★第44話 風妖精ウインクと奪われた翼
朝の一件を終えた一向は、それぞれ妖精界の服装に着替え、宿屋一階にある朝食会場へと足を運んでいた。ロッジのような造りの宿屋は広く、二階と三階が客室、一階がフロントと食事会場、奥が厨房とリネン室になっていた。温泉などはなく、全室シャワー付らしい。朝食会場は既に、コボルトや獣人族のオーク、リザードマンにエルフと、たくさんの宿泊客で賑わっていた。朝食会場を見ただけでも人気の宿屋という事が窺える。木製の丸いテーブルには白いテーブルクロスがかけられ、朝ご飯が順番に置かれていた。
さて、あの後、和馬の服装と道具袋もしっかりウインクと和馬が一緒に居たあの部屋にあったものだから、当然『一夜を共にしたのでは疑惑』が浮上する訳で、ウインクに事情を説明するのが大変だった。宿屋の主人、あのガストという大男含め、関係者には、本来の妖精界に来た目的と、夢から覚めたらこの宿屋に居た事も簡単に説明した。とりあえずはお腹が空いたままだと今後の方針も決まらないだろうと、他の宿泊客に紛れて朝食をいただく事になった訳だが……
「という訳で、しばらく君達に付いていく事にしました、風妖精のウインクよ、改めてよろしくね」
ウインクさんが主に和馬へ向けて、片目をパチリと閉じ、ウインクをして挨拶をしている。いや、なぜ貴方が同じテーブルに居るんですかと、みんなで突っ込みを入れたいところだ。あと、『ウインクがウインク』って分かりづらいんですけど……。
「いやいや、ウインクさん、どうしてあなたが俺たちに付いて来る事になるんですか、それからどうしてバニースーツなんですか……」
和馬が溜息をつきながら尋ねる。
「だって、君達目的地まだ決まってないんでしょ? だったら私が案内するしかないじゃない? あとこれ、私の普段着よ? 耳も尻尾も本物だしね。それに夜もこの格好でアルバイトしているのよ。まぁ、君たちはまだ未成年みたいだし、普通じゃあ入れないお店かな?」
朝遭遇した時と同じバニースーツの格好をしたウインクはかなり目立つ。セクシーな衣装だけあって、先ほどから周囲に居るお客さんの視線を感じる。ちなみに、戦闘時は投げて攻撃する円形のウイングカッターという武器も扱うようで、荷物と一緒にウインク座る椅子の脇に置いてあった。
「ええーー!? 入れないお店ってなんですかー? 俺はウインクさんと、大人の階段を一緒に上りたいですよー」
「はい、優斗は黙ってようね」
優斗が興奮気味に前のめりになるので、雄也が制止する。
「まぁ、大人の遊び場みたいなものね。コインで色んな遊具を扱ったりするのよ」
「もしかして、それってカジノみたいなものですか?」
ウインクの説明に雄也が反応する。
「あら、君達の世界にもカジノってあるの? じゃあ、支配人が人間界のカジノを真似たのね、きっと。そうよ、私がバイトしているのはカジノ&バー『プレミアム』というお店よ。まぁ、特別に私から支配人に言って、今度店の中に入れるようにしてあげるわ」
「キターーーー! バニーさんいっぱい拝めるんですねー!」
「はいはい、よかったね優斗」
やれやれという表情で優斗を見る雄也。
「おぅ、客人、朝は迷惑かけたな。お前達の分も朝飯持って来てやったぜ」
すると、そこに朝遭遇した宿屋の主人がやって来た。後ろに控えているのは淡い水色のメイド服を着たメイドさんだ。白いクロスが敷かれたサービスワゴンに人数分の朝ご飯が運ばれて来た。
スクランブルエッグにパン、ヨーグルトにはブルーベリー色の果肉が入ったジャム、レタスのような葉物のサラダには、オレンジ色のドレッシングがかかっている。豚肉っぽいローストポークのようなスライスは、以前食べた事のあるコロコロ豚だろうか? お肉のジューシーな香りが漂って来て美味しそうだ。
「こんなにいいんですか?」
雄也は驚いて宿屋の主人に尋ねる。
