第35話 対決! ナイトメア
負の妖気力が波動のように空気を歪ませ、雄也達へ襲いかかる。
「防御透過、接続! 光の壁よ、我らを守れ! 光源障壁!」
雄也達を瞬間、優斗の透過技で創られた結界が覆う。
「闇へと堕ちよ! 暗黒球!」
結界を張った雄也達へ向け漆黒の球が放たれる。光の障壁へぶつかった瞬間、立っていられないほどの衝撃と耳を塞ぎたくなる程の轟音が響き渡る。
巻きあがる漆黒の煙を見つめ、ゆっくりと雄也達の居る場所へ近づいていくナイトメア。
舞台の中心に来た時、ナイトメアの両側から何かが飛んできた。
「水流閃光!」
「凍氷刃尖矢!」
ナイトメアの両側へ素早く移動したリンクとエイトの同時攻撃だったが、
放たれた水流の閃光も、鋭い氷の矢も漆黒の衣から溢れ出る黒いオーラによって阻まれる。
ナイトメアは両手を左右に広げ強力な波動を放った。
圧縮された空気の塊が衝撃波となってリンクとエイトを襲う。
しかし、波動がリンクとエイトにぶつかる直前……ガラスが割れるような音と共に、何かの破片が地面に飛び散った!
「水の戯れ<静>!」
「氷鏡幻想!」
どこからともなくリンクとエイトの声が聞こえる。
「ほほう」
ナイトメアが見渡すと、鏡のように磨かれた氷の柱が周囲を覆いつくしていた。さらに、その周りをシャボンが漂い、完全に視界が遮れる形となる。
「こんな子供騙しをしてどうするつもりだ」
「攻撃透過! 接続! 打ち……」
「遅い!」
雄也の詠唱が背後から聴こえたが、素早く反応し、その方向へ波動を放つナイトメア。しかし、波動の先にはバリーンと割れる音のみ、雄也の姿はなく――
「打ち砕け! 強化水撃!」
ナイトメアの正面から強化水撃が放たれ、標的に直撃する。
水が蒸発するかのような音と共に煙があがる。
「ふはははは! こんな子供騙しではワシにかすり傷ひとつつけられんぞ。何を準備して来たかと思えばこの程度か。ぬるいわ!」
瞬間放たれる負の妖気力により、周囲の氷の柱とシャボンが割れる。氷の柱が崩れた破片が地面に落ち、煙が舞い上がる。やがて、入口付近に居た結界を張っている優斗とブリンク、そして、レイアの姿が露わになった。
「ん? 蒼色妖精と人間共がおらんのう。まぁいい、そこの三人を先に片付けようか」
ナイトメアが両手を前に出す。地獄より、煉獄爆炎を呼び起こすつもりなのだ。
「させないよ、凍氷乱舞!」
ナイトメア自らが壊し、地面に散らばっていた全ての氷が刃となって舞い上がり、ナイトメアへ向かって突き刺さる。漆黒のオーラにより蒸発する氷の刃……だが、そのオーラに一部白く霜が降りたような部分が出現する。その瞬間を見逃す訳がない。
「水流閃光!」
白くなった部分へ向け、リンクの指先から水が光線のように照射され、ナイトメアを貫いた!
