も大量の夢コインを前に驚いてレイアに尋ねる。


「いえ、それは秘密です」


 レイアは何をしたのか教えてくれなかったが、もし運なら相当なギャンブル運だ。


―― ガシャン!


 今度はなんなんだ? グラスが割れる音がする。


「嗚呼……お客様申し訳ございません。今すぐ拭きますからーー」


 布巾でファイリーの脚を紫髪で真ん丸な眼鏡をかけたバニーが拭いていた。どうやらぶつかってカクテルを零してしまったらしい。


「いやいや、あたいの事は気にするな。こんくらいすぐ乾くさ」


 ファイリーがバニーへ優しく声をかける。


「こらー! 新米バニー! 何やってるんだーー! お前は裏で皿洗いでもしてろ! お客様、大変申し訳ございません!」


 慌てて支配人がバニーへ向かって怒鳴りつける。


「和馬ー、大丈夫かー?」


 雄也もそこに追いつく。


「ああ、雄也、大丈夫だ。支配人さんも気にしないで下さい。バニーさんも慌ててたみたいで、ファイリーの肩とぶつかっちゃったみたいなんです。こちらの不注意もあったと思うので、申し訳ございません」


 和馬が支配人へフォローを入れる。申し訳ございませんと何度も謝りながらバニーさんは裏へと下がっていった。ルナティがその後ろ姿をじーっと見ていたのは気のせいだろうか? やがてレイアと復活した優斗も合流する。お詫びをこめてと支配人がVIP席と呼ばれる広い部屋に案内してくれた。


「改めまして、カジノ&バー『プレミアム』支配人のプレミオ・オードブルです。今日は色々ご迷惑をおかけして申し訳ない。本当は情報収集で来られたのでしょう? 何かお力添え出来る事がございましたら協力しますよ?」


 支配人が自己紹介をする。軽食まで用意してくれた。


「それはありがたいんだけど、ある程度、情報は揃ったわよ?」


 え? ルナティさんどうやって? そう雄也が思っていると……。


「とりあえず、夢妖精アイドル、プラチナ・ルーミィちゃんのコンサートは明日明後日の二日間ね。チケットはほぼ完売、セキュリティーは厳しくて出待ちも難しいそうよ。何か忍びこめる方法があるといいのだけれどね。」


 一体どうやって聞き込みしたんだ? と雄也は思う。和馬や優斗も同じ反応らしい。


「ルナティ様、もしかして?」


 そう尋ねたのはレイアだった。


「ええ、常時発動型ではないのだけれど、私も十六夜に心読力(マインドリーダー)の扱い方を教わっているのよ。こういう場所で使うと、だいたいの情報は入手出来るわよ?」


「さすが、夢妖精の中でも有名なルナティ殿ですね」


 あれ? 支配人ってルナティの名前知ってたっけ?


「ル、ルナティって、そんなに有名なんですか?」


 思わず優斗が尋ねる。


「この夢の国(ドリームプレミア)で十六夜様と幹部の弥生さん、ルナティさん、それにアイドルであるプラチナ・ルーミィを知らない者は居ないですよ!」


 うんうん、と道化師姿の支配人が頷く。そういえば支配人、こういう場では普通の話し方出来るんだね。お店の中での仕草や言動は、どうやらパフォーマンスだったようだ。


「まぁ、実際私の姿そのものを知っている者は少ないから、街を歩いていても声をかけられるなんて事はほとんどないんだけどね」


 ルナティが補足してくれた。ルナティってそんなに凄いんだね。そして、夢見御殿(ゆめみごてん)で案内役をしてくれていたあの弥生って女の子も有名な妖精らしい。

 

「しかし、明日がコンサートとなると、直接会う方法はないですかね……」


 雄也が考え込む。何かプラチナ・ルーミィと直接会う方法はないものだろうか。


「スタッフパスか何かあれば入れるだろうけど、中々難しいでしょうね……」

「あ、それだ!」


 支配人の言葉に、ウインクが突然手を叩いた。


「ど、どうしたんですか、ウインクさん?」和馬が反応する。


「それよ、スタッフパスよ! 私達が御世話になって『ゴルの宿屋』って、昼間お弁当の配達もやってるのよ! で、ゴルゴンの女将さんが作った女将特製ドワーフ弁当を、いつもゴルゴンさんが配達している訳! 確か女将さん、明日明後日大量注文が入ったって話してて、コンサートスタッフ用のお弁当がどうとかって……」


 ウインクが何気に重大発言をしてくれた。いや、最初からそれ分かってたんじゃ……


「ウインク様……、どうしてそれを早くおっしゃってくれなかったのですか?」


 レイアさんがウインクへ質問する。


「えっと……忘れてた、えへっ」


 ウインクさん、そこでのウインクは可愛くないですよー?

 みんな細い目でウインクを見つめるのであった ――



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