「あぁ、迷惑もかけたしな。それに何やら話聞くと、訳ありみたいじゃねーか。しばらくは頼ってもらっていいぜ。まぁ、宿泊代はいただくがな」
ニヤリと笑うドワーフの主人。
「すいません、俺も誤解を招くような行動とっちまって」
謝ったのは和馬だ。
「いや、いいんだ。むしろ、うちの料理長もおめーの事なぜか気に入ったみたいだしな。そのスモークコロコロ豚はサービスとか言ってたぜ」
そういうと宿屋の主人は厨房を指差した。指差した先には、先ほど和馬を止めようとしていたムキムキのガストとか言う男が、コック帽を被って料理を作っていた。料理長だったのか、あの大男……。何やら和馬に遠目でウインクをしたような気がする……。さっきの『ウインクのウインク』とは全く違う意味で破壊力があるよね。和馬また青ざめてるしね。
「おう、改めて自己紹介しとくか。俺が此処『ゴルの宿屋』主人でドワーフの『ゴルゴン』だ。夢の国の首都、夢の都で一番の宿と言えばここで間違いないぜ! んで、お世話係がエルフのメイド、『レア・トレビィ』と、あそこでホールを駆けずり回ってる夢妖精で猫妖精の『ミディアム・シャム』。あの大男の料理長が『ガスト・ウェルダム』、あいつは火妖精の妖精人だな」
エルフのメイド、レアさんがお辞儀をする。エプロン姿のミディアムさんは他のお客さん相手にあたふたしている様子だ。レアさんがその様子を見て、仕事に戻りますねとその場を離れた。
「んで、私が風妖精のウインク・ピッピーね」
横からしなやかな動きでウインクが入ってくる。どうやら会話に混ざりたいらしい。
「ふと、思ったんですけど、色んな種族の方が居ますよね。夢の国ってそういう国なんですか?」
優斗が疑問を口にする。確かにそうだ。この宿屋だけでも色んな種族が犇めきあっているのだ。
「ほーんと、君達って何も知らないのねー。しょうがないわねー、お姉さんが教えてア・ゲ……」
「夢の国はな、世界中から一攫千金を求めて集まる冒険者や、夢を追いかけてくる色んな種族の者が集まる場所なんだよ」
「ちょっとー、私の話まだ途中なんですけどー!」
勿体ぶろうとしたところにゴルゴンが先に説明を始めたものだから、文句を言うウインク。
「そんなにここは金儲けが出来る街なのか?」と聞いたのは和馬。
「お前達は、夢妖精の役目を知ってるか? 夢渡りの力を使って、お前達人間界に住む子供等の夢を正しく導き、同時に人間の夢みる力を貰うのが仕事なのさ。この夢みる力っつうのが妖精界の直接的なエネルギーになる訳だから、重要な仕事だよな」
「それはなんとなく聞いた事があったので分かるんですが、それと一攫千金とどう関係が?」
そう聞いたのは雄也だ。
「えー、そこまで聞いて分からないのー? 馬鹿ね、君は馬鹿なのね、きっと。しょうがないから教えてアゲルわ。夢見の回廊という夢と現実の狭間にある世界を君達は知ってるかしら?」
「あ、俺そこ行った事ありますよ?」
優斗がその質問に反応する。
「あら、エロ斗君は、意外と知ってるのね。知っての通り、人間界にはね、妖精界にはないたくさんの物が溢れている訳。夢見の回廊に行けば、夢に紛れた人間界の食べ物、商品、有りとあらゆる物が流れて来る……それを夢妖精は集めて、自分達で開発出来る物は開発する。その商品を買い取って商売を始める者、人間の夢みる力や、妖精の魔力を籠めた魔水晶を素にしたアイテムの売買、人間界の文化を真似て演劇や娯楽施設を展開する者など、ここは夢と希望と商業の街という訳なのよ! 後で夢の都を案内するわよ。きっと驚くから!」
身振り手振りでウインクが説明してくれた。どうやら凄い街らしい。
「魔法具や貴重なアイテムが売っているだけでなく、食文化や娯楽施設もあるわけで、世界中から冒険者も集まって来るって寸法よ。冒険者が集まる場所や、冒険者向けのダンジョンを紹介する施設なんかもあってな。お陰でこの宿屋も大繁盛って訳さ」
胸を叩いてドヤ顔をするゴルゴン。
