★第36話 漆黒の覇者
まほろばから渡された、魔水晶から魔力を抽出した魔結晶は全部で四種類。
光妖精の浄化の力をベースに作られた、光輝く光晶石。
エイトの氷魔法をベースに作られた透き通るような氷結晶。
今回は出番がないが、ファイリーの炎の力をベースに作られた熱結晶。
そして、ユニコーンの涙と光妖精の魔力と、さらには人間の夢みる力とを合成させて作ったものが、七色に輝く精虹晶石であった。
他の魔結晶と違い、精虹晶石で放てる特殊攻撃は、一個につきたった一度切り。今回ユニコーンの涙で出来た精虹晶石はたった三個しかなかった。よって、ナイトメアになるべく悟られないように、リンクとエイトが引きつけておいて、タイミングをみて雄也の水鉄砲で漆黒の衣を破る作戦をとった。結果、精虹晶石で放てる特殊攻撃――虹光水撃は見事ナイトメアの漆黒の衣を打ち破る事に成功した。
漆黒の衣を脱ぎ捨てたナイトメアの肉体が露わになり、
ナイトメアを囲むように漆黒の短剣が出現する。ナイトメアの手の動きに合わせ、漆黒の短剣が雄也達に向けて放たれる!
―― 漆黒連刃!
「攻撃透過! 接続! 光を纏え! 光源の鞭!」
雄也達の前に素早く出て来たのはなんと優斗。光の鞭を打ち放つと、光の波が出現し、漆黒の刃を相殺する。
「優斗!」思わず声をかける雄也。
「雄也ばかり活躍させる訳にはいかないだろ? それに雄也が攻撃の要なら、俺が防御の要にならないとさ!」
「ありがとう優斗」優斗にお礼を言い、ナイトメアに向き直る雄也。
「喋っている暇はないぞ!」
続け様に放たれる漆黒連刃! レイアは光源の盾で防御し、
優斗が光の鞭で短剣を弾く。ブリンクは優斗の背後に回り、透過技に備え、優斗に妖気力を送る。
「凍氷刃尖矢!」
すかさずエイトがナイトメアのサイドに廻り込み、氷の矢を放つ。しかし、ナイトメアはエイトの攻撃を警戒していたかのように暗黒球で相殺する。漆黒連刃との連続攻撃で、相手に攻撃の隙を与えない……つもりだった。
「――氷結晶、セット、凍氷連弾!」
「何っ!?」
驚いたのはナイトメアだ。自身の弱点である氷系の攻撃はエイトしか使って来ないと判断していたからだ。優斗の背後から突如放たれた、氷属性を纏う複数の弾丸がナイトメアを襲う。腕を十字にし、防御態勢を取るナイトメア。ナイトメアの両腕が凍り、氷の弾丸が当たった腕の数ヶ所から緑色の液体が流れる。
「水の戯れ<動!>」
チャンスとばかりにリンクが飛び出し舞により水流を巻き起こす。
「嘗めるな! 爆炎!」
ナイトメアの爆炎とリンクの水流とが中央で巻きあがり爆発する。
爆音の中、蒸気の中からナイトメアが飛び出し、エイトの目の前に現れる。掌から波動を放つが、エイトも光源弾で相殺する。両者反動で距離を取る。
「ようやくダメージを与える事が出来たけど、致命傷ではなさそうだね」エイトがナイトメアを見据えたまま呟く。
「致命傷……だと? これでダメージを与えたつもりか?」
「そうは思ってないよ。だから次で決めさせてもらう! 氷鏡幻想!」
直後、ナイトメアの周りに再び鏡のように磨かれた氷柱が現れた。
「またそれか! 要は氷の刃が残らないようにすればいいだけの話よ」
そういうと、火炎球を放ち、一つずつ柱を蒸発させるナイトメア。しかし……
「水流閃光!」
「―― 光晶石、セット、光源水弾」
「ちっ!」
声がする方向とは違う方向から飛んで来るリンクと雄也の波状攻撃に、攻撃が飛んで来る直前でかわしつつ、思わず舌打ちをするナイトメア。
厄介だった。漆黒の衣がない今、先ほどの凍氷乱舞はまずい。致命傷まではいかないにしても、凍る事により動きが止まるだろう。漆黒連刃や暗黒球、掌からの波動で攻撃してしまうと、氷の柱が割れ、敵に塩を送る事になってしまう。かといって、強制的に幻惑状態を作り出す状況で、あのガキと蒼眼妖精の波状攻撃をかわすのも面倒だった。ここまでワシの攻撃を封じた相手は恐らく初めてであろう。しかし、全部氷柱を蒸発させてしまえばこちらの勝ちだ。相手の攻撃も、当たらなければ致命傷にはならないのだ。ナイトメアはそう考える――
「――精虹晶石、セット、虹光水撃!」
「当たらなければどんな攻撃も意味がないぞ!」
雄也が放った水球は見た目通常の水球と変わらなかった。警戒はしているものの、ナイトメアは今の水球があの漆黒の衣を封じた水球であると気づいていない。声のした方向とは違う方向から放たれた水球をかわすナイトメア。余裕の表情を作っていたのだが……。
光が収縮していくかのような音と共に、水球がナイトメアの背後にあった氷柱に当たり、光が反射する。反射した光がさらに別の氷柱に照射され……気づくと光がナイトメアを覆っていた。
「な、なんだ……これは!?」ナイトメアが驚きの表情を見せる。
「あ、言い忘れてたよ、氷鏡幻想の氷柱は正の妖気力を反射するんだよ。今君の周りは強力な浄化の力に包まれているよ」エイトがナイトメアに告げる。
「雄也さん!」
「攻撃透過! 接続! 打ち砕け! 強化水撃!」