ナイトメアの左肩の一箇所から煙があがり、漆黒の衣に小さな穴が開く。
「雄也さん、今です!」
雄也の水鉄砲から勢いよく水球が放たれ、穴が開いた箇所へ直撃し、やがて水球はナイトメアを覆った。隠れていた雄也、エイト、リンクが対峙する。
「それでしまいか?」一瞬覆った水を払いのけ、余裕の表情をしたナイトメア。
「残念だよ……ワシを倒す準備をするというから仕方なく付き合ってやったのだ。こんなに退屈なら、あの時、先にお前達を殺してしまえばよかったな」
皆を一瞥した瞬間、背筋に凍えるような寒気を覚える。
―― 大丈夫ですよ、雄也さん
雄也の不安を感じたのか、意思伝達でリンクが声をかけて来た。
「へぇー、氷の柱を割ってもらって氷の刃をたくさん準備したんだけど、さすがナイトメアだね」エイトがナイトメアに言い放つ。
「如月エイトだったな、見縊られたものよのう、この程度でワシの漆黒の衣が破れると思ったか?」
「作戦ではそのつもりだったんだけどねー。視界を封じつつ、君を凍らせて、攻撃チャンスを窺う作戦だよ」
「そうか、それは残念だったな。では、仲良く地獄に落ちるがよい! 煉獄爆炎!」
★ ★ ★
「……どういう事だ!」
紅蓮の炎と黒い負の妖気力が混ざりあい、地獄からの炎は空間を埋め尽くし、雄也達を塵と灰へ変える……その筈だった。
目の前には全員が全くダメージを受ける事なく立っていたのである。
「エイト、貴様……なにをした!」
「僕は何もしていないよ。何をされたか知りたいのなら、試してみるといい」
「人間風情が! 闇へと堕ちよ! 暗黒球!」
漆黒の球が放たれるが、何とエイトは腕で弾き飛ばす。
「な!」
そう、高位光源弾でようやく止められるような、そんな巨大な暗黒球ではなかったのである。
「凍氷刃尖矢!」
エイトが無詠唱で放つ氷の矢を思わず払いのけるナイトメア。いつもなら払いのける必要すらない。漆黒の衣が放つ黒いオーラが消滅させるからだ。だが、ナイトメアは気づいていた。この時黒いオーラは、完全に消失していたのである。
「水の戯れ<動>!」
続け様にリンクの舞により出現した水流がナイトメアを襲う。
「煉獄爆炎!」
ナイトメアが巻き起こした炎とリンクの水流が正面からぶつかる! しかし、ナイトメアの放った炎は漆黒と紅蓮の炎ではなく、リンクの水流を相殺する程度の炎でしかない。地獄から炎は呼び起こされず、ただの爆炎と化していた。
―― どうやって封じた?
ナイトメアが考える。エイトやリンクの攻撃にその兆候は見られなかった。氷の刃による全方位攻撃の後、リンクが放った水流閃光がほんのわずかな穴を開けただけで、痛くも痒くもなかった。
「―― 光晶石、セット、光源水弾!」
その時、雄也が持つ水鉄砲から水弾が放たれた。リンクの放った水流に比べたら全くの子供騙しに見える。ナイトメアは自らに飛んでくる水を避ける仕草もせず、そのまま受け止めた。
「がっ!?」
刹那、負の妖気力がガクンと奪われたような感覚を覚えた。直接の物理的なダメージではない。聖属性の光魔法が負の妖気力を浄化する感覚。その瞬間ナイトメアは全てを悟った。あの時、漆黒の衣の黒いオーラを封じたのは、エイトでもリンクでもなかった。ギロっと雄也を睨みつける。
「……ガキ……貴様かー!」
雄也がヤバイと焦った時には既にナイトメアは目の前に居た。以前ブリンクを吹き飛ばした強力な波動を放たれ吹き飛ぶ雄也。
「雄也様!」素早く雄也の背後へと回り込み、雄也の身体を受け止めたのはレイアだった。
「だ、だいじょうぶ!」
雄也は吹き飛ばされ、吐き気を覚えるほどの衝撃ではあったが、初めて対峙した時のブリンクを一撃で気絶させるほどの強さは今の波動にはなかった。
「彼の者に癒しの祝福を! ――治癒光」
すぐさま雄也を回復させるレイア。
「そうか、わかったぞ、そこのガキ……水鉄砲に細工してあるな? あの時全く威力のない水球と思っていた攻撃こそが、ワシの負の妖気力を封じたという事か。面白い事を考えたものよ」
「気づきましたかナイトメアさん。あなたはエイトさんや私の攻撃にばかり注意を張って、雄也さんの攻撃を全く相手にしていませんでしたね。今の雄也さんは、あなたに有効な浄化させる攻撃や多彩な攻撃が出来る最強の勇者ですよー。あなたには負けません。シャキーンです」
―― 待って、リンクさん。最強の勇者は言い過ぎだから。そんな事言ったら俺真っ先に殺されるやつだから。
思わずそうツッコミたくなる雄也。
「そうか、だが、カラクリが分かってしまえばどうって事はない。煉獄爆炎と漆黒の衣を封じたからといって、ワシの全てを封じたと思うなよ!」
そう言い終わると、
ナイトメアは自らの漆黒の衣を脱ぎ捨てた ――