「すげー、なんか異世界らしい街って感じやん」
うんうん、と納得する優斗。エロ斗君は聞き流したらしい。
「んで、このウインクも一攫千金を求めてやって来た口だな。正確にはやって来たはいいけど帰れなくなって仕方なく家に泊めてやってるのさ」
「え? 帰れなくなった?」
ゴルゴンの捕捉に雄也が聞き返す。
「もぅー、ゴルゴンさん、そこまで説明しなくてもいいでしょー。まぁいいわ。君達には教えといてアゲル。私の住んでた村は風の都の外れにあるんだけどさ、自給自足の生活を送っていたんだけど、凄く貧乏だし、娯楽も何にもなくて、本当つまらない訳。だから夢の都でいっぱい稼いで、私の住んでる風の都に帰ろうと思ったんだけどさ、羽根……ってか私の翼がね、無くなっちゃったのよ?」
「え? 翼? なくなった?」
「あ、風妖精だから羽根あるんですね!」
「どういう事だ、それ?」
三者三様の反応を見ながら続けるウインク。
「そう、この国に来てから急に羽根がなくなっちゃったのよ! 誰かに奪われたんだわ、きっと! 今絶対この国ヤバイわよ。みんな気づいてないかもだけど、少しずつ異変が起きてるわ。うちのカジノにも変なお客が来るのよー。『一生ここで遊んでるー』って涎垂らしながら全財産つぎ込もうとする輩が」
うーん、依存症みたいなものだろうか……。でも、それって異変なのか? どこの世界にも依存症みたいなものがあるんだね。雄也がそう思っていると、察したのか、ゴルゴンが続いた。
「いや、最初はその話、依存症かと思うだろ? 街の至るところに仕事投げ出して『何もしたくないー』ってゴロゴロしてる奴が急増してるんだよ、ほら、あそこにも」
ゴルゴンが指差したのはフロントだ。女将さんらしき風貌の方が客人を追い返している。
「あんたもう、金ないんだろ! じゃあとっとと出て行きな! あんたを泊める部屋はここにないよー」
「女将ーーーそりゃあーーないぜぇえーーー俺はもうここで一生寝てるんだーー! なんとかしてくれよぉおおおーー」
借金まみれでもうどうしようもない状況であるような、ボロボロな服を着た坊主の兄ちゃんを無理矢理追い返している構図と言えばおわかりになるだろうか。どこの世界もお金は大事だよね。
「俺たちはあれを『無気力病』って呼んでる。流行り病にしちゃあ、治療法も分からねーし、厄介だな」
腕組みしながら考えるゴルゴン。
「じゃあ、やっぱり今、夢の国も何か起きているって事ですね。もしかしたら行方不明の子供も関係あるかもしれないです……」
あれだけ見ても異変かどうかは判断し難いところではあるが、そう答える雄也。早くリンク達と合流しないと……あ!?
「早く、ルナティを探さないと……ってそうか! 呼べばいいんじゃん! 妖精界に居るからみんな使役出来るやん!」
優斗も同じ結論にたどり着いたようだ。
「使役だと! お前達妖精と契約してるのか! そりゃあすげーな!」
「え? 嘘? 人間の適合者な訳!?」
ゴルゴンとウインクが同時に驚いた。
「そっか。ルナティも呼べるし、リンクやパンジー、それぞれ交代で呼べばみんな呼び出せるかもだよね」
雄也もリンク達に会えると思い、心が弾んだ。
「よし、俺もファイリーを呼び出すぜ!」
腕輪を握りながら和馬もやる気になる。
「えー、和馬君は呼び出さなくていいわよー。和馬君には私が居るじゃなーい!」
素早く和馬の横に移動するウインク。
「だって、君達人間界の子供が関係しているかもしれないんでしょ? 私も翼奪われちゃってる訳だし、和馬君、責任とって私と契約しなさい」
「いやいや、何の責任ですか、ウインクさん! 意味わからないですから!」
「でも少なくとも、子供を救う、夢の国が救われる、私の翼も復活! って流れなら、和馬君と契約した方が近道じゃない! 決定ねー!」
「ちょ、や、やめ、ウインクさん!」
この後、ウインクさんは、クネクネしながら和馬を誘惑するのであった。