リンクの呼びかけに応じ、強化水撃をナイトメアに放つ。虹光水撃による浄化のパワーに閉じ込めらた空間で強化水撃がナイトメアに直撃し、一気に氷柱と共に大爆発を起こした。爆風と蒸気により、視界が見えなくなるほどであった。やがて、視界が晴れた時、腕が無くなり、身体が崩壊し、見るからに変わり果てたナイトメアの姿があった。
「く……貴様ら……よくも……やってくれたな……」
ナイトメアが雄也達を睨みつける。
「ナイトメアさん、もうおしまいです!」リンクがナイトメアへ言い放つ。
「もう、攻撃する力も残ってないだろう。終始、己の力を過信していた君の負けだよ」エイトが止めを刺そうと氷の矢と光源弾を構えた。
その時――
「ナ、ナイトメア様ーーーー! これをーーー!」
突如ナイトメアの背後にあった扉が開き、猫顔のフードを被った妖魔が飛び出した。ナイトメアに向けて何かを投げつける。それを飲み込むナイトメア。
「くくく……でかしたぞ、キャッツボーン! やはりお前を残しておいて正解だったようだ」
「ちっ! レイアさん!」
エイトがレイアを呼び、レイアが猫の妖魔に向けて走り出す。エイトもナイトメアへ向けていた凍氷刃尖矢をキャッツボーンへ向けて放つ。
「ちょ! あぶねーよ! じゃあな、あばよ!」
氷の矢を避けながら扉の中に逃げ込むキャッツボーン。レイアとエイトが扉が閉まる瞬間にすべり込む。キャッツボーンを残しておくのはまずいという判断だ。
扉が閉まった瞬間、ナイトメアから強大な漆黒のオーラが出現する!
「ぐ、ぐぅおおおおおお!」雄叫びと共に放たれる強力な波動。
「うわっ!」
それだけで立っていられず飛ばされる雄也とリンク。
「防御透過、接続! 光の壁よ、我らを守れ! 光源障壁!」慌てて優斗とブリンクが、防御透過で雄也達を受け止める。
紫色と緑色のおぞましい肉体に、脳みそが剥き出しになったような頭、最早人型の姿は面影もなかった。恐らく血であろう、緑色の流れる液体はそのままに、無理矢理力を引き出したナイトメアの姿がそこにあった。
「これ……最終形態ってやつだよね……」優斗が人間界のゲームによくあるシーンを思い出しながら発言をする。
「負の妖気力が増大したにゃ!」ブリンクも警戒する。
「くそ……倒したと思ったのに……」雄也が残念そうな顔をする。
「大丈夫です、私達で倒すしかありません」リンクが覚悟を決める。
「くはははは……思い知ったか。これが漆黒の覇者、ナイトメアの力よ。もう先ほど受けた傷など関係ないわ。力が満ち溢れてくるかのようだ……」
そう言い終わると同時に、ナイトメアが優斗達の背後に廻り込んでいた!
「影縛黒刃!」
無数の漆黒の刃が、地面に向けて放たれる。優斗とブリンクが防御しようとするが、身体が動かない!
「え?」
「う、動けないにゃー」
「お前達の防御は厄介だからな、動きを封じておいたぞ……豪炎球!」
火炎球より何倍も巨大な炎に焼かれ、そのまま倒れこむ優斗とブリンク。
「優斗! ブリンク!」雄也が叫ぶ!
「く……ヤバいやん……」身体全体を焼かれ、苦悶の表情をした優斗。
「動けないから回復出来ないにゃ……」悔しそうな表情のブリンク。
「水流閃光!」
リンクが素早くナイトメアの身体を貫く! ナイトメアの剥き出しの肉体から溢れる緑色の血。
「それがどうした」
しかし、ナイトメアは流れる血に構う事なくそのまま強力な波動を放ち、雄也とリンクが吹き飛ばされた。
「き、効いてないのかよ!」痛みを堪えながら、雄也が叫ぶ!
「くくく、ガキ、お前の水鉄砲の浄化攻撃さえ気をつけておけば、ワシはもう不死身よ。それに、お前の攻撃はもうくらわぬ。蒼眼妖精の水くらいでは倒せんぞ? 安心せい。今楽に死なせてやろう」
だめだ。これだけ警戒されている状況では、もう精虹晶石による虹光水撃は当たらないだろう。エイトとリンクが居たからこそナイトメアに二度も当てる事が出来たのだ。精虹晶石はあと一個しかない。これ以上打つ手はないのか……
『雄也さん――私に虹光水撃を放って下さい!』
突然、意思伝達でリンクが話しかけて来た。
『え? 何を言ってるの?』そんな事をする意味が雄也には分からなかった。
『雄也さん、精虹晶石は夢みる力と正の妖気力、さらには光妖精の魔力まで入った結晶です。ナイトメアさんも恐らく夢の欠片で強制的に強化したのだと考えられます……精虹晶石を使ったなら、私達にも同じような事が出来るハズです!』
『わかった! リンクを信じるよ』雄也は今、リンクを信じるしかない。
「さあ、絶望するがよい! 暗黒球!」
「――精虹晶石、セット、虹光水撃!」
リンクに水球が当たった瞬間、リンクの身体が七色の光を放ち、周辺が光に包まれた。暗黒球は光に取り込まれ消えてしまう。
「この期に及んでなにをするつもりだ」ナイトメアが雄也とリンクへ吐き捨てるように言い放つ。
やがて、視界が晴れた時……
長くサラサラの水色ツインテールが膝上まで伸び、
妖艶な大人の容姿をした美しい妖精がそこに立っていた――




